([と]1-4)海の子 (ポプラ文庫)

  • ポプラ社
3.56
  • (2)
  • (8)
  • (4)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 50
感想 : 8
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591152454

作品紹介・あらすじ

中中央線高円寺駅、南口商店街。近くにできた全国チェーンの居酒屋におされ、治彦の店はつぶれかけている。カウンターだけの小さな店に半年ぶりに娘が顔を見せた。何があったのか別人のように髪を染め、「いっしょに釣りにいきたい」という。離れて暮らす父と娘のぎりぎりの愛情を描いた「花鯛」。しゃべりつづける「やっかいな子」と売れない役者の友情(「オニカサゴ」など、ワケあって釣りに出る人たちの胸があつくなる四篇。
収録作品:「花鯛」「オニカサゴ」「寒平目」「真鯛」

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「花鯛」「オニカサゴ」「寒平目」「甘鯛」
    魚(釣り)が題材になっている新感覚の短編集。
    釣りにはまったく詳しくないけれど、全編通して登場する船釣りのシーンの臨場感には圧倒させられる。
    船酔いしている登場人物につられて自分も船酔いしているような気分になったり。笑

    今年はドリアン助川さんの小説を3冊読んだけれど、この作家に出逢うことが出来てラッキー!と思った筆頭はこの方かもしれない。
    どこにでもいそうな“普通の人”(むしろ少し困窮している人も多く出てくる)にスポットを当てた、作為的ではない温かさが詰まった作品が多いから。
    「いろいろ大変なこともあるけれど、生きてさえいればそのうち良いこともあるかも」と思わせてくれるような。

    4つの短編のうち3つは様々な親子の関係、残る1つは親子の関係+男の友情を描いている。
    趣味で船釣りをする男たちは、それぞれ目的を持って、自分の子どもや親のために1つの魚を釣ることを目指す。
    けして上手くいっているとは言えない関係性を繋ぐ役割を担っているのが美味しい魚で、だからこそ何がなんでも、命を懸けてでも釣りたいと船の上で格闘する。

    この小説では魚だけど、誰かと誰かの関係を繋ぐために何かがある、という場合はよくある。その両者に共通した思い出だとか、好きなものだとか。
    私なら音楽を介して出逢って、今でも交流がある友人がいる。その友人たちも私も、時とともにその音楽との関わり方は変化したけれど、やはり不意にその話題で盛り上がったり、懐かしい思い出話をすることがある。
    それがあるから繋がっているわけではなくても、それがあるから繋がりが強くなるというものは、人それぞれ持っているのではないかと思う。

    美味しいもので繋ぐ縁、というのもいいなと思った。苦労して釣り上げた魚を食べた瞬間に顔が綻ぶ、その幸福な光景。
    釣りが好きな人は私の身近にもいるけれど、自分が魚を食べたいというよりは、人に喜んでもらいたい想いが強い人が多い気がする。

    海の恐ろしさ、船頭さんの厳しさと優しさ、釣りの臨場感、美味しそうな魚たち、そしてそれぞれの関係と愛情が詰まった1冊。
    魚の鍋料理が食べたくなる1冊、でもある。笑

  • ドリアンさんは作品のレベルの高さに伴わない評価だと思わざるを得ないです。「あん」で相当知名度上がったはずなのに、その後の作品はあまり読まれていないように思われます。
    近年作の「新宿の猫」なんかも味わい深い佳作だと思っているのですが。

    そしてこちらは海釣りをテーマにした短編集で、じんわりと染みるヒューマンドラマが詰め込まれています。涙が流れるとかではなく、誰もが失敗したり、あっちにぶつかりこっちにぶつかりしながら生きています。そんな中で釣りというイベントを通じて大事な何かと繋がろうとする人たちに心打たれます。
    それほど釣り詳しくないのですが、臨場感が有って釣りに行きたくなる事間違いないし、桜鯛の鍋や、オニカサゴ料理等お腹が鳴る美味しそうな描写も山盛りです。
    みんなもっとドリアンさんを読もう。

  • 初ドリアン助川作品。釣りをテーマに様々な家族のドラマが描かれる佳作。良かったです、これ。

  • 中中央線高円寺駅、南口商店街。近くにできた全国チェーンの居酒屋におされ、治彦の店はつぶれかけている。カウンターだけの小さな店に半年ぶりに娘が顔を見せた。何があったのか別人のように髪を染め、「いっしょに釣りにいきたい」という。離れて暮らす父と娘のぎりぎりの愛情を描いた「花鯛」。しゃべりつづける「やっかいな子」と売れない役者の友情(「オニカサゴ」など、ワケあって釣りに出る人たちの胸があつくなる四篇。 収録作品:「花鯛」「オニカサゴ」「寒平目」「真鯛」

  • 2017.7.5-55

  • 船釣りを舞台とした小編4つ。文字の密度の高い黒いページが少ないので、思った以上に読み進むのが早い。各小編の間に相互関係は無いが、それぞれの基本的な進行は変わらず概ねハッピーエンド。なので、不安を抱えずに読める。読後感も不快やモヤモヤは残りにくい。かと言って、各小編が軽過ぎるということも無く、起伏に富みつつ暖かな気持ちになれる。船酔いだけは全編で共通しているので、その点で生理的にどうしてもダメな人には勧めない。結構、詩的な表現も有って染みる。

  • 2008年7月文藝春秋刊の明川哲也名義「花鯛」を加筆、改題し、2016年11月ポプラ文庫刊。4篇の短編。「あん」が面白かったので、これも読んでみました。全編釣りがテーマで、そこは、余り興味がなかったです。「甘鯛」が、ノスタルジックで、楽しめました。

全8件中 1 - 8件を表示

著者プロフィール

ドリアン助川 訳
1962年東京生まれ。
明治学院大学国際学部教授。作家・歌手。
早稲田大学第一文学部東洋哲学科卒。
放送作家・海外取材記者を経て、1990年バンド「叫ぶ詩人の会」を結成。ラジオ深夜放送のパーソナリティとしても活躍。担当したニッポン放送系列『正義のラジオ・ジャンベルジャン』が放送文化基金賞を受賞。同バンド解散後、2000年からニューヨークに3年間滞在し、日米混成バンドでライブを繰り広げる。帰国後は明川哲也の第二筆名も交え、本格的に執筆を開始。著書多数。小説『あん』は河瀬直美監督により映画化され、2015年カンヌ国際映画祭のオープニングフィルムとなる。また小説そのものもフランス、イギリス、ドイツ、イタリアなど22言語に翻訳されている。2017年、小説『あん』がフランスの「DOMITYS文学賞」と「読者による文庫本大賞(Le Prix des Lecteurs du Livre du Poche)の二冠を得る。2019年、『線量計と奥の細道』が「日本エッセイスト・クラブ賞」を受賞。翻訳絵本に『みんなに やさしく』、『きみが いないと』(いずれもイマジネイション・プラス刊)がある。

「2023年 『こえていける』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ドリアン助川の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×