ヘウレ-カ (ジェッツコミックス)

著者 :
  • 白泉社
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本棚登録 : 1273
感想 : 87
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784592135005

感想・レビュー・書評

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  • 古代シチリアを舞台にした、後の『ヒストリエ』連載にも繋がる小編。シラクサという都市を巡る戦争の話だが、本作は重層的な読み方・楽しみ方ができる。

    一見すると古代ローマ時代の戦争モノなのだが、その中に登場する「兵器」が非常に興味深い。
     アルキメデスが発明・開発したとされる様々な「兵器」は、当時のテクノロジーを前提としているので、さながらピタゴラスイッチのようである(笑)。が、その破壊力・殺傷力は凄まじく、その様子が『寄生獣』のあの無機質なタッチで淡々と描かれることで、逆にその凄惨さが浮き彫りになっている。

    また、都市を守るためとはいえ、これらの兵器を発明・開発してしまったアルキメデスは、少しボケた様子の中でも「見るのもイヤだ」と、思い出すことすら拒絶する。兵器がもたらす結果をアルキメデス自身が一番よく知っているからであろう。
    アルキメデスの姿は、兵器を開発した科学者の苦悩そのものである。いつの時代にもある科学技術開発と、それがもたらす災厄の関係性。その狭間で苦悩する科学者の倫理性。本作では倫理的な主張を一切投げかけず、淡々と物語を描写していくが、却ってそれが我々の心の中に倫理的な問いを残してゆく。

    倫理的な問題と言えば、民族問題も読み取ることができる。
    カルタゴ側についたことで、ローマ軍の攻撃に晒されるに攻められているシラクサ。その城内で迫害されるローマ人たち。内通するなど城外の敵であるローマ軍に対して荷担しているのならともかく、シラクサで生まれ、シラクサで育ったシラクサ市民である彼らをローマ人であるということで危険視・敵視するシラクサの指導部。
    世界の歴史を見れば「どこにでもある悲劇」なのかもしれない。が、二千年以上も前から「どこにでもある悲劇」を繰り返し続けている人類の歴史に思いをいたした時、そこには別の大きな悲劇の存在を思わずにはいられない。

    現在連載中の『ヒストリエ』は似たような作風ではあるが、味わいは全然違う。本作を未読の方は、是非読んで欲しい。

  •  塩野七生の『ローマ人の物語』(途中でうっちゃってあるけど)で、カエサルにもまして面白いのがハンニバル戦記だろう。
     そのハンニバルがシチリア島を落とさんと狙う。対するは「ローマの剣」マルケルス将軍。シチリア島シラクサ市民会では、従来の親ローマ派と、ハンニバルの力を借りてローマから独立しようとするカルタゴ派が争っている。

     スパルタ人で「変な名前」と常に突っ込まれるダミッポス、彼が主人公だ。ダミッポスはローマ系の彼女クライディアとハイキングしている。平和なシラクサ。そこにカルタゴ派によるクーデター。ローマ系の住人は捕らえられ始める。クライディアの両親も捕らえられ、クラウディアを匿うためにどこかないのかとダミッポスが訊くと、使用人から出てきた名前は、アルキメデス先生。
     『ヒストリエ』のアリストテレス先生みたいな設定だが、まだ元気なアリスト先生と違ってアルキメ先生のほうは、ちとボケがはいっている。ダミッポスはスパルタ人なのに「軟弱」な優男で、でも知恵が回る。アルキメ先生にすっかり気に入られてしまう。

     シラクサを攻めるローマ艦隊に対するのは、アルキメデス先生の発明した数々の戦争機械。マルケルスはいったん撤退を余儀なくされる。
     戦争機械はアルキメデスにとっても作りたくなかった核兵器のような大量殺戮兵器である。アルキメデスの弟子扱いになってしまったダミッポスは、よそ者の身で、シラクサ内のローマ対カルタゴの闘いに巻き込まれ、シラクサ外のローマに知略で対抗しなければならなくなる。さて──
     これも面白いよ。ダミッポスの痛快な活躍と、それでも戦争をどうしようもできない厭戦感と。

     捕らえられたクラウディアを解放するために、女性ばかり集めて、平和的な方法でローマ艦隊に攻撃を加え、「どうかな? ローマ戦艦7隻に損害を与えたんだけど……」とシラクサの将軍にダミッポスが迫る場面、最高。ついでにマルケルスを怒鳴りたおす場面も。

  • 電子書籍で買い直し。

  • 短いけどきれいにまとまってる。アルキメデスの武器は岩明先生向きだね。

  • ・時代の流れとその中での人の逆らい
    ・ついても良い嘘

  • 『ヒストリエ』を買うかどうか判断するために読んだ。

    面白かった。主人公らしい主人公がおらず、全員が脇役みたい。いい意味で。
    もっと人物やストーリーを分厚くしてほしいと思った。歴史がさっぱりなので、自分で含みを持たせて読めたらもっと楽しかったのかも。

    結局ヒストリエは買うことにした。

  • アルキメデスが浮力の原理を思いついた時に叫んだ「ヘウレーカ」を題名とする漫画です。
    プルタルコスの『対比列伝』のマルケルスの章をベースに、第二次ポエニ戦争で陥落したシュラクサイが舞台になっています。スパルタ出身の若者とローマ人の娘との悲恋、アルキメデスの技術とその最後が描かれているのです。エンターテイメントとしてはとても良く出来ていて、お勧めの一冊です。
    さてこの漫画ではアルキメデスが、研究以外のことについては痴呆状態であるかの様に描かれていますが、果たしてそうなのでしょうか。
    J.E. ゴードンの『構造の世界』によれば、古代の兵器の進歩はここシュラクサイで始まり、下級官吏から身を起こし僭主となったディオニュシス一世は、軍事政策の一環として世界で最初と思われる武器研究所を設立し、全ギリシャから最も優れた数学者と職工を集めた、とあります。
    私の推測では、アルキメデスの先祖が家業としての数学を携えて応募したとも考えられます。頭脳と技が集積したシュラクサイが辺境でありながら武器の開発で地中海世界でトップランナーなり、マルケルスを苦しめる技術開発を成し遂げられたのかもしれない。アルキメデスは若い頃学んだアレキサンドリアに自分の研究成果を書き送りますが、テーマは数学に限られます。彼自身も軍事技術に関わっていたに違いないのですが、これは軍事機密で公表されることが無かったので、記録にも残らなかったのでしょう。
    漫画に登場するシュラクサイ側の投石器は回転する一組のローラーによって球を打ち出す「ピッチングマシン」をモデルにしていますが、勿論古代にはこれを実現する技術はありえず、弾性体に蓄えたひずみエネルギーで石を打ち出すパリントノン(palintonon, ギリシャ)またはバリスタ(ballista,ローマ)です。バリスタと言っても電子デバイスではありません。
    スパルタ人ダミッポスがシュラクサイの女性を集めてローマの軍船を手鏡の反射光で焼き払う場面があります。作者の創作なのですが、この話の元ネタはヨハンネス・チェチューズの『歴史の書』です。この書は12世紀に書かれたことが『解読!アルキメデス写本』を読んで分かりました。これだけの衝撃的な戦闘ならば、記録に残るはずなのですが、「講釈師見てきたようなうそ」に違いありません。

  • 全1巻

  • 1巻だけでやばい。鏡笑

  • よく出来すぎ。最高に面白い…。単発の見本。

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著者プロフィール

1960年7月28日生まれ。東京都出身。1985年、ちばてつや賞入選作品『ゴミの海』が「モーニングオープン増刊」に掲載され、デビュー。『寄生獣』で第17回講談社漫画賞(1993年)、第27回星雲賞コミック部門(1996年)受賞。2003年より「アフタヌーン」にて『ヒストリエ』の連載中。

「2004年 『雪の峠・剣の舞』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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