子どもの自分に会う魔法 大人になってから読む児童文学 (MOE BOOKS)

著者 :
  • 白泉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (143ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784592732853

作品紹介・あらすじ

「12星座シリーズ」など心に響く星占いやエッセイが人気のライター・石井ゆかりさんが、クマのプーさん、あおくんときいろちゃんなど大人になったからこそ改めて読みたい児童文学の魅力に迫ります。
2016年6月刊。

感想・レビュー・書評

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  • 表紙を見て感激!
    酒井駒子さんの絵ではないか!
    綺麗な水色で、丁寧に作られた感じが溢れていて、ずっと見ていたくなる。もう、完璧な装丁!

    内容は児童書を紹介する本だが、割とよく紹介されている本ばかりだった。よく、「私、こんな変わり種も知ってるんですよ!」と言いたげな紹介本もあるが、そうでないところがとても好感が持てる。そして、一冊一冊、丁寧に、自分が子どもだった頃に出会って読んでいた事を書いていて、こちらも丁寧に読まなければと思わせてくれる。

    有名だけど、そういえば読んでなかったなという本が沢山あったので、これを機に読んでみようと思う。子供の頃はほとんど本を読んでいなかったので、後悔の念もあるが、こういった本を初めて味わえる幸せも残されていると考えたらまぁ、良いというところもあるかな。

  • タイトルといい酒井駒子さんの表紙絵といい何とも素敵で、読後何度も眺めてしまう。
    雑誌MOEに2013年から2015年にかけて連載されたエッセイをまとめたのが本書。
    書評集などという括りではとても表現しきれない、児童文学に寄せる著者の深い思いに、思わず頭を垂れてしまう。

    その丹念で優しい筆致。
    記憶の扉をそおっとノックされるような言葉たちの力で、大人になって忘れかけていた、子ども時代の思いがありありとよみがえる。
    憧れや畏怖、怒りや劣等感、寂しさや喜び。
    なんだ、自分はほとんど成長してないのね。。と気づかされたり。

    紹介された作品はどれもみな、石井さんにとって思い入れのある作品たち。
    「新しい本はいつも、見知らぬひとのように怖かった」という著者は、大人になっても「読んだ本ばかり読み続ける」と言う。
    そのせいか、ひとつのお話への考察は驚くほど深く、もしや私は読み方が間違っていたのかと何度も自身を疑う羽目になった。
    いや、たぶんその通りなのだろう。
    多読などむしろ恥ずかしいことかもしれない。
    一冊の本でさえ、そこに込められた意味を読み解けないのだから。

    そしてまたこうも言う。
    「絵本が私たちの『根』でありうるのなら、大人になって苦悩したとき、またその根っこに立ち返り、不足した水と養分とを吸い上げて、再び飛び立つための力をえることも出来るかもしれません」…どんな絵本に出会いどんな根っこを育んできたのか、私は。戻って確かめたい。
    そして、この本を読んだからではなく何度でも立ち返ろう、根っこの部分に。
    生活の中で矮小化した価値観を解き放ち、自分の本来の心にふれるために。

    表紙をめくると現れる口絵のページにも、表紙と同じ絵が描かれている贅沢さ。
    作者さんへの限りないリスペクトを込めて紹介された、絵本と児童書は全部で30作。
    皆さんはどのページで立ち止まるだろうか。

  • 著者の石井ゆかりさんの、「児童文学は、忘却によって隔てられた『大人の心』と『子どもの心』とのあいだに架かる、きらめく虹の橋のようにも思われます」の言葉に、ここ一年ほど、その魅力をひしひしと感じている私にとって、正にその通りだと思いました。

    子どもから大人になったときには、これで良かったと思うこともありましたが、年齢を重ねていく内に、児童文学を読みたくなった理由は、おそらく、子どもから大人に変わったのではなくて、大人の私と子どもの頃の私が、今でも私の心に、対等に存在していることを、信じたかったからだと思っています。

    それは、あんな頃もあったなではなくて、それらが全て積み重なっているから、今の私がいるのだということを。

    そんな素敵な虹の橋を行き来するように、教えてくれることは、子どもの成長に必要な大切なことと、大人が読むことで、自分を省みるきっかけを与えてくれることの、主に二つです。

    既に読んだ作品は、「はてしない物語」(文庫本ではダメな理由に納得)と「赤毛のアン」くらいで、他は未読の作品ばかりだったので、読みたい本が増え、私の中で、とても得るものが多かった気がします。

    特に印象的だった作品を、以下、記載いたします。


    完全には守りきれないところから生じる不安や悲しみ、苦しみに、子どもが自分自身で対抗できるよう、力を授けてくれる、「こいぬのくんくん」。

    他人の評価や偏見も、ある種の幻想にすぎず、未来をあれこれ想像したり、人の意見に左右されたりすることは、ちっとも現実ではないことを教えてくれる、「あおい目のこねこ」。

    夢と現実にギャップがあるからといって、夢を見ることに意味がないわけではないことを教えてくれる、「ちいさいねずみ」。

    うまくいくかどうかで物事を判断するのではなく、大切なのは、その手段を選ぶ、今現在の自分の心(そこに軸が持てないならば、きっと何を選んでも後悔することになる)だと教えてくれる、「ニブルとたいせつなきのみ」。

    大人の言うことを信じすぎてはいけないということは、子どもにとっても、大人にとっても、心安らぐ逃げ道となることを教えてくれる、「長くつ下のピッピ」。

  • 今年はつらい年で、亡くなったと聞かされていて、実は生き別れていた実の父と、遠方に住んでいた義理の父(と私が思っていた方)とをふたり見送った年になった。そんなのは小説だけだと思っていたのに。まさに、義理の父が亡くなった、翌日にこれを書いている。

    先日『十歳までに読んだ本』のレビューで、「今、おとなになった私が児童書を読んでいいか」と投げかけたところ、背中を押して下さったフォロワー様がいらして、この本を手にした。

    葬儀を待つ、寂しいはずの夜に、この本があってよかった。静かで、興奮したところのない、でも親しげな語り口。

    おとなになって、自分の中の子供と出会って、本を通して幸せにしていけるのは、その子を癒せる自分だけであること…。

    子供の本を味わうことは、何の飾りもない。根っこの、本音の自分と一緒に、こころをほどくことで…楽しんだり、傷に包帯を巻いたりしていいということだと、やっぱり思った。

    そう言えばうちには、『はてしない物語』がある。あの本の装丁の美しさ、活字と紙の好もしさ。読んでいないくせに、こっそりと古本処分の山の中から、私が抜いていたものだった。

    昔、私が占い師の方に、一度だけ、雨宿りがてら占ってもらった時に「あなたは身体が弱いけれど、そのぶん幸運で人には恵まれる。自分を支える力もある。ただ、他人に恵まれる代わりに、肉親には縁がうすい。無条件に守ってくれるひとに縁が薄い」と言われたことがあった。

    その時は、ふうん…と聞いていたが、こんなふうに、父とほとんど過ごせずに生きて、最後の時だけ二人ながら見送ることになると、その言葉が実感になってやってきた。

    もう私に、お父さんと呼んで、慕えるひとは、どこにもいなくなった。可愛がってもらうことを夢想することも、できなくなった。

    お父さん、と言う言葉が、急に質感のない、儚い言葉になった。

    そんな夜。

    この本を読み終えた時、なぜか悲しみも少し、棘を減らしてくれた気がする。

    箱無しでうちにやってきた、『はてしない物語』を今夜は抱えて横になろう。

    収録されていた『手袋を買いに』も私が大好きで買い求めたものだった。『小公女』も『アン・ブックス』も、幼い頃読んだものだった。

    私はやっぱり、幼い頃から本に包まれ、それを守護天使の羽根にして、毎日をどうにか幸せな子供として生き抜いていたのだ。今ようやく、あの頃、父の腕や母の手に甘えて包まれ、安らげなかった分、本を通して私が私に再会して、笑いかけられるところに来た。

    目次の『児童文学は大人になってから』のとおり、私の、失った子供の時間は今から始まる。それは、私にとって、遅くも早くもなく「今がいちばんぴったりだよ」と何かに囁かれている気がする。

    出会いが、子供の時でも良い。
    おとなになってからだって良い。

    それぞれ、一人ずつ、最良の船出の時があり、再会のタイミングがあるらしい。あたたかなミルクティーを差し出されたように石井さんのことばが、胸を暖めてくれた。

    • nejidonさん
      瑠璃花さん、なんということでしょう。
      今おかれている底知れぬ寂しさを思い、読みながら思わず涙しました。
      おふたりのご冥福をお祈りします。...
      瑠璃花さん、なんということでしょう。
      今おかれている底知れぬ寂しさを思い、読みながら思わず涙しました。
      おふたりのご冥福をお祈りします。
      当分は、何を見ても何をしていても、心がそこに戻ってしまうかもしれません。
      でもそれはそういうものと受け止めるしかないのですよね。
      ひとが亡くなるというのは、やはりそれは大きなことなのですから。

      私は、同年代のひとに比べたらだいぶ早く両親を亡くしました。
      読書のたびに眼に浮かぶのは、机の前に端座して本を開いていた父の姿です。
      読み終えると真っ先に、父に小声で報告しに行きます。
      「お父さん、読み終わったよ、これ、面白かったよ。」
      すると、父が私を見つめて微笑むような気がします。
      それが、私の「喪の仕事」です。
      読みたかった本を読むことが、瑠璃花さんのとっての「喪の仕事」になるのなら、
      その時間が少しでも優しい時間であるようにと願っています。
      お身体大切にお過ごしください。
      2018/05/30
    • 夜型さん
      瑠璃花さん、こんにちは。
      はじめまして。
      なんということでしょうか…心からお悔やみ申し上げます。

      世知辛い大人の世界にとって、子供...
      瑠璃花さん、こんにちは。
      はじめまして。
      なんということでしょうか…心からお悔やみ申し上げます。

      世知辛い大人の世界にとって、子供たちに向けたメッセージの花束は、やさしく包み込んでくれますね。
      どうかご自愛ください。
      ではでは。
      2018/05/30
    • 瑠璃花@紫苑さん
      お二人とも、お優しいコメントをありがとうございます。
      思いに任せ綴った言葉が、同じような悲しい気持ちをお持ちの方を
      つらくさせていなかったら...
      お二人とも、お優しいコメントをありがとうございます。
      思いに任せ綴った言葉が、同じような悲しい気持ちをお持ちの方を
      つらくさせていなかったらいいが…と、自分の言葉に今更、はっとします。

      実の父とは、記憶に残らないほど幼い赤ちゃんの時に別れ、先日
      亡くなったと役所から連絡を受けて、いろいろな手続きが済み、
      荼毘に付された後だったので、最近の写真を手にすることが出来た
      ばかりでした。

      義理の父も、私と縁ができてから、すぐに病を得て、今回
      旅立つことになりました。

      実の父が、名を呼んでくれた声を知らないままだったこと。
      義理の父ともほとんど話せないで闘病を気にかけるしかなく
      病が篤くなってからは、覚悟していたとは言え、もう一度
      会いたかったと悔やむのが、どうにも心残りです。

      私は幼い頃から病院と自宅を行ったり来たり、入院の多い
      生活で、本と音楽と飾られた花と、窓からの四季が友達でした。

      境遇自体は、それだけ書けば出来の悪い少女小説のようですが
      母は私を可愛がり、美しいクラシックや童謡をきかせ
      とても良い読書の時間を、早くから過ごさせて。

      病室のベッドの上も、自宅に戻れた時の、こざっぱりと
      片付いたカーペットの上で、ひだまりを追うのも。

      祖父母の家の縁側も、別荘のリビングも…。
      電車やバスの中でさえ…心惹かれる本があれば、そこは
      私の読書スペースでした。

      今回のことがなければ、実の父のことで、

      「長女です。」

      とか

      「娘です。」

      と名乗り、

      「お父様のお名前をここに」

      と促されることは、一生なかったでしょうし、義理の父のことも

      「墓参に向かう心づもりを、ぜひ」

      といたわられることもなかったはずです。

      それを思えば。

      娘です、と名乗れるしあわせを、ふたりの父は
      私に遺して、旅立ってくれました。

      遅い親孝行だ、と思い、行き届かぬ自分に悔しくなりますが
      読みたい本を傍らの伴奏者に、ふたりに話したかったことを
      ほろほろと口にして、素直になってみようかと思います。

      nejidonさんのお父様も、今もきっと、本を開く時
      閉じる時…愛娘はこんな本を楽しんでいるのか…と
      微笑みを向けてくださっていることでしょう。
      素敵な思い出をお持ちですね。

      本は私達の鏡ですから、読み終わったよと
      これからも、ないしょで話しかけて差し上げてください。
      きっと、聞いてくださっているはずです。

      kamizakiさんの、暖かくてまなざしのするどいレビューもきっと
      良いつながりをお持ちの中から生まれていると思います。
      こんな私に寄り添う言葉を、本当にありがとうございました。

      長文、乱文、お目汚しのほど、どうかお許しくださいね。
      2018/05/30
  •  どうしても同じ本ばかり何度も読んでしまうという著者。
     おっしゃるとおり、子どもも「お気に入りを繰り返し」が基本ですね。大人だって好きな曲は繰り返し聴いてしまうのと同じ感覚かな?
     児童文学は大人になってから。で紹介されている本を読んでみたくなりました。
     生活の中で矮小化した価値観を解き放ち、自分の本当の心に触れたいときには児童文学を読むに限る。なんて言われて、思わずその気になってしまいました。
     最後に、この本の酒井駒子さんの表紙、とても好きだなぁ。読み終わって改めて眺めて見るとこの本の内容を良く表している。

  • 石井ゆかりさんは読者と「好きな本の話で盛り上がる」ような気持ちで書かれたようですが、わたしにとっては静かな湖の畔で爽やかな風に吹かれている、そんな癒やされ感でいっぱいになる本となりました。
    どの本の紹介からも幼き日の石井さんが同じ本を何度も繰り返し読まれている姿が浮かび上がり、それは表紙の酒井さんが描かれた何とも言えない可愛らしい表情の女の子と被ります。
    石井さんのご自分の体験から綴られる言葉には絵本や児童文学への愛や、読者への想いがまっすぐ伝わってきました。

  • ここに紹介されている絵本や児童書は、有名どころばかりなのだろうけれど、子供時代に本を読んでこなかった私にはすべてが新鮮で、「気になる!」本ばかりでした。
    紹介文も長ったらしくなくて、適切な分量と魅力的な文章力で書かれています。
    著者の方は「プチ自伝になってしまった」と書かれていますが、それこそ最高の紹介本であり、子どもにも大人にもおすすめの本だと、私は感じました。

  • 読み聞かせは自分の子供たちにずいぶんして来たから、絵本には詳しいつもりだったけど、知らない絵本がたくさん。児童文学も読んだつもりで終わってしまっている気がする。選ばれた本たち、改めて是非読み直したい。
    まどみちおさんの詩に震えた。

  • 著者は同じ本をたいせつに何回も読むタイプ。
    じっくりと、かみしめるように味わうのですね。

    で、私は基本的に一度読んだ本は
    読み返さないタイプなのでσ(^_^;)

    けど、好きだった本の話をして
    一緒に盛り上がりたいような気持ちで
    この本を書いたというところに共感しました。

  • 石ゆかりさんの絵本、児童文学のレビュー本のような、本にまつわるエッセイのような本。
    こうした読書の道案内をたまに読むと既読のもの、未読のもの含めテンションが上がる。

    そして未読、積ん読のものについては
    「ああ、もっとあれもこれも読みたいのに、まだ読んでないなあ」
    と残念に思い、既読のものに関しては、共感ポイントの多い本がある中で、
    「ああ、全然石井さんのように読んでいない」
    とがっかりするものもある。

    それは、気持ちが読書に向かない中で急いで読んだ、記憶の薄い本たちである。

    不思議なことに大人の本なら、そう言う読み方をしても結構覚えているものなのだけど、子供の本だけは、数より質。

    作者が必要最低限の言葉で本気で書いている以上、読者も嘘をつけないのだ。
    自分の心に染み入るような読み方をしないとダメなのだ。
    それは、良き子供の本が、それだけ高級だという証。

    だから石井さんのような優れた読み手のレビューは、読んだ時の自分の気持ちが、鈍感すぎたりささくれだってたりしていないかのバロメータになってくれる。

    そして、ご本人も乱読よりは同じ本を繰り返し読むタイプとものされていたが、そのタイプの読み手は一様に書かれる文章が優しい。
    コトコトとガス火で煮込むシチューのような、2Bの鉛筆で書く日記のような、手縫いのぬいぐるみのような具合。

    ああ、なんか昨今騒がれてる社会的にすごそうな人たちに、憧れなくてももういいわ、私もコトコトシチューの人がいいわと思えます。だって、本来、私こっちの人だもん、と。

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著者プロフィール

職業、結婚、進学……
人生の岐路で、あなたはなぜ「そっち」を選んだのですか?

喫茶店店主、写真家、女子高生など、さまざまな職業の人に、何の予備情報もないまま出し抜けにインタビューをしていくことになった著者。
初対面の人たちに聞いた話を元に、私小説のように綴られるそれぞれの「選んだ理由」と、そこから見えてくるものとは?


どういう仕事に就くか、誰と一緒に生きるか、どこに生きるか、どう生きるか。誰もが、人生で幾度も選択を重ねていく。このインタビューシリーズを通して、「どれを選んだか」もさることながら、「なぜそれを選んだか」「どういう経緯でそれを選ぶことになったのか」が、人によってまったく違うことに気づかされたのだ。さらにいえば、「なぜ選んだか」という基準が、その先で「どうなっていったか」ということと、大きく韻を踏んでいる、とも思えた。――はじめにより


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「2016年 『選んだ理由。』 で使われていた紹介文から引用しています。」

石井ゆかりの作品

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