ミ・ト・ン (MOE BOOKS)

著者 :
  • 白泉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784592732952

作品紹介・あらすじ

波乱に満ちながらも、つつましく温かい生涯を送ったマリカのそばにはいつも美しいミトンがあった──。小説と版画が紡ぎだす愛しい物語。
2017年10月刊。

感想・レビュー・書評

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  • 「ミトン」、この作品のタイトルを聞いただけで蘇ってくる苦い記憶が私にはあります。小学生の時でした。冬になり、ミトンを編んでプレゼントしてくれた祖母。ブルー地のミトン。指を入れる部分が、親指だけ分かれていて、他の指はひとまとめになったその手袋。翌日、その手袋で行った学校。気づいたクラスメイトから投げかけられた言葉はよく覚えています。『赤ちゃんみたいだ!』、『赤ちゃんの手袋をしてる!』スッカリ馬鹿にされたと感じた私は、そのミトンを脱ぎ捨て、学校でも通学でも二度とはめることはありませんでした。流石に寒くなってきた真冬、やはり手袋が欲しくなった私。ある日、そんなはめなくなったミトンの片方をゴミ箱に捨て、『片方なくしちゃった』と家に帰った私。編み直すと時間がかかるからと、代わりの手袋を買ってもらった私。祖母の顔をまっすぐ見れなかった私。そして、本当のことを言えないまま、祖母は逝ってしまい、時を経ても未だに苦い記憶が残ったままの私。『手だけでなく、心もあたたかくしてくれる』というミトン。この作品はそんなミトンと共に生きた主人公・マリカの一生が描かれゆく物語です。

    『マリカが産声をあげたのは、とても寒い日の朝でした。おかあさんはマリカを蒸し風呂の中でうみました』という主人公・マリカの誕生の場面からこの作品ははじまります。『マリカの産声を聞きつけて、まっさきに蒸し風呂の中へやってきたのはおとうさん』、そして『元気のいい、女の赤ちゃんよ』という『声を聞くやいなや、今度はおとうさんの背中にかくれていた三人の息子さんたちが、目を見ひらいてよろこびました』というその場面。『マリカが誕生した朝、おばあさんはさっそく、小さなミトンをぬいはじめ』ます。『ミトンをあむことはよろこび』というおばあさん。『おばあさんが選んだのは、真っ赤な毛糸。マリカは、赤い色がとてもよくにあう女の子でした』という微笑ましい光景。そして、マリカの生まれたこの国、『ルップマイゼ共和国の冬はとてもとても厳しいので、ミトンなしでは生きていけません』というこの国が『誕生したのは、マリカがこの世にうまれるひと月ほど前のこと』という新しい国に生まれたマリカ。『おとうさんは三人の息子たちを連れて森に向かいます。クリスマスツリーにするトウヒの木を切るため』です。一方で、『おかあさんは暖炉でパンを焼きはじめました。みんなの好きな、黒パンです』というこの黒パンは、この国の人にとって特別な食べ物です。おとうさんと子どもたちが帰ってきて、『昼食の準備がととのいました。暖炉の中から、焼きたての黒パンが登場します』という瞬間。『おかあさんはマリカの誕生を祝福し、あるもので精いっぱい料理を作りました』というみんなでマリカの誕生を祝福する食事が始まりました。『マリカには、うんと長生きして、幸せになってほしい』と願う家族。そんな中、『いちばん下のお兄さんが、立ちあがってヤナギのベッドに』近づいて行きました。『まだ黒パンを食べることのできないマリカに、香りだけでもかがせてあげようと思った』という微笑ましい光景。『香りをかいだとたん、マリカのほっぺたがゆるみました』という幸せな光景。『パンが、家族をより親密にしてくれる』幸せな家族団欒の場。そして、そんな祝福の中に生まれたマリカの激動の人生。

    この作品の舞台となる『ルップマイゼ共和国』は旧ソ連から独立したラトビア共和国がモデルとなっています。そんな小国は隣接する『氷の帝国』により長らく支配を受けざるを得ない状況。そんな小国に定められた怒涛の運命に翻弄されていくマリカの人生が大河小説のように描かれていくこの作品。まず印象的だったのは、『ルップマイゼ共和国』の美しい自然の描写です。『大地が、長い冬眠から目を覚ますのです。そんなによろこばしいことはありません』と『ルップマイゼ共和国』に春が訪れます。『小鳥たちは、春の歌を歌いました。それはまさに恋の歌。植物たちも、ねぼけまなこで顔を出します。まぶしくあたたかな太陽の光を、人々は両手をあげて歓迎しました』という詩的な描写。この季節を『春の森って、なんて気持ちがいいのでしょう!』というマリカ。『足元の土は焼きたてのシフォンケーキのようにふかふかで、あちこちから名残りの雪のにおいがします』と、具体的な春の情景が目に浮かびます。思い切って『靴もくつ下もぬいで、裸足になって地面にふれます』というマリカ。『足元の土は柔らかく、人肌にふれるような温もりがあり、まるでビロードのようです』と春の大地の触感表現。そして『まだ葉っぱの生えない梢を通って、光がさんさんとふり注ぎます。その様子はまるで、空のかなたから、神さまが甘いはちみつをたらしてくれているようでした』。とここで『はちみつ』が登場します。そして『養蜂家になりたいんだ』というヤーニスの将来の夢を聞くマリカの気持ちに繋げていきます。『ますますヤーニスに心をときめかせました』、そして、『マリカがもっとも好きな食べ物が、はちみつなのです』とさらに『はちみつ』をキーワードに二人の関係が描かれていきます。『ヤーニスの背中に、そっと自分の耳を当てます。そうすると、ヤーニスの声や心臓の音が、音楽のように、川のせせらぎのように、心地よく響くのです』というマリカ。『ただただそうやってじっとしているだけで、満たされました』ともうこの二人は幸せに向かって一直線に進むほかありません。大自然が春を迎える情景に重ねてマリカとヤーニスの幸せの絶頂が描かれるこのシーン。その幸せな二人の姿が目に浮かぶかのようなシーンの眩さにすっかり魅せられてしまいました。

    この作品は、書名の「ミトン」が全編に渡って色々な人々の手で編まれ、色々な人々の手にはめられる場面がとても印象深く描かれていきます。『色鮮やかな美しいミトンを手にはめることは、この国の人々にとって、大きなよろこびのひとつ』という位にこの国の人々の文化に、そして生活になくてはならない『ミトン』。『ミトンは、その人を守るお守りでもある』とも『ミトンは、言葉で書かない手紙のようなもの』とも言われるほどにこの国の人々にとってはなくてはならない一生を共にするものです。そして『手だけでなく、心もあたたかくしてくれる』という『ミトン』。この国の人々はそのそれぞれの人生の色々な場面で『ミトン』に思い出を刻んできました。幼い頃、『ミトン』を編むことが苦手だったマリカ。そんなマリカが『だれかにミトンをあんであげるということは、その人にあたたかさをプレゼントすることでもある。その人と直接手をつなげないかわりに、ミトンをあんでいるということに、気づいた』というマリカ。そんなマリカの一生の色々な場面を彩ってきた『ミトン』というものが、単なるモノを超えた存在としてマリカの中に息づいているんだということをとても感じました。

    『ミトンは、マリカの手の温もりの分身』と気づくマリカ。『美しくてあたたかいミトンをあむことが、マリカにとっての生きるよろこび』になっていった、そんなマリカの人生の物語。『ルップマイゼ共和国』という異国を舞台にした、まさに異国情緒たっぷりに、それでいてどこか童話のような、もしくはファンタジーのようにも感じられるこの作品。『氷の帝国』の支配によりマリカの人生は最後まで翻弄され続けました。でも不思議と心穏やかな気持ちになれる結末には、『ミトン』を通じて、直接手をつながずとも編むことでつながっていく人のぬくもりを確かに感じました。

    編んだ人の心を時代を超えて伝えていく『ミトン』。丁寧な暮らしの描写を通じて、その独特な世界観の中に人のぬくもり、あたたかさをとても感じながら、作品の世界に浸った読書。なんて素敵な物語なんだろうか、と幸せな気持ちいっぱいに包まれた、そんな素晴らしい作品でした。

  • 読んでいて涙が止まりませんでした。
    丁寧な暮らし...ステキだなぁと思いました。また、マリカとヤーニスがステキ過ぎて...。

    「悲しんでいたって何も生まれないでしょう。自分たちが明るい顔をしていたら自分よりもっと辛い経験をした人たちが救われるのだもの。」
    が、心に響きました。

    本の中に出てくる菩提樹の花のお茶やりんごのバターケーキ、どれもおいしそうで食べてみたいと思いました。

    平澤まりこさんのイラストもステキでした。

  • ほんわかした童話の趣を携えた本だった
    ラストはちょっと悲しいけど 良い本があると知人に紹介されて読んだ本
    平澤まりこさんの描いた表紙や挿絵が 物語とマッチングしており素晴らしい
    最初1枚の茶色のページをめくるとすてきな模様のミトンを形どったページがある作りも素晴らしいと思った


     著者の小川糸さんが『美しい手袋をはめる文化がある』ラトビアに ミトンを編む文化やそれを紡ぐ人たちに会ってみたいと思って訪れたことが この物語を生み出したと 巻末のイラストエッセイで知る

    物語の中では その国はルップマイゼ共和国として現れるが その国に住む人々が心豊かで愛おしさに溢れる様子から きっと著者が訪れた「ラトビア」という国も居心地の良いあたたかみある日常を持つ国だったのではなかろうかと想像した


    『マリカが誕生した朝、おばあさんはさっそく、小さなミトンをぬいはじめました。
    ルップマイゼ共和国の冬はとても厳しいので、ミトンなしでは生きていけません。色鮮やかな美しいミトンを手にはめることは、この国の人々にとって、大きなよろこびのひとつなのです。だれもが,じまんのミトンを持っています。』
    (本文より」)


    読み始めてすぐにこの場面
    温もりのあるルップマイゼ共和国にすぐに興味を持った


    『マリカというのは,やさしいおかあさんという意味があり、あたたかな衣をまとった名前でした。』
    (本文より)


    名前はその人の一生を左右すると思う
    毎日その名で呼ばれ 新しい出会いにも 古くなって誰かの記憶になった時にも 名前が顔を覗かせる
    だから 「マリカ」はすごく良かったんじゃないかな!
    『おばあちゃんになっても大丈夫だね』と言った3男のセリフもお見事


    あたたかくてすてきだなと思うルップマイゼ共和国を伺い知れる部分をいくつか引用する


    ◯『あるとき、一本のトウヒが切りたおされていたのです。誰かが暖炉の巻きにするために切った木でした。
    けれど、心やさしい少年は、木がかわいそうだからと、
    自分の大切なおもちゃを木の枝にかけてあげたのです。
    木を切り倒した人は、それを見て薪にするのをあきらめ、ほかにもかざりをつけたとのこと。こうして、クリスマスツリーに飾りをつける文化が誕生したのです。』


    ◯『家族みんなが仲よく黒パンを食べていると、いちばん下のお兄さんが、立ちあがってヤナギのベッドに近づきました。手には、黒パンのかけらを持っています。お兄さんはそれを、マリカの鼻に近づけました。まだ黒パンを食べることのできないマリカに、香りだけでもかがせてあげようと思ったのです。』

    この部分好き!
    うなぎやの前で匂いをおかずに白飯を食べていたら 匂いを嗅いだ代金を請求され チャリンという金貨の音で代金を支払うという落語本があったのを思い出した
    うなぎの香りで白飯が食べれるのだから 赤ちゃんのマリカも黒パンの香りで 皆の笑顔の元はこれだったのかと 感覚で喜びを味わったに違いない
    お兄さんのやさしさがすてきだ

    そもそも 外国が舞台の物語に出てくるパンはとても美味しそうに感じる
    マリカのお母さんが焼く「黒パン」
    美味しそうで 読むだけでお腹がぐうと鳴る
    マリカのお母さんが出産後すぐに台所で立ち働くところをみるとルップマイゼ共和国の人って 特別に体が強いのかなって思った
    それとも マリカのお母さんが特別?


    ◯『ルップマイゼ共和国の人たちは、よく花をおくるのです。ありがとう、ごめんね、おかえりなさい、おめでとう。どんな小さな気持ちも、花とともにおくることで、より相手に伝わることがあります。お別れのための花は偶数、それ以外の花は奇数と数が決まっていました。』

    こういう 数にまつわる文化って国ごとでいろいろあるらしいからね
    日本では 贈り物の個数は「割れない」から奇数がいいとか 
    4は「死」を9は「苦」を想像させるから祝いに使わないとか…

    花そのものや花言葉で感謝や想いを伝える文化もすてきだよね
    花はもらって嬉しい
    贈る方も 選ぶ楽しさがある


    ◯『でも、長生きするのはたった一日でいいのです。だって、マリカもまた、ヤーニスなしでは生きられませんから。だから一日だけ、ヤーニスより長生きさせてくださいと、運命の神さまにお願いしました。』

    いやあ、「私より先に死なないで」とかって よくある恋人とのやりとりなんだけど
    自分が先に死んだら恋人の心がやられちゃうって思って 
    だったら彼より一日だけ自分を長生きさせてほしいと願ったマリカが愛おしい



    この物語はルップマイゼ共和国に生まれたマリカが ミトンやこの国ならではの風習、文化と共に生き 恋に落ち あの世に旅立つまでの物語だ
    ミトンを編むことに興味のかけらもなかったマリカが 愛するヤーニスのためにミトンを編み始めるあたり やっぱり恋のマジックってあるんだなと思う
    絶対にないってことは 世の中にはほとんどないんだろう
    何がきっかけで 人間 趣味や生き方や考え方が変わるかは誰にも分からない


    この物語を読んで どうしても行きたかったパン屋に行ってみようと改めて思った
    一度訪れた時は もう店頭にパンは残り少なく 選ぶ余地がなかった
    そのパン屋には ヨーロッパ特有の硬めのパンが多くあるとかないとか…
    『黒パン』のワードが目に入った瞬間から そのパン屋のことが頭をかすめる
    とりあえず 新年明けたら そのパン屋で美味しいパンを買って 異国の地を味わいながらゆるやかなひとときを過ごそう
    お気に入りのファーのついた赤い手袋をつけてその地を訪れようかな
    もしかしたら 生まれ変わったマリカやヤーニスがパンを買いに来ているかもしれないし


    そうそう 作中に「いなくなってなどいない 変化しただけなのだ」というような内容の文があり 生死感について宗教性がうかがえる場面があった
    「死」を「変化」と捉え 自然の中で生き続けていると信じ 自然界に視界を広げる様子が印象的だった

     この物語が 著者が興味惹かれたラトビアの文化から生まれたところが 読者にラトビアという国に興味を持たせ 想像の物語の楽しさと 実存する異国への関心と
    2つの面を楽しめる物語を作り上げていると思う
    著者のあとがきまで じっくり楽しめる本だった

  • ルップマイゼ共和国で、愛にあふれた一家の初めての女の子として生まれたマリカの物語。

    この国は、ラトビアをモデルにしています。冬はとても寒く、夏は短く、厳しい自然の中で、森や川などで手に入る物を、自分たちの分だけ、取りすぎないようにして日々暮らしていく。正に、「足るを知る」が生活の中に生きづいている国です。

    題名のミトンは、防寒としての意味だけでなく、結婚式、お葬式などにも身につけるもので、伝統的な、自然の神様の模様を編み込んで、相手の幸せを願って作るものだそうです。

    日本では、マリカのような生き方は難しいです。ファンタジー色が強い作品ですが、自然を描写する表現が素晴らしかったです。例えば、長い冬が過ぎて、ようやく春を迎えた森の描写。「太陽の光は、まだ葉っぱの生えない梢を通って、さんさんと降り注ぎます。まるで空の彼方から、神さまが、甘いはちみつをたらしてくれているようです。」とても素敵です。

  • 生まれたばかりのルップマイゼ共和国。
    同じ年に、家族から待ち望まれて生まれたマリカ。
    マリカの人生を、おとぎ話のような語り口の文章と版画で辿ってゆきます。

    自然と調和しお互いを尊重しあう生き方をしてきた人々でさえ、無情に踏みにじられる戦争と圧政の現実。
    それでもなお歌い、笑い、思いを込めてミトンを編み、日常に感謝して人生を終えたマリカの、強さ、美しさ。
    マリカのような、マリカの母のような、祖母のような女性たちが皆、今もミトンを編み、黒パンをこねて、神々への祈りの中に生きている。
    まるでファンタジーのような。


    こんなふうに生きてきた人たちが、今もすぐそこにいることに、…ショックを受けたというのも何か違う気がするけれど…
    頭の中が真っ白になったような。
    巻末、モデルとなったラトビア共和国を取材した時の様子が載っていて、もう一度ため息。

    嘘と暴力と駆け引きだらけのこの現実は…?
    先進国、超大国といわれる国のあり方、自由と人権を生まれながらに持っているはずの私たちの世界は、どこで間違ってしまったんだろう?


    文庫本の方に書き込まれていたいるかさんの感想に惹かれて、ついこの前まで閲覧も出来なかった図書館に行ったその日に、幸運なことに単行本を手に取ることができました。
    ありがとういるかさん!
    感染症や人種差別でガタガタになっているこのタイミングで、ひととき心を綺麗にしてもらえて、色々考えさせられました。

    ミトンのかたちのページがあったり、装丁にも趣向が凝らされています。
    さすがMOE BOOKS。
    やっぱり紙の本を無くしちゃいけませんね。

  • 小川糸さんの優しいお伽噺のような物語に、温もりのある平澤まりこさんの版画とイラスト、というとても素敵なコラボ。
    装丁がとてもお洒落で、このまま部屋に飾っておきたい本。

    美しいミトン(手袋)をはめる文化のある国ルップマイゼ。
    その国の人々は誰もが神様が宿る美しいミトンを持っている、という。
    そして歌と踊りをこよなく愛し、例え辛いことが起こっても楽しそうに笑う。

    泣いていても何も生まれない。けれど、笑っていれば自分よりもっと辛い思いをした人達を勇気づけることができる。悲しんでいたって何もいいことなどないのだから…。

    ルップマイゼの人々の明るい笑顔は読み手をも励ましてくれる。
    来る者を決して拒まず広い心で受け入れてくれるルップマイゼの森や風、光、生き物、そして人々の温かさが心地好い物語だった。

  • 『ルップマイゼ共和国は、まだまだ冬に時代がつづいていました。本当に現実はひどいものだったのです。人が殺されたり、どこかへ連れて行かれたり、らんぼうされたり、そんなことが日常茶飯事でした。
     そんなたいへんなときに、マリカがどうして笑っていられるのか、ふしぎに思うかもしれません。
     マリカだけでなく、ルップマイゼ共和国の人々は、つらいときこそ、思いっきり笑うのです。
     だって、泣いていても何も生まれないじゃないですか。けれど、笑っていれば、自分よりもっとつらい思いをした人たちを、勇気づけることができます。悲しんでいたって、何もいいことなどありません。
     そうやって、お互いにはげましあいながら生きているのが、ルップマイゼ共和国の人たちなのです。』
     
     最近本当に悲しいことがあって、もう立ち直れないかもと思っていた。
     けれど、この言葉に、この本に救われた。
     少しずつ前を向いて笑っていこう。
     この本に出会えたことに感謝。ありがとう。

  • 挿絵とやさしい語り口で、昔話を聞いているよう。
    ルップマイゼ共和国の暮らしも人々も、素敵。
    中でも、ヤーニスとマリカが魅力的。
    おだやかで慈しみぶかく愛情にみちた日々。
    あたたかなふたりの家。
    ささやかでつつましい暮らしの中にある、喜びと悲しみ。
    最後はじーんとくる。
    モデルとなったラトビアを紹介した、巻末のイラストエッセイもよかった。

  • 小川さん作品の独特の陽だまりのような暖かさ、この本ではじんわり感じました。ラトビアをモデルとしたルップマイゼ共和国で昔ながらの暮らしをする女の人のお話。願いながらミトンを編み、ミトンとおしゃべりし、ミトンで伝える。暖かいなあ。お母さんは、お国食である黒パンを作りながら子供産んだ、素敵だなあ。パン好きな私としては、最初から前のめり(白樺ジュースと言い、私の好みのものばっかり)。悲しい時ほど笑顔でいる、お花を送る、自然とともに生きる姿、暖かい思い、いいなあ。すばらしい愛の物語でした。

  • 初めての小川糸さんの本。
    家族、友人、恋人、周りの人との1日1日を大切にしようと思えた一冊。
    ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
    ありがとう、ごめんね、おかえりなさい、おめでとう。
    どんな小さな気持ちも、花とともにおくることで、より相手に伝わることがあります。

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著者プロフィール

作家。デビュー作『食堂かたつむり』が、大ベストセラーとなる。その他に、『喋々喃々』『にじいろガーデン』『サーカスの夜に』『ツバキ文具店』『キラキラ共和国』『ミ・ト・ン』『ライオンのおやつ』『とわの庭』など著書多数。

「2023年 『昨日のパスタ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川糸の作品

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