愛しすぎた男 (扶桑社ミステリー ハ 8-7)

  • 扶桑社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (436ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784594020996

感想・レビュー・書評

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  • アメリカの作家パトリシア・ハイスミスの長篇ミステリ作品『愛しすぎた男(原題:This Sweet Sickness)』を読みました。
    『見知らぬ乗客』に続きパトリシア・ハイスミスの作品です。

    -----story-------------
    ニューヨーク郊外の紡績会社に勤める技術者デイヴィッドにはささやかな夢があった。
    「愛する人アナベルと結婚したい」という夢。
    しかし、あまりにも熱烈な彼の想いは、現実を離れ、一人歩きを始めていた。
    彼は、週末ごとに下宿を出て、誰もしらない一軒家で過ごしながら、愛する人アナベルとの結婚を夢見ていたのだが…。
    仮想世界での「恋愛」が破綻したとき、デイヴィッドの破滅がはじまった!
    いま話題の「ストーカー」(追跡者)の世界を内側から描いた名手ハイスミスのノンストップ・サスペンス。
    -----------------------

    1960年(昭和35年)に刊行されたパトリシア・ハイスミスにとって6冊目となる長篇作品です。


    貿易会社で働くデイヴィッド・ケルシーは、優秀な技術主任だった… 下宿の女主人マッカートニー夫人からは理想的な青年として敬愛されていた、、、

    散歩の帰り、アンディという店に立ち寄ると、同じ下宿に住む女性エフィから声をかけられるが、デイヴィッドは全く関心を示さない… なぜなら彼にはアナベルという美しい女性しか目に入らないからなのである。

    アナベルは既に結婚していたが、デイヴィッドは週末になるとウィリアム・ノイマイスターという偽名で手に入れた郊外の秘密の家で過ごし、アナベルとの結婚生活を夢見ていた… やがてアナベルに子どもができたという知らせを受け取るが、それでもデイヴィッドは幾度も手紙を書き、電話をかけ、ついには彼女の家へ訪ねていく、、、

    アナベルの夫ジェラルドは、こうしたデイヴィッドの行為にうんざりしていた… ある週末、デイヴィッドが秘密の家で過ごしているとジェラルドがやってきた……。

    デイヴィッドは、行き場のない状況に追い込まれる一方で、ますます妄想の世界に入り込んでいく……。


    頭脳は優秀で聖人と呼ばれるほど生真面目だが、自己中心的に考え、思い通りに女性を支配することしか考えていないデイヴィッド、一方で、優柔不断で曖昧な受け答えをするアナベル… まさに現実的にありそうな設定ですよね。

    60年以上前の作品ですが、ストーカーという、非常に今日的な題材が扱われていることに驚きましたね… 冒頭から緊迫したサスペンスが展開され、人間関係におけるちょっとしたズレが原因で、心の奥底に押し込めていた妄想が、ゆっくりと現実世界に溢れ出し、じわじわと恐怖の淵に追い込まれていく展開が愉しめました、、、

    主人公・デイヴィッドの自己中心的な行動には共感できないのですが… デイヴィッドの視点で進行する物語に、どんどん惹き込まれていき、まるで自分自身に起こっていることのように読み進めましたねー このあたりは、パトリシア・ハイスミスの巧さなんでしょうね。面白かったです。

  • 刊行は1960年。今では当たり前のように使われる「ストーカー」という言葉は、当時でも頻繁に使われていたのだろうか。日本では90年代まで、警察の民事不介入により取り締まることができなかったという。これが書かれた頃は、まだストーキングという行為は認知されていなかった時代かもしれない。

    主人公のデイヴィットがひたすら愛し続けるアナベルは、既に別の男性と結婚して子どもが生まれ、貧しいながらも幸せに暮らしていた。自分以外の男性と一緒にいてアナベルが幸せになれるわけがない、彼女は間違いを犯したのだと心の底から信じているデイヴィットは、今住んでいるアパートとは別に郊外に一軒家を購入した。そこはアナベルと暮らすための家具や装飾品などで揃えられ、彼は週末ごとにひとりでせっせとそこに通っていた。
    今の自分とは違う自分。
    そうなるべきだったのに、なぜかどこかで間違えてしまい、手にいれることができなかった幸せ。
    彼はそのギャップを埋めるために、もう一人の人間を作り出したのだろうか。まるで現実の辛さから逃げるために、自分以外の人格を作り出すみたいに。

    最初は気持ち悪く思ったり、彼の自分勝手さに腹が立ったりするのだが、彼がやがて色んなものに追い詰められていく様を見ていると哀れになる。他にも女性はたくさんいるのに、どうして彼女でなくてはだめなんだろう。
    どうしてもどうしても好きな人。忘れたくても忘れられない人。そういう人がいたとしても自分のものに決してならないのなら、美しくも切ない自分の想いは、自らの汚れた靴で踏みにじって乗り越えなければ。

    なんのひねりもないストレートな話なんだけど、だんだん現実の輪郭が歪んでゆく主人公が気になって、最後まで一生懸命読んだ。


  • ストーカーを題材にしたサスペンス。
    といっても『狙われる側』の恐怖ではなく、主人公はストーカー本人で、主人公視点で読んでいると、なかなかその歪みが見えて来ないところが不気味で面白かった。ハイスミス作品の犯罪者主人公にしてはちょっと間抜けなところも妙な愛嬌がある……ストーカーだけどw

  • 4.5

  • 意外と面白くて止まらず一気読み。ちょっとハラハラした。

  •  ストーカー側から見た、ストーキングの話。うーーん、やっぱり主人公にはシンクロできなかった。どんなに自分を正当化しても、側にいる、見てる人からは、常軌を異している。それに、ストーキングされた経験者としては、ただ気持ち悪いだけだ。だけど、ハイスミスは上手い。やっぱり、なんだかんだと読み終えたのだから、これをハイスミスの腕といわずしてなんと言う(笑)

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著者プロフィール

1921-1995年。テキサス州生まれ。『見知らぬ乗客』『太陽がいっぱい』が映画化され、人気作家に。『太陽がいっぱい』でフランス推理小説大賞、『殺意の迷宮』で英国推理作家協会(CWA)賞を受賞。

「2022年 『水の墓碑銘』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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