ポップ1280

  • 扶桑社
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (311ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784594028633

感想・レビュー・書評

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  • なるほどこれは伝説的怪作。「パルプ・ノワール史に屹立する孤峰」という惹句に偽りなしだ。積み残していた本の一つなんだが、いやもう圧倒された。どうしようもないこの世への「ドライな呪詛」とでも呼ぶしかないような作品だ。

  • もっとも卑小な人物がキリストのごとき崇高さをおびる、犯罪小説の中の底知れない深さ。

  • 人口1280人のポッツヴィル、主人公の保安官ニック・コーリーはちょっといらいらするくらい気弱な感じでこの物語に登場する。あれ、この本ノワールの伝説的作品でしたよね。軽!読みやす!下品だけどちょっと笑えるし。

    眠れないと愚痴をいいつつ長時間眠り、ろくに食事も取れないとぼやきながら大量の食料をたいらげる。あちこちの女を抱き、煙にまくような言葉でのらりくらりと逃げ、簡単に人を陥れる。
    事態が雪だるま式に悲惨になるにつれ、ドタバタ喜劇感が満ちる。軽いのに、読みやすいのに、しんしんとこわくなってくる。嫌悪感がひたひたやってくる。
    一人称なのに感情が見えない。ニックのうちに広がる無。「狂ってる」の一言で片付けられないその虚無を、この本はまるまる一冊使って書いているのだった。

    やっぱりノワールは苦手。でも、この本にカルト的な人気があるというのは、ちょっとわかる気がするな。


  • ポッツヴィル、人口1280。この田舎町の保安官ニックには悩み事が多すぎる。妻弟愛人婚約者悪党そして選挙...人間の底知れぬ闇をえぐり、読者を彼岸へとみちびく、究極のノワール。

    このミス1位は伊達じゃなかった。ノワールとしてオールタイムベストクラスでありながらミステリとしての体裁(読者を驚かせる仕掛け)をはじめから保っている恐るべき作品。凄まじい。油断しすぎて目が眩んでしまった。

    保安官ニックの行き当たりばったり俺が裁く!という大筋は間違いではないのに、見方を変える必要もなく神々しい存在が露呈する表裏一体。
    危うさの真理、サイコパス、では片付けることが出来ない、本当にリアルで説明しようがない人間がいた。

    誰もが秘めていると思いたい。少なくても私は彼を100%責めることはできない。なぜなら、読了後拍手を彼に捧げた自分がいるので。

  • ゲロ

  • ポッツヴィル、人口1280。保安官ニック・コーリーは、心配事が多すぎて、食事も睡眠も満足に取れない。考えに考えた結果、自分にはどうすればいいか皆目見当がつかない。という結論を得た。口うるさい妻、うすばかのその弟、秘密の愛人、昔の婚約者、保安官選挙…だが目下の問題は、町の売春宿の悪党どもだ。何か思い切った手を打って、今の地位を安泰なものにしなければならない。なにしろ彼には、保安官という仕事しかできないのだから…アメリカ南部の小さな町に爆発する、殺人と巧緻な罠の圧倒的ドラマ!キューブリックが、S・キングが敬愛するジム・トンプスンの代表作。饒舌な文体が暴走する、暗黒小説の伝説的作品、登場。(裏表紙)

    合いませんでした。
    この小説というより、パルプノワールというジャンルが苦手なようです。
    お話―主人公が起こす行為もとってつけたようで、うーんと首をひねるところがちらほら。
    ただ、小説の目的が感情を刺激するというのであれば、並み以上のものであることは間違いありません。

  • 出た小悪党。小悪党の魅力ってのは何なのかって言われると、いいなー、こんな美味しいのがあるのか、っていう男の願望みたいなのと、いや、でもこういうやつは結局は最後に痛い目を見るんだよね、というドラえもん的な展開でやっぱ悪い事はいかんな、って思わされるのが普通なわけで、そうじゃなきゃちびっ子たちはすっかり荒んでしまうに違いないわけで。いや、まぁそんな単純ではないかもだけど。
    でももう大人になったおっさんが読む本はそんな終わり方になるとも言えず、実際この本では最後に小悪党が痛い目にあうって話でもなくて、確実に小学生の読書感想文推薦図書にはならないと思われ、そんな本をふんふん言いながら読んで、バーにでも行って若いお姉ちゃんに知ったかぶりで語るのが大人の嗜みってやつだな。

  • 徹底された無意味さ。保安官の主人公が次々と邪魔者を罠にかけ排除していく。けっこう高等な罠とか張ってるんだけど、無自覚で自動的。だから喜びとか後悔もない。様々な思考を経たあとで、結局結論が最初に戻る構造が徹底してる。

  • 『内なる殺人者』のルー・フォードには自分の性質に対するそれなりの葛藤があった。後半はじめて出会った理解者に心動かされる様子も見せた。本書のニック・コーリーにはなにもない。
    後悔も自責の念もなく、あるのは次に自分に降りかかるだろう災難への不安だけ。読んでいる側としてはその災いを呼んだのはそもそもお前だろう、と突っ込まずにはいられない。しかし本人だけは「なんで俺ばっかりこんな目に?」。そうして首を傾げ傾げ、人を殺す、操る、あざむく、陥れる。その姿にはコミカルさすらただよう。そこがこわい、そして面白い。内面を持たず条件反射だけで生きている人間の独白を聞いたような、頼りない気分になる。

  • こんなにも平気で人を欺き、命を奪う悲惨で邪悪な保安官がいたでしょうか。勿論、これはジム・トンプスンの作品を除いて、という意味に尽きるのですが。
    そのような残酷な保安官が、主人公であるというのだから、どこまでも救われない物語であることは言うまでもありません。

    物語の舞台となるポッツヴィルは、街を訪ねてくるよそ者もいないような、人口1280の寂れた土地。ポッツヴィルの保安官であり、この物語の主人公でもあるニック・コーリーは、抱えている心配事が多過ぎて、思うような食事も睡眠も満足に取れない日常を過ごしていました。
    尤も、読者からしてみれば、十分過ぎるほどの食事は取っているように見えるのですが。

    口うるさい妻や、同居人の下品な義弟、独占欲の強い愛人、かつての婚約者…ニック・コーリーをとりまく人間関係には、彼にとってはお似合いだと思いながらも、いささかの同情を持たずにはいられませんでした。
    こういう境遇を打破する手段として、彼が最初に考えたことが、『自分にはどうすればいいか皆目見当がつかない』だったとしても、無理はありません。


    保安官ニック・コーリーが悪辣な手段をもちいて、どのようにして困難にあたるのか…物語の興味は、彼の言わば『悪事』にあるのであって、彼の被害者にあるのではありません。

    物語の最後に彼がたどり着いた、皮肉とも取れる結論。それを聞いて私は、やはり救われない物語であると思いました。

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