ポップ1280 (扶桑社ミステリー ト 5-3)

  • 扶桑社
3.81
  • (21)
  • (17)
  • (19)
  • (4)
  • (2)
本棚登録 : 160
感想 : 14
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (363ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784594051686

作品紹介・あらすじ

ポッツヴィル、人口1280。この田舎町の保安官ニックには、心配事が多すぎる。考えに考えた結果、自分にはどうすればいいか皆目見当がつかない、という結論を得た。口うるさい妻、うすばかのその弟、秘密の愛人、昔の婚約者、保安官選挙…だが、目下の問題は、町の売春宿の悪党どもだ。思いきった手を打って、今の地位を安泰なものにしなければならない-饒舌な語りと黒い哄笑、突如爆発する暴力!人間の底知れぬ闇をえぐり、読者を彼岸へとみちびく、究極のノワール。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 小さな田舎町の保安官ニック・コーリーの一人称で語られていく風刺を効かせたブラックコメディの要素が強い。コーリーの女癖は非常に悪くて、騙されたも同然で結婚してしまった性悪な妻に不倫相手は妻の親友、そしてかつての婚約者と、出てくる女達は彼を悩ませる(身から出た錆なんだけどね)それに絡む保安官選挙…人を操り楽しんでいるとしか思えない態度の主人公には読んでいて苛立ちしか覚えない。

  • ポップ1280 (扶桑社ミステリー)

  • このミス海外編、2001年版1位。フロスト流のコメディ風ドタバタ警察小説と思いきやえらくグロイ話でびびった。悪徳警官どころではなく、とんでもなくアンモラル。ノワール小説(暗黒小説)の代表作家らしい。イヤミスの範疇でもあるかも。そんな感じなんだけど、お話は面白くってどんどん読み進める。非現実的でぶっとんだ話なんだけど、ユーモアと妙なリアリティがあるのです。それが読み進めるうちにどんどん観念的で意味がわからなくなってきて、結末はさっぱりわかりません。古いアメリカ小説で時代背景とか共通認識があると理解できるのかも知れない。キリスト教をディスってるような。

  • あれ、ニックってかわいい……。
    ジム・トンプスンの言わずと知れた有名作『ポップ1280』を初めて読んだ(そう、初めて読んだんですよ。はずかしいなあ)私は、キュートな語り口に思わず萌えてしまいました。これは予想外。

    この小説は全編が主人公ニックによる語り口で語られ、そのニックはサイコパスの殺人者なわけだから、恐がるのが道理なんだろうけど……意外と楽しいんですよ。三川基好さんの翻訳がいいというのも大きいんだろうけど。

    舞台は20世紀初頭アメリカの田舎町ポッツヴィル。人口(ポップ)1280人の小さな町。ニック・コーリーは保安官をしている。ナメた態度をとった売春宿のヒモを殺してその罪を横暴な他の郡の保安官に押しつけるところから始まり、デマを流して保安官選挙の対立候補を追い落としたり、不倫相手の夫を殺したりと悪行三昧の日々。それなのに不思議と安らかな雰囲気が漂っているんですよね。

    ニックは周りに対して終始うすぼんやりした態度をとっていて、それは演技でもあるんだけど、それだけでもない。あなたは殺した人を憎んでいたんでしょうと問われる場面でニックは、え?おれは誰のこと憎んでなんかないのに……と当惑するんですよ。こういうズレが面白い。

    ニックは心がからっぽなのか、それともおかしな信念を持っているのか、読者にはよく呑み込めない。ただ、穏やかな生活を望んでいるのはわかる。そのためになら人を殺しても何の痛痒も感じないのが問題なわけですが……。ジョジョ4部にならって「ニック・コーリーは静かに暮らしたい」とでも呼んでみたいところ。白人社会の黒人差別やピンカートン探偵社の労働運動弾圧を皮肉っている箇所もあり、ニヤリと笑ってしまいます。

    もっとパッションが煮えたぎっているのかと思いきや、意外と軽やかであっさりした小説でした。でも、そのあっさりした雰囲気のままで恐ろしいことをやるから不気味なんですけどね。ラストはもっとはじけてほしかったかな。
    この小説は「そう、ほんとはかわいい顔しておとなしくしているべきだったのかもしれない。かわいい顔といっても、男のおれじゃ限度があるけれど」と始まるけど、いいやニック、君は十分かわいいよ、と言いたい。

    吉野仁さんの解説は非常に熱がこもっていてすばらしい。(註が17もある!)さすがノワール奉行。ジム・トンプスンの経歴、再評価されてゆく経緯、翻訳状況、本書の主題など多岐にわたり勉強になる。ありがたい。トンプスンのスカトロジーと黒い笑いがスウィフトの影響だという指摘にはなるほどなあと思った。

  • 田舎町の保安官ニックによって語られるストーリー。
    最初は愚かなニックが二進も三進もいかなくなって…な出だしからどんどん加速していくようにおかしな展開に。随所に神の存在を示しながら、彼の行動はどんどん悪魔じみていく。
    愚かなようでそうではなく、かといってまともではないニックの捉えがたさと、加速していくストーリーで、大変楽しく(と言っちゃいけないのかもだけど)読めました。

  • 2013年8月21日読了。「このミステリがすごい!」海外版2001年度の第1位の作品。人口(pop)1280の片田舎の町ポッツヴィルで保安官を務めるニック、村人に馬鹿にされ女房に罵られるが何故か女にもてる彼が、独自の論理に基づきとる行動とその結果・・・。ジム・トンプスンという作家は後進に大きな影響を与えた「ペーパーバック作家」らしく、けばけばしい表紙絵・安っぽい描写・下品な登場人物・派手な殺人や銃撃戦、炎上するクルマなどの小道具と題材が持ち味らしい。主人公が悪事に手を染めていくノワール小説だが、愚かな男⇒狡猾な男⇒狂った男⇒?、と、一人称で語られる主人公への読者の印象が読み進むごとに変わっていき、最終的に何がなんだか分からなくなるラストに着地する展開が巧み。ぱっとしない男が主人公のつまらない小説と思わせて、何故かグイグイ引き込まれて読まされた。人を見かけや話し方で判断したり、侮ってはいけない。相手が何を考えているかなど、本当に分かるはずもないのだから。

  • 「パルプ小説界のドストエフスキー」だそうです。

  • いしいひさいち「ほんの本棚」に取り上げられていたので、図書館で借りてきて読んだ。
    ジム・トンプスンは始めて読んだが、気に入った!
    自分の立ち位置から絶対にブレない主人公のワルさ加減に圧倒的な凄味がある。
    「内なる殺人者」も読むぞ!

  • トンプソンはまずコレ。で、結局もコレ、ではなかろうか。

  • ポップってはじけたとか大衆とかいう意味だと思っていたら、 populationのことだった。
    人口ね。
    この小説のタイトルは「人口1280」ということらしい。

    その程度の田舎町、ポッツヴィルがこの小説の舞台である。
    そして主人公のニック・カーリーはそこの保安官。


    読んですぐに気がつくが、ニックは愚かなフリをしているが、つかみ所のない精神分裂症的な男だ。
    なにしろいきなり人を殺したりする。
    保安官のくせに。
    というか、最後まで読めば人口1280の田舎町の保安官だからこそ、なのであるが...。


    本書は'00年のこのミス1位に輝いている。
    しかし読み進めていってもニックが悪業をなすのみで、どこが一体ミステリなの?と訝る向きも多いだろう。
    ミステリというより暗黒小説というほうがぴったりくるのだが、強いて言うならば、邪悪極まりないニックの人となりがどのようにして成り立っているかという点ではないかと思う。(他にあるだろうか?)
    だが、この謎とも呼べぬ物語の顛末を最初から分かっていたとしても、何ら本書の魅力に影響しない。
    「パルプ・ノワール史に屹立する弧峰」というのが本書のキャッチコピーであるが、より正確を期すならばノワールというよりは暗黒小説という字面のほうがよく似合う。

    ニックはとぼけたふりして、何の罪もない人を陥れ、弄び、殺害するが、そこには全く良心も反省もない。
    だが、生真面目な悲壮感は露ほどもなく、楽しげでユーモラスな雰囲気さえある。
    心配事が多すぎるといいつつも、ニックはやたらと大量の食事をいつも平らげ、夜も眠れないとうそぶきながらも8時間はぐっすりと眠る。
    そして、とぼけた調子で終始、品のない冗談を飛ばす。
    物語は終始ニックの野卑な一人称で語られるのだが、その影響も大きいかもしれない。
    文字通りポップなのだ。

    この妙な明るさと故意の安物感がより暗黒度を深めている。

    似ている感じといえば、「笑うセールスマン」の喪黒 福造の世界観だろうか(笑)

全14件中 1 - 10件を表示

ジム・トンプスンの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ポール・オースタ...
トム・ロブ スミ...
トム・ロブ スミ...
ジェイムズ エル...
トム・ロブ スミ...
ジェイムズ・エル...
キャロル・オコン...
ジム トンプスン
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×