血と暴力の国 (扶桑社ミステリー マ 27-1)

  • 扶桑社
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784594054618

感想・レビュー・書評

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  • 老人たちの国にあらず。

    映画2周くらい観てから、あまりにも好きすぎるので本を読んでみた。

    こうして見ると映像化にあたって結構いろんな場面をカットしたり要約しなきゃなので、メディアミックスって相当理解とか技量とか要るなあ、脚本書く人大変だよなあって思う。

    あまりにも淡々とした語り口で、映画観てなかったら絶対何が起こったかもわからないまま読了してたと思う。

    モスが死ぬ時、呆気なさすぎる…映画でもそうでしたね。

    最新鋭の武器、最新鋭の悪意。

    ピュア・エビル!

    ベルが最後に語る夢の話が、ベルの人生と重なっているところ、とっても好きです。

    もう一回映画観たくなってきた!

    シガー、ハビエルバルデムがマジでありえないくらい完璧に演じてくれてたじゃないですか。

    最高の映画でしたね。

    その裏にこういう原作があったんだなーって思うと始まりは文章だったってところに感銘を受けたり感動したりする。

    サイコパスって言葉も出てくるけどシガーが何者なのかについての描写は意図的に避けてあり、なんかバットマンのジョーカーを今思い出した。

    神秘的なんですよね。

    正しく生きていても、死はいつ理不尽に訪れるかわからない。

    死を覚悟していても死ぬとは限らない。

    不条理…この作品が持つもの悲しい雰囲気、それが本当に大好きです。

  • 暴力の嵐だけど詩的。映画で見た時の印象はよくわからない感じで唐突に終わった、という感じ。本で読むとストーリーは追えるけど、相対としてのよくわからなさはChigurh の空虚な邪悪さが映画のように映像として現されない分余計に恐ろしく感じられる。説明不能の(時代によって生まれたようにも見える)邪悪さとその真空に周囲の人間たちが引き込まれていくような感触はドストエフスキーの悪霊につながるように感じた。

  • チャイルドオブゴッドを以前読んで受けた衝撃を思い出した。麻薬密売人たちが銃撃された現場を見つけたモスは、そこにあった金を持ち逃げする。妻を実家に逃し、自分も逃避行を始める。追ってくるのはあまりにも冷酷な殺人者シュガー。シュガーは邪魔する者は一瞬のためらいもなく殺す。自分の決めた掟にしか従わないし、ほかの事は一切考慮しない、人間とは思えない男だ。
    そんなシュガーに、もちろんモスも殺されるし、モスを救おうと必死に捜査する保安官も結局モスを救えないし、シュガーも捕まえられない。巨大な絶対悪に全く歯が立たず、敗北感に打ちのめされる善良な保安官が痛々しい。
    心理描写がほとんどない文体だが、彼らの交わす会話や仕草などから鮮明に人物像が浮かび上がる。麻薬がらみの大金を持ち逃げしたモスは、何がしたかったのか。もちろん大金を得たかったのだろうが、シュガーに命を狙われ大怪我を負っても金を返さないのは、命を賭けた意地の張り合いに思える。生き方を簡単に変えない、変えられない人の哀しさ強さがひしひしと伝わってくる。
    何度でも再読したくなる作品だ。

  • まさかモスがあの段階で…。と言うのがひどく衝撃的だった。あんなにも簡単に…。でもそれがリアリティなのかも。

  • 物語、登場人物、会話、すべて素晴らしい。

  • タイトルが怖すぎるが、
    原題は「No Country for Men」(老人の住む国にあらず)。

    荒涼的で乾いた雰囲気と暴走するが冷めた語り口がたまらない。
    心理描写が一切無く、物語が淡々と進む。

    ところどころ保安官のささいな仕草の描写がニヤっと笑える。
    こういうところが文章家として魅力的。

    ラストの保安官の父親に関する夢の話は胸を打つ。

  • 人物の魅力、シュガーの魅力。物語は否応なしにシュガーを中心に動いていく。正直めちゃくちゃ面白い。

  •  メキシコ国境に近い砂漠でベトナム帰還兵のモスは銃撃戦の傷跡生々しい三台のトラックと死体を数体見つける。麻薬取引のもつれらしい。現場に残された240万ドルを前にして思う。「自分の全生涯が眼の前にあった。これから死ぬまでの陽がのぼり陽が沈む一日一日。そのすべてが鞄の中の重さ四十ポンドほどの紙の束に凝縮されていた。」彼はその金を持ち逃げする。そのせいで殺し屋シュガーに追われることになるわけではない。一度トレーラーハウスに戻って若い妻カーラ・ジーンの横で一眠りしたあと、何の気紛れからか現場に舞い戻ってしまう。その気紛れが死神(シュガー)に取り憑かれる原因だ。運命は往々にして気紛れに左右される。死神に睨まれて逃れる術はない。金を返したからといって許される法もない。シュガーはまさに死神のように移動の過程を感じさせず、いつの間にか背後に迫っている。
     死神と死神に取り憑かれた一人の男の追走劇を察した老保安官ベルがその痕跡を追い掛けるが、死神を追い詰めることなどありえない。ただ一度だけベルがシュガーの眼の前を横切る場面がある。
     各章はベルの独白で始まり、その後乾いた筆致でモス、シュガー、ベルの行動がパラグラフに別れて描かれるのだが、同じパラグラフにシュガーとベルが同居する唯一のくだりには緊迫感が漲っていて凄みを感じる。(p.317~)
     登場人物の内面には踏み込まず、作品は状況描写と対話、各章冒頭の独白で構成され、読点が極めて少なく、地の文と会話が地続きで描かれる。鉤括弧を排した科白は特権的な地位を獲得出来ず状況描写の延長にある。いくつかの銃撃戦はあるが、筆致は冷静で静かである印象を受ける。シュガーがモスを仕留める場面も、追い付いたベルが地元の保安官に受けた状況説明だけで済ませている。(p.311)
     作品の香りが感じられる場面を二カ所。

     ウェルズは眼を閉じた。眼を閉じて顔をそむけ片手をあげてよけられないものをよけようとした。シュガーはウェルズの顔を撃った。ウェルズがこれまでに知り考え愛したものすべてが背後の壁をゆっくりと伝い落ちた。母親の顔、初聖体の儀式、かつて知った女たち。彼の前にひざまずいて死んだ男たちの顔。よその国の道路脇の溝で死んだ子供の死体。ウェルズは頭を半分なくしてベッドに横たわり両腕を広げ右手の大部分をなくしていた。シュガーは立ちあがり小さな敷物の上から空薬莢を拾いあげ息を吹きこんでからそれをポケットに入れて腕時計を見た。新しい日までにはまだ一分あった。(pp.231-232)

     かりにきみが今どこだか知らない場所にいるとする。するときみが本当に知らないのはほかの場所がどこにあるかってことだ。あるいはそれがどれくらいの距離にあるかってこと。だからといってきみが今いる場所について何かが変わるわけじゃないけどね。
     女の子はそれについて考えた。あたしその手のことは考えないようにしてるから。
     きみはカリフォルニアへ行けば一から出直せると思ってるだろう。
     そうしようと思ってるけど。
     そこが肝心な点だろうな。一方にはカリフォルニアへ行く道があってもう一方にはそこから戻ってくる道があるけど一番いいのはただ向こうに現われることだ。
     向こうに現われる?
     そうだ。
     つまりどうやって着いたかわからないやり方で?
     そう。どうやって着いたかわからないやり方で。
     どうやったらそんなことができるのかわかんないな。
     おれにもわからない。そこが肝心な点だ。
     女の子は食べた。まわりを見回した。コーヒー飲んで良いかな?
     なんでも飲むと良い。きみは金を持ってるんだから。
     女の子はモスを見た。なんか肝心な点がよくわかんないんだけど。
     肝心な点は肝心な点なんかないということさ。
     そうじゃなくて。あなたが言ったこと。今自分がどこにいるかを知るってことについてよ。
     モスは女の子を見た。しばらくして言った。問題は自分がどこにいるかを知ることじゃない。きみが何も持ち越さないで向こうに着けると考えてること。出直しができるというきみの考え方だ。いやきみじゃなくていいんだけどさ。出直しなんてできないんだ。そういう話だよ。きみのどの一歩も永遠に残る。消してしまうことはできない。どの一歩もだ。言ってることわかるかい?
     わかる気がする。(pp.295-296)

     この本を読んでいるあいだ、Thom & Nacktの「Where I End And I Begin」がずっと頭の中にあった。

  • -

  • 莫大な現金を盗み出したベトナム帰還兵、彼を追って暗躍する殺人者と老警察官。タイトル通りに血と暴力が横行する。

著者プロフィール

【著者略歴】
コーマック・マッカーシー(Cormac McCarthy)
1933年、ロードアイランド州プロヴィデンス生まれ。 現代アメリカ文学を代表する作家のひとり。代表作に『すべての美しい馬』『越境』『平原の町』から成る「国境三部作」、『ブラッド・メリディアン』、『ザ・ロード』、『チャイルド・オブ・ゴッド』(いずれも早川書房より黒原敏行訳で刊行)など。

「2022年 『果樹園の守り手』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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