エンジン・サマー (扶桑社ミステリー)

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制作 : John Crowley  大森 望 
  • 扶桑社 (2008年11月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (472ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784594058012

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エンジン・サマー (扶桑社ミステリー)の感想・レビュー・書評

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  • 9/24 読了。
    はるか数千年前、機械文明は死に絶えた。地上に残った人びとが作りだした蜂の巣状の迷路街リトルビレアでは、「ひも系」「みず系」「このは系」「しめがね系」などと呼び習わされるトーテムを同じくする者同士が結びつきながら暮らしていた。文明崩壊後に空を目指した人びとのことは長い時間を隔てて伝説の物語となり、リトルビレアでは彼らを<天使>と呼んでいた。物語の記憶を司るトーテム「てのひら系」の少年<しゃべる灯心草>は、あるとき<一日一度(ワンスアデイ)>という「ささやき系」の少女と出逢う。互いに惹かれ合うものの、ワンスアデイは自らのルーツを求めて、リトルビレアの外からやってきた<ドクターブーツのリスト>の人びとについて行ってしまう。いつか聖人になりたいと願う<灯心草>も、彼女からしばし遅れてビレアを出、外の世界を見に行く決意を固める。
    幹線道路やネジや時計やアメリカ国旗が今と全く違う意味を持って神話と化した世界で、ネイティヴ・アメリカンのようにトーテムを重視するビレアに生まれ、猫(虎)を神のように崇めて都市の遺跡でヒッピー的な生活を送るリストの人びと、荒野に散らばる遺物を拾って暮らすアベンジャー、そして空の都ラピュタの天使たちに出逢う<灯心草>のジュブナイル小説。SFのサイエンスの部分が巧妙に隠されているので、口承の物語のなかにある「なぜ世界がこうなったのか」のヒントを繋いでいくのが楽しい。文明崩壊後の世界は一見ユートピアのようにも思えるが、そこかしこにディスコミュニケーションの重たい壁が立ちはだかり、人びとは途方に暮れて立ち尽くしている。物語る想念となった<灯心草>は「物語は人を救うことができるのか」と切なく訴えかけているように思える。

  • 極上のファンタジー、です。
    通勤電車で細切れにではなく、たっぷり贅沢な時間のお供に連れて行ってください。
    勿体無くてページがなかなかめくれません。

    読んで終わって薄暗くなってて、「あ、電気つけなきゃ」なんて、久々に体験しました。ほわぁ、よかったぁ~。
    これが出版されたとき、大学受験を控えた年の瀬でした。あのとき無理に読まなくてよかったような、そういう年齢で読んでおきたかったような。

  • ポストアポカリプスSF+純文学のような印象。
    具象描写が分かりづらく、没入感は低い。

    物語全体に漂う退廃的切なさは大好物。

  • 特異な幻想世界の日常を描いてるんやけど、根底にSFがって感じは『旅のラゴス』に近くて好み。
    面白かったけど、誰にでもおすすめ出来るものじゃないです。世界観に入りこめんと辛いものがある。

  • 大洪水の水が引かず、ノアの方舟が何世代にわたって航海を続けたと仮定しよう。ノアも息子たちも死に絶え、何千年も過ぎて陸地が見えたとき、そこに人々がいたとしたら、その人々には、ノアの子孫は地上の者とは思えなかったのではないだろうか。方舟には方舟の物語が、地上にはまた別の物語が伝えられていたはず。もし、言葉が通じるものならば、方舟に招じ入れられた地上の者の語る言葉に、ノアの子孫は耳を傾けたにちがいない。こんなとき、SF作家なら得意のギミックで翻訳を可能にしてみせるだろう。

    タイトルの『エンジン・サマー』は、文中では「機械の夏」と訳されている。意味的にはそれにちがいないが、音的には「秋から冬にかけて風が弱く暖かな日のこと」を指す「インディアン・サマー」(小春日和)を思い浮かべてしまう。まるで、本来の意味が失われた後で、誰かがよく似た音を持つ別の言葉で言い換えたように。少し読めばわかるが、舞台となっているのは、文明社会が崩壊した後の未来のアメリカ。かつて繁栄を謳歌していた文明社会は「嵐」と呼ばれる危機の前に完全に崩壊し、地上に残されているのは、「嵐」以前に「都市」での文明生活に見切りをつけ、脱出した者たちの子孫たちだけであることが分かってくる。

    主人公はその命名法や、お下げに編んだ髪という記述から、ネイティブ・アメリカンを連想させる<しゃべる灯心草>(ラッシュ・ザッツ・スピークス)。系(コード)と呼ばれる部族によって異なる性向を持つ人々が、生き残るため緩やかな連帯を保ちつつリトルビレアという迷路のように入り組んだ街で構成される共同体を営んでいる。<しゃべる灯心草>が属するてのひら系の者は、その名の通り物語ることを好む。主人公も語り部の女たちによって語り継がれる種族の物語を聞くのを好むが、いつかは故郷を捨てて旅立つ運命にあるようだ。

    近未来を舞台にしたSFが好んで描くのが、文明社会が崩壊した後の混乱した世界、つまり「ディストピア」なのだが、本作は崩壊後の世界をそうは見ていないようだ。形式からいえば、若者が旅を通じて様々な人と出会い成長を遂げる、という人格形成小説(ビルドゥングス・ロマン)の系譜につながる。その教養小説の骨組みに、少年と少女の出会いと別れを描く青春小説的な甘酸っぱさを加味し、銀の手袋とボールをはじめ、SF的ガジェットについての謎解き興味をまぶした、著者三作目にして代表作となる長篇小説である。

    若い頃は結構読んだSFだが、近頃はとんとご無沙汰していた。物語を楽しむために必要と思われる以上に大量の疑似科学的情報をこれでもか、というほど読まされるのに閉口してしまうからなのだが、好きな向きには、そこがいいのだろうというくらいのことは分かるつもりだ。その点、この作品に登場する物の多くは、クロスワードやからくり人形仕掛けの晴雨計といった、現代人には自明だが未来人には未知の物体である。つまり、「読者は知っているが登場人物は知らない」という物語ならではの仕掛けがほどこされていて、とっつきやすい。

    というよりむしろ、科学偏重の現代文明に疑問を呈し、エコロジーや、環境重視といった時代潮流に乗ったところが受け容れやすいのかもしれない。ツリー・ハウスに住む<またたき>(ブリンク)をはじめ、登場人物たちは、廃墟と化した家屋でかつての機械類を再利用した今風に言えばリサイクルやリユースといったエコな暮らしを実践している。かつて、ベトナム戦争反対に沸く人々は、「自然に帰れ」というスローガンを掲げたヒッピー・ムーブメントにオルタナティブな生活様式を見出したものだった。発表されたのが79年というから、コミューンやドラッグ・カルチャーといったヒッピー・ムーブメントの影響を受けたと思しき人物たちの行動様式や慣習が、時代がひとめぐりしたせいか、かえって懐かしく感じられる。

    SFらしいギミック満載だが、ストーリー的には少年の旅は意外に地味である。樹上で暮らす<またたき>(ブリンク)に出会うのも故郷の家からさして遠くなく、次に移り住む<リスト>の交易商人たちのキャンプも危険からはほど遠い。遍歴する主人公は「勇者」でも「騎士」でもない。小説が、物語るということ、をテーマの一つとしているからには、主人公の修業はまず「聞く」ことからはじまる。賢者や老婆の語る物語のなかに、彼が解かねばならぬ秘密が隠されているからだ。

    物語の語り手が、自分の経験してきたことを語る、という設定が、作家が小説を書くという行為のメタレベルの解説になっている。物語を書くことの意味、作家とは何か、語られた物語は誰のものか、といった世界を創る者としての作家の疑問がナイーブなまでに素直に表現されているところに、初期の作品らしい初々しさが出ている、と今だからいえる。

    空を飛ぶ都市「ラピュタ」が登場するように、スウィフト作『ガリバー旅行記』に倣い、寓意や風刺の色濃い本作の謎は物語の最後で解かれるが、回想的視点で語られる主人公の旅の意味は再読を要求せずにはおかない。複層的なテーマを持つ作品に張りめぐらされた伏線一つ一つの意味を回収するために、読者は最初からもう一度<しゃべる灯心草>の話を辿りなおすことだろう。円環構造をなす、終わることのない物語。これに優る物語の愉しみがあろうか。

  • 何を読もうかと考えて、積んだままになっていた本書を手にとりました。

    予備知識なしで読んだものだから、初めは話についていけず、最後は状況が把握できずで、まともに読めていないような気がします。

    最初はとっかかりが全くないのですが、話を追って行くにしたがって、少しずつ世界の輪郭が表されてきます。

    大まかなスタイルとしては、主人公(灯心草)が文明(私達が想像するような機械文明)の崩壊後に、聖人になろうと、または愛する人に再会しようと、知識を得ようとして、世界を旅したあらましについて、回想形式で語られる小説です。ですが、最後に明らかにされるように、実際には、主人公の記憶とか人格とかがコピーされた装置を通して、天使が主人公の過去を語り直すような構成になっています。

    この装置自身は、物語の途中でも出てきて、ブーツからの手紙を受け取るためにも用いられます。最初に物語に登場した際には、まさか「猫」の意識を収めている装置とは思いませんでしたので、人を洗脳する装置か何かと思ってしましました。他にも、たった一錠で一日疲れ知らずに活動できる薬とかも登場しますし、天使がかつて人を使役するために用いられてきた装置なのかなぁ、とか曲解していました。まぁ、少なくとも装置はそういう目的のものではありませんでしたが。

    天使がかつて作成した品物が一種の宝物として登場しますが、曲解されて理解されているものが多数。私たち自身の文明が崩壊した後も、発掘された遺品に対して、同じように曲解されるのでしょう(この物語のように寓話まで込めてもらえればまだ良いのですが)。

    大まかな粗筋と雑記を記憶のために。

    リトルベレアという部屋通しが繋がった構造を持つ集合住宅での子供のころの暮らしについて。系と呼ばれる、多分血筋と職業組合を兼ねたようなものに人は分類されている。語り手と呼ばれる人々は、自分達の祖先についての物語を繰返し語る。主人公の灯心草は、ワンス・ア・デイという女の子と知り合いになり恋に落ちる。ワンス・ア・デイはドクターブーツのリストと呼ばれる別の部族の人々とともに外の世界へ旅立つ。主人公は、聖人になるために、町の外へ旅立つ。

    まばたきという聖人(ではないが)と出会い、一緒に暮らし始める。まばたきからいくつかの知識を与えられ、行くべき道を示される。冬の間を過ごすために、薬により半分冬眠のような状態で過ごすけれど、一体どんな目的で作られた薬なのだろうか。

    ドクターブーツのリストのキャンプへ辿り着き、ワンス・ア・デイと再会する。ワンス・ア・デイは結局主人公のもとから去ってしまうのだけれど。この街で、主人公はブーツからの手紙を受け取る。自分の中に別の人格(このときは猫なので猫格)を取り入れ、取り入れた人格の生き直すわけだけれど、猫の精神を取り込むのだから、あまり良い影響があるとは思えませんね。

    結局、主人公は改めて旅に出、天使の遺品を収集するトレジャーハンター一家と出会う。ここで銀の手袋とボールを手に入れる。正直この章の話の半分は理解できなかった。「彼女」と称されている対象が文脈毎に入れ代わっているような気がして。ボールと手袋は、人格を記録するシステムを稼動させるための道具。

    最後に主人公は故郷のそばへ戻り、天使と出会う。そして、自分の人格というか記憶を天使へ提供する。天使は、このシステムを利用し、灯心草の物語を語り直す。話は振り出しへ戻る。

    結局、天使(かつての機械文明の時代の人々)は全滅したわけではなく、空を浮遊する世界で自分達の文明を維持しています。そして彼らは灯心草としての人生を生き直し、幸せを得るらしい。物語は灯心草の記録された人生の範囲で終わるけれど、いつか天使が再び地上へ戻り、地で暮らしてきた人々と手を取り合うことがあるのでしょうか。果たしてそんな事は可能なのでしょうか。

    表題のエンジン・サマーは、小春日和のこと。辞書を引くと小春日和は、 Indian Summer 。作中のほかの表記と同じく、この表現が訛ったもの(思わず辞書をひきましたが、訳者後書きにも書いてありました)。

  • 好きな感じの世界観ではあるのに、なぜか言葉が頭に入ってこず、読み進めるのが辛かったたため、半分読んで挫折。
    何年か後に再トライしよう。

  • かなり不思議な感触の世界観で最初は少し戸惑いました。
    文字通りここはどんな世界なんだろう?
    という読者として落ち着かない不安な気持ちにさせられた。
    それが少しずつこの世界の形や仕組み、現状が見えてきてこちらも慣れてくる。
    なんとも心地よくなってくる。
    そこで終盤明かされる事実。
    それが本当に静かで、切ない。
    このやりきれないような状況を用意するためにすべての設定やプロットを考えたのだろうと想像すると、SF作家のエネルギーの凄みを感じる。

  • 幻想文学と思いきやSF。とても面白く読めたうえ、エンディングのもの悲しさと来たら、もう。素晴らしい一冊でした。読んで良かった。

  • 大森さんの末尾の解説が私にはよかった。
    というか、こんな難しい本を翻訳しようとした志に脱帽。それほど読みづらくなかったし。
    希望としては『エンジン・サマー』という原著名より、大森さんの『機械の夏』の方を題名にして欲しかった。その方が中身にもあっている気がする。
    結構、読み終わると寂しくていたたまれなくて、だから個人的にはそんなに好みじゃない。

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