エンジン・サマー (扶桑社ミステリー ク 22-1)

  • 扶桑社
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感想 : 27
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  • Amazon.co.jp ・本 (472ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784594058012

感想・レビュー・書評

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  • 切ないです。一生懸命喋ってることをひたすら記録される〈しゃべる灯心草〉、彼は文明が滅んだ世界で聖人になるためにいくつもの共同体を巡りたくさんの人に会うけれど。。
    自分探しの旅かな、と思ってたら最終的に…天使たちに何かを教えるためにコピーされたのかな。浮いてる島それはラピュタ、と思っていたら終盤で「ラピュタ」と呼ばれていました。ガリバー旅行記の頃からラピュタはあるのでもう古代遺跡みたいなものか。
    ラスト切ない。いつもはスイッチ切られてるのかな……このことを踏まえて最初に戻ると。。

  • 何を読もうかと考えて、積んだままになっていた本書を手にとりました。

    予備知識なしで読んだものだから、初めは話についていけず、最後は状況が把握できずで、まともに読めていないような気がします。

    最初はとっかかりが全くないのですが、話を追って行くにしたがって、少しずつ世界の輪郭が表されてきます。

    大まかなスタイルとしては、主人公(灯心草)が文明(私達が想像するような機械文明)の崩壊後に、聖人になろうと、または愛する人に再会しようと、知識を得ようとして、世界を旅したあらましについて、回想形式で語られる小説です。ですが、最後に明らかにされるように、実際には、主人公の記憶とか人格とかがコピーされた装置を通して、天使が主人公の過去を語り直すような構成になっています。

    この装置自身は、物語の途中でも出てきて、ブーツからの手紙を受け取るためにも用いられます。最初に物語に登場した際には、まさか「猫」の意識を収めている装置とは思いませんでしたので、人を洗脳する装置か何かと思ってしましました。他にも、たった一錠で一日疲れ知らずに活動できる薬とかも登場しますし、天使がかつて人を使役するために用いられてきた装置なのかなぁ、とか曲解していました。まぁ、少なくとも装置はそういう目的のものではありませんでしたが。

    天使がかつて作成した品物が一種の宝物として登場しますが、曲解されて理解されているものが多数。私たち自身の文明が崩壊した後も、発掘された遺品に対して、同じように曲解されるのでしょう(この物語のように寓話まで込めてもらえればまだ良いのですが)。

    大まかな粗筋と雑記を記憶のために。

    リトルベレアという部屋通しが繋がった構造を持つ集合住宅での子供のころの暮らしについて。系と呼ばれる、多分血筋と職業組合を兼ねたようなものに人は分類されている。語り手と呼ばれる人々は、自分達の祖先についての物語を繰返し語る。主人公の灯心草は、ワンス・ア・デイという女の子と知り合いになり恋に落ちる。ワンス・ア・デイはドクターブーツのリストと呼ばれる別の部族の人々とともに外の世界へ旅立つ。主人公は、聖人になるために、町の外へ旅立つ。

    まばたきという聖人(ではないが)と出会い、一緒に暮らし始める。まばたきからいくつかの知識を与えられ、行くべき道を示される。冬の間を過ごすために、薬により半分冬眠のような状態で過ごすけれど、一体どんな目的で作られた薬なのだろうか。

    ドクターブーツのリストのキャンプへ辿り着き、ワンス・ア・デイと再会する。ワンス・ア・デイは結局主人公のもとから去ってしまうのだけれど。この街で、主人公はブーツからの手紙を受け取る。自分の中に別の人格(このときは猫なので猫格)を取り入れ、取り入れた人格の生き直すわけだけれど、猫の精神を取り込むのだから、あまり良い影響があるとは思えませんね。

    結局、主人公は改めて旅に出、天使の遺品を収集するトレジャーハンター一家と出会う。ここで銀の手袋とボールを手に入れる。正直この章の話の半分は理解できなかった。「彼女」と称されている対象が文脈毎に入れ代わっているような気がして。ボールと手袋は、人格を記録するシステムを稼動させるための道具。

    最後に主人公は故郷のそばへ戻り、天使と出会う。そして、自分の人格というか記憶を天使へ提供する。天使は、このシステムを利用し、灯心草の物語を語り直す。話は振り出しへ戻る。

    結局、天使(かつての機械文明の時代の人々)は全滅したわけではなく、空を浮遊する世界で自分達の文明を維持しています。そして彼らは灯心草としての人生を生き直し、幸せを得るらしい。物語は灯心草の記録された人生の範囲で終わるけれど、いつか天使が再び地上へ戻り、地で暮らしてきた人々と手を取り合うことがあるのでしょうか。果たしてそんな事は可能なのでしょうか。

    表題のエンジン・サマーは、小春日和のこと。辞書を引くと小春日和は、 Indian Summer 。作中のほかの表記と同じく、この表現が訛ったもの(思わず辞書をひきましたが、訳者後書きにも書いてありました)。

  • 大森さんの末尾の解説が私にはよかった。
    というか、こんな難しい本を翻訳しようとした志に脱帽。それほど読みづらくなかったし。
    希望としては『エンジン・サマー』という原著名より、大森さんの『機械の夏』の方を題名にして欲しかった。その方が中身にもあっている気がする。
    結構、読み終わると寂しくていたたまれなくて、だから個人的にはそんなに好みじゃない。

  • 最後に明かされる語り手の正体は哀切きわまりない。そこに至るまでの幻想的な旅の物語に入り込めたら、訳者のように「傑作!」と唸っていたかもしれないが、うーん、そこがどうにもなんというか退屈だったんで…。意味ありげで、でもよくわからないものが次々出てくるのに飽きてしまった。私はやっぱりもっとすっきりした話が好きだな。

  •  年によっては,初霜のあと,太陽がまた熱くなり,しばらく夏がもどってくることがある。冬はもうすぐそこ。朝のにおいを嗅ぎ,半分色が変わりかけたカサカサの木の葉がいまにも落ちようとしている姿を見れば,それがわかる。なのに,夏が訪れる。ささやかな,いつわりの夏。ささやかな,いつわりのものだからこそ貴重な夏。リトルべレアではそれを------だれも知らない理由から------機械の夏(エンジン・サマー)と呼ぶ。
    (本文p.108)

著者プロフィール

1942年、アメリカ・メイン州に生まれる。ニューヨークでテレビ・映画関係の仕事に携わった後、小説家を志す。75年長編第一作「ディープ」を発表、一躍脚光を浴びる。以後、マサチューセッツの田舎町を転々としながら、「エンジン・サマー」(79)「リトル、ビッグ」(81)「愛と眠り」(94)など、次々と傑作長編小説を書き継ぐ。ヴォネガット、ブラッドベリの流れを汲む、SF/ファンタジー界の異才作家

「2014年 『古代の遺物』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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