- Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
- / ISBN・EAN: 9784594059170
感想・レビュー・書評
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トンプスンの中短編集だが、中盤くらいまでは大したことのない作品が並んでいて、このままの印象で終わるかと思われた矢先に始まる表題作がとにかく素晴らしい。タイトル、文体、主人公の心理描写などすべて文句なしのノワールの傑作。ラストなど、トンプスンらしさ爆発のよくわからない感じに混沌としていくところの、その混沌さも絶妙な具合でよくわからない感じに終わっていて、その読後感は、凄まじく、儚く、そして美しい。
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大好きなジムトンプソンの7つの中短編です。トンプソンの作品は基本的に悪い奴が破滅する話が多いです。どれだけ頑張っても、頑張れば頑張るほど、破滅に向かって一直線です。滑稽であり、切なくもあります。
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“おれたち――キャロルとおれは笑い転げた。笑いに笑った。何週間経っても時々笑っていた、悲鳴をあげ、叫びながら。それほどおかしかったんだ。今にして思えば、それほどおかしく思えたんだろう。”
表題作「この世界、そして花火」および未完の「深夜の薄明」がとてもよかった。二卵性の美しい兄妹が互いだけを寄る辺に、関わる人間をみな傷つけ、それによってさらに孤立を深めていく。人間の社会に染まらない獣のようでいて、破滅を望んでいるとしか思えない投げやりな態度からは自分をはぐれ者と感じる存在の、ひたすらな当惑が伝わってくる。獣なら、自分と世界との齟齬をかなしんだりはしないだろう。「深夜の薄明」の悪徳警官・ナーズがぼんやりとつぶやく、“よくわからないんだ”という言葉がしみる。 -
ほんま舌鋒鋭いよな、切れ味抜群。
でも長編の方が好みかな〜 -
わくわくしてきたところで未完・・・トンプスンらしいっちゃらしい。
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トンプスンファンとして待ちに待った新作。大事に読もうと思ったのに結局一気読みしてしまいました。
トンプスンは悲しくて救われずやりきれない。
毎回同じような男主人公が勝手に鬱々として世を儚み、破滅や発狂に自ら陥ってしまう。
短編の「システムの欠陥」はミステリーマガジンで読んだ時は、そういったトンプスンらしさから大きく外れた話で、しかも結構人間を信じたエエ話みたいなところもあったので、何だ、あんまりグッとこないなぁと思ったんですが、改めて読んだらこれもやっぱりやりきれない気持ちにさせられました。こういう人間の、規則に当てはまりすぎる事が出来ない、自由意志を持っていたい、それでいて自分の良心を信じたい生き物だと、それもわかっていて、普段の露悪的な主人公を繰り返し繰り返し書くスタイルを貫くトンプスンが酷く痛々しく感じる。一体なにがあったんだ。
表題作もすごくいい。哀しい。最後の主人公の呟く台詞がずっと頭から離れない。
訳者の方がお亡くなりになってしまい、これでトンプスン邦訳は最後になるのか、みたいな意見もネット上で拝見しましたが、そうなって欲しくない。三川さんもそう思っていると思います。
私は諦めずに、続巻待ちたいです。というか出てもらわないと今から待ちきれないこの気持ちの行き場がないですよ。
2009/5/15読了