バカで野蛮なアメリカ経済 (扶桑社新書)

著者 :
  • 扶桑社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784594065591

作品紹介・あらすじ

金持ち栄えて、国破れる。日本は"野蛮な経済"にどこまで付き合うべきか。

感想・レビュー・書評

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  • おすすめ度:85点

    題名はふざけているが、実はとてもまっとうな本。アメリカと世界情勢の現状をとてもわかり易く説明しており、納得のいく内容だ。
    チェンジしたのは結局オバマだったと皮肉っており、彼に期待していた米国民は失望、あの大統領選挙の熱狂が今は冷めきってしまっている。
    これまで推進されてきたワン・ワールド主義が、2008年のリーマン・ショック、そして2010年以来のユーロ・ショックによって挫折した。ユーロ圏やNAFTA、ASEANなどの地域主義統合が進むものの、それはワン・ワールド主義の前提ではなく、むしろ、ワン・ワールド主義に相反する方向であり、群雄割拠の時代、「不安定な多極化」時代である。
    一方で、ワン・ワールド主義は、ITのヴァーチャル・ワールドで大発展を遂げている。フェイスブックなどのSNSによる「ワン・ワールド主義2.5」である。
    「ビッグ・データ社会」の脅威、「ヴァーチャル・ローマ帝国」を目指すフェイスブック社についても触れられている。
    それにしてもフェイスブック社が、ここまで、対ワシントン、対ウォール・ストリートと繋がっていることには驚いた。

  • アメリカ合衆国の金融、経済、政治、マスメディア、学会、それぞれの分野におけるユダヤ系人材の影響力の分析が、説得力があった。
    ユダヤ陰謀論みたいなものは成立しない、と断言してる。その通りだなと思う。

  • 読み易い割りに、重要な示唆が入っている。

    前半の政治と経済の見方、はシンプルながら正論。
    中頃の金融の話しは一部簡略化されていて、金融統制の話しなども入れてほしかった。
    後半のIT関連の話しは秀逸。人脈と今後の情報統制の話しは非常に興味深い。

  • 米国の大統領選挙が近づいているようですが、最近あまりニュースに取り上げられていないせいか状況がよく把握できていません。以前に米国出張した時に、選挙の週に当たっていて、黒人の大統領が誕生して大いに盛り上がっていたのを覚えています。

    しかし、あれからアメリカは変わったのでしょうか、チェンジしたのは結局オバマだったとこの本の最後にも書かれていましたが、彼に期待していた米国民は失望したことでしょう。

    この数十年で米国は「ほんの一部の金持ちが更に栄える」システムが強化され、現時点(本書では2011データ)では、多国籍企業群を中心に最高益を出しているにも拘らず、米国へ支払われた税金は税率にして2.3%に過ぎない(p47)ということも問題です。

    先週ついにQE3の発表がなされました、この本によると、更なるドル安の結果、最終的にはスタグフレーションという最悪な結果になる可能性になると示唆されている(p74)のが気になるポイントです。

    今週(2012.9)は中国にある日本大使館や企業を、暴徒が襲って酷い映像がアップされていましたが、あれは中国政府への批判の「はけ口」が向かった結果とも思えます。米国でも近い将来にこのような事件が起きる前に、次の大統領には手を打ってほしいと思いました。

    以下は気になったポイントです。

    ・植民地であった諸国がイギリス支配に抵抗して独立していくキッカケは、第二次世界大戦中においける日本の軍事行動(イギリス軍を撤退させて追放)にある、イギリスは次々に植民地を失い大英帝国は崩壊する(p9)

    ・アメリカはイギリスから独立した国で、独立後も大変な苦闘を強いられている、1814の第二次英米戦争では、ワシントンはポトマック川を遡上してきた英国艦隊の砲撃により焼野原になった、南北戦争ではイギリスは南軍を支援(p12)

    ・戦争直後のレートは、1ドル=500円以上、第二次世界大戦前の1ドル=2円、戦争中の統制経済が廃止された後に、猛烈なインフレに襲われて新円切り替えによりこのようになった(p13)

    ・ドルが基軸通貨である時代は今後も長く続く、最大の理由はユーロの弱体化にある、人民元は中国政府の管理下にあり、自由に取引できない(p15)

    ・ワンワールド主義の後退を示す象徴的な事件は、1)911同時多発テロ、2)2008.9からの世界経済危機(p18)

    ・将来、北米自由貿易圏の共通通貨(アメロ)が部分的にも金本位制を復活(例:10%分を固定レートで金と交換可能)させれば、新生ドルはドルが失った権威を回復できるが、それは地域共通通貨になる、旧ドルは暴落して旧ドル建ての米国債は紙切れ同然となる(p19、140)

    ・現在アメリカで起きている「ティーパーティ運動(保守派、リベラル左派ではOWS=occupy wall street運動)」は、1%の超富裕層と99%の勤労者の利害が対立していることにある

    ・アメリカでも中小企業、農民、一般勤労者は明らかに、反TPPの立場で大手労働組合も極めて慎重、米三大自動車メーカは反対している(p29)

    ・2011年のアメリカ経済は史上最高の繁栄、1)1株当たり利益は史上最高、2)多国籍企業の株価は過去最高値、3)世界主要株式市場中で11年の株価上昇率は1位(p43)

    ・大企業と中小企業・勤労者の繁栄が完全に分離しているところに今日のアメリカの問題点が存在する(p44)

    ・25-65歳までの男性就業率は1969年の95%をピークに、2011.7には81%、更には2011.11には64%と推定されている(p48)

    ・多国籍企業は、アメリカにおける雇用を削減して途上国にそれを移転して労働分配率を下げることで利益を生み出している(p51)

    ・アメリカが繁栄していた時代には、トップ1%の所得比率は今日の半分以下、富の集中が起きれば国民大衆の支出は少なくなり需要が減退して不況になる(p58)

    ・1950-1974年までは生産性と報酬は同様に伸びているが、それ以降は4倍生産性が上がったのにも拘らず、報酬は2倍しか増えていない(p61)

    ・アメリカの人口は現在3.09億人だが、4700万人が健康保険に未加入、フードスタンプ受給者は4584万人で、これらは重なっている(p67)

    ・QE3を断行する(超金融緩和と対外的なドル安政策の同時実行)と一時的に景気は回復して政府財政も好転するが、最終的にはインフレ激化と不況によるスタグフレーションという最悪の結果になる危険性が高い(p74)

    ・QE3が発動されるとは、信用崩壊(カネ詰まりによるデフレ的状況)から通貨崩壊(カネ余りによるインフレ的状況)に向かう道である、資本主義経済が崩壊していくのは、以上2つであるが、この一方から一方に移ろうとしているのが現在のアメリカ経済、これには基軸通貨ドルの信用を減らしながら行う政策(p77、87)

    ・QE2で景気が回復しなかったのは、供給された6000億ドルが国民生活を助ける(家計消費を伸ばす)のではなく、大企業と金融機関の利益のみを伸ばすために使われたから(p77、82)

    ・民主党はウォールストリートと敵対関係にある時代が長く、庶民の怒りを代弁するのが伝統的な民主党の政策であったが、クリントンが一変させた(p108)

    ・ユダヤ系の銀行群は実際の市場においては互いにライバルであり、ユダヤ陰謀論はまったくの妄想に過ぎない(p138)

    ・2011.10.24にウィキリークスが休止宣言をしたのは、資産凍結されたためで、これは「ウィキリークスの死」である、そのきっかけは、英ガーディアン紙の出版した本のいてアサンジ自身のパスワードが公開されたことによる(p177)

    ・オバマは左派リベラル派の政治家としてスタートしたが、彼が維持しているのは、同性婚に対する態度、米軍における同性愛者の受け入れ等の文化的問題のみ、経済政策は変更した、2012.1で訴えたのは、貧困層救済ではなく中間層の復活(p191)

    ・2008の大統領選挙でもオバマ氏は共和党のマケイン候補より多くの選挙資金を集めた、通常はウォールストリートに近い共和党が多く集めるもの(p192)

    ・2012現在において、世界のデジタル化されたデータの90%は、過去2年間に蓄積されたもので、本格的なデータ集積と処理・応用はこれから(p198)

    ・2012.1.24のフェイスブックの最大のインターフェースの変更は、タイムライン機能、これにより個人の人間関係や全履歴をビックデータ化させられる(p201)

    ・適度にプライバシーを守るためのコンサルタントビジネスは今後発展する可能性がある(p210)

    ・近未来において通貨の存在形態は、1)表の通貨、2)裏の通貨、3)ヴァーチャル通貨、となる、2)から3)に転換すればマネーロンダリングとなる(p218,220)

    2012年9月17日作成

  •  タイトルの通り、一筋縄では行かないアメリカ経済。バイオテクノロジー、代替エネルギーなど次をにらんでいろいろ手を打っているが、決め手にかけるところがある。それどころか、アフガニスタンとイラク戦争で莫大な資金と人を投入したつけがいまだに響いている。

     だからといってもうアメリカはおしまいと思うのは早い。例えば、著者は、インターネットにおけるデータが威力を発揮する例として、あのSNSのフェイスブックを挙げている。何しろ、ただで利用できて世界中の人が使っているので、個人情報から写真などを惜しげもなく公開している方がたくさんいる。中には頭がもやもやしそうな写真まで公開している人もいる。企業の側としては、情報をただで提供してくれる良いお客(カモ)として活用することができて、フェイスブックの側としてもその人に合わせた広告を表示するなどして企業から収入を得られる。

     著者は、フェイスブックは多国籍企業による超情報管理社会ではないのかと指摘している。あまり必要以上に情報を載せない、おまけ(例えば占い)につられてむやみにいいねボタンを押さないなど自衛策をとることが重要になる。

     あのマーク・ザッカーバーグが高校時代に夢中になっていたのが、ラテン語や古代ギリシャ語の西洋古典とあり驚いた。その中でも、「アエネーイス」というラテン語の古典作家ウェルギリウスが書いた叙事詩が好きだったとある。この叙事詩を一言で言うと1つの統一されたローマ帝国ができるまでの道筋を描いている。ザッカーバーグの目ざすのは、著者曰く「ヴァーチャル・リアリティにおける現代のローマ帝国」。プライバシーのない透明な世界を夢見ているザッカーバーク。本人はいいのだろうが、必ずしも、100パーセント公開するのを望まない利用者にとっては、疑問符が出てくる。

     金融経済万能論に支配されるアメリカと著者が述べているように、金融機関に対するオバマ大統領、ブッシュ前大統領、クリントン元大統領の破格の待遇(金融危機に対しての税金注入という形での救済措置など)は目立つ。それに対して、保守層が中心となっているティーパーティ運動と、ウオール街を占拠せよ運動が金融街優遇に対して不満を示している。今年のアメリカ大統領選挙と議会選挙でどうなるのか。少なくとも大統領に関しては、民主共和どちらの候補が大統領になっても、金融業優遇は変わらないだろう。多額の献金とロビー活動で有無を言わさない体制をがっちりと固めているからなあ。シロアリが日本以上にうじゃうじゃいるのが目に浮かぶ。

  • 藤井厳喜/著
    ドル安、ワンワールド主義、フェイスブック…。日本は“野蛮な経済”に、どこまで付き合うべきなのか。基軸通貨ドルの近未来と、それと不可分に進行してきたワンワールド主義の行く末について的確な知見を提供する。

  • 同著者の「日本人が知らないアメリカの本音」の姉妹編とも言える本。「日本人が〜」では主に歴史を遡ることで現代アメリカを分析していましたが、本書では金融を中心にアメリカの病理を掘り下げるとともに、ワンワールド主義(一般的な言葉で言えばグローバリズム)に対する批判がなされています。

    私が面白いと思ったのは、いわゆるユダヤ陰謀論の妥当性について真面目に分析しているところと、ITと政治との関わりについて論じているところです。ITの文化的な側面については多くの評論が書かれていますが、政治的な面についての分析は珍しく、参考になりました。
    著者はいわゆるビッグデータに、プライバシーが筒抜けになってしまう現代の管理社会の悪夢を見て警鐘を鳴らしています。現時点ではやや大げさな気もするのですが、仮に警察権力がビッグデータの有効利用に目をつけたら…と考えると怖いですね。

    現代アメリカを知るために「日本人が〜」とセットで読むととても勉強になる本です。

    ※作中、Twitterの創業者が開始したクレジットカード決済サービスを「フォースクエア」と表記していますが、これはSquareの間違いで、位置情報SNSのFourSquareと混同していると思われます。

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著者プロフィール

1952年、東京都生まれ。国際政治学者。早稲田大学政治経済学部卒。クレアモント大学院政治学部(修士)を経て、ハーバード大学政治学部大学院助手、同大学国際問題研究所研究員。1982年から近未来予測の会員制情報誌「ケンブリッジ・フォーキャスト・レポート」を発行。インターネット上でもYouTubeを中心に世界政治や経済情勢について発信している。現在、呉竹会アジア・フォーラム代表幹事、一般社団法人日本クルド友好協会理事も務める。主な著書に、『米中新冷戦、どうする日本』(PHP研究所)、『アングラマネー』(幻冬舎)、『国連の正体』(ダイレクト出版)、『世界恐慌2.0が中国とユーロから始まった』『希望の日米新同盟と絶望の中朝同盟』『国境ある経済の復活』(以上徳間書店)などがある。

「2020年 『米中最終決戦』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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