チョコレートコスモス

著者 :
  • 毎日新聞社
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  • Amazon.co.jp ・本 (516ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620107004

感想・レビュー・書評

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  • 『この世の中に、天才っているんですねえ』

    生まれつき備わった優れた才能を持つ者=『天才』。それは努力を持っては到達しえない高み。それを生まれながらにして持った人々。本人がそれを自覚しているかは分からない。でも、同じ高みにいる人だけが共有することのできる世界がある。そんな『天才』が発動する瞬間を見たいと思う。『天才』が『天才』と競演する世界を観たいと思う。
    「まさか、私を侮辱する気じゃないでしょうね!」立ち上がり、後退りをする。
    「真実なんて大嫌い!」叫ぶブランチ。
    「私が好きなのはね、魔法!そう、魔法よ!…私が語るのは、真実であらねばならないこと。それが罪なら、私は地獄に堕ちたってかまわない!」ぎらぎらした目は、既にミッチを見ていない。
    …というテネシー・ウィリアムズの戯曲「欲望という名の電車」の一コマ。『これだ。この感覚だ。想像以上のものを見せつけられた瞬間の、恐怖とも感動ともつかぬこの感覚だ。こんな感覚を俺は求めていたんだ』という演劇の舞台。そんな舞台を演じる役者たち。そしてそんな役者たちが必ず通るオーディション。そこに『天才』が『天才』を感じる瞬間がある。その瞬間に生まれる奇跡がある。これは、そんな瞬間を文字にした恩田陸さんが書く『天才』たちの競演を読む物語です。

    『その奇妙な娘に気が付いたのは、今年の桜も終わり、どことなく間が抜けた、やたらと眠い四月も半ばの午後のことだった』という脚本家の神谷。『元々、学生時代に旗揚げした劇団の座付き作者』だった神谷は、就職後も『後輩のために脚本を提供し続けて』いたところ、『劇団の人気が出て、じわじわと観客動員数が伸び』、『他からも脚本の依頼が来る』ようになり『ついに某国営放送局の朝の連ドラも書き、実力ある中堅作家に数えられるように』なっていきます。『今回の脚本は、久々に古巣の劇団への書き下ろし』という神谷ですが、思ったように筆が進まない状況。そして『その娘に気が付いた』という瞬間。『何かがバチッと放電したような錯覚』を感じる神谷。『小柄でショートカット、二十歳そこそこという』少女から目が離せない神谷。そして、その時でした。『少女が消えた』、『神谷の視界から、彼が見ていた少女が一瞬にして掻き消えた』という目の前の事態に焦る神谷。再び現れた少女。そして、再度少女が消える場面を目撃します。それから一週間後、『神谷が再びその少女を見た』時、再び少女が消える場面に遭遇します。『デシャ・ビュを見たような気がした』と感じる神谷は、『少女は消えうせたが!そこにいた。矛盾しているようだが、そう表現するしかない』、そしてその種明かしを『広場で見かけた人間の「真似」を』し、『その人になりきる』ことで元々の少女としての気配が消えてしまうことだと理解します。『うまいもんだ』と呟く神谷。『よし、もう一度オープニングを練り直すぞ。今度はいける』と原稿を書き始めた神谷は『すぐに夢中になって物真似少女の娘のことなどすっかり忘れて』しまいます。運命を握る少女との偶然の出会い。そんな運命の巡り合わせに向けて物語は動き出しました。

    『オーディションの話を書きたい』と思ったところからこの物語は生まれたと語る恩田さん。『美内すずえ先生の「ガラスの仮面」。連載第一回からリアルタイムで読んできた私は、あのワクワク感を再現したいと思った』ととても意欲的に取り組まれたこの作品。ピアノコンクールを舞台にした名作「蜜蜂と遠雷」の演劇版といった位置づけの作品であり、文字からピアノの旋律が流れ出した「蜜蜂」に比して、こちらは文字から舞台、まさしく役者さんが演じる舞台が目の前に立ち上がる、そんな迫真の描写の連続に「蜜蜂」と同じような興奮が波打つように襲ってくる、そんな読書が味わえるこの作品。では、そんな一場面から一部ご紹介しましょう。

    オーディションの一場面、二人での舞台。『響子は、舞台の上で、ほとんど恐怖に近いようなスリルを味わっていた』という緊迫さの伝わってくる出だし。『考えてはいけない。考えたら、恐ろしくて進めなくなってしまう。頭のどこかで、そう警告する自分がいる』と自身の中で葛藤する響子。『とにかく、本能に任せるしかないし、これまでの経験に基づく自分の反射神経を信じるしかない』と恐怖から逃れる方法を模索します。『葉月の声に、動きに、動物のように反応する自分を感じる。動き出してから反応したのでは遅い』と冷静に分析する響子は『動き出す瞬間、いや、動き出すと感じるそのほんの少し前に、空気や気配で彼女の動きを予測』します。『意思ではない。今、彼女は、役者という名のしなやかな獣なのだ』と役者をまさかの獣に例えます。『アドレナリンがでっぱなしなのに、頭はひどく冷静だった。獣を追う豹はこんな気分なのではないだろうか』と獣の気持ちを想像する響子。『恐怖と紙一重のスリルというのは、限りなく官能的な快感でもある』とある種解脱したような心境へ到達します。そして『麻薬だ。響子は心のどこかでうっとりと叫ぶ。こんな麻薬、他にはない』というその心境は『これまで感じたことのない世界。今日、初めて足を踏み入れた世界』を作り上げます。そして『あんな世界があるなんて ー あんな、空恐ろしい、どこまでも続く宇宙のようなところ』という、その高みに到達した者だけが見ること、感じることのできる世界に浸ります。『天才』が覚醒していく瞬間を描く恩田さん、常人にはただただ凄いとしか感じられませんが、その描写に『天才』というものの存在をおぼろげに感じることができました。

    また、この作品では冒頭の『物真似少女』が大きな鍵を握ります。そこで取り上げられる『人間の真似』において、恩田さんは『一人の人間の人格を印象づけるのは、その容姿ではない』と書きます。『歳は若いのに、「なんだか年寄り臭い」と感じる女がいる』という一例。それが『なぜか』と考えます。そして、それは『決して着ている服や目鼻立ちのせいではない』と考え、このように結論します。『一点から一点へ移る時のもっそりした動きや、話す時の身振り手振りや言葉遣い、何かを見る時の先入観に満ちた目付き、緊張感のない立ち姿』。これが『年寄り臭さ』の原因であると分析します。これにはなるほどと感じました。年を取ることとは別に、その人の所作がその人の年齢をも引き上げてしまうという恐ろしさ。そして、『似ている、似ていないを決めるのは表情や口調や仕草であり、顔やスタイルではない』とさらに具体的な分析に入ります。『人間の個性を決めるものも表情や動きである』という指摘。『物真似が上手な子は、観察力があるのはもちろん、間をつかむのがうまい子が多い』とわかりやすく説明します。そして『物真似がうまいというのは、他人に「似ていると感じさせる」のがうまいということ』とまとめます。また、『そのためには自分がどう見えるか知っていなければならないし、見る側の呼吸を感じられないと注目が集められない』と書く恩田さん。今まで物真似ということにあまり意識も興味もありませんでしたが、その奥深さ、そして演劇を作っていく役者さんの役作りというものの奥深さをとても感じました。

    オーディションという場は『選ばれる、選ばれないということの残酷さ』を伴ったものであると書く恩田さん。何ごともそうかもしれませんが、そんな風に人を選ぶ場では、不思議と『人間には選ばれる人と選ばれない人、幸運な人と不運な人がいる』という現実があるように思います。これは決して演劇の世界だけではなく、私たちの身の回り、たとえばあなたが会社員なら、この言わんとするところは日々目にされているのではないでしょうか。そして、そんな『選ばれた』人だけが立てる舞台、光あたる場所。『この先にある何かが観たい』と思わせる世界。そんな素晴らしいオーディションの場に立ち会えることができたなら、それは人によっては人生を変えるひと時にもなるかもしれません。

    『年寄りになった時、あの時俺はあの場所にいたと、時代の証言をする日が来るに違いないのだ』と今日まさに『天才』の競演を目撃した者の胸に去来する熱い感情。『いつかきっと、この日のことを思い出すだろう』という未来にまで続くであろうその熱い感情の説得力は、全くの嫌味なく、『天才』というものがこの世界に確かに存在することをあまりに自然に描く恩田さんの描写あってのことだと思いました。

    緊迫感のある演劇シーンの描写、『天才』に人としての人間臭さを感じる描写、そしてこれから始まる本編へ向かっての序章であるかのような期待感の描写。文字が叫び、文字が祈り、文字が舞う、恩田さんの圧倒的な文字の表現力に酔う読書。全身鳥肌状態必死の大胆なまでの伏線回収に酔う読書。「蜜蜂と遠雷」と同じ地平に立つ恩田陸さん渾身の一作であるこの作品。「蜜蜂」に心震わせた方には、あの感動が蘇るひと時。う〜ん、これいいなあ、と素直に感じた、そんな作品でした。

    • さてさてさん
      しずくさん、コメントありがとうございます。
      演劇をやられていたとすると、あの臨場感溢れる表現がさらに目に浮かびそうですね。逆に、演劇を実際に...
      しずくさん、コメントありがとうございます。
      演劇をやられていたとすると、あの臨場感溢れる表現がさらに目に浮かびそうですね。逆に、演劇を実際にされていた方にも違和感がなく感動を与えるというのは、本物なんだなあと感じました。続編が頓挫状態のようですが、是非恩田さんには続きを書いていただきたいです。
      ありがとうございました。
      2020/07/31
    • shukawabestさん
      さてさてさんのレビューを目にして、「読み切ってはいけない」と直感し、読むのを中断し、予約しました。
      先ほどレビュー全文読みましたが、天才が覚...
      さてさてさんのレビューを目にして、「読み切ってはいけない」と直感し、読むのを中断し、予約しました。
      先ほどレビュー全文読みましたが、天才が覚醒していく瞬間を読み進めるのはワクワクしますね。
      素晴らしい作品のレビュー、ありがとうございました。
      2023/02/21
    • さてさてさん
      shukawabestさん、こんにちは!
      普段演劇というものをあまり意識してこなかったのですが、この作品に描かれる演劇を作り出していく裏側...
      shukawabestさん、こんにちは!
      普段演劇というものをあまり意識してこなかったのですが、この作品に描かれる演劇を作り出していく裏側にはとても心惹かれるものがありました。” 「蜜蜂と遠雷」と同じ地平に立つ恩田陸さん渾身の一作”とレビューに書きましたが今もってそう思います。shukawabestさんの読書の起点になれて幸いです!
      2023/02/21
  • 演劇が大好きな人、
    「いつまで漫画読んでるの!」と叱られながら『ガラスの仮面』を読み耽った人は、ぜひ!

    今週は図書館から7冊も本が届いて、うれしい悲鳴をあげる中、
    強烈な存在感を放っていた、500頁を超える分厚いこの本。
    1週間で返却するには1日1冊。。。読み切れるかなぁ。。。と
    不安を抱えながら読み始めたのですが、杞憂とは、まさにこのこと!
    火花を散らす演劇少女たちが気になって、頁を繰る手が止まりません♪

    勝つことだけに執念を燃やした空手の世界から演劇の世界に飛び込み
    他人の表情や仕草を難なくトレースし、一瞬で台詞を覚え
    脚本に隠された意図を読み取った上で
    自分なりの演出まで加えてしまう天才少女、飛鳥。

    芸能一家に生まれ、名子役としてちやほやされても慢心せず
    持って生まれた才能を努力で磨き続けてきたサラブレッド、響子。

    頭の中ではもう、飛鳥は北島マヤ、響子は姫川亜弓というキャスティングで映像化されて
    『ガラスの仮面』の中でこの『チョコレートコスモス』という脚本が
    演じられているような錯覚に陥る私。。。
    (なぜか男性陣は、漫画ではなく普通の俳優さんでイメージされるのが不思議。)

    飛鳥の初舞台となる、大学の演劇同好会のデビュー作『目的地』や
    サキ作の『開いた窓』、テネシー・ウィリアムズの『欲望という名の電車』など
    次々に登場する舞台やオーディション風景が鮮やかに目に浮かんで
    手に汗にぎりながら、いつのまにか500頁を駆け抜けてしまう本です。

    ふたりの天才少女の本格的な対決がこれから、というところで終わるのも
    まさに『ガラスの仮面』の紅天女を思わせて、楽しいやらもどかしいやら。
    続編が連載中らしいのですが、『ガラスの仮面』の完結とこの本の続編の刊行、
    さて、どっちが先になることでしょう。ワクワクします♪

    • nobo0803さん
      うわぁ~まさしくガラスの仮面ですね!!
      ガラスの仮面もなかなか進まなくて、モヤモヤしてるんですが・・(1巻を読み始めてからかれこれ何年たって...
      うわぁ~まさしくガラスの仮面ですね!!
      ガラスの仮面もなかなか進まなくて、モヤモヤしてるんですが・・(1巻を読み始めてからかれこれ何年たってるだろう・・・)

      もう、これは読まなくてはいけませんね。
      我が家の本棚に眠ってるんです・・・
      まろんさん同様、あの分厚さになかなか手がのばせなくて(・_・;)
      2013/02/27
    • まろんさん
      マリモさん☆

      ナカマナカマ゚.+:。(ノ^∇^)ノ゚.+:。
      もう、マヤと亜弓さんしか思い浮かびませんよね?!
      ちょっと抵抗して、ニンゲン...
      マリモさん☆

      ナカマナカマ゚.+:。(ノ^∇^)ノ゚.+:。
      もう、マヤと亜弓さんしか思い浮かびませんよね?!
      ちょっと抵抗して、ニンゲンの(?)女優さんを当てはめてみるんだけど
      やっぱりいつのまにか、マヤと亜弓さんに戻ってしまって(笑)

      マリモさんのおっしゃる通り、同じシーンが何度も出てきても
      演じる人によって台詞の句読点、間、仕草までぜんぜん違って
      解釈の違いがはっきりと表れるのが、楽しくて♪

      続編は、『ダンデライオン』というタイトルらしいです。
      お花つながりなんですね~(*'-')フフ♪
      2013/02/28
    • まろんさん
      noboさん☆

      おお!noboさんの本棚で、この本がすやすやと眠っていたとは。
      ガラスの仮面にモヤモヤできるnoboさんなら、あっという間...
      noboさん☆

      おお!noboさんの本棚で、この本がすやすやと眠っていたとは。
      ガラスの仮面にモヤモヤできるnoboさんなら、あっという間に読破できること請け合いです!
      舞台やオーディションのシーンに入ったら、ひきこまれて
      読むスピードが加速度的にアップすることをお約束します♪
      なんだかセールスマンのようですけれど(笑)

      私は、読み終えたとたんに、続きがないのか気になって
      すぐに「チョコレートコスモス 続編」で検索をかけてしまいました(*'-')フフ♪
      2013/02/28
  • いやはやおもしろかった!

    何かわくわくするようなことがそこで始まるという予感。この扉の向こうに、この世のものでない素晴らしい世界が広がっているという予感。今は誰もいないけれど、溢れざわめく観客の息遣いが聞こえるような気がするーーー文中にある劇場の無人のロビーの描写だが、まさしくこんな気持ちでこの本を開いた

    そして516ページの分厚い本を開いた途端、ライトを落とした暗い客席に座り舞台を見つめる一観客になり、劇団ゼロ旗揚げ公演『目的地』や新国際劇場こけら落としのためのオーディションを見つめていた
    『開いた窓』二人で三人を演じてみせるという女優としての力と知恵の見せ所
    大女優岩槻徳子、売れっ子アイドル安積あおい、期待の新鋭宗像葉月、そして舞台に立つのは今回が3回目という佐々木飛鳥の演技
    家事もそっちのけで読み進めた

    さらに、四人の候補に絞られ二次オーディション
    演劇界のサラブレッド東響子の『欲望という名の電車』のブランチ役の一人芝居でその陰を演じるという難題
    四人四樣の演技、おもしろい!

    文字を追いながらも、頭の中には女優の声が響いていた
    この一冊でいろんな演劇を見ることができたようで得した気分だ

    すごい! 女優ってすごい! 女優というのは化け物だといった人がいたような・・・まさしくその通りと思う

    恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」のピアノ演奏の描写にも驚かされたが、この演技の描写にも度肝を抜かれた
    参りました

  • どう結びついていくのか

    舞台女優たちの嫉妬や優越感、臨場感、そしてストーリー展開を存分に楽しめる一冊。

    『無』から『有』を創り出す

    そういった職業に就いている人たちの想像力と、楽しさを気づかせてくれる。

    仕事でもプライベートでも、平凡な毎日を続けたままでもいい。

    今、55歳の僕は、心身ともにこれから先、衰えていくのだろうが、

    夢中になるものを見つけることができれば、この作品のラストのように、”何か”を掴むことができるかもしれない。

    さてさてさん、goya626さん、お二人のレビューでこの作品を知り、図書館の予約をしました。

    素晴らしい作品のレビュー、ありがとうございました。

    大満足です!

  • 読みながら、ふとあの “風間塵” が頭の片隅に現れました。
    でも、この物語はピアノではなく、芝居のオーディションの話。
    そして、この物語は、『蜜蜂と遠雷』の十年前に書かれているのです。
    恩田陸さんは、お芝居がとてもお好きなのだそうです。

    二人の若い女性がオーディションで遭遇し
    才能がぶつかり合い、奇跡のような瞬間を共有します。

    一人は、恵まれた境遇の 芸能一家に生まれた東響子。
    天才と言われながらも本人は悩んでいます。
    最初からすべてを与えられ、自分で望んだのではなく
    自然の成り行きでここまで来てしまったことに。
    もう一人は、無名の劇団に現れた少女、佐々木飛鳥。
    演劇はまったくの未経験。
    すさまじい観察力と集中力で、類まれなる才能を発揮します。

    演技の描写が、細やかでリアルで、素晴らしいのです。
    爽やかな風が吹いたり、不気味な空気が漂ったり…。
    目の前でオーディションを見ているようでした。

    そして最後に、脚本家の神谷に明かりが見えて
    ふと閃くシーン で語られる言葉。
    『女たちは、時空を超えて行き来する。いつだってそれが可能なのだ』
    あれ?
    これって、読んだばかりの『ライオンハート』で感じたこと!
    “恩田陸の世界” に取り込まれてしまったのかも。

  • 『蜜蜂と遠雷』の熱量の高さを思い出しました。
    舞台演劇は見たことがありませんが、音楽と同じくとても熱い世界だなと思いました。
    ドラマや映画では見られない迫力や臨場感が文字から伝わってきて、とても引き込まれました。
    毎度思うのですが、恩田陸さんの知識量と表現力は半端じゃないです。
    見たことのないお芝居を目の前で見ている気分になり、何か実際に見てみたくなります。
    天才と言われる俳優、ほぼ未経験の新星…個性的な演者の人間模様も、すごい人たちの世界をのぞかせてもらっているようで、とても面白かったです。

  • 題名からは想像できませんが、これは演劇のお話です。
    しかも第0回のような、始まりの前の始まりの物語。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    演劇一家に生まれた東響子は、自然と演劇の世界へ足を踏み入れ、キャリアを積んできた。
    求められるままに演じてきた響子だったが、本当にそれでいいのかという壁に、今まさにぶち当たっている。

    一方、とある演劇集団にひょっこりと顔を出し入団を希望した謎の少女・佐々木飛鳥。
    彼女の演技にほんろうされる周囲…はたして彼女は天才か、それとも…。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    読み終えて、「ガラスの仮面」を小説にできるのは、恩田陸さんしかいない…!と思いました。
    東響子は姫川亜弓、佐々木飛鳥は北島マヤ、芹澤は月影千草のようでした。

    演劇という表現を文章でこんなにも鮮やかに書けるものなのだなとびっくりしました。
    恩田陸さんの「蜂蜜と遠雷」は未読ですが、「チョコレートコスモス」を読んだことで、ピアニストの世界をえがいた(らしい)「蜂蜜と遠雷」が話題になっているのも、大納得です。

    このように恩田陸さんの表現力は太鼓判!ではありますが、「チョコレートコスモス」を☆3つにしたのには3つの理由があります。

    ・タイトルの「チョコレートコスモス」の意味は文中に出てくるものの、物語との親和性がいまひとつに感じられたこと。
    ・登場人物が多く、バラバラに各登場人物たちが出てくるため、誰が主人公かわかりにくく、全員が絡み合うまでにかなりのページ数がかかること。
    ・このお話自体が長いプロローグのような感じで、この先の長編もありうる空気感のまま、読者の手にゆだねられてしまうこと。

    しかしそれでもなお、演劇シーンの読み応えは抜群!
    「ガラスの仮面」を先に読んでいたことで、その文章から場面を想像しやすく、もっと先が読んでみたくなるお話でした。

  • 芝居のオーディションを通じて、役者たちの葛藤や、演技力のすごさを描いたストーリー。演劇や舞台が好きな人にはたまらなく魅力的だと思う。

    演劇を始めたばかりなのに、台本や人の演じる姿を見て、すぐさま自分なりの解釈をして、自然に演じ、見ている者を釘付けにしてしまう飛鳥と、役者一家の中で育ち、若くして才能も人気もありながら、自分も出たいと思っていた監督のオーディションに、周りの役者は呼ばれたのに、自分は対象になってないことで、悶々とする響子。
    最終的には、二人がオーディションで共演し、共に役を演じ、高みを目指したいと改めて決意する。

    役者になるような人には自意識の強い人が多いであろうに、オーディションなどである意味、優劣が明確になったり、観客の評判などで客観的に自分の評価を目にせざるを得なかったり、かなり覚悟のいる厳しい世界なんだと改めて感じた。
    全力で取り組む分、達成感も大きいんだろうけど。

  • 旗揚げもしていない無名の学生劇団に、ひとりの少女が入団した。
    舞台経験などひとつもない彼女だったが、
    その天才的な演技は、次第に周囲を圧倒してゆく。

    天才というのは圧倒的だ。
    説明や理屈なくただただ圧倒的。

    面白かったぁ。

    オーディションの先にある毎日の生の舞台には
    どんなことが待っているんだろう。

    どんなことが起こるんだろうと思うと
    この続きを読んでみたいなぁ。

    「ガラスの仮面」のオマージュだそうです。
    ほんとに何十年も前に読んだ「ガラスの仮面」を思い出した。
    そうだよぉ、友達に借りたんだぁ。
    月影先生が怖くてさぁ。すぐに白目になるからさ(笑)
    北島マヤね、そうそう、面白かった。
    まだ、終わってないんだよねぇ。

  • 図書館で目について借りてきたので、前情報なしに読み始めた。
    大学時代に後輩の演劇を観に下北の劇場まで行った時を思い出す。
    実力は遺伝子に組み込まれているのか。
    努力だけではどうしようもない世界が眩しかった。

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著者プロフィール

1964年宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』で、「日本ファンタジーノベル大賞」の最終候補作となり、デビュー。2005年『夜のピクニック』で「吉川英治文学新人賞」および「本屋大賞」、06年『ユージニア』で「日本推理作家協会賞」、07年『中庭の出来事』で「山本周五郎賞」、17年『蜜蜂と遠雷』で「直木賞」「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『ブラック・ベルベット』『なんとかしなくちゃ。青雲編』『鈍色幻視行』等がある。

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