アトミック・ボックス

著者 :
  • 毎日新聞社
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本棚登録 : 422
感想 : 87
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620108018

作品紹介・あらすじ

28年前の父の罪を負って娘は逃げる、逃げる…「核」をめぐる究極のポリティカル・サスペンス!

感想・レビュー・書評

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  • 3.85/411
    内容(「BOOK」データベースより)
    『28年前の父の罪を負って娘は逃げる、逃げる…「核」をめぐる究極のポリティカル・サスペンス!』

    冒頭
    『桜が咲くのを見られたのはよかった、と美汐は思った。
    パパは桜が好きだった。だから終わりの時にまた桜を見ることができて嬉しそうだった。桜の開花に間に合って、その分だけ無念の思いが差し引かれる。なにかが完結した感じが強まる。』


    『アトミック・ボックス』
    著者:池澤夏樹 (いけざわ・なつき)
    出版社 ‏: ‎毎日新聞社
    単行本 ‏: ‎464ページ

  • 久しぶりに手にする池澤氏の新作は手に汗を握るスリルに満ち満ちていた。震災後文学として見事エンターテインメントに昇華している。共にこれは『死の島』へのオマージュだ。幾つもの終わりを用意した『死の島』での問いかけを引き継ぐべき使命を担い、一つの回答を示している。主人公の美汐は嘗て原爆開発に携わり後悔の末に亡くなった父の霊魂を運ぶカロンの艀だ。政治家どもの理屈に屈せず、命を張って守り抜いた最後の決断に光が射す。最後はみんないい人で丸めているのは願いの表れ。結局は人間一人一人の心の有り様に賭けるしかないのだから。

  • 雑誌「ダヴィンチ」にて、キトラボックスが紹介されていて、その著者が書いた原子力ミステリーがあるってことで読んでみた。
     
     瀬戸内海の小さな島で、漁師の父を持ち、四国の大学で講師の仕事に励む娘。
    末期ガンの父親が死ぬ間際に、娘に「私を殺すように」と頼んだ理由とは?
     
    実は若い頃に、父は東京のある場所で働いていた過去があった。
    母親さえも知らされていなかった、父親の過去とは?それが理由で警視庁公安から追われ、逃げる娘の行く先は?
     
    明かされる、国家機密レベルな父親の秘密とは?

    って感じかな?
    マジで、面白いです。

  • それからの長い歳月を耕三は一介の漁師として生きた。
    海は無限におもしろかった。
    コンピューターのシュミレーションや核エネルギーの開発などとは違う種類の知性が人間には備わっていることを日々の体験を通じて知った。最初の頃は日々釣果や潮や天候を日誌に書いていたがやがてそれもやめてしまった。言葉はいらない。仮想のものは一切いらない。啓介じいさんが言ったとおりすべては身体が覚える。身体と一体化した脳が覚える。
    美汐と名付けた子供はすくすく育ち、どんどん言葉を覚えていった。それに逆行するように耕三は言葉を使わなくなった。本を手にとることもめったにない。
    監視と保護の視線を感じるのが嫌さに島を出なくなった。島にも誰かいるのかもしれないが、それは気にするまいと決めた。
    そんな風にして二十数年か過ぎた。美汐は大学に進み、社会学を専攻すると言った。そういう生き方もいいだろうと思った。工学に進むといったら自分はどうしたかとふと考えたがすぐに忘れた。
    2011月3月11日、日本の北の方で大きな地震が起こり、津波でたくさんの人が亡くなり、原発が破壊された。大量の放射能物質が漏れ出た。
    それをテレビで知った耕三はその日にすぐに新聞の購読を申し込み、原発に関する記事をすべて読んだ。遠い過去に眠らせたはずの悪魔が甦ったかと思った。
    金田が言ったとおり、原発は核兵器より恐い。自分の人生の間にTMIとチェルノブイリと福島と、三回の大きな事故が起こった。放射性物質が人を襲った。さらに遠い過去には自分自身の被爆があった。忘れていた嫌なことが押し寄せる。
    なぜ漁師に徹して生きてきたか?
    自分でも気づかなかったが、「あさぼらけ」に関わっていた自分を悔いる思いが心のいちばん底にあったのだ。あんな仕事をするのではなかった。そう思ったから原爆から、工学から、仮想のものを数字で扱うことから最も遠い営みを選んで生きてきた。
    福島で仮想は現実の脅威となった。福島ショックは65歳となっていた耕三にいろいろなことを考えさせた。(351p)

    この耕三老人が癌で余命幾時もないと知って、娘の美汐に託したCDがこの物語の発端である。それから、瀬戸内の海のルートをたどって、美汐と協力する様々な友だちと、公安・警察の国家組織との逃亡・追跡劇が始まる。

    芥川賞作家とはとうていおもえない、バリバリのエンタメのポリティクスサスペンスになっている。池澤夏樹を知らない人にも、原発問題に感心がない人にも、お勧めです。

    しかし、池澤夏樹。当然それだけでは終わらない。そもそも逃亡劇の舞台が東北でもなく、瀬戸内海というのがいい。美汐は社会学者として「離島における独居老人の生活環境」という論文を書いていて、その伝手を頼って逃げる。その論文を書いたキッカケが宮本常一の影響だと云うのが、池澤夏樹らしい。主に出てくる島は広島県細島。香川県牛島。愛媛県日振島。岡山県真鍋島。山口県祝島。逃亡劇の中で、国際政治の中で見落とされてゆく人びとの姿も、池澤夏樹は写しとるのである。

    或いは、科学者の目を持つ池澤夏樹だけに、耕三が所属したある秘密のプロジェクトチームの描写もリアルになっている。最初はなんの感情も起きなかったその研究に、耕三が自分が被爆二世だと分かった時点から深く考え出したのは、象徴的だろう。

    そして自ら東北ボランティアにも向かい、また国際派作家として世界的視野ももち、社会に対する批判的発信をずっと行ってきた池澤夏樹の面目躍如は、最終盤の2人(保守系の黒幕と死の間際の大物政治家)と美汐との問答にあることは間違いない。

    そのお膳立て作り、その処理の仕方は、世のサスペンス小説としては少し無理があったとは思う。しかし、その問答のみが突然現れる実験風な文学ならば、大手や美汐の決断に説得力は持たなかっただろう。それまでの逃亡劇の中に大切なモノがあったからこその、最後の甘々なエンディングなのである。
    2014年3月5日読了

  • シリアスとエンターテインメントがちょうどいい塩梅だった。

    手に取ったのは、目次で「犬島」の文字を見たから。瀬戸内が舞台なのかな、くらいの軽い気持ちで。

    それが、読みはじめたら止まらず…久しぶりに一気読みをしてしまった…今もまだ余韻のなか。

    科学的なことも政治的なことも疎いけど、知っている島や町を美汐が逃亡していくのにドキドキしたしおもしろかった。権力に対して弱者である個人が勝つ、というのも愉快。

    …でも、原子力発電所は今も稼働しているし、核保有国が存在するのもフィクションではないんだよなぁ。

  • 一気読み。
    「あさぼらけ」の正体はあんまり驚かなかったけれども、それが実は…という展開にはちょっとどっきり。

    実際にありそうだ。

  • 池澤さんが書いた原子爆弾と原発の小説。
    あんまり細かいところを考えないで読むほうが楽しめる。

  • 「一人の死は悲劇だが、百万人の死は統計に過ぎない(byアイヒマン、スターリン)」3.11を受けての核開発にまつわる話だが、上記セリフが頭を過った。池澤小説としてはエンターテイメント性が高いが、その裏に現代に対する危機感も透ける。現実が小説に追いつく!?

  • これって…どこまでがフィクションなの!?(冷汗)
    「あさぼらけ」の正体とその犯した罪が、そのまま現在の日本と世界情勢に繋がって理解され、戦慄した。
    核保有に関する問題は、アメリカの核の傘の下にいる日本にとって非常にデリケートな問題だ。核を持つ用意だけはしておいて、実際には持たない。果たしてそれが日本の採るべき選択肢なのか?本書を読んで、不勉強な私にはますます分からなくなった。
    ま、それはともかく(笑)、扱うテーマに関わらず、池澤氏の書く文章はやっぱり好きだな。
    2018/08

  • 初めましての作家さん。
    知ってはいたけど、今まで手に取る事が無かった。
    他の方の一気読み等のレビューを拝見して手に取る。
    納得の一気読み。
    父親の遺書から物語りが始まっていく。

    原爆、福島の原発、
    とてつもない大きな力
    つくり出したのは人間。
    でも、時として人知を越えてしまう。
    原発の問題にしても、危険ならば廃止。
    そう簡単な問題ではないと。

    なんだか色々考えさせられた1冊。
    広島の原爆ドームを訪れる予定もあり、
    個人的に、なんだか色々タイムリーな1冊だった。

    2014年 2月10日
    装丁:木村裕治
    装画:影山徹

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著者プロフィール

1945年生まれ。作家・詩人。88年『スティル・ライフ』で芥川賞、93年『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、2010年「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」で毎日出版文化賞、11年朝日賞、ほか多数受賞。他の著書に『カデナ』『砂浜に坐り込んだ船』『キトラ・ボックス』など。

「2020年 『【一括購入特典つき】池澤夏樹=個人編集 日本文学全集【全30巻】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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