- Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
- / ISBN・EAN: 9784620108070
作品紹介・あらすじ
疎開先が一緒だった縁で義姉妹になった主婦の左織と料理家の風美子。人生が思い通りに進まないのはこの女のせい? 著者が挑む、戦後昭和を生き抜いた女たちの物語。
感想・レビュー・書評
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私の乏しい文章力でどこまで伝えられるか分からないけれど、すごかった。
最近の角田さんの作品はどんどん凄みが増していると思うけれど、今回もとにかくすごいのだ。のっけからぞわぞわする。
主人公が初老の女性と言う時点で今までにない設定。
主人公が角田さんより年上の設定って初めてじゃないかな。
疎開先で知り合った左織と風美子。
そもそも左織は風美子のことを全く覚えていなかった。
だが大人になった二人が再会してから風美子は大きく左織の人生に関わっていくことになる。
女同士の関係性を描かせたら角田さんの右に出る人はいないと思う。
保守的な主婦の佐織に対して華やかな料理研究家の風美子。
自分の人生をどう生きるかという点でも全く考え方の違う二人が、血のつながりを超えて共に生きていく姿はなんとなく分かる。
お互いがお互いを必要としていて離れられない感覚。
でも今回はこれだけでは終わらない。
一冊の中に色んな事が凝縮していて、よくもまあこれだけ緻密に破綻なくかけるなぁ。
戦争を忘れてしまうことの懸念、夫婦のありよう、親子の関係性。
特に子育ての難しさというのか、切なさっていうか。
もし私に子供がいなかったら絶対に風美子の生き方に共感して肩を持つと思うのだが、実際子を持つと左織の気持ちが痛いほどわかる。
「私のなかの彼女」では毒親を持った娘の立場から親子関係を描いていたとしたら、今回は親目線で描かれているといったところか。
それにしても角田さんは台詞が巧い。いちいち刺さってくる。
心理描写も情景描写もちろん巧いんだけど、台詞の巧さがきわだってる。
特に今回は子供たちの台詞を読みながらまるで私が言われているような気分になりちょっと疲れた。
一人の女性の半生を描いてはいるがいたって平凡で特に大きな事件があるわけではない。だからこそその平凡な人生に共感してしまうのだ。
最後に左織が初めて自分の人生を自分で生きようとする姿に胸を打たれる。
光のあたる道を歩く風美子が主人公ではなく、地味な左織が主人公。
この辺りがやはり角田さんらしい。
作品に共通する核となる部分は変わらないけれど凄味が増しています。
一読に値する作品です。是非。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
小学生のころ、同じ場所に疎開をしていた
左織と風美子のその後の話。
不思議な縁で結ばれた左織と風美子。
性格も容姿も正反対の二人。
誰かの庇護の下、生きていく左織。
自分で切り開き、生き抜く術を見つけていく風美子。
お互いに羨望や嫉妬、猜疑心など
女性特有の勝ち負け基準など
本当に表現が上手いなあと、
いつもの角田さんを堪能していたのですが。
左織の成長や子育てと一緒になぞられていく昭和。
いろいろが全く一緒ではないのですが、
いつしか左織は私の母、百々子は私と同化していき…。
母と娘の確執というのは、
時代背景もかなりの影響を及ぼしているのではと。
何事も自分で決断できない母。
本人の性格だとばかり思ってましたが、
もしかしたら、押し付けられ従って生きるのが
当たり前の時代だったからこそなのかもしれないと。
角田さんに教えてもらい、
ちょっと母を知ることができた一冊です。
そんな左織が家族が巣立ち、夫が先立ち
色々考えて思い理解し、決断して自分で決めたこと。
すごいことなんじゃないかと感動しました。
人間は何時でも、本人が気が付きさえすれば
意思を持って漕ぎ出せるようになれるんだと
勇気が湧いてきました。
それと私も、意地悪な人、ズルい人などいつか天罰が…
と、ついついその後を見張ってしまってます。
でも結局そういうひとはラッキーなままで
いい人は苦労が多い人生のような気が…。
角田さん、もしや読者である私の心を透視してる??
ってこの作品でもゾクリとしました。
10年ごとに、読み返したい本です。
ひとりになった時、私は一体どう感じるのだろう…。 -
「疎開」と、一言で片付けられない闇が主人公の人生に重くのしかかる?
時代の流れに対応しきれないジレンマにも陥り、ようやく悟った時は、家族を失い、ほぼひとりぼっちに。でも、悪かと思われたふーちゃんこそ、真の家族と言えたのでは。 -
読書再開!事情があり、長く読めなかったー。
大好きな角田光代さんから。
角田さんの明るいテンポのものと違い、暗い人間の内面が満載だった。久しぶりの読書にしては、重かったな。女性として、共感するところもあり、余計に暗くなる。苦笑 -
終戦から10年後、銀座で偶然に再会した佐織と風見子。風見子は、戦時疎開していたときに出会っていたというが、佐織には思い出せなかった。ともかくそれをきっかけに二人は縁を持ち付き合うようになり、以降数十年の時を経てもつづくものとなってゆく。けれどその濃い縁は…彼女の存在は、ときに佐織を苛んでもいた。
…対照的な女性ふたりの数十年にわたる半生を描いた物語は、さりげない時代背景の移ろいとともに、緩やかに丁寧に、人生の悲喜を描いていきます。
絵に描いたような幸福はないけれど、どん底の不幸もない。けれど常に戦時中の出来事の不安と、風見子という特異な存在が傍にいることのコンプレックスが、佐織を惑わせる。誰よりも親しい存在が、ときにとても疎ましく恐ろしくもなる。その複雑な心情が差し迫り、じわじわと静かな迫力を感じさせてきます。人が生きるということ、生きつづけるということ、その過程のあらゆることの積み重ねの尊さ、辛さが染みわたってきます。
じっくりと描かれた佐織の半生は、他人の架空のものであるはずなのに、確かな質量を感じさせてきて、彼女に同調した感情すら感じました。
そして、幸せとはなんだろうか、などというふわふわした問いをふと、感じもしました。それほど寄る辺ない思いにさせる人生は、まさに水面にたゆたう笹の舟のようだと改めて思いもしました。
また、佐織と娘の確執の生々しさ、風見子との葛藤、などの同性だからこその感情のせめぎ合いがまたじっくりと読まされるもので、重くはあれども、とても読み応えのある物語でした。 -
「激動の戦後を生き抜いたすべての日本人に贈る感動大作!」とあるが、戦争を体験していない世代にとっても心にズンと響く物語。近年のカクタさんの長編はどうなってしまったのかと思うほどすごい。その卓越した筆力にはただただ圧倒されるばかり。
「『本の雑誌』が選ぶ 2014年ベスト10(ノンジャンル)の第1位 獲得」だそう。 -
主人公の女性の主体性のなさが不快だった。主体性がなく流されているから他人に対して疑心暗鬼に陥ってしまう。自分自身の趣味とか楽しみとか全くないし。