- Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
- / ISBN・EAN: 9784620108179
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
一方の集団は損得野郎。プラグマティックに、冷徹に、システムへ媚びへつらう利己野郎。とすればもう一方はイノセント、正義、損得を顧みず利他的であるはず。
この作品は定石であるはずのこの構図を完全に否定する。驚いた。
登場人物はことごとくどこかしら壊れている。まるで壊れていることが人間としての最低条件かのようだ。
正義を貫くためには精神が壊れていくのはわかる。しかしそうではなく、精神があらかじめ損なわれて傷ついていないと正義は成しえないという前提にまで持っていく。
あくまでも虚構としてのカリカチュアであるが、果たして現実とどれだけ乖離しているかを考えると空恐ろしくなる。
愛や正義や自由や平等をうたっていくには壊れるしかない、もしくはすでに壊れているのかもしれない。
女刑事に救いと曖昧さを残すべきだったのではないか。魅力的な不思議ちゃんとして、どうみても、どこかおかしいのだが、過去は明らかにせずにすべきではなかったか。
そうすればこの女刑事は「神」を纏うことができたかもしれない。救いを担えたかもしれない。パフェ好きの神なんて今時じゃないか。 -
推理小説、ミステリーとして魅力的な設定で、よくできていると思います。特殊能力に頼っているところが不評なのかな?
-
圧倒的すぎる。あまりにも圧倒的な中村文則の小説世界に酔いしれた。完璧といえる作品ではないとは思うが、完璧がなんぼのもんじゃい!と言っている作品であると思う。とにかく小説として面白い。ちょっと浮いた感もあるが、中島刑事と小橋さんの怪しくもユーモラスな会話も微笑ましいし、次第に立ち現れる、迷宮へ堕ちていくような謎の数々、からの、圧倒的なモノローグで語られていく解答編への構成が憎らしいほどうまかった。しかも、これほどまでにダークな世界観にも関わらず、ラストでは泣いてしまうという。。。
これまで僕が読んだ中村作品では、心の深淵をかなり深いところまで覗き込みながらも、最後の最後で浮上してしまっていた感覚があったが、この作品は違う。深く深く、深淵の底に辿りついている。そこから見える景色が語られている。人の心の深淵は、こんなにも暗く、そして冷たい。
しかし、いや、だからこそ。
そうでないものに敏感になるのだろうな。
僕にとっての「あなた」とは誰だろう。 -
彼の文章には重力がある。深い底へと引きずる力。[去年の冬に君と別れ]では不十分だったものが完成しつつあると思った。
前半は刑事目線の事件を追う展開、後半は思いもよらない犯人の独白。ドフトエフスキーをまともに読んでこなかったことを悔いた。 -
「掏摸 」を読んだとき、著者の才能を見せ付けられたと感じたが、この作品はさらにパワーアップしたようだ。どこかドストエフスキーの「罪と罰」を彷彿させるものがある。しかし世界観は著者独自のものだと思う。警察小説の形は取っているが、決してそれだけで終わらない、人間の本質に迫ろうとする姿勢が読む者を惹きつける。