マチネの終わりに

著者 :
  • 毎日新聞出版
3.93
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本棚登録 : 6805
感想 : 818
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620108193

感想・レビュー・書評

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  • 同じ曲でも演奏する人と時と場所によって変わってくるように、人生の様々な出来事もそのタイミングによってその先の流れをどう変化させるか分からない。
    主人公の二人のように、互いの心のひだまで分かりあえるような恋人との出会いは本当に稀有なラッキーなことで、それが成就できるとしたら本当に、細い急流を一粒の宝石を二人の手で握りしめて落とさないように下っていくように難しく、ロマンチックなことである。
    けれどもまた、ゆったりとした流れの中で常に自分を支え続けてくれている人の存在も掛け替えのないものである。
    「未来は常に過去を変えている。変えられるとも言うし、変わってしまうとも言える。」と何十年間音楽を演奏してきた蒔野の言葉にあるように、出会い、別れ、感動、苦悩を繰り返し人生という曲を書き、演奏してきた大人の素敵な恋愛小説だと思いました。

  • 大人のための極上の恋愛小説。
                                      
    主人公の蒔野は天才ギタリスト。
    レコード会社担当者と演奏を聴きに来た洋子に、ひと目で惹かれます。
    そして初対面での会話が、二人を特別な世界に連れて行ってしまいます。
    分かるような気がしました。
    時間を飛び越えて、一瞬で感性が響きあう感じ。
                                                                                                                                        
    ただ、洋子には申し分のないフィアンセがいました。
    彼女自身は、世界を駆けめぐって活躍するジャーナリストで、
    政治情勢や歴史にも詳しく、何か国語も使うことができる才媛。
    「女性の知性に色気を感じる」
    これは平野氏の言葉です。
                                                                                                                                                                 
    洋子がジャーナリストという設定もあり、
    社会問題もいくつか盛り込まれています。
    例えば、長崎の被ばく、バグダットの自爆テロ、
    リーマンショック、そして東日本大震災。

    平野氏の過去の発言に、素敵な言葉がありました。
    愛とは、「その人といる時の 自分 が好き」ということもできる。
    その人を失うことは、その人の前でだけ生きられていた自分を失うこと。
    好きな自分を見つけられれば、それを足場にして生きていける。                                                                                                                                       
                                                                                                                                                            2年前に観た映画の印象とは、いい意味で少し違っていました。
    その時に聴いた《幸福の硬貨》のテーマ曲が素敵で
    読んでいる間、頭の中でずっとギターが鳴り響いていました。
    久しぶりの恋愛小説、しみじみ よかったぁ~。

  • こんな切ない恋愛もあるのかと思った。こんなに一途に誰かを思い続けることができる恋愛を羨ましくも思った。
    きっと、あの時2人が予定通りに会えて、結婚していたらきっと普通の夫婦で終わっていただろうと思ってしまう。結婚しなかったから、恋愛が続いていると思ってしまうと、三谷のあの行動を読んだその時の(過去の)気持ちも読み終えた時に変わっていたと思えた。まさに「過去は変えられる」

  • 何て静かで清らかな時間だっただろう・・・。
    気が付けば読書に没頭していた。
    仕舞いには、自然と涙が溢れ出していた。

    note で連載を読むことができた為、
    ずっと携帯で小説を読んでいた。

    第九章の始めまで電子媒体で読んだが、
    やっぱり本が出てから全てを読みたいと思い、
    note での閲覧をストップし、上梓を待ちわびていた。

    第九章まではもう一度同じ話を読むことになったのだが、
    二回目に読むと登場人物を既に知っている為
    また違った読み方ができる。
    より深く、登場人物を辿ることができた。

    純文学は苦手でほとんど読んでこなかったが、
    平野先生の作品はそんな私の心も鷲掴みにされる。
    何て美しい文章、美しい登場人物
    美しい情景なのだろう。

    世界中の人に読んで頂きたい一冊。

  • たった3日しか会っていないギタリストとジャーナリストの大人の愛。
    お互いの心の中が緻密に描写されています。
    素晴らしい作品でした。
    この本はずっと手元に置いておきたい一冊です。
    映画化もされるようなので、是非観たいと思います。

  • 一言で言うなら 抗わない大人の愛。
    感情が自分の為にあり無意識の欲求を孕むのなら、理性が相手の為に働き愛を育むということなのかな…
    「未来は常に過去を変えていける」がキーワード。読書なのにギターの音色が聞こえてくる心地良さ…。
    再読を心待ちする時間さえ愛しい。

    • 嵐さん
      「未来は常に過去を変えていける」がキーワードですね。ギターの音色が聞こえてくるこころよさですか。私も読んでみます。
      「未来は常に過去を変えていける」がキーワードですね。ギターの音色が聞こえてくるこころよさですか。私も読んでみます。
      2016/06/08
    • kakerikoさん
      嵐さん、早々に有難うございます。
      読んで後悔しないと自信を持っておすすめできる一冊かと思います(^-^)
      機会があればぜひぜひ♡
      嵐さん、早々に有難うございます。
      読んで後悔しないと自信を持っておすすめできる一冊かと思います(^-^)
      機会があればぜひぜひ♡
      2016/06/08
  • この世には、軽薄で短絡的な正義感が蔓延している。
    けれど人生はそんなに単純ではないと思う。複雑な人生の繊細で不安定な美しさを、本書は肯定している。
    諦めと情熱の狭間を行き来する、大人の愛は切なく美しかった。
    仕事、夫婦、戦争、音楽、生と死。誰もが体験するような様々な事物が重なり、蒔野と洋子の愛はどこか幻想的でもありながら、非常に現実的でもあった。

    歳を重ねるということは簡単ではない。その時に最適と思われる現実的な選択をとり、様々な事を諦め受け入れながら、慣れと愛着を育てていくのだ。
    しかし人生には、時に抑えきれない衝動や情熱が心の内に湧き上がり、行動に起こさずにはいられない事がある。
    それを愛と呼び、それこそが人生であると感じる瞬間が。

    二人のように劇的ではなくとも、自分にも同じような体験はあった。いつか、「未来が過去を変えて」くれるのであろうか。
    本書を読みながら、過去の情熱を振り返って堪らなくなった。


    印象的であったのは、早苗の「罪の総量」という考え方である。
    『自分は今まで、他人よりもずっと真面目に生きてきた。どんな人でも、死ぬまでにはきっと、それなりの罪を犯すはずで、それで言うと、自分の場合、許される罪の重さの制限に対して、まだまだ余裕があるはずだった』と、自分の犯した取り返しのつかない行動を正当化するための、自分を守るための考え方である。
    彼女のしたことは、残酷であり、人間の非常に醜い部分を体現している。しかし彼女自身はその罪以後、自己正当化しながらも罪の意識に苦しんで生きていくのだ。
    こういった考え方は、多くの人が感じた経験があるのではないか。
    どうしても洋子に肩入れしてしまう私は、早苗の言動に苛立ちと軽蔑を覚えたが、一方で自分の中にも確実に「早苗」の部分があると感じては恥ずかしくも感じた。

    多かれ少なかれ、人は罪や間違いを犯しながら生きていく。
    それは総量で善悪が決まる訳でも、赦されるわけでもない。間違えてはない選択肢は存在し、しかし間違えても生きていかなければならないのだ。誰もが、苦しいのだ。

    二人の過去が肯定される未来であることを、自分の人生に重ねて祈りながら本を閉じた。

  • ここでどなたかのレビューを見て読まずにはいられなくなり、初めて平野啓一郎さんの本を手に取りました。

    恋、愛、家族、葛藤や呵責といったテーマに加え、自分が主人公と同世代ということもあって呼応する箇所が少なからずあり、ドキドキしながら一気に読了。

    また苫野一徳氏の『愛』を読んだ後だったり、カザルスやセゴビアも大好きで、物語の中に深く入り込むことができました。

    今更かもしれませんが特筆すべきは、やはりその描写力だったり豊富な語彙や比喩に圧倒される心地良さ!

    さきほど最後のページを閉じて、その静寂に残る余韻がまた心地よく、さらなる想像力を掻き立てられます。

  •  2006年、クラシックギタリスト蒔野聡史は三十八歳。蒔野は十八歳の時にパリ国際コンクールに出場して優勝。鳴物入りのデビューを飾って二十年という年月を経て、東京サントリーホールのコンサートを終えた。レコード会社の担当者の紹介でフランスのRFP通信の記者小峰洋子を知ることとなった。
     洋子にはフィアンセがいることも聞かされたし、薬指にプラチナのリングが覗いていた。そして映画監督のイェルコ・ソリッチの二番目の日本人妻の娘だが、父と一緒に生活した記憶がないという。「幸福の硬貨」の制作にかかろうとしたときに、妻と娘を置いて家を出たという。
    蒔野自身はコンサートに疑問を感じ、既に異変の予兆を感じていた。
     洋子は、蒔野がパリで演奏した二十年前を覚えていた。その時の感動が東京での出会いに好印象を与えた。そして蒔野の誘いでスペイン料理店に向かった。もう既に夜の十一時で近くだったが、長い夜を過ごした結果、漸く二人の物語が動き出したのである。
    それから快調に読み進めたけれど、突然目で文字を追うのを止め、本を閉じました。
    二人の運命を決める誰かの衝動的な行動に心が痛みました。
    一日、間をおいて読み始めた。
     読了したけれど、それもまた運命なのかと思った。
    それからどうなった?などという野暮なことは思わない。序文を読みなおすとわかる。
     男と女の感性の一致は難しい。雲を掴むようで分からない感情の変遷は、クラウドCPなら暫くすると終わりますが、僕は未だに同期(動悸)が止まりません。

    • yyさん
      ニコさん

      こんばんは。
      今日はたくさんのいいねとフォローをありがとうございます。

      実は、ニコさんの本棚にワクワクしていました。...
      ニコさん

      こんばんは。
      今日はたくさんのいいねとフォローをありがとうございます。

      実は、ニコさんの本棚にワクワクしていました。
      大好きな東野圭吾さんの本がたくさんある!
      そして、平野啓一郎さんの「マチネの終わりに」もある!
      この本を置いている方って
      そんなにたくさんいらっしゃらない気がします。
      私がとても好きな作品なので、
      あえてコメントをこの本のところに書かせていただきました。

      本の話って、親しい友人に話してもなかなか通じにくい…。
      ニコさんの本棚を見つけられて、今日は幸せでした。
      2023/06/09
    • ニコさん
      yyさんこんばんは、コメントありがとうございます。

      読書は楽しいですよね。アウトプットして語るのも...。

      楽しさを分け与ええる事が出来...
      yyさんこんばんは、コメントありがとうございます。

      読書は楽しいですよね。アウトプットして語るのも...。

      楽しさを分け与ええる事が出来ないのは残念な事です。

      読書の楽しさを広めるべく、Instagramにも同様の文章を原稿用紙に書いて掲載しています。
      もし宜しければ覗いてみてくださいね。
      アカウント名は同じです。アイコンは違いますが...。

      東野圭吾さんの著書に拘っている訳ではありませんが、色んなジャンルの本を読み乱読気味です。

      必ずしも新刊本というわけではなく、良書なら何でも読みます。

      フォローして頂いて光栄です。
      改めて感謝します。
      2023/06/09
  • 久々に世界観が好きな本でした。
    20歳の時に読んでたらまた、少し違った印象だったなと思ったり。でも、いろいろ勉強になったかなと思ったり。
    今30歳の自分は、共感できる部分も沢山あった。
    でも、大人になったからって、いろいろ偏見もどきを思い込んでたけど、
    年齢関係なく心が動く。いつの時代もどんなに変わっても一緒なんだなって思いました。
    いろんな人間関係、家族があって、
    少しは捉え方が変わった。
    過去の後悔も、今も未来も変わっていくのが
    しみじみと心に沁みた。
    過去の自分なら早苗のした事に勘付いて
    恐れてしまってた。
    私にはできない。
    そして、これが運命でないと言い聞かせてた。
    この小説の2人はお互いの気持ちが繋がった。
    洋子さんは努力家のスマートな人なんだよって早苗に言いたくなった。
    早苗の罪悪感を自己で消化してるところが、
    世間はこんな女の人の方が多いんだろうかって、
    自分の欲が優先なんだろうかって思った。
    知的な女性は凄く魅力的だった。

著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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