発掘捏造

  • 毎日新聞出版
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本棚登録 : 78
感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (257ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620315218

感想・レビュー・書評

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  • 1個の本としては簡単なドキュメンタリーなのだが(失礼!)、取材班のジャーナリズムの姿勢として素晴らしい。
    これこそスクープの名にふさわしい。
    この問題が発覚したときはネットでもかなりの盛り上がりがあって、熱心に検索・閲覧したものでした。
    変だろ、変だろ、という声がなかなか問題発覚につながらなく、学会ではなくマスコミの暴露という結果となってしまったこの事件。いったん権威学者?の後ろ盾ができると無批判に受け入れてしまう体質が大きな欠点なんですね。物理的にもなかなか反証を提示できない背景があるから、ある意味、言ったもん勝ちなんですよね。
    大いなる教訓として持続・継承されることを望みます。

  • 20世紀の最後、2000年に報道された旧石器時代の遺跡における発掘捏造事件。当時、まだ大学生だった自分は、この事件はおぼろげにしか覚えていない。

    当時の自分は、このスクープを最初に報じた毎日新聞はもちろんのこと、そもそも新聞自体を読んでいなかった。そして、ネットのニュースは今ほどメジャーではなく、携帯でニュースが見られるような時代でも無かった。よって、恐らくは最初の情報はテレビのワイドショーなり、NHKのニュースなりで知ったのだと思う。

    当時、「この人が発掘に関われば必ず、これまでに見つからなかったような新発見が生まれる」と言われ、「神の手」と評された考古学者がいた。しかし、それまで全く何も出なかった遺跡であっても、「神の手」が来れば常に珍しい石器が発掘され、その石器の内容や特徴が遺跡の地層や古さと合致しないこともあったため、人為的に仕組まれた発見ではないか、という疑惑は起きていたらしい。

    この本は、その疑惑を確信につなげるため、半年近くにわたって「神の手」の発掘現場に張り込み、発掘現場を隠し撮りし、失敗を重ねては再び張り込みをし…という執念の取材を繰り返した毎日新聞の社員たちの記録。毎日新聞は、ノバルティスファーマの降圧薬「ディオバン」の学術論文不正と企業-大学病院間の癒着を暴いたりもしていて、社会問題に関する取材力は他社とは一線を画している(と、個人的には思う)。

    この本でも、疑惑の発端から取材チームを組み、考古学についてイチから学び、取材の戦略を立て、「神の手」の足跡を追いかけていく緻密な取材の積み重ねが丁寧に紹介されている。しかも、ディオバン追及の本でもそうだったのだが、記者たちは「本来の通常業務」もこなしている。そのうえで、ネタになるかどうかも分からないものを追いかけ、映像を撮り、関係者に取材を重ねて行っている。「記者」という人種の執念や精神力、体力の恐ろしさも行間から読み取ることができる。

    読み終えると、捏造を繰り返した「神の手」にもちろん一定の非はあるものの、この人を「常に新発見をしなければならない」という立場に追い込んだ世論や報道にも責任はあるのではないか、この悪を暴いたことにより、「神の手」やその周囲の人々のその後の人生を悪い方向に激変させてしまったのではないか、といった悔恨の年のようなものが、取材した記者たちの心に澱のように残っていることが分かる。
    歴史の教科書の修正、考古学の後退といった大きな影響を与えたものの、それでも絶対的な悪はなく、絶対的な善もやはりないのである。

  • (再読)今から15年近く前、マスコミを賑わせた旧石器時代遺跡の捏造事件。今となっては紙面も覚えていなかったが、スクープした毎日新聞ではなんと6-7面を割いていたという。あるタレコミから始まった取材であるが、考古学という政治や経済とは無縁のニュースをここまで大々的にスクープ記事としてまとめられたのは例がなく、捏造が社会に与えたインパクトを今をもってなお感じさせる。その取材の振り返りをまとめたものが本書である。

  • 穢れた「神の手」
    許されないことだと思う

  • 神の手こと藤村新一が発掘した石器は日本の教科書を書き換えた。しかし毎日新聞のスクープの後、現在では藤村氏が発掘したとされる石器はほぼ全て埋め直した物とされ、前期、中期後石器時代の確実な遺跡は無くなった。

    1940年代まで日本の考古学会では日本列島には1万年以上前には人は住んでおらず縄文以前の旧石器時代には人がいなかったと言うのが通説だった。しかし1946年にアマチュア考古学者の相沢忠洋氏が約2万5千年前の関東ローム層から石器片を発掘し岩宿遺跡を発見したのだが学会はこれを黙殺した。旧石器時代の遺跡はその後次々と見つかりいずれも後期旧石器時代の物だった。当時は後期が1万年から3万年前でそれ以前が前期とされていたが今では中期(3万年前から13万年前)が加わり前期は13万年前以前とされている。日本に前期旧石器時代がはあるという立場に立ったのが芹沢東北大名誉教授で芹沢氏が発見した石器を10万年前から12万年前の物と発表しても学会の主流は否定した。この芹沢氏の弟子達が藤村氏とともに発掘した1981年に宮城県の座散乱木(ざざらぎ)遺跡で4万2千年前の地層から石器が見つかる。掘り出したのは藤村氏だった。この後藤村氏は17万年前、30万年前、50万年前、60万年前、そして上高森遺跡で70万年前と次々日本最古の石器を発掘し神の手と呼ばれるようになっていった。

    ネアンデルタール人が出現したのが約20万年前そして滅んだのが2万数千年前と言われていて、ネアンデルタール人は石器を用いたことがわかっている。北京原人の遺跡は25万年から40万年前の物と考えられており火や石器を使った可能性があると考えられている。冷静になればネアンデルタール人の時代だった17万年はともかく30万年前以上の原人の石器が発見されたとすれば世界史を書き換える出来事であり、まともな報告書も無く学会レベルで取り上げるのはどうかしている。週刊誌ネタならばそれもいいのだが。しかし、過去に岩宿遺跡を否定した考古学学会は日本に原人がいて特別な進化をしたというアイデアに取り憑かれまともな批判も無くこの発掘結果を受け入れ続けた。疑義を唱える少数の人は片隅に追いやられまともに発言できない状況になってしまっていた。藤村氏の仲間の発掘メンバーも信じたいものを受け入れてしまっていた。捏造のスクープの後ですら捏造は2点だけで残りは灰色と信じたがたった。そうしないと過去の自らの業績も藤村氏とともに消え去ってしまうからだ。巻末の対談ではこれが新しい石器だと考えられるという証言がいくつも出ているが、何人かは過去に声を上げた人だがそうでない人も混じっている。根拠は古い地層から出て来たからだけだった。

    藤村氏が石器を埋める場面を撮影したドキュメントは臨場感があり面白い藤村氏は目の前15mにいたカメラマンに気がつかないままだった。一方でマスコミが原人ブームを煽り過ぎたという非難も載っているが日本のマスコミにそこまでの科学リテラシーは無いように思えるのだが。つい最近でも恐ろしくまぬけであり得ないスクープ記事は出ている。マスコミに必要なのは批判的な見方の専門家の話を聞いた上で両論併記するのか、いずれかの意見を支持するのかを決めることくらいじゃないかな。暗い話題の多い90年代に日本は特別だという根拠にすがりつく気はわからなくもないが。

  • 歴史上の盟主になりたいという思い込みのナショナリズムが、歴史を歪ませている。

  • 考古学やってる以上、読まきゃと思って読んだ。予想以上に衝撃的だった。聞いたことのある先生、顔を知ってる先生の名前が何人も…。あの人もか!あの人もか!ってなって、ショックだった。日本の考古学ってまだまだ未熟なんだなあと痛感した。報告書も出てない遺跡を教科書に載せちゃうって…。沖縄の問題とかは「詳しい検証が必要です(キリッ」とか言うくせに。韓国や中国側が「古い起源を持ちたいという日本の願望の現れだ」って報道したそうだけど、こればっかりは反論できない…。
    ただし、全体的に昼下がりのワイドショー風な部分も否めなかったので星3つ。いや、書いてる人たちは考古学畑の人じゃないからしょうがないんだけど。

  • テーマは面白い。しかし、著者が参考資料も含め理解できておらず、取材での武勇伝報告に終始し、ワイドショー的な薄っぺらで本編終了。4章報道倫理の項は消化できてないなら書くなという要書き直しレベル。最後の資料はどろどろで面白いが学界への悪意を感じた。

  • 興奮した。とんでもないスクープを物していく過程が、本当に手に汗握る。このスクープから1年たった2001年の秋、結局藤村氏は発掘に携わり始めたほぼ最初から30年近くも捏造を繰り返していたことが明らかになった。遺跡そのものがでっち上げであるものすら明らかになった。権威ある大学の先生方は、30年間それらを放置してきた。同罪である!

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