- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784620320519
作品紹介・あらすじ
政治の流動化、経済の低迷、変容する家族、ナショナリズムの台頭、若者の生きづらさ、沖縄の重荷、歴史認識、憲法改正など、バブル崩壊以後に現れた現代日本の諸問題を語る、一九九七年から二〇一一年までの時評と講演を集めた一冊。鋭敏な時代認識、原理的な思考、社会科学的な歴史観をもって語られる、小熊史学のエッセンス。
感想・レビュー・書評
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時代感覚が秀逸で、具体的かつ明快だ。すばらしい。
この明快さは他で見たことがない。
Ⅰ.世代ごとの社会構造、政治、社会運動、思想の考察
終戦時20歳のヒトは現在87歳 戦争の生々しい記憶は遠のく
→平和の思想
1945 終戦(貧しい第一の戦後、ベビーブーマー誕生)
→急に豊かになった後ろめたさ(マイノリティ)
1955 55年体制(高度経済成長、豊かな第二の戦後)
安保、自民党ー社会党体制、豊かな人間の社会運動
(塩辛いサヨク)
→記号論、リアリティ、公、豊かさの仲での価値
1970 バブル崩壊前 細かい社会運動(甘いサヨク)
団塊ジュニア誕生
→悪くなったことへの不満、戦争がおこればいいのに。
利益再分配
1991外国人を受け入れない3種の労働者 バブル崩壊後
(正社員、技術職、低賃金労働者)
グローバル、公共事業体制(自民)、労働組合(社会)体制の崩壊
2000以降表面化
2012(現在)
プレカリアート(非正規雇用者の運動)
・社会運動が欲求不満のはけ口だったり、つながりそのものだったりという視点は新鮮。実感としてもあっているようだ。確かに戦前にはそのような若者の運動はなかった。
・仕事以外の社会のつながり方という視点も新鮮。
このようなノマド型近代人孤独(アイデンティティ)問題は、一部明治のエリート層を除くと、55年体制以降の問題らしい。核家族化もこの頃からの問題。今起こっていることの問題のほぼすべてが、この50年以内に起こっていることの結果と考えた方がいい。
・若者の失業率と麻薬、暴動の問題を的確に指摘していると思った。
Ⅱ.ナショナリズムを中心にした話題。
・ナショナリズムのメカニズムは、「差をつけて評価されたい(独創的と思われたい)」という欲求と「まわりと同じでないと排除されそうで怖い」という感情を両立してくれるしくみである、というのは「なるほど」と思った。
特にグローバリゼーションが進行する中で、不安感が歴史や伝統、ナショナリズムにアイデンティティを求め始めたと言う指摘は、100%ではないが、一面を言い当てていると思った。
・ナショナリズムを支える政治、組織のあり方自体が変化しているとの指摘。戦前の地域にあった中間共同体(企業、労組、商工会、農協)が崩壊し、面倒見のいい人たち(リーダー)が世代交代でいなくなって、投票行動やナショナリズムは原子化した個人の行動の結果となっている。
(最近はいわゆるポピュリズム的ということ)
・小熊氏はナショナリズム自体は幻想にすぎず、フランスのように建国時に理念を明確にしていればそこに立ち返ることができるが(民族とは関係なく「自由、平等、博愛」を信奉していればフランス人という考え方はわかりやすい)、日本のようにそれがない場合に戦後の単一民族神話が生み出された(矛盾だらけだが)と指摘する。それは歴史教育によって形成される。
Ⅲ.沖縄の考え方・歴史教育について
・沖縄の基地と公共事業(政府の補助金)で回っていた時代が終焉を迎え、冷戦も終わり、東アジア情勢の変化はあるものの、考え直す時期ではある。アメリカもアジア情勢(中国、北朝鮮等)が落ち着けば、コストをかけたくないはず、という指摘は「ずっとあるのが当たり前」という固定観念をほぐしてくれた。
・明治時代初期のクーデター政権は浮いていて、民衆の生活はほぼ江戸時代を色濃く残したものだった。
明治政府は、「国語」「算術」「地理」「体操」「修身」「日本歴史」を多くの反対を押し切って義務教育(強迫教育)とした。黒船の脅威から「富国強兵」をめざし、「民は愚かに保て」でなく、全員軍隊で自覚を持って戦えるようにするためで、お国のために戦ってもらうためには「修身」「日本歴史」が必須だった。
・上記にもあるように、ナショナリズム、国とは幻想であって、学校で歴史を学ばないこれまでの先人たちは、国(日本人であるということ)を意識することはなかったのではないかという意見。そもそも7世紀以前には日本という言葉は存在しないのに、縄文人、弥生人、聖徳太子を日本人と呼ぶのはナンセンス。戦前は天皇を中心とした支配体制のための歴史、戦後は日本人の均質性(ナショナリズム・愛国心、共通認識)のための歴史?役に立たない歴史?
・柳田国男は1925年に普通選挙が施行されたのを受けて、文書に残らない庶民の歴史をつくろうとして、民俗学を始めた
まだ未消化の部分もあるが、かなり刺激的な本だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
短い時評集。
総論、各論織り交っているので、色々な側面が見られる。
現行の概念を遡って如何に常識が流動的であるかを教えてくれたり、現実の諸問題の是非を客観的に検証してみたり、醒めた視点と当事者側に立つ配慮が共存している。
共通しているのは時流に流されず、観念的な問題をも現実面で捉える冷静さ。 -
約10年前の時評集、政治学者でなく社会学者の分析がユニークで説得力!。「新しい歴史教科書をつくる会」が広く支持されていったのは、「エピソード混じりで物語として楽しく教えたい」という現場のニーズに合っているというのはその通りだと思うのだが・・・。なぜサヨクが心をつかめないのかと繋がる。1955年頃までは保守が護憲、革新が憲法反対・改正の立場だったのが、逆転して現在に至るとの謎解き説明がそうだったのか!と実に興味深い。ラズロ氏の国民と住民と市民の定義が出てくる。市民とは「特定の地域において政治に参加できる者」とは考えさせられる。北方領土が日本に返還された場合のロシア系日本人にどう対応するかを考えているのか!?の指摘には呻るしかない。戦後に理念を象徴する国旗を作っていたら・・・。縄文・弥生人は日本人なのか?。日本人という意識はいつの時代から?沖縄で日本史を学ぶ人の意識・・・。著者の視点は本当に面白い。
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小熊英二氏の時評集。どれも短編なので、読み応えはあまりないが、その分小熊氏のいろんな考察をつまみ食いできると思えばなかなか良い本である。
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戦後の時代の流れの中で、物事を見る。一過性の熱にうなされるような状況もあるけど、これって大事なことですね。
「つくる会」なんかはちょうどブームが高校生の時。
振り返ればいろいろみえてくるものもあります。
テーマは多岐に渡っていたので、小熊氏の入門としていいのかな。
別の書も読んでみたくなりました。 -
大学生が学生運動に傾倒するまでの流れが長年の疑問でした。
この本は、学問気取りの文章ではなく、とてもわかりやすく社会の状況を解説しています。
北方領土問題に関する記述は秀逸です。 -
自分とは反対の立場からもちゃんと眺めて冷静に考える平等な物言いが好き。とても勉強になったしおもしろかった。
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戦後日本の社会について論じている一冊。戦後の政党のおおよその理論、社会運動の流れを説明し、現在の社会における事実を取り上げている。
他に北方領土議論に加えるべき視点や、沖縄県民に向けた講壇が載っており、視野が多少広がった。
21歳学生 -
なるほどなあと感心したのが、もし北方四島が日本の統治下に入った時、そこの住民が「ロシア系日本人」として日本に編入することに繋がることによって様々な問題が発生することを指摘した事でした。無知な私は、北方領土といえば豊かな漁場や海底資源が眠っているかもしれないといったことにしか関心がいきませんでした。小熊氏は歴史や社会を研究しているのですが、そこにはそれぞれの時代に生きる人間への温かいまなざしが注がれていることを、私はこの時評集を通して実感しました。