人はなぜ人を殺したのか ポル・ポト派、語る

著者 :
  • 毎日新聞社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620321745

作品紹介・あらすじ

理想に燃えたインテリたちが、残忍な虐殺者と糾弾されるようになった過程に何があったのか。平等な社会の独立国を建設する夢が狂気に変わり、制御不能になったのはなぜなのか。気鋭ジャーナリストが人間への根源の問いを抱えて、ポル・ポト派主要幹部に対峙した。人類史の悪夢をあばく類例のない証言。

感想・レビュー・書評

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  • カンボジアの歴史は常にフランス・米国・中国などの大国、そしてベトナムという強い隣国の思惑に翻弄されてきた。純粋なカンボジア人がカンボジアの真なる独立のために闘争した結果は彼ら自身に悲劇をもたらしてしまった。そんな歴史の証言者たるポル・ポト派の元幹部が語る言葉は事実が正しいか否かだけでなく人間とは生来罪深きものなのかと考えさせられました。
    本文よりヌオン・チアの言葉「真実はあっても、正義は存在しないことも私は分かっている。」この言葉こそが歴史を知るということだと私は思いました。

  • カンボジアのポルポト派にインタビューした本である。

    なぜ殺したのか、という問いは
    結局迂回されてしまうが、
    それは殺したくて殺しているわけでもないからだ。

    我々は動物ではないからこそ
    このように人をほとんど無作為に殺す。

    今すぐに何かかたちになることを言おうとすれば
    的外れになってしまうだろうから、それ以上はやめておく。
    本の評価としてはとても真摯に向き合った力作だと思う。

    日々を生きることの楽しさが、
    それを振りまくことが戦争状態にない人間の持つ
    最大の武器だというなら、レビューは書かないとあかんなと思わされました(苦笑

  • カンボジア。東南アジアでもっとも最近まで内戦が続いていた国。僕が初めて行ったのは90年代の終わりだったと思うが、その時は内戦終結からまだ日が浅く、タイ国境からシェムリアップへの道はまだ地雷が埋まっていると脅された。内戦中の92年に始まった国連の暫定統治で、陸上自衛隊が初めて海外派遣され、選挙監視団に参加した文民警察官が攻撃を受けて殉職するなど、日本でも当時大きなConcernだったのは記憶にある人も多いと思う。
    本書は多分世界的にも珍しい、存命中のポル・ポト派の最高幹部へのインタビューを中心としたノンフィクション。インタビュー出来る人の数も限られるが、言い訳に終始する人、今でも信念を持っている人、それぞれの言い分に唸らされるものがある。浮かび上がるのは、クメール・ルージュはそのスタート時点において余りにも純粋無垢に独立カンボジアの夢を信じすぎた、言い換えれば幼稚に過ぎたこと、それがそのまま権力を掌握し、しかし国家としての体をなす能力は無く、お互いに猜疑心に駆られた結果が虐殺へとつながっていった過程。そして何より、その土壌を作ったのは、旧宗主国であるフランス、そしてアメリカ、ベトナム、中国、という関係諸外国が、究極的には自己都合で各勢力を支援し蹂躙し、国を荒廃させた事実。日本もその責任と無縁ではいられないのだ(当時ポル・ポト派を国家承認した事実がある)。
    この10年間、カンボジアは韓国への経済依存度が高く、その結果労働搾取や両国間の婚姻による人権侵害など、様々な問題を引き起こしている。日本もユニクロ始め、安価な労働力を利用している企業は多い。今は東南アジアの海辺へのルートを模索する中国が経済的影響力を強めていて、プノンペンを中心にプチバブル的な様相を引き起こしているという。どこの国の個人がそれぞれそこで何をしようと自由ではあるが、カンボジアが1000年近く他国に蹂躙され続け、今もまだその過程にあること、やりようによってはそれに荷担することになる事実を知らないまま浮かれるのは滑稽だ。
    カンボジアにまともな国家が成立していたのは、12世紀のアンコール朝まで遡らなければならない。13世紀に入り元に侵攻されて以来、数百年の長きにわたり隣国タイのアユタヤ朝や清朝に蹂躙され、19世紀にフランスに植民地化され、それが21世紀に入る直前まで続く内戦へとつながった。2013年に再選された首相のフン・センは、元はと言えばクメール・ルージュ。そういう意味では、カンボジアはまだ、真の意味での独立は果たしていないと、僕は思う。
    余談だが、カンボジアは隣国のタイやベトナム、ラオスに比べて、「ローカルの食でうまいものが少ないよね」というのが通説。何度か行っている僕としても否定しがたい部分が有るが、上記の歴史もその理由のひとつなのかな、と。

  • ひきつづき、カンボジア。ポル・ポト体制下のカンボジアについてはかなりの数の書籍が刊行されているが、どれをどの順番に読むかでけっこう印象が変わる部分があるかもしれない。

    ポル・ポト時代の悲惨な状況のレポートは数々あれど、実際にポル・ポト派の幹部のインタビューを載せている本は少ない。たしかに、インタビューでは自己正当化も見られる。その一方で、彼らが純粋にクメール・ルージュによるカンボジアのためのカンボジア立国を信じていたこともわかる。

    彼らは口を揃えて「やり方に誤った部分はあるが、我々がやろうとしたことは間違っていない」という。そして、ポル・ポト派のNo.2であるヌオン・チアは当時の国際情勢を知っていれば、我々だけを裁くことはできないとし、法廷には『真実はあっても正義は存在しない』と語る。

    アメリカがカンボジアへの無差別爆撃を展開し、国土が荒廃したこともポル・ポト派が台頭したひとつの要因であることは間違いない。もちろん、アメリカの空爆をもってポル・ポト派を擁護する気はないけれど、それにアメリカによるシリア空爆とイスラム国の関係を重ねるのは考えすぎであろうか?

  • アジアの経済発展の波は、カンボジアにも押し寄せている。ただ、それは首都プノンペンに限ったことだ。まだまだ貧しい国だ。国の行方を決める出来事がポルポト派による虐殺。その数200万人とも言われる。ポルポト派は、欧米や周辺国の影響を受けない自分たちの国家を一から作ろうと、理想を掲げた挙句、識者や教育を受けた者ら多くの大人が殺され、国は崩壊する。
    なぜこんなことに。次々と浮かび上がる疑問を、共同通信のプノンペン支局長の女性記者が、ポルポト派の幹部に質問した本書。
    事前にカンボジアの歴史を把握し、ポルポト派が何をしたのかを知った上で読むと、理解が進みそう。
    政治的なイデオロギーが出発点だが、結局なんでそうなったのかは、本人が語らない以上分からないが、出てくる張本人たちもすべて語るわけではないし、裁判で真相が分からないことがあるように、この本でも分からないことは多い。
    ただ、家族を殺害されながらポルポト派の国づくりの理念に理解している人もいるということだ。
    元ナンバー2のヌオン・チアはもとかく、キュー・サムファンなんかは、無責任さすら感じるインタビューで腹立たしくなった。結局二人とも先日終身刑が言い渡された。
    この本を読む前にこのニュースを知ったが、読み終わったあと、判決の持つ重みを改めて問われる。
    そしてそれは、戦時中の日本、そしてタリバン、イスラム国など常にイデオロギーが引き起こす部分が大きいことである。

  • 訊いて答えてもらえる問ばかりじゃない。それでも聞く。観察する。でも、やっぱり見える所だけ。カンボジアは今でも引きずっている。これでも、よくここまで書けたというべきなんだろうなあ。

  • 70年代カンボジア。隣国に蹂躙されない強い国家設立を目指したポル・ポト派。夢と理想に満ちた指導者達が、結果200万人とも言われる同胞虐殺に至った過程を当事者達のインタビューで構成。崇高な理想や理念が疑心暗鬼と狂気に変わってしまう過程を見るに、人間はなんと愚かな生き物かと思います。

  • 映画『キリング・フィールド』を観て、クメールルージュ・ポルポト派による大虐殺を知ったので、たまたま新聞の書評でこの本が取り上げられていたので読んでみたのだが、当時のポルポト派の幹部を徹底取材したという成果があまり感じられず、また表題にも何も答えられていなくて正直がっかりした。付章1の「カンボジア略史」が少し参考になった程度。映画の方がはるかに素晴らしかった。この本を読んだ方は映画を是非鑑賞していただきたい。

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著者プロフィール

福岡県生まれ。1989年、上智大学ロシア語学科卒業、共同通信社入社。2001年から02年までプノンペン支局長、04年から06年までハノイ支局長(プノンペン支局長兼務)、06年から08年までマニラ支局長を務める。この間、米軍によるアフガニスタン攻撃、枯れ葉剤・米軍基地問題、女性問題、スマトラ沖地震津波、ミャンマーの民主化運動などを取材。
著書:『人はなぜ人を殺したのか―ポル・ポト派、語る』(毎日新聞社、2013年)

「2014年 『消去』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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