リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください--井上達夫の法哲学入門
- 毎日新聞出版 (2015年6月16日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
- / ISBN・EAN: 9784620323091
作品紹介・あらすじ
偽善と欺瞞とエリート主義の「リベラル」は、どうぞ嫌いになってください!戦後70年。第一人者によるリベラル再定義の書。
感想・レビュー・書評
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第一部は主に日本でいうリベラルとはなんぞや。面白く読めたが、第二部は専門的な話も多く難しかった。文体は平易だが、自分に法哲学の基礎がないのが理由だが。
ロールズやらサンデルやら著名な哲学者の名前がバンバン出てくるが、トマスポッゲってたしかセクハラ疑惑あったよね、、。哲学者も人間なんですかね笑笑詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
わかりやすかった。
同意出来ない部分についても、今後の思考の材料になるので読んで良かったと思う。
ただ、「原理主義的護憲派」を「電車で化粧する女性」に例えるジェンダー意識は頂けない…。
性別限定しないで出来る例えが幾らでもあるだろうに…。 -
日本法哲学界のドン、井上達夫による独自の法哲学入門。自説バリバリの本ゆえの長所と短所が。
いい点としては、分かりやすく簡潔で、バラエティに富んだ内容で飽きが来ない。200ページほどの分量ながら、第1部ではリベラリズムの概説と現代的な論点への言及、第2部では井上の研究生活に沿ってこれまでの法哲学の流れを通覧と、さまざまな話が展開される。
ロールズやサンデルなど大家の理論でも、井上が誤りだと思うものは容赦なく切って捨てている。そのため中立的な入門書にありがちな、どの説もそれなりに正しく聞こえて結局何が言いたいのか分からない、ということが起こらず論旨が明快。説明の巧みさもあり、これ以上分かりやすい本はないと言える。
裏返しになるが、井上の見解が前面に出過ぎているのが悪い点。自説と異なるものをきっぱり「ミス」とか「誤った論理」と断定しているが、失礼ながらイマイチ信用できない。ロールズやサンデルほどの学者が、素人の私が一読して分かるようなミスをするとも思いづらいし、せいぜい価値判断の違いなんじゃないか。
もう一つ、本書の第1部では憲法9条や天皇制といった現代的な問題も扱っているが、「天皇制は現代に残る奴隷制だから廃止すべき」みたいな空中戦が多くて、個人的にはあまり意味のない議論に感じられた。
総じて厳密で信頼のおける本ではないが、ライトに読むにはこの上なくおすすめ。井上が自分の文脈で喋っている分、専門的発展的な内容が急に出てきたりするので当たり障りのない新書よりも満足度は高いんじゃないかと思う。 -
法哲学という分野の書に手を出すのはほぼ初めてだが、本書は期待外れだった。筆者や出版社の問題ではなく、読者たる自分の理解力不足の問題なのだが。
書名や、時折メディアに出てくる筆者の発言から、「リベラル」「リベラリズム」という語の多義性を、現実の諸問題に即して解説してくれるのかと期待していたら、そのような内容は冒頭の1~2割ほど。残りの部分では、法哲学の各思想をひたすら概念的に語っているため、分かりにくかった。また、筆者の口述を出版社が再構成しているという作りのためか、確かに一見読みやすいが、だからと言って内容が平易なわけではない。更に、「第一部」「第二部」以上の章立て・項目立てがなく、だらだらとした印象でもあった。
筆者が重視する「正義概念」の本質は、「普遍化不可能な差別の排除」と「二重基準の禁止」。安全保障政策は通常の民主的討議の場で議論されるべきとして9条の廃止を、また無責任な好戦感情に国民が侵されないようにするために無差別公平な徴兵制を、それぞれ主張している。実現可能性はともかく、out of boxな思考としては面白い。また、過度の自己否定も過度の自己肯定も間違っているとし、リベラル派も保守派もお互いに自己批判的な視点をもって真摯な対話をする必要がある、という記述には頷けるものがあった。 -
「皇族には人権がない。皇族とは日本最後の奴隷である。彼らを解放しなければならない」
マジメで役に立つ話だなーと思って読んでいるうちに、だんだんヒートアップしてきて若干ウザい感じに。血管浮き出てそうな語り口だなーと思って読み進めたら最後にオチがついて、ほっこりした。
(引用)私は、若いころ低血圧だったのに、グローバルな規模で不正がのさばっている現実に怒り、それに呑み込まれてゆく哲学の死に怒り、最近は高血圧化してしまって、降圧剤を飲み始めています。しかし、今の状況を見ていると、還暦すぎたからといって円くなっていられない。「怒りの法哲学者」として、角を立てて生きていきますよ。
メモ:
ポッゲのグローバルジャスティス論。ユダヤ人を600万人ころしたホロコーストをあれだけ人類史上最大の犯罪だと批判していたその人々が、年間1800万人が死んでいる貧困の問題 (poverty related death) について積極的な支援の義務がないといっているのは欺瞞だという怒り。 p.157
本当は人権も民主主義も西欧においてすら未解決の課題なのに、欧米人はそれらを自分たちの独占物として、伝統として血肉化していると考える。外の奴らはイスラムだろうと何だろうと関係ないという態度、偏見。これはオリエンタリズム。 p.189 -
まず、リベラリズムが自由主義ではないということに驚いた。リベラルは、本来は「正義主義」とでも訳すべきでると。公正、公平を最も重んずる思想であると。その中で、グローバルジャスティス、世界正義という概念が現れる。僕も正義とは胡散臭いと思っていた。どの陣営も正義を謳うが、その正義が争いを引き起こすと。しかし、それは本来の正義ではない。実は、正義というものは厳然と存在するが、どの正義も、それらの解釈に過ぎず、その解釈の差異で争いがおこる。しかし、世界正義というものを構築していくことは無駄ではなく、必要なことだと本書から感じた。価値を相対化するだけでは後ろ向きだ。様々な価値を受け入れつつ、それでもなお、すべてを包含する正義を探求する。それこそ人類の使命ではないか。
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法哲学者としてリベラリズム研究をリードし、『共生の作法』でサントリー学芸賞、『法という企て』で和辻哲郎文化賞を受賞した学界ど真ん中の碩学。文章は高度に論理的で、その緻密さゆえ「難解」とされてきた。その井上達夫が、まさかこんなにくだけたタイトルの本を出すことになろうとは。本文もインタビュー形式で、読みやすい。
「安倍政権による政治の右旋回」が急速に進む一方、対抗軸としての「リベラル」も信用を失っている今、その政治状況への応答を動機として、リベラリズムの専門家が、その真髄を、一般読者にも理解できる平易な文体で届けようとする。しかし、これは日本の「リベラル」を擁護するものではない。むしろ、その欺瞞を鋭く指摘し、厳しく批判している。そして、法哲学的な思考態度のトレーニングを兼ねて、哲学史を遡りながら本来のリベラリズムとは何か、解説していく。
憲法9条をめぐり、法学の内外に賛否両論のある井上説(9条削除論)についても、丁寧に書かれている。哲学の冷徹な方法論と、その根本にある情熱を同時に知ることのできる最高水準の法哲学入門だ。これが、昨今の政治状況のおかげで誕生したことは何とも皮肉だが、せっかくなので広く一般に届けたい。 -
あとがきで「本書は、『平易な哲学書』をめざしている」と述べているとおり、細かい事項に深入りすることなく、平易な語り口調で、井上の思想の全体を概括している。第一部では主に日本の戦後リベラルの展開を批判的に論じ、第二部では正義の諸構想についての学説を紹介しながら正義概念に関する自身の理論を敷衍する。タイトルに違わず、リベラルの腐敗からリベラリズムを救い出す、という意識が本書全体に通底している。完成された理論ではなく井上の思考の道筋を辿っていく感覚はかなり面白い。砕けた言葉遣いの端々に、思想的に自殺したリベラルに対する「怒りの法哲学者」の憤懣が滲んでいた。しかし、井上の難解な専門書に慣れている読者にとっては満足できない企画かもしれない。テーマが右往左往して読みにくく、また井上自身の理論よりも分野全体を概観することに重きが置かれているため、彼の思想を批判的に検討するには他の著書を参照すべきだろう。
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近年の日本の「リベラル」の憲法論のダブル・スタンダードぶりから、ロールズ正義論の問題まで、時局問題から出発しつつ原理的な問題や自らの学問的遍歴までを、インタビューに答えるというかたちで世に問う著作。リベラリズムを正義への積極的なコミットメントとして再解釈し、何でもあり式の寛容論や価値相対主義を斥ける議論は、著者によればポパーの批判的合理主義の立場から出てくるものである。かつてほど顧みられていないポパーの議論からリベラリズムの哲学的基礎を再建しようとする議論は非常に興味深い。