ウイルス ミクロの賢い寄生体 (サイエンス・パレット)

著者 :
  • 丸善出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784621088166

作品紹介・あらすじ

我々の歴史はウイルスとともにあるといっても過言ではない。天然痘、黄熱病、SARS、AIDSなどの感染症の流行は人類社会に大きな影響を及ぼしてきた。人類はウイルス感染から身を守る免疫システムを発達させ、ワクチンをはじめとした予防法や治療法を開発する一方、ウイルスも急速な変異でその裏をかく戦略を展開し、互いに進化している。 本書では、人類のウイルス観の変遷、感染のしくみ、さまざまな感染症の起源と現状、治療技術の進歩、ウイルスの地球生命圏における役割、そして我々とウイルスとのこれからの付き合い方に関する提言まで、ウイルスの全体像を描き出す。この小さな賢い寄生体がどこから来て、本当は何がしたくて、どこへ向かうのか。それを考えることのできる一冊。

感想・レビュー・書評

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  • ウイルスって、結局なんだっけ。このようなレベルの自分にも大変わかりやすかった。
    現在世界中の問題となっているCOVID-19のみならず、一見ウイルスが関係ないと思われているようなヒトの病気にも、ウイルスがこっそりと潜んでいる気がしてならない。

    「ウイルスはどこから来て、本当は何を起こしたくて、そしてこれからどこへ向かうのか」を考える本になれば、とは筆者の言葉。
    上記3点にわけて学んだことをまとめる。

    ①ウイルスはどこから来るのか
    ・レーウェンフック(1632~1723)による顕微鏡の発明~~1939年に電子顕微鏡が発明されたことにより、ウイルスの視認が可能になり実態の解明が急速に進んだ。(多くのウイルスは細菌の100~500分の1の大きさで、光学顕微鏡では確認できない)。
    ・カプシド(カプソメアというタンパク質のサブユニットで構成された外殻)で遺伝子が囲まれた構造。
    ・ウイルスには細胞内小器官がない=タンパク質を作るリボソームやエネルギー産生を行うミトコンドリア、分子を細胞内に取り込む膜構造などがない。よって、生活環を維持するために他の生物の細胞を「乗っ取って」必要な細胞小器官を利用する必要がある。
    ・宿主細胞のレセプターに結合し、カプシドが細胞内に侵入→ゲノム(DNAまたはRNA)が細胞質に放出→宿主細胞が元から持っているDNAのように装い、細胞の転写および翻訳機構を利用してウイルス自身の生産ラインを確保する→ウイルス由来のDNAはメッセンジャーRNA(mRNA)へと転写され→宿主細胞由来のリボソームによって個々のウイルスタンパク質に翻訳される→バラバラに産生された構成要素が集まり、ウイルス粒子が形成される→細胞を突き破って出ていく(出芽)
    ・ちなみにRNAウイルスの一部(プラス鎖RNAウイルス)では、自分の遺伝情報をmRNAで持っているので、DNAウイルスより手順が一つ少なくて済む(マイナス鎖RNAウイルスでは、ゲノムはmRNA合成のための鋳型の極性として存在するために、DNAウイルスの場合と同様に転写の段階が必要)。
    ・RNAウイルスは地震のRNAを複製し、タンパク質の翻訳に使われるRNAを合成する酵素を持っている。
    ・レトロウイルスは独特。RNAウイルスファミリーの一つだが、宿主の免疫機構に隠れつつ、宿主の一生涯にわたる感染を持続できる。「逆転写酵素」によって、細胞に侵入した時点でまずRNAをDNAに変換する。DNAはインテグラーゼという酵素により宿主細胞のDNAに結合し、組み込まれる。→組み込まれたウイルスゲノムは「プロウイルス」と呼ばれ、効率よく細胞内に保管されて永続的にとどまり、細胞が分裂する際に細胞DNAと一緒に複製される。プロウイルスは娘細胞に引き継がれていくため、宿主体内に感染細胞が蓄積されていく。
    ・ウイルスの世代交代は1日か2日!さらにRNAは校正システムがないため、RNAウイルスは1世代でおよそ数千塩基(対)に1個の割合という高確率で変異が生じる!=「進化と抗原性の変化が著しく早い」
    ・ウイルスの進化のもとは、全生物最終共通祖先(LUCA:last universal cellular ancestor)(=古細菌、真性細菌、真核生物のドメインに分岐する前)と考えられている。

    ②ウイルスは何を起こすのか
    ・新興ウイルス感染では、多くの人がはじめて感染し、次の同じウイルス感染に対して免疫ができ、ほとんどの人が免疫をつけてようやくウイルス流行は終わる、という周期を繰り返すことになる。
    ・はしかウイルスの重症化:農村地帯ではしかの流行の間隔がより長く死亡率もより高くなる(より高い年齢ではしかを経験する)のはなぜか。→感染感受性のあるこどもの数がより多く、咳嗽によって発生する粒子により広がり、家庭のような閉鎖された空間内の短い距離で最もその伝染性が強くなる。家庭内の感染ではウイルス感染量が多くなり、重症化しやすい。
    ・持続感染ウイルスの戦略:
     ①隠れる(免疫系の攻撃に見つからないように)
     ②操る(免疫機構をウイルス自身の利となるようにする)
     ③裏をかく(高頻度で突然変異することにより、免疫の裏をかく)の3点
    ・ヘルペスウイルス科
     4億年ほど前に進化し、生物のかなり初期から宿主とともに進化している。
     150種類以上のヘルペスウイルスが同定されており、すべて大型でエンベロープに覆われており、80~150個のタンパク質をコードするDNAウイルス。
     潜伏感染する細胞の種類に基づいて3つの亜科に分類され、α、β、γとよばれる。αは神経節(HSV1,2,VZV)、βは白血球または骨髄幹細胞(HHV-6,7,CMV)、γはBリンパ球(HHV-8、EBV)なおヒトヘルペスウイルスは現在8種類同定されている。

    ・レトロウイルス科
     古代人のゲノムにはレトロウイルス由来の配列が多数残っており、いまよりもっと多くの種類のレトロウイルス感染の犠牲となっていたことを示唆する手がかりも見つかっている。それがヒトゲノム内に「いつどうやって入り込み、なぜ、維持されたのか」は未だに謎。

    ・肝炎ウイルス
    ・腫瘍ウイルス
     ウイルスと腫瘍の関係を実証することは非常に難しい。一般的には
     ウイルスの地理的分布が腫瘍のそれと一致する、ウイルス感染の発生率は正常なものより腫瘍を持つものの方が高い、ウイルス感染は腫瘍成長に先行して起きる、腫瘍の発生頻度はウイルス感染の制御により減る、腫瘍の発生頻度は免疫不全の人の方が高い。また腫瘍ウイルスと疑われるウイルスに関して、「ウイルスゲノムは腫瘍に存在するも、正常細胞にはない」「ウイルスは培養組織下で細胞に形質転換を起こす」「ウイルスは実験動物において腫瘍を形成する」

    ・現在、世界中で毎年180万のウイルスに関連したがんが診断されている。これはすべてのがんの18%にあたる。おそらく今後発見されるものもかなりあるだろう。

    ③ウイルスはこれからどこへ向かうのか
    ・ウイルスの存在や免疫反応が解明される前にも、ウイルス感染症の予防に成功していた事例:人痘に対するメアリー・ワトレー・モンターグ婦人の接種、エドワード・ジェンナーのワクチン開発
    ・抗ウイルス薬の開発:はじめて認可されたのは1970年代に開発された、アシクロビル。
    ・まだ知られていない病原性のあるウイルス解明のカギを握るのがsequencing
    ・害がないと考えられているウイルスが実はよくみかける病気の発症に関与しているかもしれない

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著者プロフィール

永田 恭介
1953年生まれ。専門分野:分子生物学。1981年東京大学薬学研究科博士課程修了、薬学博士。1985年国立遺伝学研究所分子遺伝研究系・助手、1991年東京工業大学生命理工学部・助教授、1999年同大学大学院生命理工学研究科・助教授。2001年筑波大学基礎医学系・教授、2004年同大学大学院人間総合科学研究科教授、2011年同大学医学医療系・教授。2010・2011年筑波大学学長特別補佐兼務、2012年筑波大学学長特別補佐。2013年から筑波大学長。

「2022年 『もっと知りたい!「科学の芽」の世界 PART 8』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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