神谷美恵子著作集 (3) こころの旅―付・本との出会い

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  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622006336

感想・レビュー・書評

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    人の生にこんなにも重味が感ぜられるのはその生命にこころなるものがあまりにも発達してそなわってしまったからなのであろう。人生とは生きる本人にとって何よりもまずこころの旅なのである。(人生への出発 はじめに)

    感情生活は乳児時代からどのように発達して行くのであろうか。「人間は感情の動物である」ということばがあるくらい、人間の一生のこころの旅は感情の質や起伏によって、考えることや行動することまで左右される。おとなになるに従って、この力は多くの場合、無意識のうちにはたらくようになるが、自覚される度合の少ない感情ほどかえって威力を発揮するとさえ、いえそうである。
    「感情的」ということばは、しばしば悪い意味に使われるけれども、これを統御する力さえ健在ならば、感情はゆたかで深くあるほど「人間らしさ」をつくりあげる一要素だと思われる。(人間らしさの獲得 感情生活)

    ここでまたちょっと親の側を考えてみると、乳児期にはただ子供の身体的必要をみたすことに追われ、それをみたしてやりさえすれば子どもはほほえみをもってむくいてくれたのに、ことはいつまでもそう簡単ではないのをここで親は学ぶわけである。要するに親になることとは、きびしい人生学校に入学するようなものなのだろう。(三つ子の魂 反抗と自律)

    とくべつの場合を除いて、親はあくせくせずに、子どもの「内なる自然」がひとりでに伸びていく力を信じて待つ、という姿勢が幼児期いらい、一貫して必要なのだと思われる。
    以上のように学齢期は、ふつうに行けば人間の一生のあいだでもっとも安定した時期の一つで、心おどる「学びの旅」をなしうるときである。それは来たるべき嵐の前の静けさといえるかも知れない。(ホモ・ディスケンス 小児期の問題行動について)

    こうした社会的潮流(学生運動とか)にぶつからない世代の場合には、青年の反抗はもっと個人的なかたちで、親や師などにむけられる。ことに親がもっとも槍玉にあげられやすい。子どものときは万能視していた親の限界があざやかに見えてくるからであろう。青年は完全主義的な基準を抱くものである。これに合格することを親は望む必要はない。第一、青年は親の長所も短所もーおそらく短所のほうをよりよくー知りぬいている。せいぜい親にできることは「うそをつかないこと」、誠意をもって子どもに対することだけではなかろうか。子どもは親をたたき台ともふみ台ともして成長し、成長した上でまた親のところにこころをもどしてくる。多くの場合、多少のあわれみといたわりをもって。(人間性の開花 反抗と憎悪)

    夫婦とは他人同士でありながら、いかなる身内よりも互いにありのままの自分をさらけ出すことになる。であるからどんな対人関係よりも自他を深く知る機会がここにある。それは相手の人がらを知るとともに自分の強さや長所よりも、むしろ弱さや欠陥を思い知る機会でもあろう。相手にゆるしてもらい、助けてもらわなければ存在しえない自分を知るとき、人間はより謙虚になり、他人への思いやりも深くなりうる。必ずしも完全無欠な配偶者が長つづきする結婚の相手になるとはかぎらない、という事実も、これでかなり説明されるのではなかろうか。(人生本番への関所 配偶者の選択)

    「生活曲線」が頂点へ昇りつめかかったころ、青年のこころはまた親のところへもどってくる。下降をはじめた親の生活曲線と青年のそれはいわば交差して、やがて立場が逆転してくる。ことに青年は母親に対して保護者のようにふるまいはじめるのが自然のなりゆきのようだ。ここにゆとりとユーモアが介在すれば、母子はよき友として、乳児期に始まった人格的な出会いを完成することができるかもしれない。しかしもちろん、それには母子の性格の相性ともいうべきことが必要だし、また母親みずからが「人生学校」で充分きたえられ、自己への洞察を深め、人格的に成長してきたのでなくてはむつかしいことであろう。(人生本番への関所 青年と親の関係)

    「こころの旅 神谷美恵子コレクション」に続きます。ごめんなさい。

  • 人間の一生をたどる仕方で、心の変遷とさまざまな場面で出会う問題について語っています。

    誕生から青年期までは、フロイトやエリクソン、ピアジェの説を参照しながら、一般的な心の発達のプロセスが解説されますが、壮年期や老年期に直面する心理的な問題については、著者自身の経験から紡ぎ出された考察が披瀝されています。理論的な説明に偏ることなく、われわれの心の問題に寄り添うような仕方で考察が展開されています。

    そのほか、著者の書評や読書日記なども収録されています。

  • ¥105

  • 人間の各々の発達段階における心身の特徴や機能を説いた専門書です。何かの講義のテキストとして使いまして、一度しか読んでないです

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著者プロフィール

1914-1979。岡山に生まれる。1935年津田英学塾卒業。1938年渡米、1940年からコロンビア大学医学進学課程で学ぶ。1941年東京女子医学専門学校(現・東京女子医科大学)入学。1943年夏、長島愛生園で診療実習等を行う。1944年東京女子医専卒業。東京大学精神科医局入局。1952年大阪大学医学部神経科入局。1957-72年長島愛生園精神科勤務(1965-1967年精神科医長)。1960-64年神戸女学院大学教授。1963-76年津田塾大学教授。医学博士。1979年10月22日没。

「2020年 『ある作家の日記 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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