舞踏会へ向かう三人の農夫

  • みすず書房
3.73
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感想 : 39
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  • Amazon.co.jp ・本 (415ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622045175

感想・レビュー・書評

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  • んー好きじゃない小説だった。

    理由1:途中に入る「私」の論に気をそがれる。しかも本書のコアになる主張が地の文で全部書いてある。だったら「私」を持ち出さないでパワーズの名前で論文として書けばいい。主題がそのまま書いてあるのは文芸だと思わない。

    理由2:女が男を喜ばせる道具のように書かれている。男たちの態度が実に図々しく、それが許されている。女に心があるって知らないのかな?パワーズはお母さん以外の女性に接したことがないんですか?っていうくらい。特にアリソンの使われ方がチープすぎて酷かった。

    農夫の写真に重なり合ういろんな人たちの20世紀っていうアイディアは悪くないと思うけれど、全然のれなかった。本書は傑作ということになっているので、理解する力がなくてすみませんね、という気持ち。冗談のセンスが絶望的にあわなかったことを差し引いても、何がよいのかわからなかった。

  • パワーズの知識と想像と思索のあらん限りを注ぎ込んだ渾身の作。とんでもないデビュー作だ…。
    1枚の写真に魅せられた私の探求と思索、写真に写った3人の男達の話、1人の男がパレードで見かけた女を探す話。並行するこの3つの物語が20世紀的トピックの数々を抱き込みながら次第に絡み合っていく。
    そしてこの物語を読んだ私やあなたが最早読む前と同じではないように、私によってそしてあなたによって読まれたこの物語は最早パワーズが書き終えた物語と同じではないのだ。これはそんな小説。

  • 最後まで読めてよかった!ピーターと「私」の章、フーベルト、ペーター、アドルフらの女の子関係(それが現在にどうつながるか)などなど、どうにもごっちゃになってしまい、全体としてちゃんと理解できた自信はないけど、ただ難解なだけじゃなく、個々の逸話に血の通った面白さがあり、読んでる瞬間はとにかくその章の物語に入り込まずにはいられなかったから、切り替えが難しかったってのもあるかな。そして、著者も読者に切り替えるよりは、多少ずれつつもどんどん重ねていく、オーバーラップさせることを促していたんじゃないかなと、勝手に解釈。現に、いろんなものが重なってるのが見えた瞬間が読んでる途中何度もあって、ゾクゾクした。でも、三人の農夫がカメラマンの向こうに見た幻視(あの描写は鳥肌)じゃないけど、わかったかなと思うとそのヒントみたいなものが次の瞬間には消えてしまって、結果的によくわからないまま…。でも、今作は、けっこうすがすがしく「まあ、いいか」と思えた。
    登場人物の中では、ウェイトレスのアリソンが好き。思考回路なんかは自分と重ねられるところもありつつ、メイズとの関係は下手なロマコメよりいい感じだし。
    これがパワーズのデビュー作で、日本で邦訳が刊行されたときかなり話題になった記憶があるけど(さっきネットで見つけた過去の記事では、発売1カ月で4刷だったとか!その時の読者、今生きてるのか、何読んでるのか知りたい笑)、私はパワーズ5作目。個人的にはこの順番でよかったのかも。今回、その作品群が夜空で星座を作ってて、一番最初に誕生した星が『舞踏会』ってイメージで、他の作品とのつながりが見えてきた。『囚人のジレンマ』は、大戦(第一次&第二次)、偉人(フォードとディズニー)、歴史つながりだし、『われらが歌う時』とは、時空超越、同時存在つながり? 『オルフェオ』とはテクノロジー(写真とネット)と社会と個人ってテーマでつながってる。activistとか環境がテーマだという新作『The Overstory』も早く読みたいので、翻訳急いでほしいです。

  • 物語は一枚の写真から始まり、一枚の写真を軸に三つの物語が交錯し、20世紀の時代性を俯瞰するまで膨張し立体化する。写真は我々を見返す。そして巻き込まれる。やがて共謀関係を育み被写体が現在において再創造される。たった一枚の写真からこんなにも凄い物語と考察を導き出したパワーズに脅威と敬虔の念を抱かずにはいられない。瞬間に定着された三人の若者が私の目の前で動き出した。彼らの後姿を見送り最後のページを閉じた。でも終わらない。彼らの視線の行く先に今の私がいる。見るものと見られるものの逆転。世界が広がる。大傑作!

  • これほどまでにサービス精神旺盛な作家って他にいるだろうか?著者の脳という巨大なデータベースから、雑学的知識や、哲学的な見識、皮肉っぽい言葉遊びがとめどなくあふれ、文章をごてごてと装飾していく。装飾しすぎて文と文とのつながりが見えないので、とっつきは良くない。買ってから2回トライして失敗、3回目にやっと読了したのも納得の個性的な文体だ。

    3つのパートに分かれているうち、私が気に入ったのはコミカルなピーター・メイズの章だ。コンピュータ雑誌の編集をしている彼のおたく的な内面や思考が妙に平熱で表現されているのがとにかく可笑しくてたまらない。ひと目ぼれした運命の女を探す彼の運命はとにかく先が読めず、なかなか手に汗握る。

    もう1つのパートは、題名でもある「三人の農夫」が主人公だ。20世紀末から初頭、そして第一次世界大戦までの激動の近代化の時代を、たっぷりの歴史的うんちくと共に描く。フォード自動車の創始者ヘンリーの人物像はまったく知らなかった!

    そして著者パワーズ自身だろう、「三人の農夫」の正体を追う「私」の章。高度に思索的なこのパートが一番読みにくい。しかもストーリー展開がないので少々退屈。でも、全てを読み終わって思い起こすと、このパートに一番心に残る名フレーズが多いことにも気づく。
    第十九章「安価で手軽な写真」はすぐれた写真・映画論になっている。写真を見るときに鑑賞者の中で起こる不思議な現象を見事に文章化していて目から鱗が落ちた。

    3つの枝が1つの幹へと収束するエンディングも心憎いばかり。たかだか100年前、すべての価値観が変わった20世紀のはじめ、歴史書に残らない人々は時代をどう生きたか。本書とザンダーの匿名的な肖像写真が、想像と共感の助けになることだろう。

  • 「舞踏会へ向かう三人の農夫」と題された写真から始まる3つの物語。
    一つは写真の農夫たち自身の、一つはこの写真に見入られた者の、そしてもう一つはまた違った「過去」に見入られた者の物語である。この3つの物語は時に明示的に、時に遠まわしに相互に絡み合いながら一つの「啓示」に繋がっていく。

    とても魅力的な小説である。
    一つには3つの物語が探究するものを追うという、ある種謎解き的な、まっとうな小説の楽しみがある。また一方では、これでもかと盛り込まれた写真論や伝記論・小説論という知的好奇心を刺激する要素がある。そしてこの両者が互いにと照応するかたちで示されているところが、この小説を最後まで興味深く読めた所以だと思う。

    そしてかなりスケールの大きな小説であるにもかかわらず、「地に足のついた」感覚が、読者をひきつけてやまない。とても身近な話に感じるのである。それはまさにこの小説が、20世紀を、20世紀を生きるどうということのない人間を、扱っているからなのかもしれない。

    ともかく、この小説には、読み手を満足させるに足る、かなりの魅力がぎっしり詰まっている。いい本でした。

  • パワーズのデビュー作にして邦訳第一弾。アウグスト・ザンダーが撮影した実在の写真をめぐる物語と撮影された男たちの空想の物語と現実とが交錯する二十世紀最後の傑作。柴田元幸も翻訳も大変だっただろうなあ。

  • これは、あれだ、頑張って最後まで読んだ自分を褒めてやりたい、ていうやつだ。
    ページの厚さ以上に文字多すぎですから。しかもあっちゃこっちゃ内容が飛びまくるし、もう試されてる感。
    でもって内容はと言われると、まぁ色々ありすぎて、ね。なんだけど、アドルフ、すわ第二次大戦とユダヤ人ネタか!と思いきやの第一次大戦からのヘンリー・フォードやらザンダーやら、知らぬ話が続々とやってくるので、それなりには面白いのですよ。途中の作者の思い入れのある哲学的な文章を乗り越えていければ。

  • ふむ

  • 現代的だな、と思う
    内容がとかじゃなくて、テンションが

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著者プロフィール

1957年アメリカ合衆国イリノイ州エヴァンストンに生まれる。11歳から16歳までバンコクに住み、のちアメリカに戻ってイリノイ大学で物理学を学ぶが、やがて文転し、同大で修士号を取得。80年代末から90年代初頭オランダに住み、現在はイリノイ州在住。2006年発表のThe Echo Maker(『エコー・メイカー』黒原敏行訳、新潮社)で全米図書賞受賞、2018年発表のThe Overstory(『オーバーストーリー』木原善彦訳、新潮社)でピューリッツァー賞受賞。ほかの著書に、Three Farmers on Their Way to a Dance(1985、『舞踏会へ向かう三人の農夫』柴田元幸訳、みすず書房;河出文庫)、Prisoner’s Dilemma(1988、『囚人のジレンマ』柴田元幸・前山佳朱彦訳、みすず書房)、Operation Wandering Soul(1993)、Galatea 2.2(1995、『ガラテイア2.2』若島正訳、みすず書房)、Orfeo(2014、『オルフェオ』木原善彦訳、新潮社)、Bewilderment(2021)。

「2022年 『黄金虫変奏曲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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