火山に恋して: ロマンス

  • みすず書房
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (470ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622045281

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  • 『反解釈』、『隠喩としての病い』の著者スーザン・ソンタグの書く小説とはどんなものか、という興味から読み始めた読者は、一読後、みごとに裏切られることになるだろう。『火山に恋して』は、多彩な登場人物に彩られた華麗な歴史絵巻に仕上がっている。

    舞台は18世紀ナポリ。主な登場人物は火山研究家にして著名な美術品蒐集家でもある英国公使ハミルトン卿(カヴァリエーレ)。その妻キャサリン。二度目の妻エマとトラファルガー海戦の「英雄」ネルソン提督。この四人に、『ヴァテック』の著者であり、フォントヒル・アベーの主、ウィリアム・ベックフォード、詩人ゲーテなどの有名人が登場人物として絡むという、典型的な娯楽小説になっている。

    作家は、カヴァリエーレが公使として仕えるナポリ公国の宮廷生活の細々とした出来事を、まるで風俗史を繙くように、想像力を働かせた叙述を交えながら具体的かつ微細に描いてゆく。粗野なナポリ王を厭うキャサリンは、公使の従弟であるベックフォードとの間に、宮廷生活に明け暮れる夫との間にはない親密な関係を持つようになる。しかし、それもベックフォードの帰国によって終わり、失意のキャサリンは早逝する。喪失感に苦しみながらも、公使は新しく目の前に現れたエマの美貌と才気を愛するようになり、やがて妻に迎える。しかし、エマは、救国の英雄である提督との愛に溺れていく。妻の不義に気づきながらも、公使はそれをとがめず、父のように接する。大国の争いに翻弄される小国の政治史を背景に上流貴族の私生活を冷静な筆致で描いた作品である。

    所々に挿入される批評家ソンタグの穿った解釈は楽しめるのだが、物語自体はよくある三角関係のドラマの範疇を一歩も出ない。鍵を握るカヴァリエーレの心理描写が今ひとつ精彩を欠くように感じられてならないが、歴史小説ならこんなもんかという思いもある。こちらの勝手な思い込みが裏切られたからといって作家を責めるのは酷というもの。むしろ、ピラネージ、ウォルポール、ベックフォードといった人物をそれこそ蒐集して、物語に点綴してくれたソンタグの審美眼の確かさを誉めるべきだろう。そういう意味では楽しめる小説であった。(富山太佳夫訳)

  • 【要約】


    【ノート】

  • 2014/11/28購入

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著者プロフィール

1933年生まれ。20世紀アメリカを代表する批評家・小説家。著書に『私は生まれなおしている』、『反解釈』、『写真論』、『火山に恋して』、『良心の領界』など。2004年没。

「2018年 『ラディカルな意志のスタイルズ[完全版]』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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