- Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
- / ISBN・EAN: 9784622045625
作品紹介・あらすじ
翻訳家という情熱家の姿を追いかけ、中世のアラビアから現代のヨーロッパまで訪ね歩くユニークな文化史。資料の森に分け入って、異文化接触の知られざる立役者に光を当てる。
感想・レビュー・書評
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翻訳家である著者が、フランスを中心とする翻訳史を渉猟しつつ、翻訳にたずさわったさまざまな人びとの足跡をたどっています。
翻訳という営みには「他の文化との接触のありようが凝縮されている」と著者は述べています。いつの時代にも、たがいに異なる文化が衝突し、混じりあい、影響しあう最前線となってきたのが翻訳という舞台だとされています。
本書で紹介されている人物のなかで、とりわけ印象的だったのが、17世紀のフランスに生まれたアンヌ・ダシエでした。生涯のすべてを古代の探究に注ぎ込んだ彼女は、ホメロスの『イリアス』と『オデュッセイア』の翻訳に力を注ぎます。ところが、彼女の翻訳に対する誹謗に近い批判がラ・モットによって出されたことがきっかけで、古代ギリシアやローマがいまなお自分たちの手本になりうるかという論争が巻き起こります。ラ・モットは、粗野で無知な時代に生まれたホメロスの作品を翻訳するにあたって、「保存すべきと思われる箇所のみを取り、しかも遠慮なく修正を加え」てよいと主張しました。
ヨーロッパにおける「近代」の誕生は、古代を熱烈に崇拝するルネサンスを出発点としています。しかし、その後しだいに古代の権威は揺らぎ出し、時代とともに人間は知的にも道徳的にも進歩を遂げるという確信がいきわたっていくことになります。こうした風潮とともに、古代の文化に対する侮蔑が人びとの心に芽生えはじめます。アンヌ・ダシエはこうした風潮に対して、古代の偉大さを説くとともに、同時代のフランス人の傲慢さを厳しく咎めています。
このほか、ニュートンの自然哲学を紹介したエミリー・シャトレの数奇な生涯や、ドニーズ・クレルーアンという歴史に埋もれた翻訳家を著者が掘り起こすエピソードなども興味深く読みました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
翻訳の歴史は、文化の伝播や学問の発展の軌跡そのもの。世界史でならった、ばらばらの知識が、翻訳、という視点を通すとつながって見える。面白い。この、翻訳が時空や空間を超えていく感じ、図書館の機能と同じだなあ、と思っていたら、あとがきの多くの部分が図書館にまつわる話だったので、妙に納得してしまった。
著者も含め、翻訳者の情熱が伝わってくる、知的な楽しみが得られる本。 -
翻訳の歴史、翻訳者のステータスなど歴史を追って説明したもの。
翻訳の始まりはラテン語ではなく、ギリシア語だったりアラビア語だったりした。
翻訳によって異国の優れた文化を自国に輸入出来るようになるため、
かつて翻訳者は王や貴族といった権力者に庇護されていた。
しかし、翻訳者の名前すら本に載らないといった矛盾もかかえ、
それはつい最近まで変わらない状況であった。
著者がフランス語翻訳者なので、主にフランスの翻訳状況について解説されている。
フランス語はラテン語から国際語・学術語としての地位を奪ったので
フランス語翻訳者はフランス国内だけでなく、ヨーロッパの翻訳文化をも代表した。
著名なフランス語翻訳者の経歴や、
それらの人物にまつわって成立した翻訳学校、協力機関などについても詳しい。