ミセス・スティーヴンズは人魚の歌を聞く

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622045649

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  • 「常軌を逸した女にとっては、芸術が健康に、唯一の健康になるの! ───── それはわたしの意見では、こわれてしまったから失われてしまったものを再度合体させて、もう一度完全なものにしようとする、たえざる試みだと思う。それは、いつだって統合なのよ。」

    イメージを記すなら。なんだか全面鏡張りの部屋を歩いているみたい。こつこつこつ。ふだん履かないヒールの音が谺して。何処かから話し声が聴こえる。じぶんじしんの声と、彼らの話し声、そして"人魚の歌"。外 に通じるどこかにあるガラス窓を探している。彼女のなかのそれぞれの Muse がときたま鏡に映りこむ。
    詩人であること。女であること。男であること。彼女はそういったことをカテゴライズしてラベリングしているようだったけれどそれはより深い理解を、他者にも自分にもさせるためなのかもしれないけれど、なんだか彼女の強迫観念がかおった。しかし、詩人である、ということはまさにそういうことなのかもしれない。辛く険しい旅路。
    そして人との関係を紡いでゆく、繊細で美しい細い細い糸を巧みに解してみせてくれてもいた。こんな感覚をもち、それをこんなに繊細にえがくことのできる作家がとてもすき。




    「あなたが、根源的なはげしさをもった人だっていうことがわかったの。そんな人はめずらしいわ。そういう人は、一生の大部分を地獄で暮らすんですもの。自分で作りあげた地獄で。」

    「中心はダイヤのように固いわ。(あなたが言うように)とても感じやすいのに、もし固くなかったら、いったいどうやって生き残っていけると思う?」

    「たった一つあなたにできそうに思えるのは、本物の詩を書くこと。詩は、人間が知る必要のある事柄を教えてくらるから・・・・・その人が正直だったらの話だけど」

    「彼女は檻に閉じこめられていた。月並みで閉鎖的に見える生活様式をもった男を恋し、彼と結婚したことで、檻に入れられていた。」

    「「男の人たちについて少しいらいらさせられるのは、しばしば彼らがすてきなことね・・・・・すてきなのは、世界の半分を知らないからよ。あるいは、こう言ったほうがいいかしら」マーガレットは、感じのいい例のまぶしいほどの微笑を浮かべた。「世界の半分しか知らないからよ」」

    「衝動にかられたときには、その衝動を制御しようとして、わたしは一生を過ごしてきた。でも、ときどき、検閲者を抑えたら、もっとうまくやれたんじゃないかって思うの。女たちは自分のデーモンを恐れ、それを制御して、自分と同じくらい分別のあるものにしたがるから」

    「もちろん、あなたの年で、人生と芸術の、あの微妙で、むずかしくて、おそらくは苦しいほどの均衡がどういう結果になるかわかっていたら、致命的ね・・・・・人生のほうが重要よ、わからない?そうじゃなかったら、あなたは怪物だわ」

    「人間は成長し、変化しつづけるか(これは苦しいわ)、化石になりはじめるかのどちらかで、一方を選べばいいの!」

    「さびしさは自己の貧しさで、孤独は自己のゆたかさよ。」


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著者プロフィール

(May Sarton)
1912-1995。ベルギーに生まれる。4歳のとき父母とともにアメリカに亡命、マサチューセッツ州ケンブリッジで成人する。一時劇団を主宰するが、最初の詩集(1937)の出版以降、著述に専念。小説家・詩人・エッセイスト。日記、自伝的エッセイも多い。邦訳書『独り居の日記』(1991)『ミセス・スティーヴンズは人魚の歌を聞く』(1993)『今かくあれども』(1995)『夢見つつ深く植えよ』(1996)『猫の紳士の物語』(1996)『私は不死鳥を見た』(1998)『総決算のとき』(1998)『海辺の家』(1999)『一日一日が旅だから』(2001)『回復まで』(2002)『82歳の日記』(2004)『70歳の日記』(2016)『74歳の日記』(2019、いずれもみすず書房)。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。

「2023年 『終盤戦 79歳の日記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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