リンさんの小さな子

  • みすず書房
3.99
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感想 : 88
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  • Amazon.co.jp ・本 (167ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622071648

感想・レビュー・書評

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  • 哀しく美しい物語。
    老人リンさん、太った中年男バルクさん。
    言葉が全く通じない2人が心を通わせていく。
    その過程がじんわりと心に沁みる。

    紛争によって故郷の地を破壊され、知らない土地に移らざるを得ない状況にあるリンさんのような人が、今まさに世界に大勢いることを思うと悲しい。

  • 喪失と希望の物語ーーと書くと、こそばゆいのですが、思わずそう言いたくなってしまう本。

    東南アジアを思わせる国から、難民として戦禍を逃れ、腕に抱いた幼子と鞄1つとともにフランスに降りたった老人・リンさん。
    収容施設で孤独な日々を送りながらも、同じく孤独を抱えたフランス人・バルクさんと知り合います。
    お互いの名前すらわからず、言葉も通じ合わない2人。
    けれども、自分自身を形づくる大切な物を失っているという共通の経験によって、気持ちを少しずつ通い合わせ、やがてかけがえのない友人となっていきます。

    実は、ラスト直前に起こるある出来事に動揺しすぎて、最後に明かされる真実に気がつかないまま、本を読み終えてしまったんですよね。
    で、ネットの書評やブクログの他のレビュアーさんの投稿で、気がついたという……(汗)。
    でも、その真実をふまえてラストを読み直すと、そこで提示されている希望がどういうものか、くっきりと浮かび上がってくるように思います。

    作中でリンさんが腕に抱える幼子の名前が、「サン・ディウ」といって、リンさんの国の言葉では「穏やかな朝」という意味なのですが、フランス人であるバルクさんには「サン・デュー(神なし)」と聞こえているんですよね。
    苦しみとともに、くりかえし朝が訪れること。
    その中で、自分自身が拠り所にするものによって、人が生かされていること。

    生きることの厳しさと力強さに胸がうたれた1冊でした。

  • ブックオフで何度も目が合って?「読んだ方がいいよ」と話しかけられている気がして手に取った本。

    150ページ程度の中編で長さも丁度いよく、翻訳も読みやすい。読み終えるのがもったいない気持ちになる本。

    難民の話がベースとしてある物語。最初はどこの国かわからない様な話だけど、訳者のあとがきにも記載があるように作者はフランス人で、おそらくリンさんはベトナム人だろうと。フランスの植民地だったから。

    現実世界でも(日本でも)難民問題は取り上げられていて、15年前の作品であるにも関わらずタイムリー。しかも内容は美しいという、不思議な作品


    太った友人「バルクさん」との心温まる友情の日々。
    美しいイメージの描写。

    後半になるにつれ、どうしょうもない違和感が頭をもたげる。
    リンさんが物語のはじめから大事に世話を焼き、
    常に肌見放さず抱いている、
    「リンさんの小さな子」=「サン・ディヴ」=「サン・デュー(フランス語で”神なし”の意味)」
    乳幼児なのにずっと大人しすぎるほどで、泣くこともせず食欲もない…

    同じ作者の「灰色の魂」という本はフランス本土でベストセラーになったという
    ことだが、訳者によるとどちらかというと訳しづらい難解な作品のようだ。
    そちらもぜひ読んでみたいが、本書は「これぞ小説」といった
    読書の醍醐味を楽しむことが出来、文学的な上にエンタテインメント性も
    兼ね備えている。

    文句なしの傑作。

  • すごく悲しくて辛いストーリーなのに、
    なぜか心が温まる不思議な本だった

    どこの国か、いつの時代か、すら説明が不要なほど
    すっきりとしたシンプルな読み心地だった

    言葉の通じない2人の
    喪失感を抱えながら、だからこそ築くことができた友情に感動し救われた

  • 難民の問題もあるがそんなことより言葉も通じないおじいさんと大男の間に繋がった奇跡のような友情の美しさに言葉を失う。リンさんの小さな子が本当はなんであったのか最後に分かるが、彼女はリンさんの失われた家族であり後にした故郷であったのだ。そして心優しいバルクさん、あなたがいてくれて良かった。

  • 「リンさんの小さな子」(みすず書房)
     フィリップ・クローデルという人のことを僕は知らなかった。「リンさんの小さな子」(みすず書房)という作品は、たしか保坂和志の「試行錯誤に漂う」(みすず書房)というエッセイ集の中で、同じクローデルの「ブロディの報告書」という作品が紹介されていて、読みもしていないのに、この作家の作品を立て続けに買った。その中にあった小説だ。僕は時々そういう本の買い方をするが、紹介している人を信用しているか、尊敬している場合に限る。今回は信用している場合だ。
     
     結果的にズバリ的中した。この作品は2016年から2017年にかけてぼくが読んだ小説の中でベストワンといっていいと思う。

     
     「リンさん」はその名の響きから類推すると東南アジアのどこかの国の貧しい農民であるらしいが、戦争の中で息子夫婦を失い、戦場となった故国を逃れ、たった一人残された孫、生まれたばかりの小さな子を連れてフランスに逃れてきた難民であるようだ。長い船旅のすえ、ようやくたどり着いたフランスの港町の難民収容所に暮らし始める。

     殺伐とした収容所を抜け出し、小さな女の子を抱きかかえて街を歩き回る日々の中で、フランス人の老人と知り合いになる。フランスの老人は妻に先立たれたさみしい老後を暮らす身の上であるらしいが、海の見える公園まで散歩してベンチに座り込みパイプ煙草をふかしながらボンヤリ思い出の時間を過ごすのが日課だ。
     
     そんなある日、彼はひとりの東洋人の老人と知り合いになるというわけだ。妻も友達も失った人生の黄昏を生きる一人の男と、働いてきた土地も家族も失い、望んだわけでもないのに異国の地に連れてこられ、で、そんなふうにさまよっているリンさんとの出会いと、二人のお付き合い。

     フランスの老人はリンさんの言葉を理解できないし、リンさんはリンさんでフランス語が、まったく理解できない。二人は「こんにちは」というそれぞれ国の挨拶の言葉を互いの名前だと取り違えて呼びかけあう。実に頓珍漢な会話を交わしながら、互いの寂しさが感応しあうかのように友達になってゆく。

     小説は二人の老人の、奇妙といえば奇妙な友情を、淡々と描いてゆく。友情というのは、本当はこういうものだ。60歳を越えた読者である僕は久しぶりに友達や友情について考える。それが「生きる」ということが「いいことだ」という考え方を支える大切な何かであったことに気づく。

     リンさんは、戦場の故郷で死ななくてよかった。死んでしまいたかったリンさんを支えたのが、残された小さな子の命を守るという文字どおり必死の思いであったのだが、生きていてよかった。

     新しい友達はリンさんの小さな子のために可愛らしいドレスをプレゼントし、かつて、妻と誕生日にはやってくることにしていたレストランでの食事に招待する。リンさんは小さな子にフランスの子供服を着せ、初めて食べるフランス料理やワインがおいしいのか、まずいのかわからない不思議な喜びを味わう。フランスの老人はそんなリンさんの様子が面白くてしようがない。

     しかし、小説はここでは終わらない。リンさんは、最初に収容された場所から、新しい収容施設への移動を命じられる。同じ町の中にあるらしい、美しく清潔な建物へ自動車で運ばれたリンさんは、そこがどういう場所であるのか、なぜそこに運び込まれたのか、そこにいる人々は何をする人なのか全くわからない。

     読者にもよくわからない。善意の施設であるらしいのだが、リンさんがここへ移送される理由も良くわからない。

     その美しい白亜の建物には門番がいてリンさんは繰り返し外出しようと試みるのだが、行動は監視され、外出は禁じられる。リンさんは友達と会うことができない。意を決したリンさんは、その建物からの脱走を試みる。まんまと逃げだすことに成功したものの、友達がいるはずの港の見える公園がどこにあるのかわからない。
     街をさまよい続けたリンさんは、ついに、あの友達の姿を見つけることができる。

     車道を駆け出したリンさんを、無情にも一台の自動車が跳ね飛ばす。瀕死のリンさんと投げ出された小さな子がフランス人の老人の目に映る。

     小説はそこで終わる。そこで初めて読者は、二人の老人の悲しみの深さを知ることになる。作品の結末の哀しみの深さはリンさんの死にではなく生のほうにあった。どうぞお読みください。(S)
     追記2021・10・27
      ブログにも感想を載せています。よろしければ覗いてみてください。
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/201904240001/

  • 戦争で国を追われて、外国へ孫と来たリンさんと、その外国に住んでいて妻を亡くした男との、友情の話。言葉も通じず、国籍も歳も違う二人の、静かで優しい時間が描かれている。

  • わかりやすい簡単な言葉で書かれた短く美しい物語のなかに、戦争の悲惨さ、人生の残酷さ、人と通じ合うことの希望や幸福、いろんなものがちりばめられている。
    リンさんが故郷の夢のなかでバルクさんと語り合う場面がとても好き。美しい情景と溢れんばかりの幸福感と、不思議な泉の話がしても印象的。

  • 戦禍の故国を遠く離れて、異国の港町に難民としてたどり着いた老人リンさんは、鞄一つをもち、生後まもない赤ん坊を抱いていた。
    …現代世界のいたるところで起きているに違いない悲劇をバックにして、言語を越えたコミュニケーションと、友情と共感のドラマは、胸を締め
    付けるラストまで、一切の無駄を削ぎ落とした筆致で進んでゆく。
    『灰色の魂』の作者が、多くの読者の期待にこたえて放つ傑作中篇

  • 言葉が通じ合わなくても心が通じ合う2人の姿に泣いた。

著者プロフィール

1962年フランスのロレーヌ地方に生まれた作家。1999年、小説『忘却のムーズ川』でデビュー、ナンシー大学で文学と文化人類学を教えながら作品を発表してきた。2003年『灰色の魂』(以下の二作ともにみすず書房)により三つの賞を受賞して注目を浴びる。『リンさんの小さな子』は大きな話題となり、『ブロデックの報告書』は「高校生ゴンクール賞2007」を受賞している。トライアスロン、登山、釣りを好む。

「2020年 『結ばれたロープ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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