環境世界と自己の系譜

著者 :
  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622074724

作品紹介・あらすじ

「開放系」と「閉鎖系」の環境世界。「アトム的自己」と「つながりの自己」という人間観は地球環境に何をもたらしたのか。関係志向の倫理へ向けた、未来への提言。

感想・レビュー・書評

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  • Amazon、¥2500.

  • 著者は内科医にして元国立環境研究所所長。認知症診察、エイズ研究、唯識、文化心理学、脳科学、歴史学、そして社会経済学まで、幅広く深い実践と思索が結晶した、類い稀なる未来への提言。

    現在の地球環境危機をまねいた要因は、<開放系>と<閉鎖系>という相異なる社会環境の系譜にある。「ヒトは、歴史的にその生活・文化・環境へ適応しながら、自己観や生存戦略意識としての倫理意識を形成してきた。狭く貧しい〈閉鎖系〉で譲り合い助け合う生存をつうじて、典型的日本人のつながりの自己観と<関係志向>の倫理意識が作られた。広漠たる<開放系>で競争し、闘いながら欲望追求の自由をつうじて、アトムのようなアメリカ人の自己観と<個人志向> の倫理意識が形成されてきた」。
    競争型社会と協調型社会が成立するための生存戦略は、環境世界と自己観のあり方に動機づけられる。開放系-資源と領土が無限にひろがっている状態-としての古代ギリシアから開拓期アメリカ、閉鎖系-資源も領土も限られている状態-としての古代日本から江戸時代へと文明史をたどりながら、自立自尊の<アトム的自己>によって富の分極化を加速させるグローバリズムから、<つながりの自己>によって他者や環境へ配慮する来るべき倫理への転換を模索する。
      ――2010/11/13 紀

    石田梅岩の心学
    「士農工商、おのおの職分なれども、一理を会得するゆえ、士の道を云へば、農工商に通ひ、農工商の道を云へば、士に通ふ」
    ――石田梅岩-1685~1744
    大井玄はその著「環境世界と自己の系譜」みすず書房‘09年刊-のなかで、
    江戸時代は、完全な閉鎖系で環境を崩壊させることなく、生産性からみて収容能力の上限に近い人口を維持し、しかも平和に洗練された生活を営むことを可能にした時代であったとし、その閉鎖系への適応と倫理のモデルとして石田梅岩の心学を取り上げている。
    彼は士農工商の身分制度を職能的区分として受け入れている。したがって商人が正直に「利を得る」のは武士が「禄を得る」のと同等であり、その職分であると説いた。
    「職分」とは、プロテスタンティズムなどが言うところの「天職」に似たニュアンスがある。
    梅岩によれば、それぞれの職分は形では異なっていても、重要であるのは職分をつうじて人の「道」を行うことである。
    つまりは「一理」を会得すれば、それぞれの身分の区別を越えて、共通な人の道を歩んでいるのであって、万民は同等なのだ。
    その一理とは「心を知る」こと、その意味は、私心を去り、本来の心を見出すことである。
    本来の心とは「天地の心」であって、私利私欲とは関係のないもの。そしてそこにいたる生活の行動様式が「倹約」にほかならず、さらにその根本が「正直」である、という。
    その梅岩が、現在の京都中京区車屋町通りの御池を上ったあたりの借家で
    「性学」-后に石門心学と称される-説きはじめたのは45歳の時。
    梅岩存命の最盛期には門弟400人を数え、没後も手島堵庵ら門弟たちによって流布し、
    心学を学ぶ学舎は19世紀半ばには諸藩34ヶ国180ヶ所に及び、
    断書-武芸でいえば免許皆伝の証書-を与えられた者が18世紀半ばからのほぼ1世紀のあいだに36000人以上に達したというほどに流布したともいうから、これはもう当時としては心学運動ともいうべき広汎なひろがりであったろう。
        -2010.10.10記

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著者プロフィール

1935年生まれ。東京大学医学部卒。77年ハーバード大学公衆衛生大学院修了。東京大学名誉教授。医学博士。79年から長野県佐久市の「認知症老人・寝たきり老人」の宅診に関わるようになる。その後国立環境研究所所長を経て、現在は東京都立松沢病院と桜新町アーバンクリニック非常勤医。著書に『人間の往生』『終末期医療』『痴呆の哲学─ぼけるのが怖い人のために』『「痴呆老人」は何を見ているか』『病から詩がうまれる─看取り医がみた幸せと悲哀』『環境世界と自己の系譜』『いのちをもてなす』など多数。

「2014年 『講座スピリチュアル学 第2巻 スピリチュアリティと医療・健康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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