不健康は悪なのか――健康をモラル化する世界

制作 : ジョナサン・M・メツル  アンナ・カークランド 
  • みすず書房
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本棚登録 : 159
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622078944

作品紹介・あらすじ

なぜ私たちは、健康でなくてはいけないのだろうか? メディアによって作られる美意識、公共広告によって喧伝される道徳――今日の「健康」という概念には、医学的問題を超えたイデオロギーが含まれている。本書は医療人類学、生命倫理学、文化人類学、フェミニズム研究、文献学、障害学、法学など、多様な立場の著者たちが多面的な切り口で「健康とは何か」を解き明かす挑戦的な一書である。

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  • 身体

  • 不健康は悪なのか――健康をモラル化する世界

  • 現在の健康概念や医療制度に対する批判的見解を集めた論文集。

  • 『不健康は悪なのか――健康をモラル化する世界』(みすず書房 2015年)
    原題:AGAINST HEALTH: How Health Became the New Morality, 2010
    編者:Jonathan M. Metzl
    編者:Anna Kirkland
    訳者:細澤仁、大塚紳一郎、増尾徳行、宮畑麻衣

    【メモ】
    ・日本語訳は臨床心理士のグループによる。

    【版元の書誌情報・内容紹介】
    A5判 タテ210mm×ヨコ148mm/296頁
    定価 5,400円(本体5,000円)
    ISBN 978-4-622-07894-4 C0036
    2015年4月10日発行

     なぜ私たちは健康でなくてはならないのだろうか? なぜ私たちは肥満していてはいけないのだろうか? そしてなぜ私たちは、性的にも精神的にも遺伝子的にも健康でなくてはならないのだろうか?
     メディアによって作られる美意識、公共広告によって喧伝される新たな疾病――今日の「健康」という概念には、医学的問題を超えたイデオロギーが含まれている。精神医療、遺伝子医療、原子力政策、グローバルヘルス・サイエンス……私たちの「健康」は誰に、またどんな歴史的背景から生み出され、どのように私たちの日常生活に溶け込んできたのだろうか。
     いまや資本主義経済を駆動させ、ときに法措定的な力にまでなっていく「健康」という新しいモラル。本書を通して、この新たなモラルの出現によって、いかに私たちそれぞれ固有の健康が危機にさらされているかが実感されるだろう。
     K・ルベスコ「肥満パニック、そして新しき道徳」、J・マスコ「原子力への異常な愛情」、E・キム「セックスは健康のために必要か?」ほか、15篇を収録。多彩なトピック、多面的な視点から、モラル化する「健康」を批判的に考察し「健康」のあるべき姿を思索する。
    http://www.msz.co.jp/book/detail/07894.html

    【抜き書き】
    ・文化心理学チックな話題の箇所。
    ・本書に振られていたルビを、ここでは亀甲括弧の中に入れた。

    ―――――――――
     私が明らかにしようとしてきたのは、精神衛生に関する私たちの定義は複雑な生物文化的要因によってもたらされうるものなのだ、ということである。さまざまな行動や状態を概念化し、治療するうえで、疾病単位の歴史を理解することでわかってくるのは、健康とはある説明に当てはまらない人々のものであるのと同じように、その説明を促進しようとする人々のものであるということだ。ある説明、あるいは説明の組み合わせに反対することは、ある人が健康に反する〔アゲインスト・ヘルス〕ということを意味しない。そして、一連の処置や診断名を自ら求めることは健康に反する〔アゲインスト・ヘルス〕やり方である。そして最後に、複雑な医療上の現象を単純化して、あるいは還元主義的に説明してしまうことは、つねに健康に反する〔アゲインスト・ヘルス〕ことのはずである。
    ――――――――
    (レナード・J・デイヴィス「強迫性障害の氾濫――精神医療への異議」『不健康は悪なのか』p.159)


    【目次】
    目次 [/]

    第1章 イントロダクション――なぜ健康に異議を唱えるのか?〔ジョナサン・M・メツル〕 003

    第 I 部 ところで、健康とは何だろう?
    第2章 健康とは何なのだろう? そして、どうしたら健康になれるのだろう?〔リチャード・クライン〕 018
    新エピクロス主義 029

    第3章 肉体の肥大に伴う危険性――肥満、食事、そして「健康」のあいまいさをめぐって〔ローレン・バーラント〕 031

    第4章 グローバルヘルスへの異議?――健康を通して、科学、非科学、そしてナンセンスを調停すること〔ヴィンカーン・アダムス〕 046
    グローバルヘルス 047
    グローバルヘルス・サイエンス 054
    結論――真実の調停者としての健康 065

    第 II 部 道徳から見た健康
    第5章 遺伝子時代、健康をめぐっての社会的不道徳――人種、障害、不平等〔ドロシー・ロバーツ〕 070
    人種、そして個人に特化した薬品 072
    生殖遺伝学、ジェンダー、そして障害者の権利 077
    新自由主義、社会的正義、健康 080

    第6章 肥満パニック、そして新しき道徳〔キャスリーン・ルベスコ〕 082

    第7章 (ときには)おっぱいの育児に異議を唱える〔Joan B. Wolf〕 095
    脆弱な研究 096
    避けがたいリスク 100
    おっぱいの育児にかかるコスト 102

    第 III 部 健康と疾患を造り出すこと
    第8章 製薬業界のプロパガンダ〔カール・エリオット〕 108

    第9章 受動‐攻撃性パーソナリテイ障害の奇妙に受動‐攻撃的な歴史〔クリストファー・レーン〕 124

    第10章 強迫性障害の氾濫――精神医療への異議〔レナード・J・デイヴィス〕 144
    OCDとは障害なのか、それとも疾病単位なのか 146

    第11章 原子力への異常な愛情――あるいはいかにして原子力爆弾は死に関するアメリカ人の考え方を変えたのか〔ジョセフ・マスコ〕 160

    第 IV 部 健康になった後の快楽と苦痛
    第12章 セックスは健康のために必要か?――無性愛という悦び〔ユンジュン・キム〕 186
    病理学に、そして健康という名のもとでの対抗スティグマに反対する 189
    『ボンネットの下は』と『スノー・ケーキを君に』――二つの異なるパラダイム 194
    結語 202

    第13章 備えよ――サバイバーシップは癌患者の義務なのか?〔S・ロッホラン・ジェイン〕 203
    アメリカにおけるサバイバーシップ 207
    蓄財 209
    時間と蓄財 214
    結論 218

    第14章 苦痛の名のもとに〔トビン・シーバース〕 221

    第15章 結語――来たるべき健康とは?〔アンナ・カークランド〕 235

    訳者あとがき(二〇一五年二月三日 訳者を代表して 細澤 仁) [249-250]
    注 [iii-xxxiv]
    執筆者一覧 [i-ii]

  • 大胆な表題の本である。WHOが健康の定義を「身体的・精神的・(霊的)・社会的に完全な良好な状態であり、たんに病気あるいは虚弱でないことではない」と定義したが、この定義自体も言葉通りに単純に捉えてはいけないが、現代の新自由主義が中心の世界では単純に「健康」が語れない事態になっていることを述べられた論文集。例えば、健康や疾病の二分法にまつわる問題は実際に創りだされたかもしれない問題であり、それが市場化につながっているという問題や健康に関するモラル性の問題や健康について語ることが人種や障害に基づく不平等を曖昧にしている問題など、複雑で議論されるべき概念となっている。翻訳本であり概念的な問題も多く読み進めるのに骨が折れる本ではあるが、類書が少ない中では一読に値するが、値段が少し高いのが残念。

  •  健康志向にまつわる様々な問題を提起する。

     肥満や精神疾患、無性愛など、各章ごとに独立して多岐に渡る内容になっている。そこには◯◯はいいものだと意識することの過剰な偏りや企業の暴走などが背景にあるように思えた。
     内容が多岐に渡りすぎて読みづらく感じた面もあったが、当たり前のことを疑うきっかけになる一冊。

  • 健康にならなければならないと、ジムに通ったり食事制限をしたりする。しかし、それで楽しいのか。この本を読んで健康になるために努力する必要なんてあるのかと考えてしまった。

  • 配置場所:摂枚普通図書
    請求記号:498.04||K
    資料ID:51500176

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著者プロフィール

神戸大学医学部卒業。
現職: フェルマータ・メンタルクリニック院長、アイリス心理相談室代表。

著書に『心的外傷の治療技法』(みすず書房)、『実践入門 思春期の心理療法』(岩崎学術出版社) など。

「2023年 『寄り添うことのむずかしさ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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