GDP――〈小さくて大きな数字〉の歴史

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制作 : 高橋 璃子 
  • みすず書房 (2015年8月26日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622079118

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GDP――〈小さくて大きな数字〉の歴史の感想・レビュー・書評

  • 近代経済小史を通じて、国民経済計算の変遷とこれからの課題についてコンパクトにまとめられた本です(本編は147ページ)。

    国民経済計算は、戦争に当たって戦費がどれだけ調達できるかを把握するために18世紀に具体的な取り組みが始められてきたが、大恐慌におけるケインジアンの財政介入以来必要不可欠なツールとなり、1942年にアメリカでGNPが計算され、以来GDPは経済政策や途上国への援助にあたってのベンチマークとして今日まで用いられている。一方で、経済の変化や複雑化(最も大きな原因は経済が物質的なものから形の無いものにウェイトを移してきていること)、持続可能性(環境や自然資源)に鑑み、GDPのあり方は常に変化を迫られている。その上で、著者の意見は、GDPは福祉指標や真の進歩指標といったものに取って変えられるものではなく、両者は全く別のものであり、GDPは依然として最も力がありかつ不完全な経済指標であり、改善の余地があるものであるとしている(福祉指標のようなものは、それはそれで意義があるので、「ダッシュボード」にGDPとともに並べられる使い方が最も有りうるだろう)。

    そもそも、GDPは経済の様子を知るために恣意的に作り出された指標であり、経済の様子そのものではないことに気を付けなければならない。さらに言えば、GDPは経済政策により操作できる。というのも、経済政策により操作できる範囲の経済を表現したのがGDPであり、その定義を支えているのはケインズが考えた経済モデルであるからである。そして重要なのは、GDPは生活の豊かさを測る尺度ではないし、そのように意図されているわけでもなく、GDPは生産量を測る尺度であるということである。

    一方で、GDPが経済政策のために恣意的に作られたものであるということは、裏を返せば経済政策により達成されるべき目標のための手段であり、その目標が達成されるためであれば手段は問われない。GDPの増加そのものが目的ではないし、現在のGDPがその目標にそぐわなくなっているのならば、存在を守るために自己改革をしなければならない。

    経済指標は豊かさや幸福を測るものではないが、当然経済指標を通じて豊かさや幸福を達成したいと企図されているわけであり、幸福のあり方について考える際にも、この壮大で複雑すぎる存在であるGDPについて理解する意義はあるでしょう。

  •  一国の経済規模を計るもっとも基本的な数字であり、そのために国家の行方を揺るがしうる数字。そのGDPが産まれる経緯や仕組みから見えてくるのは、「経済成長とはなにか、なんのために経済規模を測るのか」ということが、GDPそのもののなかに含まれているということです。それは絶えず生じる技術的な課題であると同時に社会的な問題でもあります。つまり、そのときどきの学術的な議論や世論の論説、場合によっては政治的な要求などによって変化してきたということです。
     経済成長とは何なのか。いまこのように問い直す筆者は、国民総幸福量や持続可能経済福祉指標といった「豊かさ」を測る新しい指標などに対するGDPの有用性を示しつつ、それらの批判を踏まえながらGDPをより適切な指標とすることが必要だと説きます。(クズネッツという人が1937年に豊かさや福祉に関する指標を目指すべきだと唱えていた。GDPに関する問題を先取りしている)
     GDPという数字から、経済の全体像がぼんやりと見えてきます。面白い入門書だと思います。

  • 正直に告白すれば、マクロ経済学に関する啓蒙書をいくら読んでも、このGDPという概念については「肚に落ちる」という感覚を持つことができないでいた。この本を読めばもう少し目が開くかも、と期待し購入したが、やはりそれは変わらず。しかし落胆したかといえば全くそうではなく、寧ろこのような概念が理解できないのはある意味で当然なのだとの思いを強くした。

    何しろこのGDP、計算方法にはっきりとした定めがあるわけでもないため、かなりの恣意的な操作が可能だ。またそもそもその定義すら怪しく、例えば物質的な生産でないいわゆる「サービス」を含めるべきかすら未だ議論の余地を残すほどだ(金融業のようなインパクトの大きい業種ですら付加価値を生んでいるかどうかは決定的でない)。また何よりもcontroversial だと思えるのは、政府支出が現在のように当然にGDPに含められて計算されるようになったのは多分に政策的な意図によるものであり、これを「含める」のではなく「控除する(「含めない」ではない)」とする考え方も十分に成り立つということ。プラマイの符号が逆ということは、それぞれの場合の数値が全く異なるものを追っている可能性を強く示唆している。著者の立場はもし「経済活動に携わる人々の幸福の度合い」を計測するのであれば、後者の方法によるのが合理的だとするもの。確かに政府支出と国民の幸福度が単純パラレルであれば政府はひたすら財政拡大路線を取ればいいわけで、それほど事態がシンプルでないのは少し考えてみればすぐ理解できる。

    「そもそもGDPというものが…政策のハンドル操作で、(少なくとも短期的には)増加するようにつくられている」(p60)…この言葉がGDPという概念の持つ怪しさを十分に表している。もし政府がGDPを数値目標として掲げるならば、それは少なくとも一部は単なるトートロジーの体現である可能性が高い。「GDPが100兆増える?ファンタスティック!」素朴な経済観を持つ人ならばそう思うだろう(それがまさに政府の思う壺なのだが)。「GDPは生活の尺度を測る尺度ではないし、そのように意図されてもいない…GDPは生産量を測る尺度なのだ」(p96)。首尾よく生産目標が達せられたとしよう。しかしその結果実質的にあなたの懐がどの程度暖まるかは、全く異なる次元に属する問題なのだ。

  • この世で最も影響力を持つ統計量、GDPの歴史。あくまで"生産"の指標であり、豊かさの指標ではない。さらに、時代が進んで生産量を測ることのできない産業が多くを占める中、算出は複雑を極め、また恣意性も含まれており、数値の正確性には疑問が残る。しかしGDPによって途上国への援助額が決定し、国の将来予想に使用されるされるという現状。GDPに代わる有効な指標はなかなかないが、ダッシュボード式は面白い。

  • GDP(国内総生産)といえば、泣く子も黙る恐怖の数字である。いや、実際のところ泣く子は黙らないだろうけど、一国の首脳を泣かせたり、あるいはクビを飛ばすくらいのことはできる数字ではある。

    本書では、そのGDPという数字の誕生から今日に至るまでの歴史と問題点について学ぶことができる。一夜にして60%もGDPを増やした国やGDPの改ざんを拒否したために犯罪者になった人物など意外とスリリングな話も織り交ぜられている。

    かつてサイモン・クズネッツが述べたようにGDPは国の真の豊かさを示すものではない。真の豊かさを考えるのであれば、これからのGDPは環境の持続可能性や人的資本を加味したものになる必要があるだろう。そして経済の中心が製造業からサービス業に移行する中で本書は国の豊かさを表す指標のあり方を考えるよい機会になるだろう。

  • この一冊GDP ダイアン・コイル著 統計めぐる問題点を分かりやすく
    2015/10/25付日本経済新聞 朝刊

     偏差値使用の是非が激しい教育論議を巻き起こすように、国内総生産(GDP)を巡る経済議論は尽きない。偏差値信仰が教育をダメにしたという議論がある一方、学力テストの開示が急務という首長もいる。GDPで測られる経済成長はもうやめようという声がある一方、マイナス成長は野党から政府への攻撃材料だ。幾多の批判がありながら、GDPが重視され続ける理由は議論のたたき台となるべき統計が他にないからだ。







     本書は凡百の超越的GDP批判本ではなく、無味乾燥な解説本でもない。市場と成長をもともと重視する手練(てだ)れの著者が、GDPの有用性を認めながらも、内在的な批判と問題点を分かりやすく説明した大変貴重な本である。本書を読むことで、GDPに対する何かもやもやとした気持ちから解放されることが請け合いである。実際、GDPを題材にして、笑い事じゃないけれど笑ってしまうエピソード満載のエキサイティングな本が書けるとは驚きだ。


     本書のポイントは多岐にわたるが、中間投入の計測を巡る以下の諸点が評者には興味深かった。ソフトウエアを原材料中間投入と考えればGDPは増えないが、投資と考えれば増える。金融仲介の生産高の計測は難しく、現行の金利差を使う方法ではリスキーな投融資が大きいほどGDPは増える。そこでリーマン・ショック直後に英国の金融仲介業は空前の成長を遂げたことになってしまった。


     一方、公的部門の生産高は賃金など費用で測られるため、巨大な政府部門の存在は一人あたりGDPの上昇につながっている。つまり金融国家も福祉国家もGDP計測上の技術的な問題から生じる過大評価の可能性がある。これでは偏差値信仰と同じく、我々はGDPという便利なショートカットに振り回されているのではないか。


     本書の限界は国民経済計算という幾多の統計からなるマクロ経済の総決算書の中で、GDPだけに注目している点である。生産高動向を知りたいだけなら、電力消費量などを見ればよい。しかしGDP速報値だけでなく、遅れて発表される確報における統計の相互連関が我々のマクロ経済に対する理解を深めている。昨年度の我が国でも項目別の税収が増えているのに、マイナス成長が発表されるなど各種統計の整合性には謎が多く、相互連関が問われている。本書を再読しながら、12月に予定されているGDP確報(2014年度)の発表を固唾をのんで待つことにしよう。




    原題=GDP


    (高橋璃子訳、みすず書房・2600円)


    ▼著者は1961年英国生まれ。オックスフォード大で学び米ハーバード大で経済学の博士号を取得。著書に『ソウルフルな経済学』など。




    《評》首都大学東京教授 脇田 成

  • [たかが数字、されど数字]経済関連のニュースを見ればほぼ間違いなく目に入ってくる指標の一つであるGDP。意外と知らないその指標の意味するところと、一般に受け入れられるまでの歩みまでを概観した作品です。著者は、卓越した金融ジャーナリストに贈られるウィンコット賞を受賞した経験を持つダイアン・コイル。訳者は、『ウォール街の物理学者』などを翻訳した高橋璃子。原題は、『GDP: A Brief but Affectionate History』。


    これは「メッケもの」。GDPという概念の限界を指摘しながらも、その限界を指摘することの限界までをも射程に入れているところが見事。GDPという概念を通して眺めた経済史という側面もある一冊で大変満足できました。分厚い本ではありませんが、考える糧を多く与えてくれる一冊だと思います。

    〜私たちはGDPという実態がどこかに存在し、必要なのは測定の精度を上げることだというような錯覚に陥っている。だが測定の対象がただの概念にすぎない以上、正確な測定などというものは本来ありえない。もともと自然界に存在するものを発見して測定するのとはわけがちがうのだ。〜

    著者のバランス感覚がスゴい☆5つ

  • GDPにまつわる歴史と課題に関する短めの本。興味深かった点としては、
    ・国民経済計算の始まりは軍事的必要から
    ・GDP誕生前は政府活動はおろかサービスまで経済価値を生み出すものとみなされなかった
    ・政府活動がGDPに含まれたこととケインズ政策は一体不可分
    ・GDPは生産の指標であって豊かさは示さない
    ・商品の複雑さ、多様性も捕捉できない。

    全体としては面白かったが、内容は少し浅かった印象。

  • 必ず聴いたことがあり、でもどうやって算出されているのかはよくわからないGDPについて、何も知らない人からある程度「ウラ」を知っている人まで考えさせる種を提供してくれる一冊です。

    貧困や、政権の信任・不信任の判断にも広く使われているGDPは、唯一絶対の数値でもなければ、幸せを測る数値でもないことが実感できると思います。

    とはいえ、結局この値にしか頼れない、そして、数値自体の危うさを抱えながら進むしかないところが、視聴率や偏差値と似ています。

    新指標はいくつもあるのに、どれもGDPほど歴史がなく、全面的に交代できるほどの一般化もできそうにありません。なんとかならないものなのか、と悩ましさを持たずにはいられない読後感です。

  • 本編が140ページ強の薄い冊子のような本だが、中身は濃かった。
    GDPと幸福度、主婦の家事労働、そもそもの統計的問題などはGDPの欠点として知られている事実。
    本書はGDPの成り立ちを踏まえ、GDPを重要視する態度は経済学、さらに社会が経済に対するそもそもの見方を反映したものだと示唆する。
    GDPに代わる指標はないのだけれど、狭い「経済」という視点で社会を見ようとするからであって、国家、社会、人生それぞれの視点が当たり前にあるのだ、と感じた。

  • GDPという数字にまつわる歴史が述べられている。
    数式はないので、数式が苦手な人にも理解しやすい。
    とはいえ、あんまり面白エピソードがないので退屈するかも。

  • 経済のデータは、最初の数字が1になる割合が高い。
    9よりも6倍多く、3よりも2倍多い=ベンフォードの法則。ギリシャのGDP統計は合致していなかった。

    GDPは戦費調達のために考えられた。
    グスネッツは懐疑的だが、政府支出が組み入れられた。
    ケインズ派のマクロ経済理論が戦後経済政策の基本となったのは、GDPがあったから。需要管理という考え方がケインズ派の考えに親和性がある。
    マクロ経済モデル元となるもの。フィリップスのMONIAC=フィリップス曲線の発明者

    産業連関表によって中間財を推計する。
    季節調整する。
    減価償却はしない。
    GDPデフレーターで、実質GDPを算出する。

    連鎖方式の物価指数を使うことが多い。物価のウエイトを毎年更新する。
    コンピュータなど技術革新が早いものの値段は、ヘドニック指数で算出する。

    生産の境界、の問題。政府活動、帰属家賃、家事労働、金融サービス。ネガティブな費用増加もGDPの増加理由になる。

    第2次世界大戦後のマーシャルプランによる復興支援。最初は、OECDはOEEDだった。GDP成長率によって、マーシャルプランがうまくいっていることを確かめた。

    為替レートの問題=購買力平価為替レート(PPP)を使う。低所得国のGDPが相対的に高く評価される。
    PPPレートは、各国の家計調査に基づく物価指数を基にする。

    フィリップス曲線の間違い=失業率は自然なレベルがあり、これは企業の採用意欲によって決定される。無理に下げようとしても、インフレ率だけが上昇する。

    GDPと環境はトレードオフか。成長の限界、があるか。

    人間開発指数(HDI)=所得よりも潜在能力を測定する。飢えは所得や貧困とは無関係。政府の無能とそれを批判できない体制が問題。

    イノベーションと多様化がGDPに対して過小評価されている。実際は、このおかげでGDP成長率以上に豊かになっている。

    インフォーマル経済をどう扱うか。途上国ほど大きな割合。アメリカ、スイス7%、イタリア20%、ギリシャ25%、貧困国では35~44%。

    ナルニア国ものがたりの白い魔女。消費社会の誘惑。

    OECDのBLI(よりよい暮らし指標)。

    現代経済の複雑さ。サービスや無形資産が存在感を増している。持続可能性の問題。

    無料サービスの増加により消費者余剰は増えているがGDPには反映されない。

    世代会計という考え方。
    有償労働と無償労働の区別もあいまいになっている。

  • GDPの成り立ちから現在までをまとめた本。GDPの限界と有用性がよくわかる。

  • 原題:GDP: A Brief but Affectionate History
    著者:Diane Coyle


    【目次】
    目次 [003-006]
    はじめに [007-012]

    第1章 戦争と不況──18世紀-1930年代 013
    国民経済計算の黎明期 014
    現代の国民経済計算の誕生 017
    GDPとは何か 030
    GDPの定義と求め方 031
    アフリカは本当に貧しいのか 038
    シリコンバレーの悩ましい統計事情 041
    幻の1976年危機 042
    「生産の境界」をめぐる問題 044

    第2章 黄金時代──1945-1975年 048
    戦後の黄金時代 050
    暮らしはどれだけよくなったのか 052
    為替レートと購買力 055
    国際比較データは何を教えてくれるのか 062

    第3章 資本主義の危機──1970年代 065
    スタグフレーションの襲来 067
    共産主義の脅威 072
    地球環境への新たな関心 074
    貧困問題と人間開発指数 077

    第4章 新たなパラダイム──1995-2005年 082
    新たな経済成長理論 083
    「ニューエコノミー」ブーム 086
    サービスの価値をどう測るか 089
    イノベーションと多様化 091

    第5章 金融危機──現在 098
    ギリシャ悲劇の3要素──傲慢、愚行、破滅 098
    金融業は価値を生んでいるのか 103
    生産と非生産の境界 110
    インフォーマル経済をどう扱うか 112
    GDPか、豊かさか 115

    第6章 新たな時代のGDP──未来 125
    複雑化する経済 128
    生産性のパズル 132
    持続可能性 138
    おわりに──21世紀の国民経済計算とは 142

    謝辞 [148-149]
    原注 [v-xiii]
    索引 [i-iv]

  • GDPの成り立ちや問題点等を平易な読み物風に書いた本。
    非常に参考になると思いますが、それなりの知識も必要だと思いますので、中級者・実務者向けだと思います。

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