中国安全保障全史――万里の長城と無人の要塞

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622079569

作品紹介・あらすじ

「本書の目的は、何が中国の政策を動かしているのかを理解すること――できるだけ北京の政策立案者と同じように世界を分析することにある」。
アメリカの中国論の権威が、第二次世界大戦後から現在まで、政治、経済、軍事を包括した視点から、グローバルに、中国の安全保障政策を鳥瞰した基本書。

「脅威に対する脆弱性。それが中国外交の主たる原動力である。北京から見た世界は、政策立案者の部屋の窓の外の通りから、陸の国境や海上交通路まで広がる東西南北数千キロの地域、さらには遠く離れた大陸の鉱山や油田まで、すべてが危険に満ちた場所である」(第1章)
「このまま台頭を続けるとしたら、中国はますます急峻になる坂を登っていくことになる。…優位にあることの強みをさらに強化するためのコストは、この位置まで登りつめてくるために費やしたコストより大きくなるだろう。そして、世界の警察官として、中国がアメリカに取って代わらないとすれば、それができる別の候補者を見つけるのは難しい。…したがって、アメリカの衰退はまったく中国の利益にはならないのだ。…中国にとっても、アメリカとその同盟国にとっても、より望ましい代替案は、中国の安全保障を高めるために、新たな力の均衡を創り出し、現在の世界体制を維持することだ。その場合、中国はより大きな役割を担うことになる」(結論)
中国の安全保障政策を論じる際に、避けては通れない認識の宝庫。

感想・レビュー・書評

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  • 319.22||Na

  •  300頁超で二段組のハードカバーなので身構えて読んだが、中身は中国が抱える安全保障上の諸問題について歴史的経緯も含めて浅く広くという感じで、既知の内容も多く、割とすんなり読めた。
     筆者が繰り返すのが中国の「脆弱性」である。「China's Search for Security」という原題も、それ故に中国が自らの安定を求めるという意味が込められているようである。中国は台頭しているといっても依然地域大国であり、世界的超大国として米に簡単に取って替わることはない。中国の台頭に抵抗するのは現実的ではないが、譲歩する必要もない。米は自国の利益を確保しつつ、同盟国とも協力して相互依存、信頼醸成を中国に促すべき、とも述べられている。
     本書全般としてはそれほど片寄っているとまでは言えず、根拠の薄い中国脅威論へのカウンターパンチではある。が、中国に対してやや楽観的過ぎないか。「アメリカとその同盟国は、中国の軍事的、経済的、外交的影響力が国境周辺で拡大することを、支配には及ばない程度までは容認できる」との記述は、周辺国たる日本は容認できるのだろうか。米にとり望ましい中国にするため働きかけるべきとの点と、中国がそのような中国になるだろうとの点がやや混同されているのではないかとも思う。
     原書の発刊は2012年、習近平政権発足の直前。2018年の現在でも筆者はやはり同じように中国を見ているだろうか。

  • 20年前に刊行された、米国コロンビア大教授らによる中国外交研究書の改訂版。中国成立以降の安全保障政策を、中国の政策立案者の立場から読み解こうとする試みを、今や大国に登り詰めた中国を巡る現下の情勢を織り込んでアップデートしている。歴史・文化・地理的アプローチに始まり、権力構造に触れた後、米国やロシアとの三国間関係を皮切りに中国を中心に同心円上に広がっていく外交関係の輪に沿って、詳細な解説が積み重ねられて行く。

    米国人ならではの本国びいきが随所に見られるのはご愛嬌。しかし、一般には予測し難いと言われる中国の各種政策が、むしろ多元的な意志決定プロセスを持つ米国のそれよりも首尾一貫性に富んでいるとの指摘は新鮮だ。中国は自身を不安定な国家であると考えており、この脆弱性を克服することこそが彼らの徹頭徹尾たる第一原則だ、というのだ。そしてその背後には、近代以降に受けた西洋による搾取についての抜き難い記憶と不信感があると指摘している。

    有史以来、辺境を異民族や他国家に侵されてきた中国にとって、周縁部における他勢力のプレゼンス増大こそが最も避けるべき事態(米国と対照的に、中国は国境を接しない遠方での経済分野以外の影響力増大には殆ど興味を示していない)。これを前提にするなら、米国の覇権をベースに作られた現在の国際政治経済上のルールを受け入れ、米国の影響力に拮抗しながら、統一朝鮮や日本インド等、潜在的脅威を現状維持に封じ込めておくのが中国の "the least worst option" だ。この中国政策立案者の「現実主義」こそが、米国にないものとして著者らが最も注目した点であると言える。

    無論、目下進行中の「第二次北朝鮮核危機」はこの戦略にとって極めて大きな攪乱要因であり、中国にとって隣接国と米国の緊張亢進は歓迎すべき事態ではない。日本や韓国が適正な対価を支払わないまま、北東アジアに安全保障の負担を強いられ続けることを、米国は最早フェアでないと考えるかもしれない。米国のプレゼンスが低下したら、北朝鮮が今まで通り中国の友好国でいる保証はない。北朝鮮に最も影響力を行使できる国家とは言え、今後中国が難しい舵取りを強いられることはこの本を読めば容易に理解できる。

    2段組で300ページ超。内容が硬い上、決してこなれた訳とも言えず、読みにくいのが最大の難点だが、中国を巡る諸問題の再整理に役立った。

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著者プロフィール

コロンビア大学政治学教授。専門は、中国の政治・外交政策、および政治参加、政治文化、人権の比較研究。中国の対外政策と、アジアにおける政治的正当性の源泉について、長期にわたり研究、執筆している。コロンビア大学では、人権研究センターの運営委員会議長、モーニングサイド研究倫理委員会議長も務める。2003-2006年には政治学部長ほか要職を歴任。学外でも、ヒューマン・ライツ・イン・チャイナの理事、フリーダム・ハウスの理事、また1995-2000年にはヒューマン・ライツ・ウォッチ・アジアの諮問委員会議長を務める。『フォーリン・アフェアーズ』誌等への寄稿多数。著書『中国権力者たちの身上調書』(阪急コミュニケーションズ、2004)『天安門文書』(文藝春秋、2001)『中国安全保障全史』(共著、みすず書房、2016)ほか。

「2016年 『中国安全保障全史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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