新編 戦後翻訳風雲録 (大人の本棚)

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著者 : 宮田昇
  • みすず書房 (2007年6月2日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622080763

新編 戦後翻訳風雲録 (大人の本棚)の感想・レビュー・書評

  • 早川書房などに勤め,翻訳業界に通じた著者の戦後誌。
     いろいろエピソードが満載というなかで、著名な大久保康雄の人柄も初めて知ったし、田村隆一,中桐雅夫,鮎川信夫の人間模様も面白かった。

     しかし、なかでも「横浜事件」については,漠然としていた記憶が呼び起こされたことは収穫だった。

     戦中1942年から45年にかけて神奈川県特高警察は,細川嘉六らの<共産党再建準備会>なるものをデッチあげ、全く関係のないジャーナリストなども含め60余人を逮捕,それらへの残虐な拷問により4人を殺害した事件。
     被告の一人は,当時の特高係長が「あれだけの大事件が一地方の我々だけでできるものではない」と漏らしたことを覚えていたが,この背後には当時の権力者のなみなみならぬフレームアップの執念が感じられる。

     ところが、その神奈川県特高のあくどい追求を躱した日本評論社の桑名一央は、炭坑などを転々として敗戦までの数ヶ月を逃げ延びたという。当時の警察網とその下請け化した地域の消防団・隣組などの監視体制のなかでの逃避行は,言語を絶する辛酸があったと思うが、なんという僥倖なこと。
     
     関係者は,戦後この事件に関わった警察官30余人を告発したが、1952年4月最高裁は、拷問の事実を否定し特別公務員暴行傷害罪として、僅かに特高警部3人に、最高1年6カ月の懲役刑を確定させただけだった。
     
     しかも、この4月の28日には対アメリカを中心とする<単独講和条約>が発効し、旧特高らは刑務所で実質的な刑を受けることは全くなく,講和特赦で放免されていたのだ。結果として官憲の拷問殺人は当然と認められたことになる。

     2008年3月14日,最高裁判所は横浜事件再審を求める被告たちの要望を却下した。
     これに鶴見俊輔は「戦時の判決の不当を、私たち日本人は背負い続けている」と書いた(「図書」08/10)

     そして、現代日本のわれわれをとりまく状況は,次第に国民への監視体制がつよまり、あらたな戦中期を迎えようとしている気配が,ますます濃厚になりつつあるかの感。歴史の教訓はなかなか継承されないもののようだ。

  • 著者の宮田昇氏は、近代文学社勤務ののち、早川書房の編集者として活躍し、その後は翻訳エージェントとして長らく出版業界に係わってきた。また、自身もペンネーム「内田庶」として、SFやミステリーを初めとする多くの児童文学の翻訳家として活躍してきている。その著者が、戦後の翻訳界の生き字引として、彼しか知りえなかった秘話、逸話の数々をここに記している。読み始めてすぐに魅了されるのは、登場するビッグ・ネームの数々と、その逸話の破壊的な面白さだ。取り上げられているのは、まず著者に早川書房への職をあっせんしてくれた「加島祥造」。そして、著者の早川書房時代の上司にあたる「田村隆一」。さらには、田村らと詩作集団「荒地」で共に活動していた同人たちの「北村太郎」「中桐正夫」「鮎川信夫」などなど。著者の観察眼は、彼らの詩人としての価値をあえて差し引いていて容赦ない。毀誉褒貶が多い人物たちの、嫉妬と愛憎劇が赤裸々に描きだされている。

  • 早川書房を中心とした、翻訳者と編集者をめぐるもはや歴史とでも言うべきエッセイ。というか、思い出。

    戦後翻訳文学黎明期における早川書房(早川ミステリ)の貢献度は計り知れない。福島正実や田村隆一など、当時の名(物?)編集者や翻訳者をめぐるドラマ。懐かしい名前がたくさんでてくる。

    しかし、単なる思い出話や苦労話に終わらないのは、そこにきわめてユニークな人々の、生々しい人間ドラマがあったからに他ならない。

  • 先日某所で戸川さんのお話を伺う機会があったので、今更感満載で読んでみた。
    非常に興味深かったけど、こういうお話は本人から直接聞く方が面白いんだろうなぁと思った。
    やはり口調とか表情とか、文章に現れないところを知りたいと思わせるんだよなぁ。
    先人のお話は聞いて損はない。

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新編 戦後翻訳風雲録 (大人の本棚)はこんな本です

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