本、そして人 (神谷美恵子コレクション)

著者 :
  • みすず書房
3.82
  • (5)
  • (9)
  • (7)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 125
感想 : 8
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622081852

作品紹介・あらすじ

「私は失敗ばかりしてきたような気がするが、その苦悩のなかで、ほんの少しばかり自分の頭でものを考えることができるようになったような気がする。それというのも、自分の頭でというよりは、多くの「精神的恩人」が心に残していってくれたものによるのだろう」結核療養期を支えてくれた「恩人」マルクス・アウレリウス、一生を決めるほどの「電撃」をうけたプラトンをはじめ、人生の折々に神谷美恵子を助け、つくりあげた本、そして人。新編集で贈るエッセイ集。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 本書は神谷美恵子コレクションの最後の書籍である。著者の神谷美恵子さんの人生に大きく影響を与えてきた本や人物が書かれている。

    著者は小学4年生から、女学校1年の頃まで、スイスのジュネーブで生活をしていた。そのため、帰国後しばらくは日本語の遅れを取り戻すために、一生懸命であったという。国語の勉強に取り組むことで、読み書きが好きになったとのこと。母がとある先生に本人の作った作品を見ていただいたところ、「ご家庭の影響からか、キリスト教のものが大へん濃く現れています。このわくを破って自分のあたまでものを考えるようにならないと、ほんものは書けないだろう。」と言われたそうだ。

    この先生の言葉に私はドキッとした。私も数々の本から得た知識を、そのまま鵜呑みにしていたり、疑問を持つことが少ないためである。

    いい意味で批判的に疑問を持って自分の頭で考えることも大切であるということを再認識させられた。

    この言葉の影響によってか、著者は「私には思想がない」と思うようになり、何を書いても空っぽだと思っていたらしい。

    そんな中、著者は「自分の頭が空っぽならば、せめて他人の思想をあさろう」と考えたそうだ。そこから著者は数々の心理学や思想書、哲学書を読むようになったという。

    私もこの姿勢は見習いたいと思う。

    以下のエピソードはとても愛おしいものである。著者を身近に感じられ、本へ愛情のようなものを感じてやまない。

    本に夢中になって降りる場所を間違えた失敗談について、著者は「もちろん持ちまえのぼんやりのせいだが、同時にひとをそれほど夢中にさせるプラトンの生きいきとした文章のせいでもあると言えないだろうか。」

    と言われている。思わず笑ってしまった。


    解説に“中井久夫”と書かれて思わず驚いた。私が学生時代に精神科の勉学に励んでいた頃、よく目にした名前だった。

    中井久夫さんの解説では、神谷美恵子さんを精神科医目線で分析しているので面白い。また、中井久夫さんが神谷美恵子さんに対して、とても敬意を抱いているのも伝わってくる。

    私もたくさんの良書と出会い、たくさんの思想に触れて、自分のあたまで豊かに考える力を養っていきたいと強く思わされた。

  • 著者の文章は読み返すたびに新鮮な驚きがある。一見やさしい文章の背後に、読み手の思考や生き方を問わずにはいられない厳しさがひそんでいる。

    神谷美恵子という少女が、どのような人びとや本との出会いから、しばしば「聖女」と呼ばれる人格へと成長を遂げたのかを考えるうえで、この見事に編集された一冊はじつにいろんな示唆を含んでいる。さらには中井久夫による解説が、この本の最高の読み方を示していて、至れり尽くせりの一冊に仕上がっている。

    当然だけど、著者の人格は「聖女」と一括りにできるほど単純ではない。著者の成長の背後には、幼いころからの、深く、透徹した苦悩があり、それを乗り越えることによって、著者の人格は磨かれていった(レナード・ウルフの本にはさまれたメモ「クリーネックス、コーヒー、やさいジュース」の写真は、著者も具体的な日常を生きていたことを確認させてくれ、読者を妙にほっとさせる)。

    中でも僕が印象的な出会いだと思ったのは、著者がふたつの文章を捧げている新渡戸稲造だ。新渡戸が、たいへんな精神的苦しみとたたかいながら、なお、(内村鑑三とは異なり)そういう心には苦しみの種だらけの世間に棲むことを選んだことに、おそらく同じように生きた著者は共感以上の深い絆を感じている(中井さんが解説に書いているけど)。

    また、X子さん、グラジオラスの花束をくれた患者さん、視力を失いながら最後まで詩を書き続けた患者さんなど、患者さんを綴った文章には、まるで冬の朝の空気のような純粋な、透明なものを感じた。特に「蔦の話」という短い一文は、美しい名文だと思う。

    最後にまったく私的な話。ここ数カ月の間に僕自身に起きたある経験ののち、この本をある一文を読み返したら、それが突然、経験後の自分の世界認識とぴったり重なるというおそろしくなるほどショッキングなことが起きた。もしかしたら、共鳴する人がいるかもしれないので、その一節を引用のところに書いておく。

  • 【「教職員から本学学生に推薦する図書」による紹介】
    風間俊治先生の推薦図書です。

    <推薦理由>
    「静かな部屋で、是非、紐解いてください.」

    図書館の所蔵状況はこちらから確認できます!
    https://mcatalog.lib.muroran-it.ac.jp/webopac/TW00316752

  •  本が好きって聞くと、なぜか安心する私ですw。神谷美恵子「本、そして人」、2005.7発行。神谷美恵子さんの読書人生、この本は、私には難しかったです。著者の人となりが伺える次の言葉が好きです。人間の品位というものは、社会的立場よりも自己のよって立つ内なるものをしっかり持っている人におのずから備わるものなのだろう。人間を外側から地位、肩書、社会的背景などだけで、性急に判断するのを聞くたびに、私は抵抗を感じる。そのくせ自分もそのあやまちをしばしば犯しているのだろう。

  • 面白い。神谷美恵子はめちゃめちゃ読書家。

  • 「生きがいについて」などの著書で有名な精神医学者の神谷恵美子氏のエッセイや書簡などをまとめたもの。

    章立てはあってないようなものだが、
    気になったトピックは

    ・ヒルティの恩
    ・ミシェルフーコーとの出会い
    ・らい病診療所にて
    ・新渡戸稲造先生と女子教育
    ・マルクス・アウレリーウス
    ・ヴァージニア・ウルフについて

    個人的には新渡戸稲造とマルクス・アウレーリウスが気になって購入した。
    神谷氏の本を読むには初めてだったが、非常に聡明で知的探求心が強く、哲学的な生き方をする人物だったのがうかがえる。

    特に当時の社会はハンセン病患者に対し、隔離政策を取られており、そんな彼らと共に過ごす精神科医の心労も並みの物ではなかったと思う。
    しかしそんな荒波も人とは何か、生とは何かを問い続けることで過ごされたようだ。

    かといって堅物というわけでもなく、素晴らしい感性と優しさユーモアも持ち合わせていたようだ。
    (本当に点は二物以上を与えるなあと。。)

    特に目に見えて、人生訓めいたものはないが、先生の空気感をのんびり感じられた本でした。

    ・厳しい現実の中で理想に従って生きることの大変さ

    ・そもそも人間は社会に役立たなければ生きている意義がないのであろうか

    ・自分は何も損害を受けなかったと考えよ。そうすれば君は損害を受けなかったことになる

    ・革命という手段よりはユーモアを取る

    ・家庭という温室の中で平穏無事に生きているだけだったら、見失われそうな、孤独な苛烈なものがここにはあります。

  • 「生きがいについて」を読んで、神谷美恵子の人生とその読書傾向に関心をもって、読んでみた。

    やはり、驚異的としかいえない読書量。

    そして、スゴい人間関係。

    なによりも、覚悟、決意の人であったのだ。

    それらが、実に淡々と清々しく軽々と書かれている。

    ので、ふと読み飛ばしてしまいそうだけど、実に深い、重い言葉も沢山埋もれている。

    ということは、とても丁寧な解説を読んで分かったこと。

  • [ 内容 ]
    「私は失敗ばかりしてきたような気がするが、その苦悩のなかで、ほんの少しばかり自分の頭でものを考えることができるようになったような気がする。
    それというのも、自分の頭でというよりは、多くの「精神的恩人」が心に残していってくれたものによるのだろう」結核療養期を支えてくれた「恩人」マルクス・アウレリウス、一生を決めるほどの「電撃」をうけたプラトンをはじめ、人生の折々に神谷美恵子を助け、つくりあげた本、そして人。
    新編集で贈るエッセイ集。

    [ 目次 ]
    「存在」の重み―わが思索 わが風土
    生きがいの基礎
    ヒルティの恩
    『ポリテイア(国家)』今昔
    ミッシェル・フーコーとの出会い
    V.ウルフの夫君を訪ねて
    癩園内の一精薄児
    島の診療記録から
    蔦の話
    心に残る人びと〔ほか〕

    [ POP ]


    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

全8件中 1 - 8件を表示

著者プロフィール

1914-1979。岡山に生まれる。1935年津田英学塾卒業。1938年渡米、1940年からコロンビア大学医学進学課程で学ぶ。1941年東京女子医学専門学校(現・東京女子医科大学)入学。1943年夏、長島愛生園で診療実習等を行う。1944年東京女子医専卒業。東京大学精神科医局入局。1952年大阪大学医学部神経科入局。1957-72年長島愛生園精神科勤務(1965-1967年精神科医長)。1960-64年神戸女学院大学教授。1963-76年津田塾大学教授。医学博士。1979年10月22日没。

「2020年 『ある作家の日記 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

神谷美恵子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
神谷 美恵子他
村上 春樹
ヴィクトール・E...
三浦 しをん
最相 葉月
エーリッヒ・フロ...
ミヒャエル・エン...
エーリッヒ・フロ...
マルクス アウレ...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×