- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784622083436
感想・レビュー・書評
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【この惨めな輪廻をどうかしてぬけでる道はないものか。あるはずはない。としたら,私たちは折々,この責任回避の繰りかえしに歯止めをかける工夫を執拗に繰りかえさなければならない】(文中より引用)
アメリカ人を父に,日本人を母に持つ著者が,昭和天皇の崩御の直前に訪れた日本での経験をもとに綴るエッセイ。いわゆる「少数派」の視点から日本社会,そして天皇制についての新たな視点を投げかける全米図書賞受賞作です。著者は,小林多喜二の研究でも知られるシカゴ大学教授のノーマ・フィールド。訳者は,ハンナ・アーレントの作品の翻訳も手がけた大島かおり。原題は,"In the Realm of a Dying Emperor"。
本書の初版が出たのは1994年なのですが,この約20年あまりで,ずいぶんと本書を受容する世界が変質したのではないかということを感じました。著者は歴史を紡ぐという意味での物語,特に「弱者」にとっての物語を大切にしているのですが,もはやその「弱者」に対置する日本そのものが(特に国際社会における物語を作り上げるアクターとして)必ずしも「強者」ではないという点が特筆すべき変化なのではないかと。「日本が〜〜すべき」という議論を大上段からかかげられるところに,良い意味でも悪い意味でも,日本が「強者」であった時代があったんだなと強く感じました。
議論に花が咲くタイプの一冊です☆5つ詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
アメリカ人の父、日本人の母を持つ著者が、昭和末期の日本で「天皇制」に関係する言動を起こした3人の人々を訪ねて記した本。
沖縄国体で日の丸を燃やした知花昌一、自衛隊だった亡夫の靖国神社合祀に対して訴訟を起こした中谷康子、天皇の戦争責任に言及した長崎市長本島等。3人へのインタビューだけでなく、道中の様子や筆者自身の生い立ちや思想、そして昭和天皇が病に倒れてからの日本の空気感も丁寧に描かれています。
3人の言葉に共通するのは、世間からの注目とは似つかわしくない「普通の人」らしさと細やかさ。そして、そういう人が己の主張を述べた途端、良くも悪くも─多くは悪い方へ─甚大な注目を集めてしまう、裏を返せば声をあげる人の少ない、日本の様子。それは二十余年経った現在でも、さして変わらないように感じられます。
3人、そして筆者の考えに全面的に賛同するものではないけれど、何を賭しても声をあげ続けることの難しさと尊さに、上手く言えないけど感じるものがたくさんありました。
時間をおいてもう一度読みたい一冊です。 -
原題:In the realm of a dying emperor: Japan at Century’s End (1991)
著者:Norma Field
【目次】
はじめに [v-vii]
「哀のパラドックス」(詩) 宗秋月 [003-005]
プロローグ 007
I 沖縄 スーパーマーケット経営者 039
II 山口 ふつうの女 129
III 長崎 市長 213
エピローグ 329
後記 ジャパン・バッシングについて(一九九二年二月) [339-345]
日本語版へのあとがき(一九九四年一月 シカゴにて) [346-349]
あれから二十年余 増補版へのあとがき(二〇一一年一〇月三日) [351-384] -
これは大事な本だ。今の、日本で、読むべき本ではなかったか。