- Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
- / ISBN・EAN: 9784622085348
作品紹介・あらすじ
高い評価を得た『ミトコンドリアが進化を決めた』の著者が、当時の理論を直近十年余の研究に基づいてバージョンアップし、進化史の新たな切り口を問う一冊。
絶え間なく流動する生体エネルギーが、40億年の進化の成り行きにさまざまな「制約」を課してきたと著者は言う。その制約こそが、原初の生命からあなたに至るまでのすべての生物を彫琢してきたのだ、と。
「化学浸透共役」というエネルギー形態のシンプルかつ変幻自在な特性に注目し、生命の起源のシナリオを説得的に描きだす第3章、「1遺伝子あたりの利用可能なエネルギー」を手がかりに真核生物と原核生物の間の大きなギャップを説明する第5章など、目の覚めるようなアイデアを次々に提示。起源/複雑化/性/死といった難題を統一的に解釈する。
本文より──『生命とは何か(What is Life?)』でシュレーディンガーは……完全に間違った疑問を発していた。エネルギーを加えると、疑問ははるかに明白なものとなる。「生とは何か(What is Living?)」だ。──
最前線の研究者の感じているスリルと興奮を体感できる、圧倒的な読み応えの科学書。
感想・レビュー・書評
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著者であるニック・レーンは謝辞において本書を、「私個人の長い旅の終わりを告げるとともに、新たな旅の始まりでもある」と書いた。すでに『ミトコンドリアが世界を決めた 』、『生と死の自然史』 、『生命の跳躍』という主著で、生命の起源についての考察を世に問うてきたが、本書はその集大成ともいえるものだ。
ビル・ゲイツが、「この男の仕事についてもっと多くの人が知るべきだ」とブログで絶賛したことでも有名になった。ゲイツはさらに重ねて、五年後にはここに書かれたものがずっと先へ進んでいるだろうから、この本を早く読むべきだとも言った。本書では確かに筋が通った説得力があるストーリーがまとめられているが、多くのパーツはいまだ仮説である。いくつかのものは今後修正されたり加えられたりしていくのだろう。しかしながら、全体のフレームに関しては、おそらくはこういうことなのではないかと納得することができる。
本書で言われるように、生命進化上の大きな謎は二つある。一つはどのようにして生命が誕生したのか、もう一つがわれわれ人間を含む複雑な真核生物がどのようにして誕生したのか、である。その謎を解く鍵の中心にあるのがエネルギーの代謝である。
一つ目の謎に対しては、原始スープに雷が落ちて有機物が生成されるというミラーの実験による生命誕生のストーリーが有名であるが、現状ではおそらく多くの科学者の間で棄却されている仮説である。著者も同様で、すでに既刊著でも主張しているようにアルカリ熱水噴出孔において始まったという仮説の確からしさと必然性とが本書でも示される。
そもそもの起点はエネルギーの流れであり、著者が「生命はエネルギーを放出する主反応の副反応なのである」と言うのは、より根本的な第一原則として受け入れることができる主張だ。エネルギーの流れは物質の自己組織化を促す、という発想は、『自己組織化と進化の論理』スチュアート・カウフマンの理論にも通じる。著者が、生命が生まれた場所として想定するアルカリ熱水噴出孔は生命誕生の条件を満たす散逸構造を形成することができる。高いCO2濃度、弱酸性の海、アルカリ流体、FeSをもつ熱水孔の薄い壁構造の組み合わせが、生命誕生に必要な化学反応を熱力学と反応速度の化学原理から必然的に生み出すことができるのだ。まずは、FeSを含む薄い無機の膜を挟んだプロトン勾配が有機低分子を形成し、その後熱水噴出孔の細孔内で有機の原子細胞が形成される。そこから遺伝コードが誕生し、原子細胞が自らのコピーを作ることができるようになり、細菌および古細菌の共通の祖先(LUCA)となったというのが著者が信じる生命誕生のストーリーだ。現時点では、このストーリーに理論的に破綻するところはないように思われる。この膜を隔てたプロトン勾配を利用して炭素とエネルギーの代謝を促すという仕組みは、今もわれわれの体内で行われていることなのである。生命とは秩序であり、エネルギーの流れなのである。
その後、生命は細胞壁を有する能動的なイオンポンプを手に入れることで、細菌および古細菌となって熱水噴出孔から自由になって離れられるようになった。この流れにおいて、著者は地球上の生物すべてが化学浸透共役を利用しているし、さらには全宇宙の細胞もこの化学浸透共役を利用すると予想するのである。このエネルギーの通貨として、地球上のすべての生物が膜を挟んだプロトン勾配を利用したATPと呼吸鎖を利用しているのはこの生命の起源に由来する。
実際のところ、このエネルギー利用のサイクルは生命にとって非常に基礎的なものである。われわれの体の中で、毎秒およそ10の21乗個のプロトンをひっきりなしに汲み出しているらしい。膨大な数だ。これが止まると大変なことになるのは、そのプロセスを阻害するシアン化物の摂取が、急速な生命の停止につながることを見れば明らかである。そして老化もそのプロセスに関係する。「シアン化物は電子やプロトンの流れを止め、あなたの命をいきなり絶つ。老化も同じことをするが、ゆっくりと穏やかにそれを進める。死とは、電子やプロトンの流れが止まり、膜電位が消失し、その絶えざる「炎」が消えることだ」 ー 著者が遺伝子よりもエネルギーに着目したのは、当然の帰結であった。「エネルギーは遺伝子よりはるかに許容性が低い」のだ。
二つ目の謎は、真核生物の誕生だ。「生物学の中心には、ブラックホールがある。率直に言って、なぜ生命は今こうなっているのかがわかっていないのだ」― 細菌や古細菌などの原核生物から、真核生物がいかに生まれたのか、これこそが著者がブラックホールと呼ぶものであり、本書で明らかにしようとするものでもある。
菌類、藻類、植物、人間を含む動物の全ての真核生物の共通祖先は、すでに線状の染色体、膜に包まれた核、ミトコンドリア、細胞小器官、膜構造、細胞骨格、有性生殖といった複雑な特徴を兼ね備えていたとみなされる。この事実は、全ての真核生物が単一の祖先を共有しているということであり、進化の過程において多細胞生物となるための有用な変化は40億年においてたった一度しか起こらなかったということを示す。そして、不思議なことに、その共通祖先は非常に複雑な特徴を持つ細胞であったということだ。細菌や古細菌は40億年、形態上は単純なままであるのに対して、15~20億年前の単一の祖先からこれほどまでに多様な生物が生まれた。考えてみれば、本当に不思議なことである。
言われてみれば当然のことのようにも思えるが、単純に遺伝子の数を少なくする方が自然選択上は有利に働く。コピーする遺伝子が少ない方がより少ないエネルギーで増殖することができ、増殖速度も速くなり、より多くの子孫を残すことが可能になるからだ。単純な遺伝子の自然選択の法則によっては、細菌から大きくて複雑な細胞を生み出すことはできない理由がここにある。内部共生だけがこれを乗り越えることができた。これを理解するためにはゲノムや情報の点で考えても答えは出ず、エネルギーと細胞の物理的構造から考えることが必要になってくる。
著者はその問題において、一遺伝子あたりの利用可能エネルギーという概念を導入する。原核生物(細菌・古細菌)と真核生物を隔てる壁がこの数字だという。真核生物が必要とする一遺伝子あたりのエネルギーは、原核生物の二十万倍にもなるという。細菌が単独で真核生物になれない理由がそこに潜んでいる。その壁を打ち破ることができたのが、原核生物同士の内部共生である。「エネルギー面の理由から、複雑な生命の進化にはふたつの原核生物による内部共生が必要」だったのである。
すべての真核生物はミトコンドリアをもっている。これほど多様な生物が、ひとつの共通の祖先をもつ単系統であることは驚くべきことである。複雑なこの真核生物には、これまでいかなる中間体も変種も見つかっていない。同じような形質が独立に何度も起こっていない、少なくとも子孫を残すことに成功していないという事実。複雑であっても何度も独立に進化をしてきた眼と比べるとその特異性が際立つ。ここにひとつのブラックホールがある。いったいどうしていきなりこんな複雑なものができたのか。どこからそのパーツを持ってきたのか。
これに対する答えがビル・マーティンらから提案された、古細菌が細菌を取り込み、その内部共生体の遺伝子を自らの遺伝子に取り込んだという仮説である。この仮説によると、このミトコンドリアを内部共生という形で取り込んだのと複雑な生命の誕生は同時に行われたという。そして、核や性や食作用まで、その出来事の帰結として、内部共生から進化したということが、この枠組みから説明可能とされる。エネルギーの観点から必然であったプロトン勾配の利用が細菌と古細菌の構造に制約を課したが、内部共生体だけがその制約を乗り越えて複雑な生命となったのだ。いずれにせよ、最初の真核生物は遺伝的に不安定で、小さな集団内で急速に進化した可能性が高いと思われる。内部共生はダーウィン的ではない、と言われる。著者は、内部共生が行ったものは一連の出来事の起動である、と表現する。選択の環境が、原核生物同士のただ一度の内部共生によって一変したということであり、その後はずっとダーウィン的であったのだ。それだけ、内部共生が成功するのは非常に稀な出来事であったとも言える。
実は、細菌や古細菌はその代謝を含む生化学的メカニズムや遺伝子も多彩であるという。一方で、真核生物はその複雑さにも関わらず代謝の方法は共通している。いわば、細菌や古細菌は化学的な代謝の可能性を探ることによって問題に対処してきたのに対して、真核生物は体のサイズと構造の複雑さを増すことによって対処してきたといえる。
著者は、この後、内部共生による真核生物の誕生がなぜ有性生殖を行い、また老化し、死すべき運命にあるのかについて説明する。「進化には実は、生命の極めて根本的な特性の一部を第一原理から予測できるようにする強い制約 ― エネルギーの制約 ― がある」と著者は言う。「少なくとも真核生物の普遍的な特質の一部は、宿主細胞と内部共生体との親密な関係の中で形成されたのであり、それゆえ第一原理から予測可能なのだ、と私は主張しよう。こうした特質には、核、有性生殖、二つの正、さらに、死を免れぬ体を生み出す不死の生殖細胞などがある」ー「そうした特性がなぜ生じたか、生命がなぜ今こうなっているのかを第一原理から ― 宇宙の化学的組成から ― 予測できたら、統計的確率の領域に改めて入り込めるようになる」という。
有性生殖の必然性は、個々の遺伝子が自然選択の目に止まるようになったことにある。有性生殖は個々の遺伝子に対して選択が働くようにしたのだ。有性生殖を完全に失っても絶滅していないものはほとんどない。有性生殖がここまで普遍的なものであるのは、有性生殖を発明できなかったものは、すべからく絶滅したからだと言える。その有性生殖の中でミトコンドリアだけが母親の方から伝わる。生殖細胞は、どこまでも分裂し続けられるという意味では、不死である。老いることも死ぬこともない。内部共生によりミトコンドリアの変異率が上がり、特殊化した生殖細胞を隔離せざるをえなかった。生殖細胞が分離されると、他の細胞は不死となる必要はない。生殖可能な生体になるまでの時間によって決まる。ここから有性生殖と死のトレードオフ、老化の根源について理解できることになる。「二つの性の進化、生殖細胞と体細胞の区別、プログラム細胞死、モザイク状のミトコンドリア、さらに、有酸素能と生殖能力や、適応性と病気や、老化と死のあいだに見られるトレードオフの関係。こうしたすべての形質は、細胞内の細胞という起点から生じることが予測できるのだ」
著者は、寿命と死について次のように説明する。
「この見方で、加齢とともに病気や死亡率が急激に増加することも説明できる。組織の機能が何十年もかけて徐々に衰え、やがて正常な機能に必要な閾値を下回ってしまうのだ。我々は次第に活動に対処できなくなり、ついには何もせずに生きることさえできなくなる。このプロセスは、死に至る数十年でだれにでも繰り返され、急激な衰弱をもたらす」
そして、「われわれには自らの進化史で決まっている最長の寿命があり、それは結局のところ、脳内の複雑なシナプス結合と、他の組織における幹細胞集団のサイズに左右される。... 生理機能を調整するだけで120歳を優に超えて生きる手だてが見つかるとは、私には思えない」と結論づける。
著者は、これまでの知見に基づき、地球外生命の様態の可能性について論じる。「一個の細菌がなぜか別の一個のなかに入るというただ一度の出来事がこうした細菌に絶えず加わっていた強い制約を乗り越えさせた。その内部共生で生まれた真核生物は、桁違いに大きなゲノムをもち、それが形態上の複雑さの原材料となったのだ。そして宿主細胞とその内部共生体(ミトコンドリアとなるもの)との親密な関係が、真核生物に共通する多くの不可解な特性の背後にあったのだ、とも訴えたい。進化は、宇宙のどこでも同じような制約に導かれて同じような道に沿って繰り広げられる傾向があるはずだ。私が正しければ(詳細までことごとく正しいとはまるで思わないが、全体像は正しいと思いたい)、これが予言性の強い生物学の起点となる。いつの日か、宇宙のどこの生命の特性も、宇宙の化学的組成から予言できるようになるかもしれない」と大胆に予測する。
われわれはプロトンがエネルギーの原動力であることを知っているし、プロトン勾配が細菌、古細菌、真核生物を含むすべての生命に共通で利用されていることも知っている。このことは遺伝コードと同じくらい普遍的なものである。このエネルギーの仕組みを持ち込んで初めて生命の進化を理解することができる。このことから、プロトン勾配を利用して炭素を還元するレドックス反応は地球以外の生命体においても重要なものになるはずだと想像する。細菌や古細菌のような単純な生物は、それほど厳しくはないであろう条件さえそろえば比較的簡単に発生しうる。しかし、地球において細菌や古細菌はその発生までの期間と比べて相当に長い間その単純さにとどまっていることと、複雑な真核生物が生まれるまで相当の時間がかかったこと、またかつて真核生物の誕生が一度しか起きていないことを鑑みると、内部共生の成功は極めて稀なことであったのだと予測される。岩石と水と二酸化炭素という比較的ありふれた環境がそろえば発生するプロトン勾配からの生命の誕生が必然であったとも言えるのに対して、真核生物の誕生は偶然に近いものであった。なぜならプロトン勾配で利用される化学浸透共役の利用が物理的に複雑性を制限するものでもあったからである。「複雑な生命は宇宙でまれな存在だろうと結論付けてもいいと思う。自然選択には、ヒトやほかの複雑な生命を生み出す本質的な傾向はないのだ。細菌レベルの複雑さで行き詰る可能性のほうがはるかに高い」
とここまで書いてきて、本当にどこまで自分がこの本を理解できているのかわからなくなってきた。ポイントは何とか押さえられているような気はするのだが。
「われわれの頭脳という、宇宙で最高にありそうになり生体マシンが、いまやこの絶えざるエネルギーの流れの経路でありながら、生命がなぜ今こうなっているのかを考えられるというのは、なんと幸運なことだろう」との本書の最後の言葉に賛同する。そして、その幸運にあずかるためにこの本はもっと広く読まれるべきなのである。
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『ミトコンドリアが世界を決めた』のレビュー
http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4622073404
『生命の跳躍――進化の10大発明』のレビュー
http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/462207575X詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2階開架書架:467.5/LAN:https://opac.lib.kagawa-u.ac.jp/opac/search?barcode=3410164023
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研究者が脳で感じているスリルをこの本を読んで感じることができたのと、自分は生物学の専門知識が多少あったので、なんとなく理解したけど、ない人は少し厳しいかも
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人をマイクロに突き詰めてくとここに到達する最先端にいると思われる本。内容は難解だが、何度も読みたい本。
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はじめに——なぜ生命は今こうなっているのか?
第 I 部 問題
1 生命とはなにか?
生命最初の20億年小史
遺伝子と環境に関わる問題
生物学の中心にあるブラックホール
複雑さへの失われたステップ
間違った疑問
2 生とはなにか?
エネルギー、エントロピー、構造
生命のエネルギーのメカニズムは不思議と狭い可能性に絞られている
生物学の中心的な謎
生命は結局のところ電子
生命は結局のところプロトン
第 II 部 生命の起源
3 生命の起源におけるエネルギー
細胞の作り方
熱水孔は流通反応装置
アルカリ性であることの重要性
プロトン・パワー
4 細胞の出現
LUCAへ向かう岩だらけの険路
膜の透過率の問題
なぜ細菌と古細菌は根本的に違うのか
第 III 部 複雑さ
5 複雑な細胞の起源
キメラという複雑さの起源
なぜ細菌はいまだに細菌なのか
1遺伝子あたりのエネルギー
真核生物はどうやって制約から抜け出したのか
ミトコンドリア—— 複雑さへ導く鍵
6 有性生殖と、死の起源
遺伝子の構造の秘密
イントロンと、核の起源
有性生殖の起源
ふたつの性
不死の生殖細胞、死を免れぬ体
第 IV 部 予言
7 力と栄光
種の起源
性決定とホールデーンの規則
死の閾値
フリーラジカル老化説
エピローグ──深海より -
【総合評価 ⒋3】
・革新性⒋5
進化や生命の起源のプロセスにエネルギーの観点を持ってくるという発想に驚かされた。
・明瞭性⒊5
内容が非常に高度、高校レベルの生物学(一部大学レベル)を要求されるため理解するのにかなり時間がかかった。
・応用性⒋0
生物学の根幹を学べるため、生物系の分野全てに生かすことができそう。
・個人的相性⒌0
生物好きの私にとっては大好物であった。内容の難解さを上回る興味を持って読み進めることができた。 -
●真核細胞は一般的な自然選択によって生まれたのではなく、多くの細菌が緊密に協力するあまり、一部の細胞がほかの細胞の中に入ってしまうと言う、1連の内部共生によって生まれた⁈
●今では、すべての真核生物には1つの共通の先祖があり、それ故、地球上の生命40億年間に1度だけ生じたことがわかっている。あらゆる植物や動物が1つの共通先祖がある…真核生物は「単系統」なのだ。
●生命は結局のところ電子。炭素がベース。プロトン。
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おもしろかったので2回読んだ。しかし、難しかった。全ての生物(細菌、古細菌、真核生物)は、化学浸透共役という共通の仕組みで、必要なエネルギーを得ている。つまり、呼吸によって得られたエネルギーを使い、膜の内側から外側へプロトンを汲み出してプロトン勾配(膜の内外でのプロトンの濃度差)を作り出し、その勾配に従って膜の外側から内側へと戻るプロトンの流れを利用して、膜内にあるタンパク質のタービン(ATP合成酵素)を(文字通り)回転させて、全ての生物に共通するエネルギー『通貨』であるATP(アデノシン三リン酸)を合成している。この事実から出発して、最初の生命はアルカリ熱水噴出孔で誕生したという仮説が説明されている。それが本当かどうかは、もちろん門外漢には確かめようもないが、生命の起源について、もっともらしい仮説が提示できるようになっていることに感心した。もっとも、この仮説は、前著「生命の跳躍」にも書いてあったのだった。すっかり忘れていた。そういえば、「生命の跳躍」を読んだとき、ミトコンドリアの獲得が有性生殖や死の起源となったという説明がよく理解できなかったのだが、残念ながら、この本を読んでもその点は相変わらず釈然としなかった。
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後半はやや構成が甘く散漫な印象になってしまっているが、
前半の生命誕生を解き明かす件は素晴らしく、どきどきする
ような読書体験であった。もちろん今のところ仮説の域を
出ないし、これから様々な検証や訂正を繰り返していくの
だろうが、少なくとも「生命スープ」仮説を聞かされた時の
何とも言えないモヤモヤ感は吹き飛ばしてくれる内容で
あった。「周回遅れ」になる前に読むべし。