人はなぜ太りやすいのか――肥満の進化生物学

  • みすず書房
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622085539

作品紹介・あらすじ

人類は太り続けてきた。世界の肥満人口は1980年から倍増し、クック諸島の過剰体重割合は81%に上る。本書はヒューマンバイオロジーの視点から、進化、適応、代謝、生殖、情報分子、遺伝、エピジェネティクス等にわたる膨大な知識を集約し、肥満流行の原因に迫った先駆的な仕事。現代人は太りやすい。一因は進化の過程で脳が大型化したことにある。人体の複雑さに感嘆するとともに、真の健康とは何かを考えさせる1冊。

感想・レビュー・書評

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  • 現代社会において肥満が増加した原因を進化生物学的観点から考察する書。

    種がすでに獲得した性質が想定していない速度での劇的な環境変化を起こしているヒト社会を、進化論的・生理学的観点から分析する試みで示唆に富んでいる。

    ただ進化の探求はあくまで推論の域を脱せないことに注意すべきだ。語源の探求などと同様に、すでに生じている雑然とした系を過去にさかのぼって完全に解析することは不可能である。

    本書はソリッドな論拠に基づくよう細心の注意を払って作成されているが、根本的なところでは「これらの手がかりからこういった解釈が成り立ちうる」といったソフトの域にとどまるだろう。

    こういった性質を持つ分野における研究の困難性は仕方のないことであり、現在利用できる情報から仮説を立項し、データの厳密な検証によってしかその全貌は見えてこないものである。この取り組みは途方もなきことであるが、その探求の取り組みをなるべくソリッドな論拠に基づいて堅実に進行していこうとする筆者の気概が文の端々に見える。この姿勢に学ぶことは多い。

  • サイエンス

  • 配置場所:摂枚普通図書
    請求記号:493.125||P
    資料ID:51700757

    肥満とヒトの進化との関係から、現代病肥満の新しい一面がみえてくる
    (統合領域 小堀栄子先生推薦)

  • 【新着図書ピックアップ!】これからの読書の秋・食欲の秋にピッタリですね。昔は太るという言葉は良い意味で使われていたのに、真逆の意味になった理由や肥満について進化生物学の観点から述べられています。新しい発見や健康でいるためのヒントがたくさん詰まっていて、読み終わったら誰かに教えたくなる1冊です。

  • 『人はなぜ太りやすいのか――肥満の進化生物学』
    原題:THE EVOLUTION OF OBESITY
    著者:Michael L. Power
    著者:Jay Schulkin
    訳者:山本太郎

    【書誌情報+内容紹介】
    四六判 タテ188mm×ヨコ128mm/392頁
    定価 4,536円(本体4,200円)
    ISBN 978-4-622-08553-9 C0045
    2017年7月18日発行

     人類は太り続けてきた。肥満人口は1980年から倍増し、肥満を含む過剰体重者の割合は1位のクック諸島で81%、ファストフード大国アメリカで72%に上る(WHOのデータ)。肥満自体は新しい現象ではないが、これほどの流行は近年の事象である。
     種としての誕生以来、人類は食物獲得のためによく身体を動かし、あり余る食物に恵まれることが稀な環境で数十万年を生き延びた。生存のための適応は、当然エネルギー摂取効率を高める方向に働いた。現代になって初めて、高カロリー食が市場に溢れ、身体活動は余暇のスポーツという贅沢に変わったが、身体は過去の進化の刻印をとどめている。エネルギーの過剰蓄積への歯止めが弱い体で、人類は飽食の時代を迎えたのである。進化の過程で大型化した脳を支えたのが脂肪だったこと、脳の発達のために赤子が脂肪を豊富に蓄えて生まれてくることも、太りやすさの背景にある。
    本書は人の肥満に進化生物学的アプローチを中心に迫った先駆的な仕事。代謝、内分泌、熱力学、遺伝、エピジェネティクスに及ぶ膨大な知識を集約し、複雑に相関する人体の生理を解き明かした。肥満は様々なリスク要因となるが、脂肪は人に必須である。病気への抵抗や女性の生殖に利益をもたらす。過度の痩身は逆に不健康を招く。カロリーや血糖値ばかり気にすることも、バランスを崩す可能性がある。どうしたら健康でいられるのか。近道はないが、確実な道へのヒントを本書は示している。
    http://www.msz.co.jp/book/detail/08553.html


    【目次】
    はじめに――ヒューマンバイオロジー、進化、肥満

    第1章 肥満への道
    肥満を測定する/肥満の流行(エピデミック)は本当に存在するのか?/世界の肥満者割合/健康上の帰結/健康以外の帰結/肥満の流行に対する理解/肥満と進化/何が肥満を引き起こすのか?/なぜ太らない人もいるのか?/まとめ

    第2章 私たちの遠い昔の祖先
    初期のヒト/大きな体をもつことの利点/食物と適応/進化の歴史における食物の変化/ヒトの消化管/食物の腸内滞留時間/デンプンの消化/私たちの消化機構と現代の食事/「不経済な組織」仮説/まとめ

    第3章 食事の進化
    ヒト、食物、食べるという行為/食事とは何か?/チンパンジー、肉食、そして食事/食事と脳/協働と忍耐/チンパンジーとボノボ/協調と公平性/獲物と捕食者/協働と効率/まとめ

    第4章 進化、適応、ヒトの肥満
    ミスマッチ・パラダイム/恒常性パラダイム/アロスタティックロード/過去から受け継いだ機械装置/怠けることは、ひとつの適応か?/旧石器時代の食事/稀なものが貴重になる/ハチミツ/脂肪/脳と脂肪酸/まとめ

    第5章 進化、適応、現代の試練
    現代の食事/カロリーを生む液体/フルクトース(果糖)/高グリセミック指数食/カロリー源として以上のもの/外食/一人前のサイズ/身体活動/建造環境/睡眠/栄養転換/肥満と栄養失調/肥満は伝染するのか?/まとめ

    第6章 エネルギー、代謝、生命の熱力学
    エネルギーと代謝/生命の熱力学/エネルギーを取り除く/「食べる」こととエントロピー/エネルギー支出/エネルギー総支出量/「不経済な組織」仮説の再検討/エネルギー摂取/エネルギーバランス/均衡試験/エネルギーの貯蔵/エネルギー貯蔵組織/エネルギー貯蔵とエネルギー要求性/まとめ

    第7章 情報分子とペプチド革命
    進化的視点/情報分子/ペプチド革命/ホルモンと内分泌腺/消化を助ける内分泌腺/脳腸ペプチド/膵臓ポリペプチド/レプチン物語/ニワトリ・レプチンの興味深い例/レプチンの栄養機能/魔法の弾丸か鉛の散弾か/まとめ

    第8章 食欲と飽満
    満腹感、飽満、食欲/食欲を制御する信号/脳、食欲、そして満腹ということ/代謝モデル/代謝と肥満/まとめ

    第9章 食べるための準備を整える
    パブロフ再検討/脳相反応/制御生理における期待反応の重要性/摂食における期待反応の重要性/脳相反応の証拠/味覚の役割/脂肪に対する味覚は存在するか?/中枢神経の貢献/脳相インスリン反応/まとめ

    第10章 食べるということの逆説
    食欲における脳相反応の役割/満腹における脳相反応の役割/情報分子の多様な機能/食欲と飽満、そしてエネルギー収支/まとめ

    第11章 脂肪の生物学
    脂肪組織/内分泌系/脂肪組織と内分泌機能/ステロイドホルモンとしてのビタミン/ビタミンDと脂肪組織/ステロイドホルモンと脂肪/レプチン/レプチンと妊娠/腫瘍壊死因子/アディポネクチン/神経ペプチドY/肥満と炎症/中心性肥満と末梢性肥満/まとめ

    第12章 脂肪と生殖
    脂肪、レプチン、生殖/脂肪過多における性差/中心性肥満 対 末梢性肥満/性ホルモンが脂肪蓄積と代謝へ与える影響/レプチンとインスリン/脂肪の代謝/生殖における脂肪の利点/太った赤ん坊/脂肪と女性の生殖/脂肪、レプチン、思春期/肥満と出産/肥満、妊娠、出産の結果/まとめ

    第13章 肥満の遺伝子とエピジェネティクス
    古い遺伝学/新しい遺伝学/一塩基多型/子宮内での代謝プログラミング/貧困、栄養、心疾患/エピジェネティックな要因/倹約遺伝子/子宮内プログラムの機構/倹約遺伝子仮説への批判/ヒトの多様性/体脂肪分布と代謝/ピマ・インディアン/同類婚と肥満の流行/緯度と食事中の脂肪/まとめ

    結論――現代生活における危機を生き延びる

    訳者あとがき

    参照文献
    索引

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著者プロフィール

アメリカ産科婦人科学会上級研究員。スミソニアン国立動物園所属動物科学者。ジェイ・シュルキンとの共著にThe Evolution of Obesity (Johns Hopkins University Press, 2009, 『人はなぜ太りやすいのか』山本太郎訳、みすず書房、2017), The Evolution of the Human Placenta (Johns Hopkins University Press, 2012), Milk: The Biology of Lactation (Johns Hopkins University, 2016) がある。

「2017年 『人はなぜ太りやすいのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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