テクノロジーは貧困を救わない

  • みすず書房
3.69
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622085546

作品紹介・あらすじ

マイクロソフト・リサーチ・インドでの実践が生んだ、
新たな解は《人そのもののアップグレード》だった。

著者の研究は万能な解決策などないことを思い知らせてくれる。
最貧困層の生活を向上させるテクノロジーは、
人間の行動特性と文化的相違への深い理解に基づいたもの
でなくてはならないのだ。
――ビル・ゲイツ

いまだITスキルに大きな格差があるインド。学校では上位カーストの生徒がマウスとキーボードを占領している。
「これこそまさに、イノベーションにうってつけのチャンスだ。1台のパソコンに複数のマウスをつないだらどうだろう?…そしてすぐに〈マルチポイント〉と名付けた試作品と、専用の教育ソフトまで作ってしまった」。
しかしその結果は…
「ただでさえ生徒を勉強に集中させるのに苦労していた教師たちにとって、パソコンは支援どころか邪魔物以外のなんでもなかった。…テクノロジーは、すぐれた教師や優秀な学長の不在を補うことは決してできなかったのだ」。
こうして、技術オタクを自任する著者の、数々の試みは失敗する。その試行錯誤から見えてきたのは、人間開発の重要性だった。
人に焦点を当てた、ガーナのリベラルアーツ教育機関「アシェシ大学」、インド農民に動画教育をおこなう「デジタル・グリーン」、低カーストの人々のための全寮制学校「シャンティ・バヴァン」などを紹介しながら、社会を前進させるのは、テクノロジーではなく、人間の知恵であることを語りつくす。

感想・レビュー・書評

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  • 最初のほうは教育との関連を強く出していたが、だんだん、道徳律の話になってきて、最後の方はインドの話を中心とした開発援助のあり方の話になっていった。
     情報教育の参考文献とするにはすこし外れてしまったような気がする。

  • マイクロソフト・リサーチでキャリアを重ね、今ではミシガン大学の准教授になっている方による、貧困を救うためにはテクノロジー一本槍じゃダメなんだ、という主張。
    読み始めた時は、もっとテクノロジーよりの細かい話で、「こういうところを改善すれば…」的な提言でもあるのかしら、と思っていたのですがさにあらず。前半は優れたテクノロジーがあっても上手く行かなかった例、後半は、援助において(あるいは物事全般において)人を動かすためには何が必要なのかを語っています。
    個人的には、少し視野が広がった感覚があり、タイトルだけから想像していた内容よりも良い意味で意外な展開でした。

    例えば、スラム街の学校にパソコンを導入して、賞まで受けたプログラムも「現場を訪れてみると、パソコンが使われていないか、機能していないか、年長の男の子がゲームをするために占領しているか」という有様で、結局のところ「大人による動機付けや指導」が不可欠。テクノロジーは所詮ツールに過ぎない、ということを語っています。
    少々読んでいて難しく感じた所もあったのですが、著者の長年の経験が活きた生々しい事例が多いのは素晴らしいなぁと感じました。

  • 日本語タイトルはいかがなものかと思うが,内容はしっかり
    した本だ。
    技術だけでは何もできない人が重要なのだ,というのはその昔の村おこし,町おこしのときから変わってない。

  • テクノロジーによるナッジだけでは根本的な社会課題は解決できない。人を内発的に行動づけるものは何かを考え、心、知性、意志のパターンに注目して手を当てることが肝要だとの論は、筆者のインドでの多数のケースもあって説得力がある。

    どこか技術万能主義の間もある昨今、人間開発の重要性を再認識できる良著です。

  • Microsoftで働いて、その後インドのms研究所を立ち上げ多くのプロジェクトを行った著者による開発経済学寄りのエピソードを交えた学書。
    翻訳ではないのでスラスラと読めた。
    テクノロジーやシステムを与えただけでは問題の根本が解決しない難しさを具体のエピソードを基に記述しているので説得力があって分かりやすい。
    ITに限らず常に頭の片隅に置いておくべきもの。

    70/100

  • 結構分厚い。しかし末尾の1/4は参考文献と脚注で占められている。原著を書いたのが日本人なせいか、翻訳モノの割には読みやすかった。

    社会的課題に対してインターネットやテクノロジーを、つまりパッケージを導入すればうまくいく、という幻想に私たちは囚われがちだ。しかしテクノロジーの導入に限らず、あらゆる課題に対するパッケージの導入は、それに関わる人間の性質を増幅するものであって、解決策になるとは限らない。それが良い方向に増幅するとは限らない。選挙制度というパッケージを導入しさえすれば、その国は民主化するだろうか?答えはNoだ。貧困の現場にPCを持ち込んでも、ゲームやエロ動画ばかり、という事態になりかねない。パッケージを開発する者、運営する者、利用する者の三者が、向上心を持って知力、理性、自制心を働かせなければならない。その時に初めてパッケージが課題解決の役に立つ。

    前半部分ではそんな、言われてみれば当たり前デスネー、ということが、農業や教育現場の事例を挙げて語られている。説得力はある。雑に言うと「結局、人なんですよ」ということを書いている訳で、結論としてはおもしろくない。やっぱ、魔法の杖が欲しいじゃん。

    後半部分では、ではそういう人はどうしたら増えるのか?生まれるのか?ということが社会や教育の観点、特に教育の観点から語られている。しかしここで書かれている通り、それには時間がかかる。マズローのなんちゃらを持ち出して理想として描かれる、内面的成長を遂げた利他的人間像は、ハードルが高すぎる。神じゃあるまいし。そういえばみうらじゅん氏が、やることやりきった人間に残されたやることは親孝行だけだ!と言ってたのを思い出した。それに近いニュアンスを感じる。やりきってエゴを満たした先の話だ。そこまでたどり着ける人間がどれだけいることか。

    語られていない部分で気になったのは、歳と個人差の問題。手間と時間をかけた良質な教育があれば、殆どの人がそこに到達できるとでも言いたげな印象を受けた。無理じゃね?著者は高い理想を持った、内面的成長を遂げた立派な人なのであろう。しかし世の中には、生まれながらのしょうもない人間も多い。歳とった人間は頑固で修正は難しい。そんな意識高い連中ばかりの世の中は疲れる。幸か不幸か、多様性ってそういうことだと思う。もちろん、この努力を否定してはいかんのですが。

  • 図書館HP→電子ブックを読む 
    Maruzen eBook Library から利用

    【リンク先】
    https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000041670

  • テクノロジーは貧困層の生活を豊かにする万能策なのだろうか?
    これがこの本の大きな問いである。そして著者はこの問いに対して「No」と言い、結局のところ、テクノロジーを利用する人そのものをアップグレードすることが必要であると主張している。

    この本の大きな意義は、テクノロジーの役割を再定義したことにある。著者は「増幅の法則」という理論を提唱しており、テクノロジーの本来の役割は「人の能力や意志を増幅することにある」としている。

    この本から得られた「増幅の法則」という着想は、家父長社会におけるICTの役割や意味を研究する自身にとって非常に有益なものであった。男性が支配的なバングラデシュ社会において、もはや女性は男性に従属的な存在であるだけでなく、その不平等な社会に何とか抵抗しようと戦略的に生きている。このようなバングラデシュ社会に今、モバイルフォンを活用したICTサービスが普及しつつある。家父長社会に生きる女性の戦略的行為に対して ICTがいかなる役割を果たすのか。この問いに答えるための重要な視点をこの本が与えてくれた。
    (名古屋大学大学院国際開発研究科 博士課程 綿貫竜史)

  • 『テクノロジーは貧困を救わない』
    原題:GEEK HERESY: Rescuing Social Change from the Cult of Technology
    著者:外山健太郎
    訳者:松本裕

    四六判 タテ188mm×ヨコ128mm/400頁
    定価 3,780円(本体3,500円)
    ISBN 978-4-622-08554-6 C0033
    2016年11月22日発行
    https://www.msz.co.jp/book/detail/08554.html

  • 元マイクロソフトのエンジニアである著者は、インドでの教育・開発支援にかかわった経験から、ソリューションの援助よりも先に、心(意図)、知性(判断力)、意志(自制心)を備える受け手がまず必要だと説き、テクノロジーを投入さえすれば、自発的に活用されて生活が改善するという考えに批判を加えている。

    ここで批判されているプロジェクトは、
    ワン・ラップトップ・パー・チャイルド(One Laptop Per Child)
    ホール・イン・ザ・ウォール(Hole in the Wall)
    グラミン銀行
    など。

    将来的に収入の増加が見込めるとしても、勉強したりビジネスを立ち上げて成功するという事例を見聞きしたり、体験していない層に、情報や資本へのアクセスを提供したところで活用されない、というのだ。

    そして、成功事例として、農村に密着する指導者を備えた農業情報提供「デジタル・グリーン」や、教師による指導が実績を上げている教育機関など、人と文化に寄り添う支援を紹介する。

    援助の受け手が貧しい原因を、テクノロジーの不足ではなく、貧しい人たちが向上心や勤勉さが欠けているからだとすると、そういう魅力的でない人たちを助けるというのは気分が良くない人もいると思うし、自己責任論にもつながりそうだ。

    東アジアにテクノロジーが流入するとそれを使いこなして発展することができたのは、儒教という社会性や学習を重んじる学問体系によって、テクノロジーを活用する素地が作られていたからなのではないか。

    ジャレド・ダイヤモンドは「銃・鉄・病原菌」でテクノロジーと産物が民族の興亡を決定づける、としたけれど、切り口を変えるとまた全然逆のストーリーが出てくるんだなぁ。

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著者プロフィール

ミシガン大学情報学部W. K. ケロッグ准教授、マサチューセッツ工科大学「倫理と変革の価値観のためのダライ・ラマ・センター」フェロー。2005年にマイクロソフト・リサーチ・インドを共同設立し、2009年まで副理事を務めた。同研究所では「新興市場のためのテクノロジー研究班」を立ち上げ、世界でも特に貧しい地域の人々がエレクトロニクス技術とどのように触れ合うかを研究して、テクノロジーが社会経済的発展を支援する新しい方法を開発した。同研究班は数々の賞を受賞。その成果には、MultiPoint, Text-Free User Interfaces, Digital Greenなどがある。著書に、Geek Heresy: Rescuing Social Change from the Cult of Technology (PublicAffairs, 2015 〔『テクノロジーは貧困を救わない』松本裕訳、みすず書房、2016)。

「2016年 『テクノロジーは貧困を救わない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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