子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622086031

感想・レビュー・書評

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  • 地べたからのポリティクスから見えてくるものは、底なしの格差だ。なぜなら、底辺託児所には、子供たちが「闘争」しているはずの階級が存在すらしないからた。もはや「闘争」と呼べるのかわからない分断が徹底的にリアリティを追求した描写で描かれていくのだが、なぜかそこには希望と幸福を感じるのである。それは、泥水の中でしぶとく人間が生きていく社会を描いているからであり、同じ目線から施しではない優しさを持った書き手のフィルターを通じて世界を見ているからでもあろう。誰かに分かってもらう必要がないと思える程にそれでいいのだ。

    親だけが子供を育てるわけではないし、社会だけで子供が育つものでもない。その境界に底辺託児所があって、スペシャル・ニーズを抱えた親とスペシャル・ニーズを抱えた子の関係性が「他者との違い」を意識する場にもなっている。幸せな過程を見て悲しむ子供がいれば、他人の子供の一言で傷つく親がいる。そこにあるのは、美化されたインクルージョン教育でもエリート教育としてのモンテッソーリ教育でもない、「人は皆ちがう」という当然のことを肌で感じる場所である。観念的な正しさではなく、事実を事実として感じ、知り、理解する場なのである。

  • 華々しいイメージのあったイギリスも、こうやって格差社会の現状があると知ると、貧困、虐待、薬物乱用などの問題は意外と身近にあるんだろうと思った。

  • 政府の緊縮財政がもたらしたイギリスの無料託児所の変化。保育士として働いた作者の体験記。
    底辺の中でさらに分断と格差が進む(そして固定される)厳しい状況でも消えそうで消えない共同体の矜持や目の前の人を見捨てないDIY精神(さすが生協とパンクを生んだ国)。作者はそれを「アナキズムと呼ばれる尊厳」とし、薔薇に例えてきっとまたふてぶてしく咲き始めると書いた。
    多寡や有無なんて問題にしない「ある」という前提の強さ。モリッシーがうたった「決して消えずにある光」みたいだと思った。

  • 地べたで生きてきた人間が、インテリ層にも届く表現力と議論の力を持っているのはとても強いな。
    クレバーでチャーミングな反骨心。著者はそんな印象です。
    著者が連発する「底辺」というのは、外側から見た軽蔑や、あるいは自身のコンプレックスの裏返しなどではなくて、
    実感と、一筋縄ではいかない情なのだと思います。

    みかこさんの文章は私には水が合うみたいで、いつも面白く読んでいます。

  • 図書館にあったブレイディみかこさんの作品なので読んでみました。
    イギリス、と聞いたときに日本人が思い浮かべるイメージとほかけ離れた現実が描かれています。日本にも、本当に必要な人に福祉が行き届いていない状況や、逆に福祉を良くない形で利用した生活をしている人はいますが、ドラッグや移民などの問題も加わり、イギリスの方が状況はよりハードなように感じました。ただ、そんな現実も、著者のユーモアと独特の筆致のおかげで、明るく力強い印象を持って読むことができました。

  • 子どもたちの階級闘争 ブレイディみかこ みすす書房

    あの揺りかごから墓場までの
    福祉国家英国が
    EUの人的移民騒動で自ら崩壊へと
    陥ったという話の具体的実態がここに
    描く出されている
    軒を貸して母屋を取られるとか
    郷に入れば郷に従えなどの諺があるけれど
    アメリカやオーストラリアの侵略も
    旅人へのもてなしに始まり
    移民と言うトロイの木馬の受け入れてから
    侵略へと牙を剥く首カリ族の本性を現す
    一連の流れはインドや清国や世界大戦や
    ベトナムを経て新自由主義の今につながる話だ

    低所得階層における落ちこぼれの解消として
    始められたモンテッソーリ教育も
    両刃のツルギの如く
    残念ながら金持ち層に利用されると
    ビルゲイツやアマゾンのジェフペゾスや
    グーグルのラリーペイジに
    イーロンマスクに藤井聡太などの
    そこで培われた能力が
    支配と搾取への手段として
    応用されてしまうことになるようだ

    つまり政治的に追い詰められた
    底辺託児所の日々を
    ドキュメントしている内容なのだけれど
    エッセイのようにお洒落に
    表現されているのだ
    文章がうますぎて困ったことに
    一つ一つのとめどなうエピソードに
    引き込まれてしまう

  • すごい作品に出会った.
    相変わらず,登場人物はBrightonの底辺層の,色々問題を抱えた人々が多いのだけど,人間を見つめる目は相変わらずどこまでも率直で優しい.
    このお話は海の向こうの遠い国の話ではなく,同じ時代に生きる僕たちの話だ.
    資本主義と民主主義って,本当に合い入れるのものなのかな,と.
    少なくとも,先鋭化した現代の資本主義=新自由主義は,民主主義とは相入れないものになってしまったとしか思えない.

  • ブレイディみかこ氏が働いた、氏言うところの「底辺託児所」の勤務を通して感じた英国の社会事情。幼い子供たちに社会の縮図が、しかも困窮、移民、階層といった社会的弱点のゆがみが濃縮されているのがびんびん伝わってくる。

    「ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー」も息子さんの中学生活を通して英国の階層の微妙な事情が伝わってきたが、それはPTAとしての感じ方なのでいくぶん穏やかだった。が、こちらは、みかこ氏が直接託児所で保育士として幼児に関わっているので、託児空間でくりひろげられる、小さなギャングたちの驚くような振舞と親の事情、それに対する保育士たちの対応が生々しく伝わってくる。

    文章として載せられているのは、
    「緊縮託児所時代」2015-2016、それ以前の「底辺託児所時代」2008-2010年である。
    時系列的には、保育士資格をとるため「底辺託児所」に務め、保育士の資格をとり普通の保育所に務め、そこが閉鎖に追い込まれ、また元の場所に戻った。が、そこも政府の緊縮政策で託児所は閉鎖となりフードバンクになってしまう。

    書かれている8年の間に、幼児をとりまく社会があれあれ、と言う間に変化した。氏の勤めた託児所は母体の「無職者・低所得者支援センター」の付属託児所。普通の有料保育園に通わせられない人の子供が通ってくる。幼児の母はDVにさらされる者が多く、日ごろ親が殴り殴られなどというのを見ていると、幼児もコミュニケーション手段として相手に暴力をふるってしまうようだ、しかも程度の容赦なく。そして2006年当初は、白人の低所得者、移民の低所得者がそれぞれ、ゆるい連帯のようなものがあったが、4年後に戻ってみると、ほとんど移民だけになり、さらにたまに入ってくる白人の低所得者の親子には嫌悪感を示す、というなにか逆転現象のような雰囲気ができていた。

    また英国では階層で英語の発音が異なり、労働者階級では単語の語尾をはっきり発音しないらしい。なのでいくらきかざっても発音で階層が分かってしまうというのだ。途中勤めた保育園はミドルクラスが通う所で、閉園に追い込まれたのも、下層出身の保育士に虐待の疑惑が起こり、実は無罪だったのだが、その風評で閉鎖になってしまったというのだ。その下層出身の保育士はイギリスで言うところの元「チャヴ」・・公営住宅に住む低所得でガラの悪い若者だった。しかしお母さんたちにはみかこ氏には「外国人」ということで、やさしかったそうだ。なぜなら、外国人を差別するのはポリティカル・コレクトネスに反するから、ミドルクラスにはそういう自制心が働くが、チャヴには差別しても自国民なのでレイシズムではない、という発想になるという。これがソーシャル・レイシズムの根幹にあるという。

    などなど、氏の「地べた」の生活から英国事情が垣間見られた。


    2017.4.17第1刷 2020.4.23第18刷 図書館

  • イギリスはこんなにも格差と分断に満ちているんだ。日本とは全然違うな。と思った私は、視野が狭く何も見えていないだけなのだろう、と気付かされた。

  • 真っ当な仕事をしたことのない、半分神様みたいなおじいさん

    軍人の服を着ようとする子供とそれを遮るおばちゃん

    家庭環境が大変だったのに保育の仕事ができるようになったイギリスの女の子

    それを嫌がる移民のママ


    もちろんタフな環境がそうさせてはいるのだが、小競り合いを経て仲良くなる人々がうらやましく見えた。日本ではそもそもこんなにぶつかれない。外国人が増えていくこれから、どうなっていくのかと不安しかない。

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著者プロフィール

ブレイディ みかこ:ライター、コラムニスト。1965年福岡市生まれ。音楽好きが高じて渡英、96年からブライトン在住。著書に『花の命はノー・フューチャー DELUXE EDITION』『ジンセイハ、オンガクデアル──LIFE IS MUSIC』『オンガクハ、セイジデアル──MUSIC IS POLITICS』(ちくま文庫)、『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン)、『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮文庫)、『他者の靴を履く』(文藝春秋)、『ヨーロッパ・コーリング・リターンズ』(岩波現代文庫)、『両手にトカレフ』(ポプラ社)、『リスペクト――R・E・S・P・E・C・T』(筑摩書房)など多数。

「2023年 『ワイルドサイドをほっつき歩け』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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