自由の法則利害の論理

著者 :
  • ミネルヴァ書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784623018161

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  • 社会契約論と功利主義という、倫理学の二つの潮流にたずさわった思想家たちをとりあげ、彼らの思想が投げかける問題について著者自身の観点から考察を展開している本です。

    最初にとりあげられるのはホッブズの社会契約論ですが、著者はその議論の論理的な展開過程を整理しなおし、その倫理学上の意義を明らかにしています。著者によれば、「一定の条件を満たす人びとがいかなる規範を受け容れるかの論証をもって、その規範の妥当性を示す」という議論のしかたを示したところに、その意義が認められることになります。

    他方で著者は、ルソーからカントへと受け継がれた流れにも目を向け、そこで非経験論的な「自由の法則」の解明がめざされていたとしながらも、「われわれが本当に知りたい、あるいは納得したいのは、定言命法をなぜ受け入れて、それに従わなければならないのかということである」と問題を提起します。

    そのうえで、ヒュームから功利主義へと受け継がれた「利害の論理」についての探求が、こうした問題に対してどこまでせまることができたのかということが論じられます。ヒュームの思想においては、「べし」で表現される規範が、事実から演繹されるのではなく、人間本性にもとづく「情念や想像力の作用の結果として受け入れる」という見通しが示されていることを評価します。さらに功利主義では、私的な価値を追求するという人間本性にかんする経験的な主張にもとづいて、同様の帰結にいたることが示されたことを著者は明らかにしています。

    著者は、カントの定言命法のような倫理的規範がどうして「受け入れられるのか」ということを問題にしていますが、カント倫理学はどこまでも「受け入れられるべき」であるという義務論的な立場がつらぬかれている以上、「自由の論理」と「利害の法則」の調停はなおも達成されていないのではないかという疑問もあります。もっとも、著者自身も「道徳の基礎づけは、いかに事実の裏づけや概念分析を援用しても、どこかの段階で、「こうやってみるほかない」という決定ないしは価値判断で始めるほかはない」と認めており、そのうえでそれが「受け入れられる」ための合理性を満たすような条件を示すという問いを追求していった点は評価されるべきではないかと考えます。

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