何処へ行くのか、この国は: 元駐米大使、若人への遺言

著者 :
  • ミネルヴァ書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784623057221

作品紹介・あらすじ

リーマンショック以後、いよいよ混迷の度を増しつつある日本社会。この混沌とした時代に、戦後史の生き証人が再び立ち上がった。今後、日本が歩むべき道とは?祖国の矜持とは何ぞや?気骨の老外交官が、若き日本人に檄文を送る。

感想・レビュー・書評

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  • 元外務官僚の書いた本。
    最も興味を引いたのが、日本核武装論。特に「核シェアリング」論
    "米国を説得し、少なくとも一定の抑止力としての核戦力を保有する途が検討されるべきだ。
    1960年代のNATOであった「核シェアリング」を研究を提案している。建前上は米国が所有しているがソ連による攻撃でどうしても核なくして防げないと判断した場合には一定数の核弾頭を米国から使用を許され、そのあとはドイツならドイツが自国防衛のために自らの判断のみで爆弾を使用できるとの約束である。"
    近隣の北朝鮮の核保有を米国が認めるのなら、この程度日本に認めても確かに良いのでは。。。。但し、あくまで米国の持ち物の場合、対米独立の役に立つかは?

  • p.i-ii
    ①中学・高校でもしっかり教えていない七〇年以上前のあの戦争を考える重要な視点、②米軍による六年以上にわたる占領が、日本に今なお及ぼしている影響、③冷戦中の日本外交、とりわけ重要だった米国との安全保障関係及び経済関係、及びこれらが冷戦終了以後日本にとっていかに変貌してきたか、④約三〇年位前から再び近隣の中国、韓国からの干渉が始まった「日本の過去の問題」に関する日本の対応振り、そして⑤目を将来に向けて考察すべき国家的課題の諸点、を中心テーマとして、本書を纏めました。

    pp.42-3
    米国は、第一次大戦後のヒトラードイツの搭乗の例のような日本の国力再興後の対米復讐戦を永久に不可能とする措置をとったのみならず(ここまでは世界史に例は多い)、アジアの国たる日本を異質かつ後進性を持つ社会としてとらえ、軍事的無力化及び民主化と称する日本改造(このための措置は、米ソ対立の結果、大よそ第二次吉田内閣が発足した四八年一〇月ごろには部分的に修正された)に加え、日本の軍事、外交的な米国への半永久的従属化を占領を主目的とした。

    p.43
    クラウゼヴィッツは言った。「敵の軍隊を壊滅しても、国が残れば軍隊は再建できる。敵の国を壊滅しても、国民が残れば国は再建できる。しかし国民の意志、魂を壊滅させれば、完全に敵国を壊滅できる」と。米国は六年余の占領によって正に日本国民の意思と魂を壊滅しようとし、相当の成果を挙げたと評する他ない。

    p.49
    ケイディス及びその輩下は、占領軍の特権を用いることにより、米国においては実現し難い政策を実験してみる場として日本を利用した

    p.51
    占領軍が日本国の予算の三分の一以上を消費し、将校はもちろん下士官に至るまで、接収した大きい邸宅に住み、日本人のバトラーや女中を雇い、本国では考えられない貴族の如き贅沢にひたっていることを自らの目で確認して、憤慨すら感じた。

    pp.53-4, 57-8
    日本の国民精神に最大の後遺症を残した占領政策は、私は次の五つであったと考えている。
     第一は、日本側の出した草案は不可として、四六年二月三日から民政局ケーディス以下に一週間で起草させた新憲法である。[...]
     第二は、A、B、Cの三つの蔵sに分類されて行われた戦争裁判、なかんずく一九四六年五月三日に開廷され、判決申し渡しまでに二年六カ月を要したA級戦犯を対象とする極東国際軍事裁判(所謂東京裁判)である。[...]
     第三は、前述の五大改革に入っている「教育の民主化」であって、GHQの民間情教育局(CIE)が担当した。[...]修身、歴史、地理の各科目を廃止して[...]戦前の国民及び市民として備えるべき心得を教えた修身科を廃止したこと等がとくに重要である。[...]神話に始まる日本の伝承すら教えることは許されなくなった。[...]
     第四番目に挙げるべきは、基準も定かでない公職追放を一九四六年一月から突如開始しそのあとも続けて、とくに大正時代と昭和の初期まで、広い見識、学識を持って立派に日本を指導し、海外経験も豊富だった人々が公の場から立去ることを強制されたことだ。[...]
     第五番目に挙げるべきは、占領軍の民間情報教育局(CIE)によって組織的に行われた洗脳工作である。

    p.77
    平和条約を締結した以上、もはや米国の謝罪はあり得ないが、私は米国大統領による遺憾の意の表明なき限り、日本人は心中永久にこの米国の犯罪を許さないであろうし、日本に対し遺憾の意すら表明できないということが続く限り、私はアメリカ人の国民性に根本的な欠陥ありとの認識を持ち続ける

    p.85
     日本以外の先進国においては、冷戦の終了、ソ連の崩壊により旧思想も一掃されたが、独り日本のみに、学者、言論人、教育者の一部に他国には見られない旧思想が残り、一部にはむしろ強くすらなっている感がある。これを克服するのが今後の日本国民の課題であろう。

    pp.88-9
     憲法改正を行った後、日本が行う必要があるのは現行日米安保条約の改正である。この条約が日本の憲法、したがって国防方針をも前提にして締結されたものである以上、当然憲法改正の次のステップとして安保条約の改正が必要となる。

    p.92
     警察予備隊が、米軍軍事顧問団の初代参謀長となったフランク・コワルスキー大佐によって、マッカーサーからの「この舞台は、将来の日本陸軍の基礎となるものであり、自分の手交する基本計画に基き、所要の育成と指導を行え」との命令の下に、米軍式の陸軍へ要請されたことである。[...]予備隊の上層部は、[...]旧軍人が一九五〇年から[...]陸、海、空三自衛隊の基幹たる幹部将校となっていった。

    p.95
     NATOと異なり、日米安保体制の運用の基本方針は一〇〇%米国の手中にあり、日本政府には自衛隊を含め補助的役割のみをあてがわれ、そのうち始まった巨額の駐留費負担が今なお続いているのが現状だ。

    p.100
     核弾頭なり他の戦術核兵器を搭載した軍艦や軍用機が単に日本の港に一時的に補給、休養、修理の目的で立寄ったり、あるいは日本の領海、領空を通過することは持ち込みではないので、この旨を確認する口頭了解が六〇年一月六日藤山外相とマッカーサー駐日大使との間で行われた。[...]実はこの秘密の口頭了解は、歴代の外務事務次官が、次々と更代する外務大臣に説明することとなっていたが、私も次官になるまでは、かかる口頭合意がかつて行われたこと、及び歴代次官の引き継ぎ事項であることは、知らなかった。

    p.107
     米国は、ブッシュ(父)大統領やベイカー国務長官は日本のかかえる憲法問題その他の事情をそれなりに理解していたのだが、上下両院の議員のほぼ全員、すべてのマス・メディア、更に一般の米国国民の日本を見る眼は、冷たく、厳しいの二語に尽きた。

    pp.110
     日本政府が自衛隊を冷たく扱ってきたことは私には許しがたいことだと思われた。七八年七月、時の来栖統幕議長が、[...]当然至極の日本の防衛法制の不備を指摘したが、政府も、マスコミも来栖氏の越権発言だとして来栖氏は更迭されてしまった。[...]さらに三矢研究事件もあった。三矢研究とは、三軍の士官クラスが朝鮮半島の有事の際、これは必ず何らかの形で日本に波及するので、その際の対処ぶりや対米協力ぶりを研究したものだ。

    p.112
     シビリアン・コントロールとは[...]軍人中心の軍略のみに基づく行動、作戦を、大統領、総理大臣、防衛大臣、外務大臣等が、一段高い立場から、時の国内、国際情勢を念頭に置き軍人レベルの企画している行動に対し、必要な場合、これを阻止したり、方向を変えるよう指導することを意味する。

    pp.113-4
     憲法九条の制約のために、自衛官は戦争地域へは派遣せずとしながら、外務省、警察庁、JICA、NGOの職員は現にアフガニスタンやイラクの事実上の戦闘地域へ派遣され、非命に倒れたり傷ついた人々はかなりの数に上る。

    p115
     中東のイラン、イラク、アジアの北朝鮮のような国を潜在的な敵とみなすとの政策は、クリントン時代から定まっていたことである。

    p.119
     私は、かつてアイゼンハワー大統領が辞任に際し戒めた「産軍共同体」の肥大が続いており、純軍事面の要請以上の数や性能の武器の製造は、兵器産業の繁栄をもたらすだけで、米国経済全体からみればマイナスではないかと危惧している。

    pp.121
     実は日米安保体制にとっては、新世紀に入って、更に極めて重大な変化が、安保条約の改正なしに行われた。[...]とくに注目すべき点は、(イ)対象として日米協力の対象を極東から"世界における課題に対処する"と拡げたこと、(ロ)国連は事実上無視され、「日米共通の戦略」が表面に出たこと(日本は戦後、何ら特別の戦略を持ったことはないから、共通の戦略とは米国が一方的に決めている戦略と同義である)、(ハ)かつ、日本はこの"日米共通の戦略で国際的安全保障環境を改善する国際的活動に協力する"と約束したこと(これは、日本が米国の軍事活動に協力することを主眼とすると解されるので、今後、中東地域等での戦闘に自衛隊の参加が求められることをも含む)などである。

    pp.124-5
     日米安保体制は、実は極めて脆弱な柱の上に立っているのだ。ひとつは、この体制により日本が得ている利益より(日本が米国に守られているという点は、米国が意図的に日本の軍事力を抑える政策を戦後一貫している面と一体だから戦後二十年位はともかく、今や評価できない)日本列島をまったく自由に軍事利用できるというはるかに巨大な利益を日本占領の結果として米軍が得ているという実質的不平等性が存在する。[...]もう一つは、日本国民の多くは過去六四年間、日本が平和を享受できたのは、「平和憲法」のお陰であるという考えに慣らされ、日本が米国の軍事的庇護の下にあったから平和に暮らせたことを正しく認識していないということである。[...]加えて日本は、米国が時として極めて独断的で、かつ利益至上主義の国となることをも認識せねばならない。

    p.134
     米軍が日本を守るというのはあくまで建前で、小さい目的でしかなく、日本領土を自由に使うということに本来の目的があり、しかも日本敗戦国ではなく、英、仏並の主権国家だ。

    pp.142-3
     米国は常に敵を意識する国であるが、ソ連の脅威が後退するとともに、日本の経済大国化とりわけ日本の先端産業の巨大化と、日本の大銀行、証券会社の国際進出への警戒感、不信感が急激に高まった

    p.150
     ブッシュ(父)政権ですでに芽を出していたことだが、クリントンの対日政策は所謂グローバル・スタンダード(実質はアメリカン・スタンダード)を手を代え品を代えて押しつける試みだった。

    p.153
     BIS規制[...]によって邦銀の貸出しが選別的となり、このため本来経営の健全だった企業も九七年頃から倒産を始めた。[...]米国による「グローバル基準」(イコール米国基準)の押しつけであって、株式の持合い解消、会計のグローバル基準導入等がこれに当る。

    p.155
     三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行等が誕生し、その背後にメリル・リンチやゴールドマン・サックスといった米系投資銀行による増資もあることを知って、日本の金融界に対する米国政府、並びにウォール・ストリートが行使する力の強大さを、つくづく印象づけられたものだ。

    p.160
    日本でブッシュ(父)政権以来「規制緩和」と「構造改革」として要求され実施されてきたことの多くが、外資による日本の企業や不動産の資産買収を促進することをねらったものであった

    p.173
     ある戦争を終結する際には平和条約(またはこれと同様の合意)が締結され、その規定に基づき、交戦国間の権利義務関係は最終的に処理される。

    p.174
     中韓両国が、一九八〇年代に入って四〇年、五〇年前の事態を問題としてとり上げてきた背景の一つには、両国の内省的事情があったものと思われる。[...]すべての問題提起の背後には、日本の特定勢力、とりわけ偏向マスコミ勢力があり、時にはむしろこれら日本側勢力から火をつけたとみられるケースが多い

    p.197
     「国際社会より前に、まず日本あり」との発想が欠かせない

    pp.205-
     私の考えを数点、偏見が交じることを覚悟の上で述べさせてもらいたい。
     一つは「平和主義」というものがあると信じる人が外務省にすらいることだ。[...]
     第二は日本という国の独自性をよりしっかり認識してほしいことである。[...]
     第三点は日米関係が最重要であるという思い込みが先立ってしまうことは誤りだという点である。[...]
     第四点は、日本による欧州の再評価、欧州とロシアをして日本を見直させること、及び中東のこれはという国とのパイプを大きくすることであろう。

    p.217
     今や政府は、勇気をもって、いかなるタブーもない核議論を推進する時期に到達したと認識すべきである。[...]
     第一の論点は「非核三原則」の第三原則がナンセンスであることだ。[...]
     次に極めて秀れた日本の総理と米国の大統領の合意なくしては不可能だが、米国を説得して、日本も一定の極めて限定的な核戦力(あくまで報復力たる抑止力)を保持する途が探求されるべきだ。

    p.225
     イエーメンという国の動向は、今後地域の安定を乱し、そのうちより広域的な影響を及ぼしかねないので、この国の動きは不断に注目すべきである。

  • 『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること』の本で紹介されていたのだが、ほとんど沖縄の説明はなかった。孫崎亨の本が紹介されていたのみであったが、説明はほとんどない。日本の独自性を根拠無き説明ですませているが、これこそがアメリカの菊と刀でルースベネディクトがアジアから日本を分断するという戦略のもとに書かれた本のうのみである。
     拉致被害がいままで解決しなかったという外務省の責任を棚上げして、政府やマスコミをあげつらっているが、これは天につばする行為である。
     2050年まで嘉手納基地はそのままでもと言う意見であるが、グアム移転のアメリカの方針を全く無視しているのは、外務省の秘密でわざと書かないという作為を感じる。

  • 登録日:12/1

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