日韓歴史認識問題とは何か (叢書・知を究める)

著者 :
  • ミネルヴァ書房
4.13
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本棚登録 : 192
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784623071753

作品紹介・あらすじ

ともに民主主義国であり、経済的結びつきも強い日韓両国は、なぜ歴史認識問題で対立し続けているのか。1980年代以降の歴史教科書問題、そして1990年代以降の「従軍慰安婦」問題などが起こり続ける背景には何があるか。本書では、日韓両国の政治過程を丹念に辿ることから、両国のナショナリズムが高まる中で両国のエリート統治が機能不全に陥り、「期待」と「失望」を繰り返してしまう構造を解明する。
[ここがポイント]
◎ 日韓両国は、歴史教科書問題、「従軍慰安婦」問題など、なぜ歴史認識で対立し続けるのか、その背景を解明する。
◎ 両国のエリート統治不全、そしてナショナリズムの高まりを描く。

感想・レビュー・書評

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  • いやもう論文の教科書って感じ。ほんと論理的で理知的。
    日韓双方の主張や立場がかなり整理されていて、「歴史問題」が何であったかが良く理解できる。

    ただまあ、じゃあどう解決すればいいか、となるとわからんってのが正直なところだよね。本書もその部分はトーンダウンしちゃってる感じ。とかく国際政治は難しい。

  • 日韓歴史認識問題について、その流れを概観する。歴史認識問題は、過去の事実に目が行きがちだが、実際はその過去の事実を見る現在の問題であるとしているのが、筆者のスタンス。この点は、本書を通じて、支持できると思った。

    しかし、そうだとしても、歴史認識問題を乗り越えるのは難しいと思う。なぜなら本書でも述べられている通り、歴史認識は、各国それぞれあるからだ。そんなもんだ、と考えるしかないのだろうか?

  • 歴史認識をめぐる対立が日韓の間で激化しています。ここまで拗れたのはなぜなのか。本書はこの疑問に答えようとする試みです。両国間における歴史認識問題の経緯を跡付け、歴史認識問題の歴史的背景を浮き彫りにしています。言ってみれば、論争の対象である〝過去〟を検討した本ではありません。むしろ、過去に対する意味付けが耳目を集める〝現代〟の状況に分析の焦点は当てられています。〝病気〟の治療には〝原因〟の把握が必要なように、この対立について思案するにも原因の把握が不可欠です。筆者はそのように喩えています。新聞記事におけるキーワードの使用数に加え、貿易量や出入国者数などの数値も集計されており、取り巻く環境の変容が図式的に示されています。両国内における政治状況にも目配りされています。歴史認識問題の構図を鳥瞰的に捉えた一冊です。近年の日韓関係に関心を持つ方におすすめの一冊になります。
    (ラーニング・アドバイザー/国際 OYAMA)

    ▼筑波大学附属図書館の所蔵情報はこちら
    http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=1630518

  •  歴史認識問題は「過去」の問題である以上にその時点ごとの「現在」の問題である、筆者はこの点を強調し、両国の政治過程を丹念に整理している。
     80年代以降なぜ教科書問題や慰安婦問題が激化したか。筆者は、日本統治期には少年期でしかなかった「新しい知日派」の登場や、冷戦終結による「反共自由主義」韓国の位置付けの変化も挙げつつ、最大の要因としては、従来は両国の統治エリート間で処理していた問題が「大衆化」(筆者はそういう言葉は使っていないが)したことだと見ているようである。90年代前半~半ばの日本政治が不安定であったことや、2000年代の同時期の小泉総理・盧武鉉大統領が共にポピュリスト的手法で支持を得たことは、韓国専門家ではなくとも容易に想起できる。
     そして筆者は結論として、この問題への対処(「解決」ではない)は、相手国に自らの重要性を粘り強く伝えることだとしている。楽観的にはなれないが、少なくとも「強制連行はあったか」「どちらの歴史認識が正しいか」、はたまた「人的・文化的交流により相互理解が深まれば自然と改善する」といったありがちな主張よりはずっと説得力があると感じられる。

  • 著者とはかつて同じ恩師の下で政治学を学び、韓国旅行にも一緒に行った旧知の仲である。若い頃から矢継ぎ早に意欲的な韓国政治論を世に問い、今や最も信頼に足る韓国専門家の一人である。イデオロギーのフィルターを介さず、あくまで客観性・実証性を重視した事実認識への多面的なアプローチにはいつもながら舌を巻く。歴史認識問題を典型として、とかくイデオロギーや倫理観の対立のためにデッドロックに陥ってしまう日韓関係を一歩引いた地点から冷静に考える上で貴重な存在である。

    著者の主張は明快である。歴史認識問題とは正しく「現在」を写す鏡である。日韓の歴史認識の違いは昔からあるが、かつては日韓関係が重要であるとの暗黙の了解のもとに、互いの政治エリートによる統制がこの問題が顕在化することを防いできた。冷戦の終焉による極東のパワーバランスの変化と韓国経済のグローバル市場への統合により、韓国にとって日本の重要性が相対的に低下したこと、加えて両国ともにポピュリズムの浸透がエリートによる政治統制を困難にしていること、これらにより、これまでの前提が根本的にそして不可逆的に崩れてしまった。してみると、日本の常識では理不尽としか思えない近年の韓国の対日外交姿勢も、韓国としては極めて自然で合理的なものであることがよくわかる。要するに韓国は少なくとも主観的には日本をそれほど必要としてないのだ。むしろこれまでの日韓の密接な関係は冷戦という特異な国際環境が生んだ例外的な事態と考えたほうがいい。悲しいかなこれが現実だ。

    そんなはずはないと憤る向きも多いだろう。この点については、著者は本書では直接論じてないが、歴史的に韓国が置かれてきた宿命的な地政学的ポジションを踏まえる必要がある。大陸で覇を争った諸王朝(ロシアも含む)の狭間でより強い者につくことに民族の存亡を賭けてきたのがこの国の歴史である。今の中国を勝ち馬と考えて何の不思議もない。むしろ尖閣で大国中国と対立する日本のほうが、彼らから見ると常軌を逸している。それを事大主義と笑うことは簡単だ。しかし、事大主義は朝鮮半島に生きる人々の半ば以上は生存の条件であり、それを捨て去ることは不可能に近い。このことは大陸と海を隔てた我々にはどうしても理解の及ばないことだ。ここに明治以降の日韓関係のねじれと悲劇の根源がある。

    以上を踏まえると、見通しは悲観的にならざるを得ない。歴史認識問題を双方が納得するかたちで結着するというおよそ不可能な試みに労力を費やすよりも、「過去」についての認識の違いが問題として顕在化することを回避するための「現在」の環境作りを優先すること、即ち「我々の重要性を相手に今一度理解させ、我々と協力するインセンティブを再構築」せよと著者は言う。しかしその提案が絶望的なまでに困難であることは誰よりも著者自身が自覚しているだろう。

  • 日韓歴史認識問題の概要を論じる本。とりわけ歴史教科書問題と慰安婦問題の記述に重点が置かれている。偏りのない、公平な視点に立っていると思う。

    歴史認識問題には様々な要因とアクターが絡んでいるため、これを解決するのは非常に難しいということがわかる。そもそも歴史認識問題とは政治問題であり、これを解決するためには、両国政府の和解が求められるが、相手国に妥協的な態度を示すことは、それすなわち政権基盤が揺らぐことを意味する。逆をいえば、相手国に強硬な姿勢で挑めば国内世論から支持を得ることができる。要するに、歴史認識問題は外交問題であり、国内政治にもかかわるものだといえる。

    韓国の歴代政権も、その成立当初は歴史認識問題について前向きな姿勢なことが多かったが、支持率が落ちるにつれ強硬姿勢になる傾向があるという。成立して間もない、現在の尹政権も問題解決に前向きであるが、これからどう対応してくるかは分からない。これまでの傾向を考えれば、徐々に支持率が落ち、歴史認識問題に対する姿勢も硬化していくと考えるのが妥当であろう。

    換言すれば、今は歴史認識問題を解決するのに最適な時期だともいえる。韓国政府が歩み寄りを見せており、日本国内の大韓感情が良好な今こそ、岸田政権も積極的に取り組んでいってほしいと思う。

  • ふむ

  • 歴史認識問題とは、過去でなくすぐれて現代的な問題であるということがよくわかった。著者はさすがに冷静で公正なかきぶり。韓国現代史がつぎに勉強したい。宮澤です村山の謝罪が、うまく伝わらなかったのは残念。

  • 日韓の歴史認識問題に関するSNS上の感情的な発言を目の当たりにして、何故このような事態になっているのかと不思議に思ったため、イデオロギー性のなさそうな日韓歴史認識問題に関する書籍を探していたところ、この本に遭遇しました。
    外交面の出来事だけではなく、日韓それぞれの内政状況が如何に相互の反応に影響を与えていたかが緻密に分析されており、何故現況に至ったかがよくわかる良書でした。
    しっかりと現在の日韓関係を認識したい人にお勧めします。

  • 今話題の日韓問題。

    韓国が急成長するなかで、韓国のなかでの日本の位置づけ、意味合いが変わってきた。
    それを韓国の政治制度(大統領制)などを絡めて、わかりやすく解説。

    一見、難しそうな教科書的な本に見えるが、呼んでみるとまさにルポ。

    私は、村山内閣などをリアルタイムで知らない世代だが、
    知っている世代の人にとっては、「あ~あの時、そういうことが裏であったのか」
    「そういう背景のもとでコトが進められていたのか」
    と思わず納得、うなずいてしまうほどではないだろうか。


    自分から手に取ることは中々ない一冊だとは思う。
    (何より、表紙が教科書的で手に取りにくい)
    だが、内容は一読の価値あり。

    少し前の本ではあるが、歴史認識ということについては、あまり問題なし。
    最新のことを考えるうえでの基礎知識としても役に立つ。

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著者プロフィール

神戸大学大学院国際協力研究科教授

「2022年 『誤解しないための日韓関係講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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