早川孝太郎:民間に存在するすべての精神的所産 (ミネルヴァ日本評伝選)

著者 :
  • ミネルヴァ書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784623078394

作品紹介・あらすじ

奥三河に伝わる花祭を調査し、民俗芸能の古典『花祭』を著した早川孝太郎。本書では、柳田國男や澁澤敬三ら多くの民俗学者との交流とともに、旅の中で民間伝承を探究し続けた、その知られざる生涯を描く。

感想・レビュー・書評

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  • ・早川孝太郎と言へば「花祭」である。私には「花祭」=早川孝太郎であつて、これ以外の著作はないかの如くである。実際にはそんなことはない。全集が出てゐるのである。私が知らないだけである。ところが、早川の生涯となるとあまり知られてゐないらしい。三隅治雄による評伝がある程度だとか。評伝が書かれるやうなタイプの人ではないといふことかもしれない。ところが、ここにその人の評伝が出た。須藤功「早川孝太郎ー民間に存在するすべての精神的所産ー」(ミネルヴァ書房)、 ミネルヴァ評伝選の1冊である。「私が早川に関心を持つ、というより持たざるを得なくなるのは、まず、早川のことを書くことになり、未來社に置いてあった 早川の資料が、平成三年(一九九一)十一月十三日にすべて私のところに送られてきたことである。」(「おわりに」338頁)その中には日記や手帳、手紙、 そしてスケッチ帳等々、かなりの量があつたらしい。それを資料として書かれたのが本書である。実際、多くの手紙や日記からの引用がある。これによつて、今まで知られてゐなかつた早川の側面が明らかになつてゐるのであらう。
    ・序章から第二章までは花祭関連である。著者自身の体験を通して花祭を描く。月の写真が多く載る。その他の地区も含めて、これらは昭和40年代、東京五輪 後しばらく経つてといふ辺りでの撮影である。今となつては貴重な記録である。ただ、本書は早川孝太郎の評伝なので、ここ以外の章では出てこない。代はりに、早川の古い写真であらうか、現在の須藤氏も撮り続けてきたやうな民俗関連の写真が多くなる。早川以外撮影もある。これらは戦前である。貴重な写真なの であらう。同様に、画家早川のスケッチも載る。農具、民具の類である。早川はこれらの物品をずいぶん多く収集したらしいが、その記録もこれらの写真やスケッチとともに一部だけ載る。「花祭」以後、早川はかういふ収集活動をしながら日本全国を旅したらしい。本当に多くの地を回つたらしい。戦前はもちろん、 戦中にも回つてゐるらしい。それゆゑにか、早川は満蒙開拓団の募集に関はつてゐたといふ。その縁で、戦中には長野県の下條村に住んでゐた。飯田のすぐ南の村である。幹線沿ひではなかつたやうなので、現在の感覚からすると、かなり不便を強ひられたのではないかと思ふのだが、それでもそこで新居を構へて子もなしてゐる。これが正妻ではなかつたといふのが驚きで、後妻なのか、妾なのか、このあたりは私には分からない。その女性は早川姓では語られてゐない。正妻と その子供を東京に置いて、早川自身はこの女性と下條村を拠点にして、旅をしたり、執筆、研究活動をしてゐた。この金の工面が謎であつたらしい。……とまあ 思ひつくままにエピソードを拾つたのだが、評伝といふ性質上、本書で学問功績のみが語られるわけではない。むしろ、それ以外の早川の生活面の記述が多い。 それゆゑに旅も語られる。早川孝太郎とはかういふ人だつたのだと思ふ。無知である。「花祭」からは知られない側面である。女性関係も含めて、さういふのがおもしろかつた。これは須藤氏の預かつた手紙や日記の威力であらう。評伝とはそんなものかもしれないが、学者コースを歩かずに民俗で一家をなした人の人生である、このあたり普通の学者とは嗜好、思考が違ふのかと思ふ。ちなみに、早川や澁澤敬三が見た花祭りは中在家が多い。ここも限界集落であらうか、東栄町の中心には近いが人は少ない。現在は辛うじて花祭を行つてゐるといふ状態ではないか。本書に中在家が頻出するのを見て、人と人、人と祭りの縁を思ふ。しかし、人が減るのは如何ともし難いのである。

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著者プロフィール

明治大学教授

「2017年 『現代アメリカ経済史 「問題大国」の出現』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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