アルピニズムと死 僕が登り続けてこられた理由 YS001 (ヤマケイ新書)

著者 :
  • 山と渓谷社
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784635510073

作品紹介・あらすじ

かつて「天国にとっていちばん近いクライマー」と呼ばれた男はなぜ、死ななかったのか。

感想・レビュー・書評

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  • 地元の図書館にて一気読み。面白かった。
    体が硬ってしまうと同時に、情熱にウルウル。

    登山家、山野井泰史。
    かなり前にドキュメンタリー番組を拝見し、とても印象的な登山家の一人だった。
    だって指無いんだから……
    想像することすら難しい、極限の世界。

    彼は世界の山々に挑むクライマーだ。
    山に関わる故に、友人の多くを亡くし悲しみ、悔やみながらも、自己実現を山に求め続けた男。

    手足の指を10本失いながらも、彼は山への想いを捨てずに、山に向き合った。

    本書では、これまでの登山を振り返る形で、多くの山々への挑戦が語られる。もちろん全てを語ることはできないので、かいつまんで書かれている。
    『天国に一番近い男』これは、最も死に近いということだ。そう呼ばれながらも、30年。今も存命だ。
    なぜ自分は死ななかったのか。恐怖心や注意深さも人一倍だった。何よりも、途切れずに自分のことを把握し続けたことが理由であろう。とのこと。
    あらゆることに想像を巡らせる。最悪の事態も想像すること。登山の経験がより想像力を豊かにする。
    それによって山の中で、想定外の出来事が減ってゆく。

    映像も拝見したことがあるが、奥様も非常に優れたクライマーであり、1000以上の山を共にして来られた。

    優れたパートナーから学び、生きることを感じる。
    彼は山から与えられたもの全てが好きなのだ。

    読了。

  • チョ・オユー南西壁にソロで挑んだ時の装備は、何と総重量5kgを切っていたという(p56)。ザックもたったの30リットル。一般人には想像も付かないが、昨今の「ウルトラライト」とは別次元の話なのだろう。何せヒマラヤの8,000m峰。

    ザックやビバークテントは余分な部分を切り取って軽量化し、クッカーはEPIのカートリッジが入る一個だけ。カトラリーも現地で買った10gのフォーク一本。軽量化のキーとなる食料は、全部で500gほどだったという。

    先鋭的な装備も並ぶ中で、マットはただの「銀マット」、水筒はエバニューのポリタンク(たった300cc)というのも面白い。グランテトラ以前の水筒は確かにポリタンだったですね。

    ギャチュン・カンに夫婦で挑んだ時も、ザックは一人5kg未満だったとのこと(p138)。極限状態での挑戦の凄さが伝わってくる。

    奥多摩でのトレーニング中に親子の熊に襲われたという話(p150)。ヘリで病院に運ばれて顔を70針も縫い、後に鼻の呼吸にも支障を来すという惨事ながら、熊に恨みは持たず、どこかでまたあの熊に会ってみたいという度量。人柄が偲ばれます。

    山野井さんの著書は『垂直の記憶』に続いて二冊目だが、本書もとても面白かった。『垂直の記憶』には書かれていない様々な登山記録も興味深く、貴重な一冊。

  • 山の楽しみ方、そして山に対する思いは人それぞれ千差万別である。それにしても山野井さんの登攀記録はめちゃくちゃ凄い!山野井さんが登った約40年間分の岩と山をダイジェスト的ながら本書で紙上登山させてもらいましたが凄すぎてため息でまくりだった...!

    とにかく、とても熱い思いを感じる一冊でした!

  • 尊敬するアルピニスト、山野井泰史さんが語る、それまで死なずに山から生きて帰ってこられた理由。
    出会った仲間の死亡率の高さに驚く。
    彼ほど自分の力を冷静に見極め、山に向かう人はそういないのではないかと思った。
    生きること、生きていることを、よりくっきりと自覚させてくれる本だった。

  • 登山家は山で亡くなることが多いとは聞いていたけど…ここまで周りの登山家が死んでいきながらも登ることをやめられないのはもはや狂気。それだけの死に囲まれながら、難しい山じゃないと面白くないというのも常人には理解しがたい感覚。何度も危険な目に遭いながらも生還し続けることができているのは著者のスキルに他ならないが、ただの幸運としか思えないエピソードもあり、すごい人生だなとただただ感心する。

  • TVで観たこの夫婦の生活は、驚愕であった。凍傷で僅かに残った指で料理をする妻。田舎の一軒家には、フリークライミングの部屋。残った指を使い、氷壁に挑む夫。山が好きで山が中心の人生。雑念だらけの私と真逆。静かな言葉に重みがある。

  • 「いつ死んでもおかしくない」ことをずっと続けていく気分って、具体的にどんなものか?

    たぶんそれは、誰にもわからないことだろう。当の本人にとってももはや「それが好きだから」としか答えようのないことだから、外から分析をしようとするのが野暮というもの。唯一、主語が「自分」であれば、非言語的な無意識の領域でかろうじて理解できるかもしれない。

    沢木耕太郎の「凍」を読んでから、山野井さんのことはずっと気になっている。なんべん死にかけても山に向かうモチベーションはなんなのだろう、と考えていた。

    最近では奥多摩の自宅周辺をランニングしている時に熊に襲われて生還したのがニュースになったけれど、それでも、

    「クマからすれば人間が襲ってきたと思ったのでしょう。経験したことのない恐怖を味わったけど、クマを恨む気持ちはない」

    と言い切る心の持ちようは、おそらく襲われた本人にしか理解のできない境地だろう。もしかすると熊に襲われて亡くなった故・星野道夫さんも、そんなことを言ったのかもしれない。

     朝日新聞:憎悪の母グマと格闘「意識飛ぶかと」 山野井さん生還記
     http://www.asahi.com/eco/TKY200810150120.html

    で、タイトルにもあるように、なぜ山野井氏が登り続けてこれたのか、ということにすこし触れておく。

    「若いころから恐怖心が強く、常に注意深く、危険への感覚がマヒしてしまうことが一度もなかったことが理由のひとつかもしれません。
    さらに自分の能力がどの程度しかないことを知っていたからだと思います。それは途切れることなく登り続けてきたことで把握できていたのでしょう。自分の肉体と脳が、憧れの山に適応できるかを慎重に見極め、山に入って行きました」p.184

    つまり、何度山に登ろうと、それが経験値の範囲に収まる山業であったとしても、悪い意味での「慣れ(飽きる/過信して侮る)」がなかった、または好奇心を失わなかったということ。自分でもよくわからないけど「好き」「惹きつけられる」ということが巡り巡って生存条件となった、と。

    結局は自分ごと、自分が好きでやることに自分できちんと責任を取る覚悟があるか?ということ。

    さて、その覚悟を自分は持てているか……?

  • 「天国に一番近い男」山野井泰史氏の自伝。
    後輩でもあり友人でもある野田賢氏の死をきっかけに、今までの経験をプロアマ関係なく後世に伝えることを目的に書かれた本。

    自分の体験を当時のインタビュー記事や自分の記憶で振り返りながら語っていく。

    その中で印象に残ったところを2つ。

    1、2002年に凍傷でかなりのダメージを受けて指の力が入らなくなり、懸垂ができなくなる。
    そんな状況で山野井氏は「一瞬で子供のような弱い体になってしまったので、一般の人が嘆く体の衰えを感じることがなく、徐々に進歩していると感じることができる人生を再び歩めているのは、もしかすると幸運なのかもしれません。」(要約)

    ポジティブすぎて笑えてくる。

    2、自宅近くの奥多摩湖のコースをトレーニング中にクマに襲われ大怪我(右手と顔合計90針)。三か月後にはオーストラリアでクライミング。
    熊除けの鈴をうるさく鳴らしながら登る登山者をバカにすることをやめて、見通しの悪い森に足を踏み入れるときに警戒するようになるが、襲ってきたクマが子連れだったので、子熊が成長した姿をいつか見たいらしい。

    クレイジーだね!

  • 奥多摩に、有名なクライマーの山野井さんが暮らしているという話は何度も聞いていたけど、出会ったこともなくこの本で初めて彼の書いた文章に出会い、それもそのはずと得心したところがありました。アルピニズム、、奥多摩にはじめてきた人たちも楽しめるレンタサイクルツアーに照準を絞って活動していた自分と真逆のところに、自分の限界を知りたくて取り組む世界を最高に楽しんでいるこんな人もいる。その一冊が奥トレの読了本交換で手に入るってのもなにかの縁かもしれないですね。そういう楽しみ、忘れてたかもと思いました。

  • 山野井さんの比較的最近の心境が分かって嬉しい。枯淡の境地に入りつつあるように見える。

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