- Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
- / ISBN・EAN: 9784641182349
作品紹介・あらすじ
政治史、経済史、文化史の枠を超えた総合的な視角から、人間や人間集団を「全体的」にとらえる「全体史」を志向する社会史への招待。
感想・レビュー・書評
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●構成
第Ⅰ部 社会史の形成
第1章 「アナール」学派と「新しい歴史」
第2章 「残余の要因」から「全体史」へ
第3章 社会と国家のはざまで
第Ⅱ部 社会史の領域
第4章 イメージと心性の政治文化史
第5章 学校をみずからのものに
第6章 フーコーと下からの社会史
第7章 栄養不良の社会史:脚気とペラグラ
第8章 方法としての日常生活:日常生活史・ミクロの歴史学・歴史人類学
第9章 歴史の中に埋もれていた家族
第10章 連続か、変化か:女性の社会史
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社会史と一口にいっても、それがいったい何であるか、研究方法や研究対象などを明確にしておく必要がある。社会史は「新しい歴史学」と言われるが、では従来と比べて何が新しいのか。なぜ新しくするのかなど、疑問点は少なくない。
本書は、1920年代のフランスに登場したアナール学派に端を発し、西洋世界で徐々に広まっていった社会史について、その起源や方法論、いくつかの社会史研究の事例について、10人の日本人歴史研究者による論考集である。従来の歴史学は、一般に政治史や事件史といった国民国家に関わる大きな出来事についての「上からの歴史」を取り上げた。対して社会史は、民衆の日常生活に関わる、従来の歴史学からみると瑣末であり歴史学の対象範囲外であった事柄を積極的に取り上げる「下からの歴史」とされる。
第Ⅰ部では、「社会史」史についてとりあげる。フランス・イギリス・ドイツの各国に関する社会史研究者のグループをとりあげ、それぞれに比較しながら特徴を紹介する。
第Ⅱ部では、様々な研究領域に関する社会史からのアプローチを概観する。
従来の実証主義的歴史学と比べて社会史の特徴は、問題史・全体史・心性史にまとめられる。従来の歴史学が過去の出来事を現在から超越した歴史として描くのに対して、問題史は「現在と未来にとっての問題状況を、その歴史的根源を明らかにすることによって説明するために、歴史を再構成」することである(p.15)。全体史は短期的な「事件」、中期的な「景況」、長期的な「構造」という、持続する時間の中でそれぞれの出来事の短期的な事件や長期的な構造をシームレスに把握する。心性史は政治的なアプローチではなく、人間の感情や態度などの心的変容あるいはあるトピックに関する文化的な変容を描く。筆者の理解では、社会史は線の歴史であり文化の歴史(変容)である。
本書は日本人研究者が社会史に対してどのような関心を持っているか、また研究動向についてを概説している。歴史へのアプローチとして社会史に興味がある方は手にとってみて欲しい。
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