失業と救済の近代史 (歴史文化ライブラリー 328)

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  • 吉川弘文館
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  • Amazon.co.jp ・本 (217ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784642057288

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  • 本書は、戦前日本における失業問題の歴史を明らかにするものである。当時の失業者たちの生活とともに、政府による失業対策の試行錯誤の歴史についても解き明かしている。
    1)戦前日本では、第一次世界大戦期の経済の急成長、それによる男子労働者の急増を背景に、1920年代~1930年代前半にかけて失業問題が深刻化し、大きな社会問題になったこと、2)失業の様相は日雇労働者、事務労働者、一般労働者によってそれぞれ特徴的な様相を示しており、対処策の課題も一様ではなかったこと、3)戦前日本においては、失業保険制度は構想としては存在しつづけたが、財界の反対もあり、失業救済事業が唯一実施された失業対策事業であったこと、4)失業救済事業は、応募者の人数・属性などにおいて当初の意図とは異なる経過をたどるなど、必ずしも成功した失業対策とはいえなかったこと、などについて理解することができた。
    当時は圧倒的な農業社会であり、失業した場合には「帰農」という選択肢があったことなど、今日の失業問題との相違点はあるが、戦前の失業問題を振り返ることは、失業問題における労働者、財界、政府という3者の関係
    性など、現代の失業問題を考える上でも参考になることが多いと感じた。特に、失業救済事業については(、一定の効果はあったものの)、机上の制度設計と現場での適用に齟齬が生じた、典型的な失敗政策といえ、その教訓は現代の失業対策の制度設計にも活かすべきものだと思われる。

  • 戦前期の失業問題についてコンパクトにまとめられている。戦前においては失業保険などの制度はなく、失業救済事業が実施されたにとどまった。しかし、1920〜30年代において増加した失業者対策について、内務省社会局の官僚、財界、労働組合、政党などがさまざまな意見を持ち、議論をおこなっていた。また失業者自身がどのような考えを持っていたのかについても、当時の調査や新聞記事などから事例を紹介しつつ、階層別等にカテゴライズして述べられている。

    財界(藤原銀次郎など)は、失業問題の解決は結局のところ景気の回復によるしかないとし、失業対策に消極的であった。これは確かにむき出しの「資本」の論理であろう。が、組合も「インフレに伴って賃金の引き上げも相当広く実現せしめ、……」と、1932年以降の高橋財政の積極主義を評価する方向へと転換していった。

著者プロフィール

1949年千葉県生まれ
東京大学経済学部卒業
同大学院経済学研究科博士課程中退
東京水産大学助教授
東京大学社会科学研究所助教授、教授、現在に至る。
主要著書
・『沿岸漁業の担い手と後継者 ―就業構造の現状と展望―』成山堂書店
(1988年)
・『集団就職の時代―高度成長のにない手たち―』青木書店(1997年)
・『失業と救済の近代史』吉川弘文館(2011年)
一般財団法人 農村金融研究会

「2014年 『3時間でわかる漁業権』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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