日清・日露戦争と写真報道―戦場を駆ける写真師たち (歴史文化ライブラリー)

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著者 : 井上祐子
  • 吉川弘文館 (2012年6月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784642057486

日清・日露戦争と写真報道―戦場を駆ける写真師たち (歴史文化ライブラリー)の感想・レビュー・書評

  •  『戦時グラフ雑誌の宣伝戦』(青弓社)の著者による、明治期戦争写真の歴史。日清戦争・北清事変(義和団事件)・日露戦争に関連して刊行されていた大量の『画報』『写真帖』を渉猟しつつ、誰が・どのような立場で戦場の写真を撮影し、どんな図像(イメージ)が・どんなメディアで・どのように掲げられたかを追いかけていく。日本における戦争表象・戦場表象の歴史的なコンテクストの存在を教えてくれる一冊。

     たとえば、陸軍は日清戦争期から「従軍記者規則」「心得」を制定、戦地からの報道や通信にかんする検閲の規程を整備していた(当時の海軍は、原則として軍艦に民間人を乗せなかった)。また、陸軍は、陸地測量部のメンバーを戦地に派遣、とくに日露戦争時には軍事研究という観点から、戦場写真を多く撮影していた。〈国際社会〉を意識した捕虜待遇を示す写真や、中国の人々に対する救恤事業の写真など、宣伝的な意図を担った写真も出されていた。
     だが、決定的に重要なのは、日清・日露戦争の段階では、日中戦争以降は基本的にメディアから排除される死体(とくに、自国の将兵の死体)が時折散見されることである。また、よりしばしば、敵兵の死体・遺体の情景や、スパイや妨害工作者と見なされた中国人・朝鮮人の処刑の様子に取材した写真もある。もちろん、日清戦争時の旅順虐殺事件や、日露戦争時の日本軍将兵死体写真の隠蔽など、自国の戦争遂行に都合の悪い写真の検閲や排除は行われている。しかし、それが十分に徹底されていたわけではなかったし、表象の〈幅〉も比較的ゆるやかだったのだ。

     そう考えると、日中戦争期の戦争表象・戦場表象は、基本的に日清・日露戦争時の写真にかかわる検閲を基底なものとしながら、それをさらに展開・洗練させていったものとみることができる。井上は、博文館の大衆向け戦争画報誌『日露戦争 写真画報』に掲げられた写真が、まったく特別な一瞬ではない「戦場の日常」を多く含んでいたことを指摘している。とすれば、『麦と兵隊』のテクストとイメージに、歴史的な文脈がまったくなかったわけではないことになる(だからこそ、当時の陸軍がGOサインを出せたのだ)。日中戦争期の戦争イメージの歴史性と画期性について、改めて考えさせられた。参照・引用される文献にも興味深いものが多く(中にはこれは読んでおかねば、と思わされるものも)、その点でも勉強になった。

     

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日清・日露戦争と写真報道―戦場を駆ける写真師たち (歴史文化ライブラリー)の作品紹介

写真報道の開化期だった明治時代、日清・日露などの対外戦争に多くの写真師が従軍した。戦争の一瞬を切り取った「報道写真」は、何を記録し、何を伝えたのか。写真の持つ記録性に着目し、写真ジャーナリズムの役割を探る。

日清・日露戦争と写真報道―戦場を駆ける写真師たち (歴史文化ライブラリー)はこんな本です

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