ベルリン1933

  • 理論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (559ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784652071953

感想・レビュー・書評

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  • 今年岩波少年文庫から、一部改訳された本作が分冊で出版されたが、これが手元にあったので(随分長いこと積ん読していた)読んだ。
    いやあ、分冊正解。寝転がって読む私が悪いが、重たくて重たくて。装丁は上品だし、写真も当時を写したものがたくさんはいっていて、とてもいい本ではあるのだけど、YAというよりは一般向けの雰囲気だなと思う。値段も高買ったが、理論社としては精一杯やっていたと思う。しかし、少年文庫で上下巻なら、その方がいいな。
    舞台は第一次世界大戦中から戦後にかけてのベルリン。敗戦で凄まじい不況に陥ったことは知っていたが、ドイツに革命があったとは、恥ずかしながら知らなかった。ローザ・ルクセンブルクは知ってたんだけど。
    植民地政策の失敗と戦争のツケを負わされることに堪忍袋の緒が切れた兵士と民衆が蜂起し、皇帝を追い出したまでは良かったが、社会民主党と共産党に分裂してしまったために、革命は失敗に終わってしまう。
    主人公の少年ヘレ(ヘルムート)の目を通して、貧しい庶民がどう考え、どう行動したかが描かれている。
    同じ国民に銃を向け、首謀者を虐殺するなんて今では考えられない、とは思えないところが悲しい。香港の民主化運動やアメリカの人種差別反対運動を連日ニュースで目にする。一体百年前と今とどれだけ違うのかと。
    また、同じ庶民でも感じ方考え方に違いがあり、なかなか一本化するのは難しいのも同じ。
    主人公一家はとても貧しく(子どもがいつもお腹を空かせ、栄養状態や衛生状態が悪いため病気になりやすいのは、いつの時代も変わらない)、父は従軍して片腕を無くしており、母も工場で危険な肉体労働をしている。政府要人や元貴族は豊かな生活をしているのに、庶民は赤貧洗うがごとし。しかも、ロシアでは革命が成功し、労働者が政権を握ったとくれば、ドイツの労働者も、革命を!と思うのは当然だろう。
    その後のドイツがどうなったか、ソ連がどうなったか知っているだけに、この時革命が成功していても、素晴らしい時代がやってきたとも思えないが、主人公一家の思いは十分共感できた。
    1933でナチス政権となり、1945でまた敗戦となることは分かっているが、読んでいこうと思う。

  • ほぼ10年ぶりに再読。やはり面白くてぐいぐい引き込まれる。ヒトラーが政権を「合法的に」奪取したころのドイツが、ますます現代日本と重なって見えてくる。

    主人公は労働者階級のゲープハルト家の次男ハンス、15歳。彼には尊敬し、慕っている兄ヘレ(結婚して一児の父となっている)と、部屋を共有している姉のマルタ、さらに弟のムルケルがいる。仕事に出るようになって恋人もできた。父は傷痍軍人、母は工員。
    ゲープハルト家は共産党を支持しており、兄のヘレは党員としてナチの台頭を阻もうと仲間と奔走しているが、反対に姉のマルタの婚約者はナチ党員。おかげで勘当されるマルタだけども、そうでもしなければ貧困から抜けだせないとうそぶく。実際、婚約者が昇進すれば、彼女は他の兄弟とは比べ物にならないくらいいい生活ができるのだから。それは、トイレが共同でないアパートに住むことだったり、食べ物に困らないことだったり、好きな服を来たり休みの日には映画を見に行ったりする生活のこと。
    ハンスの恋人、ミーツェは芯の強い読書好きの女の子で、ユダヤ人の伯父夫婦のもとで暮らしており、彼女自身半分ユダヤの血が混じっている。大人しそうに見えるが行動力はなかなかのものだし、なにより自分の頭でものを考えることができる。ハンスのよき伴侶となる気配。
    政治の話が嫌いなハンスは、ナチはもちろん、社会党にも共産党にも属するつもりはなかったが、家族が共産党員であるため、仕事先でナチ党員に目を付けられ、何度か嫌がらせをされた挙句、ついには職場から命からがら逃げ出すことになる。
    家族や友人、そして自身が政治がらみの事件に巻き込まれるたび、ハンスは人として何が一番大切なのか、何を最優先に守るべきなのかを実感してゆく。
    物語はヒトラーが首相に就任した時点で終わっている。ヒトラーが首相になるやいなや、ナチ党のメンバーは政敵である共産党や社会党員を片づけ始めた。襲撃、逮捕の嵐。ハンスの兄夫婦も連行される。その直後にハンスがしたのはミーツェと一緒にこっそり赤旗(共産党の象徴というよりは、ナチへの反抗の印)を、兄の部屋の真上に掲げることだった。戦っているのは一人じゃない、ということを示すために。

    作者のクラウス・コルドンは東ドイツ出身で西へ逃亡を図って失敗し、その後作家活動を始めたという。ベルリンには非常に愛着を持っていて、この作品はベルリン三部作の第2部である。第一部は兄のヘレが主人公で、第三部ではヘレの娘、エンネを主人公に据えてハンスとミーツェのその後にも触れている。
    第二次世界大戦前夜のドイツというと、すぐにヒトラー政権が思い浮かぶが、誰も望まなかったはずの政権がどうやって誕生したのかという経緯を知ることができて、非常に興味深かった。
    しかしこの物語の何が一番魅力的だったかというと、ゲープハルト一家である。家族の絆の強さ、温かさ。金も権力も力もないが、だからこそ人として大切な自尊心を無くさず、危険を承知で反抗の意図を表示し続ける強さ。殺された同志、逃げ出した同志を横目で眺めつつ、自分の意志は曲げない。
    「強い」を通り越して壮絶だな、とさえ思った。ドイツ人の半分でもその気概があったならナチは誕生しなかったかもしれない。じゃ、日本はどうなんだと問われたら返す言葉もないけれど。

    文体もとても好きだ。翻訳物の場合、文体は訳者の影響をかなり受けるから、本来コルドン氏がどんな文のリズムを持っているかは定かでないのだが、親子の会話とか、ひどく辛口な医者の登場とか、ハンスの仕事の相棒のキャラクターとか、ミーツェとの結びつきが強まる過程などなど、ちょっとしたユーモアや辛子のような皮肉が効いていて、上手いというより「こういう書き方が好きなのよね」とつぶやきたくなるような筆運びで読みやすかった。

  • 「ベルリン1919」の続編。主人公は「ベルリン1919」で赤ん坊だったハンス。ナチ台頭の時代の波のなかで生きる若者の勇気と愛を描いた青春小説。「ベルリン1933」「ベルリン1945」で三部作となります。ハンスはこの巻の最後でナチに抵抗するため立ち上がる決意をします。さて、その後どうなったか。それは「ベルリン1945」で明かされます。

  • ナチ党が政権を獲得する前夜を描く。ベルリンの貧民街にすむゲープハルト家のヘレの弟のハンスの目で見たナチ党が勢力を得ていく様子を活写する。ようやく工場の倉庫係りに雇われたもうすぐ十五歳になるハンス。彼の兄は共産党員だ。父も以前は共産党で、母は今でも共産党だ。工場の上司は社会民主党であるがハンスに目をかけてくれる。どちらも左派のはずなのに党は犬猿の仲である。その間を縫ってナチ党が力を得ていく。国が二分し、家庭の中も二分する悲劇が起きる。そして最後にはヒトラーが首相になる。

  • 早く次が読みたい

  • 1933年、ナチの台頭、1919の革命の失敗した社会民主党と共産党の確執。1919とは違った空気感。なんだろう、不安が世界を覆っている。政治的に立場が明らかではない、どこの党員にもならないハンス、でも、自分のよって立つ場所はしっかりしている。こういうスタンスで生きる若者がちゃんと生きれる世の中であればと思うのだけれど・・・時代は1933、悲劇が見えている。1919で革命に酔った人々がそれぞれの立場に分裂していくのは悲しい。すこしの違いを超えて連帯していくことは永遠のテーマだろうか。

  • クラウス・コルドンによる「転換期三部作」の第ニ作。
    原題は『壁を背にして』

    前作から14年。
    ハンスぼうやは14歳になり、体操選手でもあるが、AEG機械工場で働くことになったところから物語が始まる。
    兄のヘレは、ユッタと結婚してエンネという女の子が生まれ、別所帯に。
    ハンスは、姉のマルタが家賃を払う別の部屋に一緒に住んでいる。弟ムルケル、父と母は同じアパートの別の部屋。

    二作目は、ハンスの視点で物語が進んでいく。ハンスが働くAEGでの嫌がらせ、ヴィリーとのつかのまの友情。
    ドイツ共産党とドイツ社会民主党のいがみあいで、労働者はいつまでもつづく貧困から脱出できない。そんな社会に嫌気がさしている民衆は、強いドイツをとりもどすというスローガンのナチ党に望みをたくすようになる。
    1933年1月31日ヒトラーは合法的に首相となる。

    自分の身近なことばかりに気をとらわれていると、気がつかないうちに別の権力に支配されてしまうことになるのかもしれない。
    しかし自分の生活が安定していなければ、遠い将来、国の未来を思うことはできないのかもしれない。

    ハンスは、工場でミーシャというユダヤ系の女の子を好きになる。

    マルタは、ギュンターという恋人ができる。彼はナチ党員。

    共産党員をやめた父
    共産党員でありつづける母とヘレ
    ハンスはどこにも所属したくない。

    今後あれほど酷い世界になっていくと誰が想像しただろうか。

    P79エデがしぶい顔をした。なにもしなかった者に、文句をいう権利はない、ということだ。共産党といっしょに闘わなかった者、世の悲惨と闘わず、傍観していた者には、嘆く権利もないというのだ。

    P366ヴィリーがいうように原始的な支配がはじまるのなら、闘わなければ。逃げるわけにはいかない。

    P372「理解できないことは、学ばないとな。どんなにつらくても」

    フリードリヒ大王行進曲
    https://www.youtube.com/watch?v=MpMBLfkLmAQ

    プロイセン王国の行進曲
    https://www.youtube.com/watch?v=dZs_Fcw5jLQ

    ヒンデンブルク
    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%92%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%B3%E3%83%96%E3%83%AB%E3%82%AF

    P384「いいか、ハンス。たとえどんなことがあっても、闘ってるのがひとりじゃないことを示しつづけるんだ。それがなければ、理想のためにがんばっても本当に意味がない。その理想がいいことであっても悪いことであってもな」

    P401「反対していた三分の二がお互いにつぶしあったからさ。多数派がうまく動かなかったから、少数派が買ったんだ。そして、ナチ党が勝ったほうが得するやつらがいるのさ」

    P409ハンスの父親がいっていた。ナチ党がユダヤ人をやり玉にあげる理由は簡単だ。民衆を扇動しようとするやつは、民衆の敵をでっちあげて、すべての責任をそいつにおっかぶせるのさ。どうせ民衆のなかには道のものに対する不信感がくすぶっているものだ。ナチ党にとっては好都合さ。「体制の不備」だけあげつらっているのでは、民衆は動かない。おなじ通りにくらしている裕福なユダヤ商人や正直なドイツ人労働者の金を巻き上げるデパート経営者への嫉妬を利用したほうがてっとりばやい。

    P412「食べ物がなくても、かなり生きていられる。水がないと、ちょっとつらくなるが、希望を失ったら、三日と生きていられないだろう」


    P526
    「信じるものを乗り換えるのはむずかしいことじゃないわ」夫人は小さな声でしゃべりつづけた。
    「自分の頭で考えることのほうがずっとむずかしいことよ」

  • 資料番号:020063616
    請求記号:943コ

  • どんな時代のどんな場所にも、人は生き続ける。

  • あれから約14年、ハンス坊やもあと三ヶ月で15歳、今では体操選手であり運よく工場に勤め始めたばかり。彼が今作の主人公。
    時代はナチスが台頭してきた1933年前後。

    ヘレはユッタと結婚し、失業中だけど娘エンネが生まれた。父はずいぶん変容してしまった共産党から離脱したが、ヘレと母は残った。一緒に屋根裏に住む姉のマルタはナチ突撃隊に入ったギュンターと付き合っていて、いい暮らしの為に手段を選ぶことを辞め、家族と仲たがい。ハンスはナチが嫌いだけど、共産党の青年団にはなんか入りたくない、おとなしい賢い少年だった。

    政治的な立場でいがみ合う人々。乱暴でユダヤ人を排斥しようとしていて、他の思想を認めないドイツ民族史上主義、すべての建て直しを約束するナチを阻止したいけれど、社会民主党と共産党は1919の革命から仲たがいしたまま。ロシアの同胞の共産主義革命はお世辞にもうまく言ってるとはいえない。すさまじいインフレ、失業者の増大、子供の死亡率の高さ、スト、ヴェルサイユ条約...戦争の頃ほど飢えてはいないけど、治安は悪化し、アパートからは日々追い出される人がいて、かつてのような人の絆は薄くなり、対立が激化して人心がすさんでいるように思える社会状況。

    ハンスのガールフレンドのミーツェはユダヤ系で、ちびのルツはナチになってしまった。

    この時代のドイツについて、水木しげるの劇画ヒットラーなんかでナチス目線で多少は読んだことはあれど、なぜドイツ民衆が熱狂するのか、多数派になるまでどう思われていたのか、政治的立場というのが人間関係においてどれほど重きを成すのかが伝わってくる本だった。
    民族のコンプレックスを肯定したこと、ユダヤ人はみんな資産家で戦争の蜜を吸ったという宣伝と実際ヒットラーがユダヤ人に何かするとは思われてなかったこと、突撃隊がどんなに乱暴なことをしても人々の政治や社会への不信感、それを壊したいという思いをナチスは巧みに取り込んでいったんだろうなと感じた。誇大な宣伝と嘘で票を集める様は今の日本の政治状況と少し重なる。

    1919の後のエデの人生が一家よりもさらに悲惨で哀しい。近所のじいさんやばあさんは死んでしまったし。でも相変わらず、時代をあきらめていない一家の様子や少年ハンスの状況判断力や勇気が良いなと思う。
    マルタは自分勝手だと男達は言うけれど、個人の幸せを追求するのを悪のように言うのは納得行かない。どんな意見を持つ事も許されるのが民主主義だと思うから。
    どうしてお洒落したい盛りに国の状況ですべてを台無しにされなきゃいけないのか、茨木のり子のわたしが一番きれいだったとき という詩を思い出した。
    それでナチにつくのは愚かだけれど、彼女の人生を考えればそういう抵抗があってもおかしくない。最悪の選択肢しかなかったのだろう。

    うさぎの頭のスープってどんなのだろう?ちょっと気になる。

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著者プロフィール

著者 クラウス・コルドン(1943~)
ドイツのベルリン生まれ。旧東ドイツの東ベルリンで育つ。大学で経済学を学び、貿易商としてアフリカやアジア(特にインド)をよく訪れた。1972年、亡命を試みて失敗し、拘留される。73年に西ドイツ政府によって釈放され、その後、西ベルリンに移住。1977年、作家としてデビューし、児童書やYA作品を数多く手がける。本書でドイツ児童文学賞を受賞。代表作に『ベルリン1919 赤い水兵』『ベルリン1933 壁を背にして』『ベルリン1945 はじめての春』の〈ベルリン3部作〉などがある。

「2022年 『エーリッヒ・ケストナー こわれた時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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