大杉栄訳 ファーブル昆虫記

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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750322452

作品紹介・あらすじ

日本を代表するアナーキスト・大杉栄によるファーブル昆虫記日本語訳…1922年に刊行され,名訳の誉れ高い昆虫記第1巻の復刻版。大杉翻訳時には不可能だった昆虫の和名訳を解説者の手によって補い,読者の理解を深めるための解説を付し,名訳を蘇らせた。

感想・レビュー・書評

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    ── ファーブル/大杉 栄・訳《昆虫記 1915-20051215 明石書店》小原 秀雄・編
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4750322458
    http://q.hatena.ne.jp/1102771717#a223379(No.2 20041212 01:07:08)
     
     大杉 栄 作家 18850117 丸亀 東京 19230916 38 /拷問死=甘粕事件
    http://karapaia.livedoor.biz/archives/52220741.html
     実在した10のアナーキスト(無政府主義者)たちの社会 20160703
     
    (20161018)
     

  •  日本で最初に『昆虫記』を訳した(第1巻のみ)のが大杉栄だというのは有名な話なのかそうでないのかは知らないが、1922年に叢文閣から刊行されたものが、明石書店から復刊されていた。ちなみに『昆虫記』という邦題は大杉のセンスだが、後の訳書にも踏襲されている。


     大杉訳の原著の書影はここ。
    http://www.kahaku.go.jp/exhibitions/ueno/special/2007/fabre/ex/03/index.html(日仏共 同企画『ファーブルにまなぶ』展実行委員会)
     国会図書館で展示対象になったりしたこともあるようだ。


     訳文については、翻訳となるとさしもの大杉流言文一致体もやや大人しくなっている感があるのだが、奥本大三郎は「文章に勢いがある」「威勢のいい文体」と賞賛する。
    http://otona.yomiuri.co.jp/mystyle/mushi/20090330.htm(YOMIURI ONLINE)
    http://www.shueisha.co.jp/fabre/archive/02.html(『完訳ファーブル昆虫記』集英社)

     奥本大三郎は『博物学の巨人 アンリ・ファーブル』でも、大杉の訳に一章を割いているようでこれもそのうち読んでみよう。

     もっとも大杉の翻訳の仕事は、全集にも収録されていて、『昆虫記』も入っていたような気がするのだがなぁと、年のせいか段々記憶があやふやになっていてちょっと迷う。戦後刊行の現代思潮社版全集では、思想に関わらない翻訳の仕事が一部割愛されていて、『昆虫記』はカットされていたような気がするのだが、戦前の近藤憲二編集によるアルス版の全集は翻訳も基本的に網羅していたんではないか。ただ、翻訳はサボって読むの飛ばしてしまったんで印象に残ってないのかと。


     あらためて調べてみると、ネットでは全集に収録されている文章の振り分けを分かりやすくまとめてあるサイトが見つからず、ちょっと困ったもんだなと思う。

     とはいえ、全集は戦前版戦後版ともに実家においてあるため確認できず、まぁいいかと注文してしまう。届いてから、ふと気づいて『初期社会主義研究』15号の大杉特集号を開くと、山泉進による「大杉栄著書目録」が載っていてアルス版全集の内容もフォローしてあった。
    http://www15.ocn.ne.jp/~shokiken/honsyousai.htm#juugo(初期社会主義研究)

    『昆虫記』ありました、とほほ。第9巻に収録。さらに第6巻には単行本として翻訳された『昆虫記』1巻以外のところから部分的に訳したものか、「蝉の話」「蟷螂の話」「行列虫の話」が入っているらしい。

     また9巻には伊藤野枝との共訳による、やはりファーブルの『科学の不思議』が併録されていて、「お伽噺と本当のお話」「動物の寿命」「雷と避雷針」「音の速度」など、75項立てられている。これは原著を英訳したものを野枝がメインに反訳したものらしい。なんかあらためて見ると面白そうだなこれ、今度実家に帰ったら引き上げてこよう。
     あと安成二郎との共訳ということでやはりファーブルの『自然科学の話』というのも同時期に出てるんだけれど、これに関しては大杉は筆を入れた程度だということで全集収録対象にはしなかったということだ。

     で、明石版の『昆虫記』には新しくついた解説とかに期待していたんだが、これはちょっと期待外れ。ファーブルにこだわった大杉の感性と、彼の社会的思想とが内面でどのように統合されていたかなどの知見は無し。再刊するからには、あたらしい見解やなにかしらの付加価値は欲しいところだった。なんというか情熱が足りません。大杉について書くときには事前に肉を食ってください。あと、本文の中に細切れに解説を挟む(しかも本文の流れとも必ずしも関係ないまま)というやり方はいかがなものか。

     ただし、復刻だから当たり前だけれど、大杉が刊行時にこだわった挿絵がたくさん付いているのは評価できて、これアルス版に収録されたものでは再現されていたっけか。ちょっと思い出せない。

    「其の新版には、著者の序文にもある通り、實に綺麗な寫眞版がうんと澤山載つてゐたのだ。/僕は此の挿繪をどうしても入れたいと思つた。それ以前の原書の諸版(僕の持つてゐるのは一九二〇年の第二十三版だが)にも、英訳のどれにも、此の小さなカツト一つ載つていないのだ」(大杉「譯者の序」)




     なんだって大杉が『昆虫記』を訳さねばならないのかという疑問はまぁあるだろうけど、一つには固い商売ということはあったようだ。アナキズムという大杉の思想に関わることを書こうものなら即発禁処分という情勢の中では、むしろそのような思想とは直接関係がないように見える著作の翻訳という仕事は、絶望的に金がない借金だらけの生活の中で、収入源として大きいものがあったろう。

     これは非常に即物的な方面の理由だけれども、大杉は片手間にこのような仕事をしたわけでないことは、「『昆虫記』の翻訳を思ひ立つた大正十年の夏、その準備として、又之れを読んで刺激された昆虫に対する興味から、岐阜に出かけて、暫らくそこに滞在し、変名を使つて、名和昆虫研究所に通つてゐたことがあつた」(アルス版『全集9巻』編集後記、前掲著書目録からの孫引き)というくらいに入れ込んでいたことからも分かる。
     後記にもあるとおり「その時の事を彼れが何んにも書いてゐないのは残念である」ねぇ。


     名和昆虫研究所ってどんなとこだかずっと知らなかったのだけれどこういうとこらしい。ネットって便利だねえとお爺さんのように感心してみる。
    http://www.nawakon.jp/


     もともと、大杉の思想形成には進化論を学んだことが大きく影響しているし(もっともこれは大杉に限ったことでもない。もう一人ダーウィンに強く影響されたといえば北一輝をあげるか)、『種の起源』の翻訳も手がけるなど自然科学への傾斜はあった。クロポトキンやエリゼ・ルクリュといった自然科学の素養のあるアナキズムの先達の存在はますますその傾向を強めただろう。

     そのなかでもファーブルへの関心は群を抜いており、豊多摩監獄への収監時には、同時に持ちこんだ「ダアヰンの『一博物學者の世界周遊記』だの、ウオレスの『島の生物、動植物の世界的分布』」をうっちゃって、三畳敷きの独房の中で英訳のファーブルを読みふけっていたことが告白されている。

     杉めはとりわけフンコロガシがお気に召したようだ。
    「糞虫が、さう云った糞を丸めて握り拳大の團子を造つて、それを土の中の自分の巣に持ち運ぶ、其の運び方の奇怪さ!又、一晝夜もかゝつて其の團子を貪り食つて、食ふ尻から尻へとそれを糞にして出して行く、其の徹底的糞虫さ加減!」

     あんまりだな、「徹底的糞虫さ加減」というのは(苦笑)。

     大杉は訳者序文で、1巻の刊行に続いて『昆虫記』全巻の翻訳、ファーブルの通俗科学書の共訳(このプランの一部が23年の『自然科学の話』『科学の不思議』だろう)、また大杉自身によるファーブルの伝記『科学の詩人』の単行本としての執筆を予告している。記された日付は22年8月22日。大杉榮38才、余命一年。『昆虫記』の続刊も、『科学の詩人』の執筆も断たれた。

     ファーブルに関わる仕事は大杉の多面的な才能の一部であったけれども、どちらかというと等閑に付されがちな方面ではあった。しかし、この訳者序文を見ると、以後の仕事として少なからぬ比重を置いていたことも間違いないようだ。これは売れる!というジャーナリスティックな直感もあったのかもしれないね。

     そんなわけで『昆虫記』の向こうには、昆虫の珍しい習性を教えて、近所の子供たちの口をぽかんと開けさせて得意顔の「大杉のおじさん」の姿が見えたりもするのだった。

  • 小学生の時大好きだったファーブル昆虫記。日本で初めて訳した人物がまさか大杉栄だなんて知る由もなかった。

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