ヨーロッパ的普遍主義

  • 明石書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (189ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750328256

作品紹介・あらすじ

人権や民主主義、市場や競争の正当性、科学的実証性など、現代社会において自明とされる概念は、不平等の構造を拡大・深化させる「普遍主義」という暴力に支えられている——16世紀から現在までを世界システム論に基づいて検証、その臨界性を指し示す新たな展開。

感想・レビュー・書評

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  • ヨーロッパ的普遍主義とは何か。時代を追ってその正当化の根拠は、どう変わってきたか。正当化の根拠は、16〜17世紀においては、文明が野蛮の害悪を正すのだ、というものであり、18〜19世紀においてはオリエンタリズムの本質主義的個別主義であり、20世紀以降は科学的普遍主義であった。しかし、ヨーロッパ的普遍主義は限界を迎え、ポストヨーロッパ的普遍主義の時代を迎えつつあるのではないか。ポストヨーロッパ的普遍主義の時代の普遍は、どのようなものだろうか?

  • 組織的暴力をいかにして為政者が正当化して来たかを論じた本。

  • また読まねば
    違う思考のなかでの正統性の主張に対する批判だと思う

  • 近代世界システム論のウォーラスタインによる政治的のディスクール分析。なのかな?

    サイードやスピヴァクをつづけて読んだあとでは、本当にスラスラ読めてしまう明快さ。なかなかコンフォタブルである。

    章立てだけをみると、時事問題やポストコロニアル理論等に対する評論をあつめたエッセー的なものかな、と思ったのだが、なかなかどうして、タイトルに偽りなしの本である。

    知と権力との関係、ディスクールの問題なんだけど、それらが、テクスト的な分析にとどまらず、近代世界システムという政治/経済システムとの関連において、数世紀の視野のなかで論じられている実に骨太の本である。

    歴史はシステムであり、システムは歴史であるのだ。

    ウォーラーステインも70代後半。それほど、厚い本ではないので、議論はやや大雑把な感じがしなくもないけど、著者の衰えぬ知性が感じられて、素晴らしい。過去の業績を守るという感じではなくて、さらに先に進んでいこうという意思はおそるべきである。

    良い意味で、ドンキホーテ的な情熱の本。

    システム理論と終焉しつつある資本主義の出合いと言う意味では、「出現する未来」と不思議と共鳴しあう。

  • 209.5

  • 2011.3.16

    ウォーラーステイン2冊目。最近書かれた本。

    資本主義的世界=経済を正統化してきたヨーロッパ的普遍主義について語る。それは、文明対野蛮→オリエンタリズム(文明の衝突)→科学的普遍主義と中身を変容させつつ、形式的な包摂と実質的な排除、不平等の拡大を支えてきた。

    普遍的価値として、キリスト教の布教、近代化・文明化、人権擁護や民主化を掲げ、

    ①相手の野蛮や未開性への非難
    ②普遍的価値観からの逸脱
    ③相手の集団内での被抑圧者の保護
    ④普遍的価値観の浸透のための諸制度の導入

    などを根拠に、他者に干渉してきた。その構造は、ラスカサスの時代から、イラク戦争まで変わっていない。

    サイードを引用し、ヨーロッパ的普遍主義から脱出し、かつポストモダニズム的な相対主義にも陥らない、新しい普遍主義の構築を主張する。それは、「与えることと受けとることが同一となるような場」「多元的な普遍主義のネットワーク」と呼べるであり、その構築のためには、知の構造も変化していかなければならない。

    知識人は、現在、真と善美を分離する枠組みを越え、真の追求のためには分析家として、善美の追求としては道徳的人間として、その両者を統合し、現実を変えていくためには政治的人間として作業していかねばならない。まさに分析家として、不平等を拡大する資本主義的世界=経済を正統化してきた、普遍主義というレトリックを暴く試みが、本書である。

  • 読みたい。

  • 結構最近書かれた本です。2006年かな?

    この本の主題は、近代世界システムにおいて一部の人々による支配を正当化し、形作ってきた普遍主義(本当の意味での普遍主義ではなく、あくまでヨーロッパを中心とした中核の訴える“普遍”主義)を大きく3つの点で批判すること。
    その3つとは、①野蛮に対する普遍的価値(“野蛮”や“非民主主義”の人々に介入することについて)、②本質主義的個別主義(オリエンタリズム)、③科学的普遍主義(能力主義)。

    特に面白かったのは①で、そこでは、16世紀にアメリカ大陸の原住民に対するスペイン人の残虐行為やその正当性の問題を提起したラス=カサスとその批判者セプルベダの議論を紹介している。ラス=カサスは西欧の価値観から「野蛮」とされる人々に対して介入することがいかに正当化されるのかと問うている。この問いは今の「人道的介入」に対しても投げかけることができる。つまり、「民主主義」「自由」を広げるために他国(やある地域)に介入することは正しいとされるのか。その理念を達成するために人々を殺してもいいのか。例としてもあげられているように、ブッシュのイラクへの介入は名目上イラクの民主化という目標を掲げていた。(他にもよくわからない理由がたくさんあったが)しかしながら実際はフセイン政権が倒されても、アメリカによって「民主化」されても、イラクに平和は訪れなかったし、むしろ現地人の声によれば以前よりもひどくなったということだった。「民主化」の強要の中で、その後の混乱の中でどれだけの人がなくなったのか。
    民主主義そのものが悪いとは思わない。むしろ促進しなくちゃいけないとは思うけど、同時に支配の口実にもなり、またその支配の強化に貢献してきたということを忘れてはいけない。

    ②③もそれぞれオリエンタリズムや知の領域に起こった近代化などを通して西欧普遍主義を批判する。

    セネガルの初代大統領セゴールが述べた『与えることと受け取ることが一致する場』という言葉が非常に印象に残った。
    与える者が西洋で受け取る者がその他ではないような世界に達するために知識人がしなければならないことをウォーラーステインは終章で述べている。知的好奇心と使命感(?笑)みたいなものがまた刺激された。70もまわる知識人なのにまだまだ挑戦していこうとする彼を尊敬する。



    少し難しいところもあったけど、レイアウトのおかげか割と読みやすかった。
    ただ私的に②のオリエンタリズムのところはなかなかしっくりこなかったので自分でも読もう読もうと思って読めていないサイードの『オリエンタリズム』を読んでからもう一度読んでみたいと思う。そしたらまたレビューもかきなおそ。

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著者プロフィール

1930年ニューヨーク生まれ。世界システム論の提唱によって社会科学一般に大きな影響を与えた社会学者。著者に『近代世界システム』全四巻(名古屋大学出版会)などがある。

「2019年 『資本主義に未来はあるか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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